4-7.石畳の電気街
セントラルタウン中央から、北西に伸びたやや広い通り。電気街と呼ばれ、地球で発明された機械の類や娯楽品が多く並んでいた。
石畳の街並みは広告や看板で溢れ、当たり前のようにアニメのポスターや、電波ソングが通りを賑わせている。他のエリアはある程度景観に配慮していたようだ。この雑多な感じはある意味落ち着く。
マイには前を歩かせ、一応警戒していた。あれこれ興味を惹かれ、フラフラと歩き回るので気が気じゃない。
「あの店に入るぞ」
腕輪の脳内に響く声は俺だけでなく、妹にも届いていたようだ。全身の筋肉が強張り、跳ねるように驚いていた。
「こ、この声は……」
「覚えてるだろ? ステキで高性能なイケメン腕輪のクグツだ」
左腕を掲げ、マイにイケメンを見せてやる。
「顔……どこ?」
「オレにも分からん」
ツッコミたい気持ちを必死に抑え、何もなかったように振る舞う。マイに手招きをして、一番大きな電気屋へ足を踏み入れた。
「おー、普通に電気屋だ」
俺のよく知っている、どこにでもある電気屋に声が漏れる。古代遺跡へ潜り、トカゲを狩るような世界と同じとは思えない。
「ゲーム機も欲しいけど、パソコンも欲しいな。ミスレニアスの掲示板とかアクセスできるみたいだし」
「じゃあ、とりあえずあっちだな」
地面に光の線が走り、クグツが行き先を示してくれる。それに沿って歩いていくと、途中でマイがタブレット端末コーナーに食いついた。そこからはパソコンコーナーも見えるので、多少は好きにさせても良さそうだ。
「俺が見えなくなる場所まで行くなよ」
「分かった」
カメラを起動させて値札を撮ってみたり、メモ帳にひたすら「あ」を打ち込んで遊んでいる。
妹から目を離さないよう、俺達はパソコンを選ぶ。
「どういうタイプがオススメ?」
「断然ノートパソコンだな。デスクトップはインベントリに入れれば軽くなるとはいえ、電源に困る。それに、どこでもネットに繋がるからな、この世界。だから出先で調べ物もしやすい」
そうと決まれば、機種選びだ。
どうせなら、高性能なやつがいい。そう思いながら探していると、セールで二十金のゲーミングノートが目に付く。そこそこの厚みがあるが、鞄に入れて持ち運ぶわけでもないので問題ではない。
「悪くないんじゃないか? 値段に納得がいくのなら、それを買うといい」
このノートパソコンも、まさかAIに品定めされるとは思っていなかっただろう。これより上位グレードのものも売っていたが、スペックの割にはかなり安く設定されているのでお得感がある。
NPC店員を呼び、サクッと一金値切り、そこそこいいマウスも付けてもらった。その場で会計を済ませ、マイを迎えに行く。
すると、彼女はタブレット端末の値札とにらめっこをしていた。値段は八金と少し。
「よし、買おう」
手を上げてぴょんぴょん跳ね、さっきの店員を呼ぶ。マイはそのまま買おうとしたので、それも値切っておまけも付けた。
「お兄ちゃんセコい」
「家電なんて値引き前提なんだよ。それに、キーボードもあった方が便利だろ?」
「それもそうだけど」
俺に文句を言いつつ、今までで一番いい笑顔のマイ。
「そんなに欲しかったなら、さっさと買えばよかったのに。出てから半年の機種だぞ」
「こういう端末持つの、うちでは禁止だったから。だから買うのは初めて。逃げた私はもう自由」
情報に蓋をするのが得意なディモの組織。そういう部分も徹底しているというわけか。
「そうだったのか……。向こうで嫌なことされなかったか? どっちみちになるけど、俺達が徹底的に潰してやるからよ」
「大丈夫。私はめちゃくちゃ強いから、結構えらい人だった」
ブイサインを見せ、誇らしげな顔。我が妹は、淡白な素振りを見せつつも表情豊かで愛嬌がある。
立場が良いということは、向こうも本気を出してくる可能性があるということ。いつしか彼女を疑う意識は消え「守ろう」というものにすり替わっていた。
「さて次はゲーム機ですぜ、サネツグさんよぉ!」
クグツも結構なゲーマーなので、調子が良さそうだ。良いというより変になっているけど。
本命の場所へ向かう前に、インベントリに買ったものを突っ込む。それはとても便利で、手で持つということが考えられなくなりそうになる。
エスカレーターで上がった二階のゲーム売り場には、歴代のゲーム機がずらりと並んでいた。
「なんじゃこりゃ。古いやつまで新品みたいな状態で売ってるぞ。し、しかも、日焼けして茶色くなったバージョンも売ってる!」
腕輪様は何故か得意気に、それに答える。
「コンシューマーゲームを作ってたメーカーも、VRゲームに客を取られて黙っちゃいない。正規品として、ミスレニアスで新旧どの商品も買えるようにしたのだ!」
ソフトの種類も潤沢で、プレミア商品も定価で扱っている。現実よりかは生産コストが低いので、こういうことも可能なのだろう。
「くぉ、クォレハッ!!」
見覚えのある、俺が大好きなゲームの紙箱。パッケージには、有名なデザイナーが手掛けたかっちょいいロボットのイラスト。そこに名を連ねるクリエイターや会社は実力派揃い。
「お兄ちゃん、そのゲームは?」
「アクションゲームでありながら、一面からレベル上げ必須の難易度で、二番目に登場する敵の攻撃音声がとても汚い。操作性が悪く、プレイヤーキャラの動きが重い。そんでもって、セーブデータの消し方が分かりにくい」
「それってクソゲーなんじゃ……?」
「そんなことはないぞ。クセになる音楽や、言い回し。他にはない、オンリーワンなグロテスクなモンスター。特に八面は、困惑と吐き気が同時に押し寄せてくるトラウマエリア。そして切なくも美しいストーリー。心を揺さぶられた――」
マイは首を傾げて、理解できない様子だ。プレイしなければ魅力というものは分からないだろうし、しょうがない。
「とにかく、本当の傑作というものは、王道や知名度の高さから外れた場所に多く眠っている。個人の趣味趣向が違うんだから、当たり前のことだ」
「そう言われると、どのゲームも良いものに見えてくるかも」
(世の中には、擁護不可能な超弩級クソゲーも眠っているけどな!)
妹に教育を施し、お気に入りのゲーム機とソフトをこちらの世界で買い直していく。
大満足で店を後にして、行きとは反対側を通って事務所へ戻ることにした。




