4-5.メタル・メタル・オストリッチ
地図を視界の端で開くと、セントラルタウンから北西の位置まで来ていた。
今は草を抜いただけの細い土の道をバイクで走っている。
「少し気候が変わったな。それに植物も」
涼しい風が吹くザンヘルから離れると生暖かい空気になった。水が多いせいか、地形のせいか。どちらにせよ、数十分走らせただけで気候の変動を感じられた。
青々と茂っていた草原も、少し色あせてくる。
風切り音がするので、脳内でクグツと話して暇をつぶす。こういうとき、頭の中で話せるのは便利だ。
「セントラルタウン近辺は、気候の境目が密集しているからなぁ。でも、当のセントラルタウンは年中温度が安定していて住みやすい。だからこそ、自然と土地代が高くなるんだけどよ」
「気になってたんだが、タウンってことは前は規模が小さかったのか?」
「ああ。サービス開始直後はNPCの店と馬車乗り場があるだけ。始まりの町と呼ぶにピッタリの場所だったな。だが、物流が安定してからは住み着くやつも多くなってきた。馬車の乗り換え所でしかなかったセントラルタウンは、四方にある街の次に大きな街になった。土地自体は小さいのに需要がある。少ない土地を有効活用するとなると、どうしたって東京のビル街みたいになっていく」
「なるほどねぇ。だから『タウン』だったのか」
無言になってしばらく、急にクグツが「おい!」と言って地図を勝手に操作し始めた。
少しウィンドウを大きく表示し、ガラルの方へ動かす。
「どうした?」
「見てみろ、緊急クエストが発生してるぞ。報酬も美味いし、時間もまだある。行くぞ!」
地図上には普通の街道とは違う一本線が通っていて、その上を半透明の赤い正円が移動している。
「この道みたいなのは何だ?」
「蒸気機関車が通る鉄道だ。それを何かのモンスターが襲撃しているみてえだな。このルートで走れば合流できるぞ」
クグツは緑色の線を地図上に引く。それに合わせて進路を変えた。
「速度はこのままでいい。さっき撃った分をリロードしておけ」
左手だけで使用済みの薬莢だけを落とし、ポーチから出した一発を込め直す。
それから十分と少し走ると、まばらに草が生えた荒野に出る。
背の高いテーブル上の台地が陽炎の先にいくつも見える。いわゆる「メサ」という地形だ。
「地形の境目を越えた途端、急に暑くなりやがった」
「ガラル荒野はアメリカの西部みたいなもんだ。それなりに暑いし、もっと奥まで行くと五十度を超える場所もある」
「たまんねえな」
汗を拭い、そろそろ見えるはずの列車を探す。
「あれか!」
煙を吐きながら進む鉄の塊。それに追随する馬やバイクに四輪バギー。もう何でもありだ。
「やったぜサネツグ! 今回の襲撃モンスターは【ファニー・オストリッチ】だ! 金になる!」
「よっしゃあ!」
よく目を凝らすと、列車を追う何かが土煙を立てながら走っている。クエスト概要には「モンスターに襲撃されている列車を守れ」とだけ表示されているが、あの集団こそがファニー・オストリッチなのだろう。
列車の左側面に陣取る車両や馬に乗ったプレイヤーと合流すると、四輪バギーに跨る男が話しかけてきた。彼は一昔前の米軍装備をしている。
「よぉ兄ちゃん、いいタイミングで来たな。そろそろヤツらが突っ込んで来る。そうしたら列車の乗客と弾幕を張るって作戦だ。誤射しないよう一定の間隔を維持して後ろに撃つ。できるか?」
「大丈夫だ」
客車にはテンガロンハットを被った男や、PK機関銃を構えている女もいた。身体能力に自信がありそうな者は列車の上によじ登っている。
機関車が汽笛を鳴らすと、射程が長い銃を持った人々が攻撃を開始。俺の武器は近接武器とリボルバーだけなので、今は情況の分析に努める。
数は十や二十ではなく、百近い集団。ただ単純に撃つだけでは、リロード中に殺される。機関銃の数もそれなりに揃っているが、せいぜい三割を削って混戦になるのは間違いない。
俺は上等な武器を持った随伴者の支援を優先。これで行こう。
黄色いダチョウが近づいてくると、そいつらの鳴き声はとても奇妙だった。甲高い声の男が笑っているような鳴き声。
真っ黄色だと思っていた身体は、羽の先端を少しだけ緑色で染めている。
ショットガンやライフル銃の射程になり、銃声が重なり始めた。列車の最後尾に到達したモンスターの群れは二手に別れ、並走する後列のプレイヤーと接近戦になる。
