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ミスレニアス・トラベラーズ  作者: カブメント
ミスレニアスの生活
50/60

4-6.妹はヒロインに入りますか?

NPCの駅長に十金もの報酬を受け取り、普段は手で拾う必要のある素材アイテムが自動的にインベントリに放り込まれた。素材回収が困難なクエストの場合、自動回収と分配がされるものも多く存在している。


 手に入れたものはファニー・オストリッチの羽二十と肉を五個。クグツが言うには、上手く捌けば羽は一つ二金と少しで売れるという。アクセサリーや、見栄えのいい服を作るときに重宝されるらしい。

 この戦闘だけで五十万円相当の稼ぎだ。こんなにも効率のいいクエストは、あまり遭遇できないだろう。

 稼ぎの一部はレンへの返済に当てるとする。貰ったままにしておくと、百金を理由に迫ってきそうだ。


 ケンとリッキーはフレンドコードを交換しようと俺を探していたが、今の時点で不用意に知り合いを増やしたくない。

 ある程度情況が落ち着き、再会できたらコードを是非とも交換したい相手だ。


 足早に立ち去り、クグツの案内を見ながら、セントラルタウンを控えめの速度で走る。

 途中NPC鍛冶屋に立ち寄り、折れた剣の修復とハルバードの強化をした。旅人の剣の耐久値はそれなりに増えているが、一度も折れていないヘヴィハルバードの十分の一程度の数値。

 たとえ弱くても、これほど使いやすい剣は滅多にない。それに、初期装備を徹底的に強化してあれば意表を突くこともできるだろう。


 野暮用を終え、目的地を再確認。俺達の仲間が集う建物は交差通り西側の路地裏にある。

 と言っても、十字に通る中央通りと交差通り以外はほとんど路地裏で構成されているので、それは道を説明するのに適切な言葉ではない。

 地図に目印がなければ、確実に迷ってしまう。建造物の密度が高い故の道路事情だ。


 バンが一台と、人間一人分の幅の道を少し進み、縦に長いファンタジー風ビルの前まで来た。

 正面の小さな通用口は閉まっていて、後は色味が違う石壁があるのみ。

 クグツが俺の腕を持ち上げ、それにかざすと、シャッターのように持ち上がる。そして、地下に続く螺旋状の斜面が現れた。


「まんま外の世界のビルだな。見た目は西洋なファンタジーなのに」


「このアンバランスさもまた趣だ」


 下っていくと、既に自動車やオートバイがまばらに駐車してある。中には初代マスタングなんかも停まっていて、あれこれと目移りした。


 出入り口から一番近いバイク置き場に止め、キーを抜いて降りる。リボルバーと弾薬ポーチは簡単に取り外せるようになっていたので、そのまま腰にぶら下げた。

 刀剣類は外し、銃だけ装備。右腰の銃の抜き具合を確かめ、早撃ちするふりをして感覚を確かめる。


「まーだ時間まであるな。――電気街へゲーム機でも買いに行くか?」


「行く」


 腕輪のナイスな提案に心揺さぶられ、ダッシュで歩行者用の階段を駆け上がり、寂しげなエントランスを駆け抜け、通用口を内側から開けた。


「やぁ」


 外に出ると、右手を軽く上げて、俺にラフな挨拶をする少女が待ち構えている。


「……」


 俺は無言で銃を引き抜き、小さな胸のあたりに狙いを定めた。そして、隙きを見せないよう見せないよう、慎重にゴアモードを起動する。

 左手も銃に添え、撃鉄を起こして素早い動きにも対応できる距離感を維持した。

 見覚えのある仮面に、聞き覚えのある声。ついさっき殺し合った相手が目の前にいるのだから、当たり前の行動だ。


「待って! これだよこれ」


 白い小さな旗を左手で振りながら、反対の手は上に伸ばす。降参の意思表示なのだろうが、その意図が分からなかった。


「何のつもりだ?」


「寝返り……かな。私は死にたくないから、今ここにいる。助けて、お兄ちゃん」


「お、おおおお兄ちゃんッ!?」


確かに同郷出身なのだから、外見上では年上の俺が兄なのかもしれないが……


「私は【マイ】というプレイヤーネーム。本名は同じ製造ラインだから【(くろがね) (まい)】で、お兄ちゃんの妹だと思う」


 仮面を外すと、たしかに名乗った通り《マイ》と表示される。俺の妹にしては、整いすぎていてすっきりした顔立ちだ。そして、黒くてボリューム感のあるショートの髪は、所々跳ね上がっていた。

