4-4.ファンタジーブレイカー
ザンヘルに初めて足を踏み入れたとき訪れた、大きな馬車の停留所。そこまで俺とクグツは来ていた。もちろん、レンとロッタも後を付けて来ている。
「ここで馬車に乗ったら普通に追跡されるだろうよ。そこであの二人を諦めさせるには、馬車より速く移動する必要がある。というか、その用意ができた」
「馬車より速い?」
高低差があり、草が生い茂る場所を走り抜けられるもの。いくつは見当が付くが――
「とりあえず徒歩で出るぞ」
出入り口からしばらく先までレンガで舗装されている。そこをいざ徒歩で歩いてみると、凄まじく幅が広く感じられた。
あまりにも広いので、馬車用道路の中央を除いてもどこを通るべきか悩む。とりあえず、一番近い歩行者用道路の右側を適当に進んだ。
ここから少し歩くとモンスターからダメージを受ける戦闘域なので、装備したままの投げナイフに加え、剣と短剣を装備する。
すれ違う人々はRPG終盤みたいな格好をしていて、ほぼ初期装備の俺をチラチラと見てくる。
このあたりまで来る頃には、先駆者が集めた安くて高性能な武器に持ち替えているのが普通で、よっぽど初期装備が哀れで珍しかったのだろう。
対抗心でインダストリアル・イージスを背負ってみようかと思ったが、一応逃げ歩いている身だ。自重しておく。
「大きな岩が見えるだろ? あの下にお目当てのもんがある」
クグツの言う通り、舗装路の切れ目から少し離れた場所に目立つそれがあった。
近くまで小走りで行くと、地形と岩陰で隠されていたオートバイが見つかる。
「おお、コイツで移動するのか」
ロッタの怒りを買いそうな地球産技術の一つ。石油バンザイなマシンだ。
細身なストリートスタイルで、オフロードタイヤを履いている。軽くて取り回しも良さそうだ。白いガソリンタンクに黒いシートがいい味を出している。
よく見ると、ガソリンタンクにリボルバーが収められたホルスターと、ナイロンポーチが設置されていた。
「こ、これはッ!」
「待ってろ、ロックを外してやる」
所有権が特定の人物のみに渡るよう、特殊な処理を施してある。他人に持ち去られずアイテムをやり取りするための手段だ。
注視すると表示されていた南京錠のマークが消え、俺にそれらの所有権が移る。
真っ先に銃を引き抜くと、ずしりといい感じの重量感。この銃は見覚えがある。これはタウルス製のM44。バレルが約6インチあるモデルだ。
黒いラバーグリップに、シルバーの銃身と放熱板。銃口の跳ね上がりを押さえるコンペンセイターも組み込まれている。
そしてポーチには、大量の44マグナム弾が入っていた。
「バイクを送ってくれと言っただけなんだが、おまけも付けてくれたな。うちのメカニックの一人【月島 哲弘】……こっちじゃ【テツ】ってプレイヤーネームのやつに頼んでたんだよ」
もう一苦労あると思っていた銃の入手が簡単に達成されてしまった。そのテツさんとやらには感謝してもしきれない。
このリボルバーさえあれば、今の俺でも強力なモンスターをローリスクで狩って資金稼ぎが可能になるだろう。そうすれば、上位の火器も手早く揃えられる。
ゆっくり銃に頬ずりでもしたかったが、そこまで余裕はない。ホルスターに戻し、バイクに跨った。
キーは挿さったままなので、それを捻る。セルスターターとキックスターターの両方が搭載されているが、今回は景気付けにキック始動を選んだ。
一発でエンジンが掛かり、この世界に似つかわしくない鼓動を感じる。
「一度西方面に行って追跡を振り切ろうじゃないか。ニカも見張っているし、見失ったらザンヘルに戻るはずだ」
ギアをローに入れ、ゆっくりと岩陰から少し高い場所に出る。ザンヘルから見て右側の西へ視線を向けた。
「なななななっ! なんですかあれー!!」
こっそり後をつけていることを忘れ、大声を出すロッタ。
「よりにもよって、ザンヘルの前でなんてものに乗ってるんですかーっ! ふんいきーっ! ふんいきーっ!」
「うわっ、ホバー移動してきた」
初めて会ったときに見せたあの能力。俺が走るより速いが、コイツとなら――
アクセルを回し、二速三速とギアを上げていく。草にタイヤを取られそうになったが持ち直し、追跡者から距離を取る。
彼女は追いつけないと悟り、あろうことか小型で追尾性能のある火球を撃ってきた。
「な、仲間に魔法撃つやつがあるかッ!?」
言っても遅く、バックミラーに赤く爛々と燃えたぎるものが映る。
ふと視界の端にあのリボルバー。咄嗟にそれを左手で取り、撃鉄を起こして引き金を軽く引けるようにする。
転ばないよう前方の地形を頭に入れ、後ろに視線と銃口を向けた。
「せっかくのバイク、壊されてたまるかよ!」
揺れるバイクの上では、照準器はあまり役に立たない。こういうときは「銃口に目があるイメージ」だ。これさえ習得すれば、照準器を使わなくても近距離のターゲットを狙える。意外と使い所の多いテクニックだ。
十分に火球を引きつけ、当たると確信した瞬間に引き金を引く。44マグナム弾の反動は大きく、不安定な姿勢で撃つと余計に際立った。
ほんの少しバランスを崩したが、鉄の粒は火球に穴を開けてまっすぐ飛んで行く。
「ナイスショット!」
クグツは周りに人がいなくなったので、実際に声を出して賞賛する。
後方の空中で大爆発する火球を背に、リボルバーをホルスターに収めて更に加速した。
今の俺は、炎の逆光でいい感じになっているに違いない。映画のワンシーンに使えそうだ。
(……爆発、派手すぎじゃね?)
火球はせいぜいメロン程度の大きさ。それが昭和の特撮ヒーローで見るような爆炎を引き起こす。
火の粉と熱風を背に受けながらも、必死に驚いてないふりをした。せっかくの絵になるバイクシーンなので、かっこよく行きたい。
(熱い……これ結構熱いわ……)
熱さの汗と冷や汗を滴らせながら、その場を後にした。