「ファニー・オストリッチは頭がいい。動力源の先頭車両を優先して狙う。剣もすぐ抜けるようにしておくんだ!」
腕輪のアドバイスを頭に入れ、今はとりあえずリボルバーを左手で取る。ミラーに写っていた大型のオフロードバイクに乗っていた男が早速踏み潰され、一瞬でHPを奪われる。
「おっそろしぃ!」
「楽しそうだろ?」
あの男のAIだけあって、恐怖を楽しさと変換してしまう。
「あんなの見て『楽しい』なんて思うのはお前くらいだ」
「ミラーでてめえの顔見てみろ。笑ってるぞ」
彼に言われ、ミラーに俺を映すと、口角がいやらしく上がっていた。
「ホントだ。俺とお前に訂正な」
「いや、オレとお前とアイツらだ」
急造チームのメンバーは銃を撃ち、ダイナマイトを投げて一匹狩る度に雄叫びを上げた。ザンヘルを行き交うプレイヤーとは毛色が大きく違っている。
血の気が多く、勝つことを楽しむ。俺が一番長くいたワイルドオプスのプレイヤー層そのもの。
「もっと近づくかぁ!!」
「そう言うと思ったぜ、サネツグ!!」
アクセルを緩め、集団の最後尾まで移動する。右側面はハンヴィーの機銃が大活躍していたが、こちら側は少し戦力に乏しい。
火球を撃ち落としたように後ろを向き、ダブルアクションで連射する。数が多く、的も大きいので適当に撃っても容易く全弾命中した。
アクセルを足で押さえ、両手でリロードする。スピードローダーもポーチに入っていたので、マガジン式の銃と大差ない速度で動作を済ませた。
「あんた器用だなぁ」
アメリカンバイクに跨った恰幅のいい男が俺に感心しながらも、鉄の棒をぶん回して長い首をへし折る。
「だろう? 裁縫も結構得意な方なんだ」
ミラーに映るダチョウの顔は、近くで見るととても愉快だ。大きな白目に、点みたいな黒い瞳孔。それに、だらしなく揺れ動く垂れ下がったピンクの舌。
鳴き声だけでなく、この面構え含めてファニーなオストリッチなんだろう。
乱射とリロードを繰り返し、だいぶ数を削った。しかし、こちら側もだいぶ消耗している。
後部に攻撃を集中させつつ、近場の同胞を支援することも忘れず戦い続け、時に守られることもあった。
特に連携することが多かったのは、最初に話しかけてきた米軍装備の男の【ケン】と、アメリカンバイクの上から鉄棒を振り回す【リッキー】の二人。
ケンはバギーのアクセルとハンドルを何かで固定し、M16A4で皆の撃ち漏らしを仕留めている。
混戦状態が酷くなり、誰かが「一時射撃中止ッ!!」と叫ぶ。誤射が増え始め、一旦体制を立て直す必要があったからだ。
俺は銃から剣に持ち替え、他の並走者も思い思いの近接武器に切り替えていく。
情況を理解し、射撃を再開したのは、列車の上に陣取るスナイパーや、混戦とは関係ない後方の客車に乗る者のみ。大部分が身動きを取れなくなってしまった。
迫りくる黄色いダチョウを旅人の剣で斬りつけるが、ほとんど強化していない初期装備。銃なら一撃の相手に苦戦する。
見た目以上に頑丈なクチバシで剣の腹を突っつかれ、一匹も倒せずに砕かれてしまう。
そのせいでバランスを崩してしまったが、ケンが沿うようにバギーを走らせ、俺のバイクのハンドルを掴み、力技でバランスを取り戻させる。
そして隙きを埋めるため、リッキーが俺達の周りの敵を殴り飛ばしていった。
「二人とも、助かったぜ」
「礼はクエストをクリアしてからだ」
ケンのセリフに、リッキーは頷く。
彼らの温情に応えるため、次の武器のヘヴィハルバードを取り出す。
鉄の馬に跨る騎兵となった俺は、速度を調整し、側面に来た鳥畜生を殴り斬る。
運動エネルギーにハルバードのそれなりに高い基礎攻撃力が合わさり、今度はそれなりにダメージが出ている。
混戦状態が緩和されると、皆が再び銃に持ち替え始めた。そして、残り少しの敵を狙い撃っていく。
それ以降は安定して撃破していき、脱落者も出なくなった。
ほんの数分の死闘は数時間に感じられ、仲間意識を作り上げる。
セントラルタウンが見えてくるころにはファニー・オストリッチを全滅させ、車内のプレイヤー達は高笑いしながら酒を飲み、生き残った並走する者は武器を天に突き上げた。
偶然の最強チームは傾き始めた太陽を背に、セントラルタウンの駅に辿り着く。