 外された仮面には、何かしらの認識阻害加工が施されていたのだろう。


「可愛い妹がものすごく困ってる。これは、助けなきゃ損」


「自分で言うのか……」


 銃口は向けたまま、クグツに「どうするよ?」と脳内の声で話しかける。電子の脳を持つくせに「さあ? どうしましょ」といい加減な答えが帰ってきた。


 このままでは埒が明かないので、軽く尋問して粗探しをする。この場所で何かあれば、後ろの建物で待機している仲間を頼れるだろうし優勢気味だ。

 そもそも、この施設まで付けられてしまった時点で、本来彼女に未来はないのだが。


「とりあえずそのまま、事情を聞かせろ」


「あの鍵を取り返すように言われた。それが出来なかったら私はいらない子。でも、取り返す自信もない。だから、強くて格好いいお兄ちゃんを頼りに来た」


「褒めても待遇良くなったりしないからな!」


 実は……ちょっと……嬉しかった……。


「でも、なんで俺の居場所が分かったんだ?」


「お兄ちゃんの仲間は西のガラルによくいる。探すならそこだと思ったんだけど、偶然駅で見かけて追ってきた」


 今のところ、話に筋は通っている。冷静に述べていたマイだが、次の言葉は少し感情的に言った。


「私は美味しいものをもっと食べたいし、読みたい本の続きがいっぱいある。だから、精一杯生き残る方法を考えた」


 彼女がうつむき加減になって黙り込む。


 もし俺がマイと同じ立場だったとしよう。今の彼女のように泣き落として弱みを見せ、付け入った瞬間に首を掻き切るという策を思いつくが――。

 このちょっと抜けてそうな瞳の持ち主が、そんなことを考えるだろうか? モンスターに餌を与え、けしかけるという策は誰かの受け売りなのかもしれない。


「じゃあこれでどう?」


 マイは服をはだけさせ、腰をくねらせ上目遣いになった。


「あはーん、あ兄ちゃんだいすきー。だからたすけてー」


 アイドルなんかがやらされる、洋画のザンネン吹き替え。それと同レベルの演技力の低さ。色仕掛けと言うには、あまりにもユーモラスで古典的だった。


「どう? むっつりスケベなお兄ちゃんに、なんでも言うことを聞かせる魔法。漫画で見た」


「とりあえず、演技の練習しような」


 スケベ心など湧かず、親心のようなもので胸を満たす。銃をホルスターに戻し、はだけた服を戻してやる。


「あら、効かない。私じゃダメなの? もしかしてホ――」


「違うわッ!?」


 首を傾げ、こちらをじっと見てくる妹。

 味方になるというのなら、情報源としてかなり有力だ。それと同時に、内側に敵を招き入れてしまう危険性もある。


 でもこいつ、結構アホで純真だから、多分大丈夫だ。俺ほど捻じ曲がってもいなければ、性根も腐っちゃいない。何となくでしかないけれども、俺の勘を信じる。


 それに、妹の「死にたくない」という言葉には力強さがあった。食事や趣味に対する欲望は、その人物の本心を引き出す。それが、彼女を信頼したいと思う理由。


 マイの信頼を勝ち取るため、クグツに心の声で相談する。


「あと少しでいい。判断する時間をくれないか? せっかく会えた本当の家族かもしれないんだ」


「本音は?」


 やはり、この男は俺をよく理解している。


「可愛い妹ができるぜイヤッフー!」


「オーケー。実に素晴らしい理由だ」


 そんなこんなでゴアモードを解除し、妹を連れて電気街へ向かうのだった。

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