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ミスレニアス・トラベラーズ  作者: カブメント
ミスレニアスの生活
49/60

4-5.メタル・メタル・オストリッチ

地図を視界の端で開くと、セントラルタウンから北西の位置まで来ていた。

 今は草を抜いただけの細い土の道をバイクで走っている。


「少し気候が変わったな。それに植物も」


 涼しい風が吹くザンヘルから離れると生暖かい空気になった。水が多いせいか、地形のせいか。どちらにせよ、数十分走らせただけで気候の変動を感じられた。

 青々と茂っていた草原も、少し色あせてくる。


 風切り音がするので、脳内でクグツと話して暇をつぶす。こういうとき、頭の中で話せるのは便利だ。


「セントラルタウン近辺は、気候の境目が密集しているからなぁ。でも、当のセントラルタウンは年中温度が安定していて住みやすい。だからこそ、自然と土地代が高くなるんだけどよ」


「気になってたんだが、タウンってことは前は規模が小さかったのか?」


「ああ。サービス開始直後はNPCの店と馬車乗り場があるだけ。始まりの町と呼ぶにピッタリの場所だったな。だが、物流が安定してからは住み着くやつも多くなってきた。馬車の乗り換え所でしかなかったセントラルタウンは、四方にある街の次に大きな街になった。土地自体は小さいのに需要がある。少ない土地を有効活用するとなると、どうしたって東京のビル街みたいになっていく」


「なるほどねぇ。だから『タウン』だったのか」


 無言になってしばらく、急にクグツが「おい!」と言って地図を勝手に操作し始めた。

 少しウィンドウを大きく表示し、ガラルの方へ動かす。


「どうした?」


「見てみろ、緊急クエストが発生してるぞ。報酬も美味いし、時間もまだある。行くぞ!」


 地図上には普通の街道とは違う一本線が通っていて、その上を半透明の赤い正円が移動している。


「この道みたいなのは何だ?」


「蒸気機関車が通る鉄道だ。それを何かのモンスターが襲撃しているみてえだな。このルートで走れば合流できるぞ」


 クグツは緑色の線を地図上に引く。それに合わせて進路を変えた。


「速度はこのままでいい。さっき撃った分をリロードしておけ」


 左手だけで使用済みの薬莢だけを落とし、ポーチから出した一発を込め直す。


 それから十分と少し走ると、まばらに草が生えた荒野に出る。

 背の高いテーブル上の台地が陽炎の先にいくつも見える。いわゆる「メサ」という地形だ。


「地形の境目を越えた途端、急に暑くなりやがった」


「ガラル荒野はアメリカの西部みたいなもんだ。それなりに暑いし、もっと奥まで行くと五十度を超える場所もある」


「たまんねえな」


 汗を拭い、そろそろ見えるはずの列車を探す。


「あれか!」


 煙を吐きながら進む鉄の塊。それに追随する馬やバイクに四輪バギー。もう何でもありだ。


「やったぜサネツグ! 今回の襲撃モンスターは【ファニー・オストリッチ】だ! 金になる!」


「よっしゃあ!」


 よく目を凝らすと、列車を追う何かが土煙を立てながら走っている。クエスト概要には「モンスターに襲撃されている列車を守れ」とだけ表示されているが、あの集団こそがファニー・オストリッチなのだろう。


列車の左側面に陣取る車両や馬に乗ったプレイヤーと合流すると、四輪バギーに跨る男が話しかけてきた。彼は一昔前の米軍装備をしている。


「よぉ兄ちゃん、いいタイミングで来たな。そろそろヤツらが突っ込んで来る。そうしたら列車の乗客と弾幕を張るって作戦だ。誤射しないよう一定の間隔を維持して後ろに撃つ。できるか?」


「大丈夫だ」


 客車にはテンガロンハットを被った男や、PK機関銃を構えている女もいた。身体能力に自信がありそうな者は列車の上によじ登っている。

 機関車が汽笛を鳴らすと、射程が長い銃を持った人々が攻撃を開始。俺の武器は近接武器とリボルバーだけなので、今は情況の分析に努める。


 数は十や二十ではなく、百近い集団。ただ単純に撃つだけでは、リロード中に殺される。機関銃の数もそれなりに揃っているが、せいぜい三割を削って混戦になるのは間違いない。

 俺は上等な武器を持った随伴者の支援を優先。これで行こう。


 黄色いダチョウが近づいてくると、そいつらの鳴き声はとても奇妙だった。甲高い声の男が笑っているような鳴き声。

 真っ黄色だと思っていた身体は、羽の先端を少しだけ緑色で染めている。


 ショットガンやライフル銃の射程になり、銃声が重なり始めた。列車の最後尾に到達したモンスターの群れは二手に別れ、並走する後列のプレイヤーと接近戦になる。


「ファニー・オストリッチは頭がいい。動力源の先頭車両を優先して狙う。剣もすぐ抜けるようにしておくんだ!」


 腕輪のアドバイスを頭に入れ、今はとりあえずリボルバーを左手で取る。ミラーに写っていた大型のオフロードバイクに乗っていた男が早速踏み潰され、一瞬でHPを奪われる。


「おっそろしぃ!」


「楽しそうだろ?」


 あの男のAIだけあって、恐怖を楽しさと変換してしまう。


「あんなの見て『楽しい』なんて思うのはお前くらいだ」


「ミラーでてめえの顔見てみろ。笑ってるぞ」


 彼に言われ、ミラーに俺を映すと、口角がいやらしく上がっていた。


「ホントだ。俺とお前に訂正な」


「いや、オレとお前とアイツらだ」


 急造チームのメンバーは銃を撃ち、ダイナマイトを投げて一匹狩る度に雄叫びを上げた。ザンヘルを行き交うプレイヤーとは毛色が大きく違っている。

 血の気が多く、勝つことを楽しむ。俺が一番長くいたワイルドオプスのプレイヤー層そのもの。


「もっと近づくかぁ!!」


「そう言うと思ったぜ、サネツグ!!」


 アクセルを緩め、集団の最後尾まで移動する。右側面はハンヴィーの機銃が大活躍していたが、こちら側は少し戦力に乏しい。


 火球を撃ち落としたように後ろを向き、ダブルアクションで連射する。数が多く、的も大きいので適当に撃っても容易く全弾命中した。

 アクセルを足で押さえ、両手でリロードする。スピードローダーもポーチに入っていたので、マガジン式の銃と大差ない速度で動作を済ませた。


「あんた器用だなぁ」


 アメリカンバイクに跨った恰幅のいい男が俺に感心しながらも、鉄の棒をぶん回して長い首をへし折る。


「だろう? 裁縫も結構得意な方なんだ」


 ミラーに映るダチョウの顔は、近くで見るととても愉快だ。大きな白目に、点みたいな黒い瞳孔。それに、だらしなく揺れ動く垂れ下がったピンクの舌。

 鳴き声だけでなく、この面構え含めてファニーなオストリッチなんだろう。


 乱射とリロードを繰り返し、だいぶ数を削った。しかし、こちら側もだいぶ消耗している。

 後部に攻撃を集中させつつ、近場の同胞を支援することも忘れず戦い続け、時に守られることもあった。


 特に連携することが多かったのは、最初に話しかけてきた米軍装備の男の【ケン】と、アメリカンバイクの上から鉄棒を振り回す【リッキー】の二人。

 ケンはバギーのアクセルとハンドルを何かで固定し、M16A4で皆の撃ち漏らしを仕留めている。


 混戦状態が酷くなり、誰かが「一時射撃中止ッ!!」と叫ぶ。誤射が増え始め、一旦体制を立て直す必要があったからだ。

 俺は銃から剣に持ち替え、他の並走者も思い思いの近接武器に切り替えていく。


 情況を理解し、射撃を再開したのは、列車の上に陣取るスナイパーや、混戦とは関係ない後方の客車に乗る者のみ。大部分が身動きを取れなくなってしまった。


 迫りくる黄色いダチョウを旅人の剣で斬りつけるが、ほとんど強化していない初期装備。銃なら一撃の相手に苦戦する。

 見た目以上に頑丈なクチバシで剣の腹を突っつかれ、一匹も倒せずに砕かれてしまう。


 そのせいでバランスを崩してしまったが、ケンが沿うようにバギーを走らせ、俺のバイクのハンドルを掴み、力技でバランスを取り戻させる。

 そして隙きを埋めるため、リッキーが俺達の周りの敵を殴り飛ばしていった。


「二人とも、助かったぜ」


「礼はクエストをクリアしてからだ」


 ケンのセリフに、リッキーは頷く。


 彼らの温情に応えるため、次の武器のヘヴィハルバードを取り出す。

 鉄の馬に跨る騎兵となった俺は、速度を調整し、側面に来た鳥畜生を殴り斬る。

 運動エネルギーにハルバードのそれなりに高い基礎攻撃力が合わさり、今度はそれなりにダメージが出ている。


 混戦状態が緩和されると、皆が再び銃に持ち替え始めた。そして、残り少しの敵を狙い撃っていく。

 それ以降は安定して撃破していき、脱落者も出なくなった。

 ほんの数分の死闘は数時間に感じられ、仲間意識を作り上げる。


 セントラルタウンが見えてくるころにはファニー・オストリッチを全滅させ、車内のプレイヤー達は高笑いしながら酒を飲み、生き残った並走する者は武器を天に突き上げた。

 偶然の最強チームは傾き始めた太陽を背に、セントラルタウンの駅に辿り着く。

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