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ミスレニアス・トラベラーズ  作者: カブメント
俺は悪い子秘密だよ
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3-9.他人になれる仮面

 こちらがゴアモードを解除すると、仮面の少女も殺人プログラムを解除した。


 腹の痛みは嘘のように消え、焼かれた背中もキレイサッパリ。


「悪いやつじゃないけど、嫌なやつだった。私が貰えなかった家族の話ばかりするんだもの」


「うちの弟が迷惑かけたな」


 しばらくの沈黙。先に口を開いたのは、彼女の方だった。


「なんで私を殺さなかったの?」


「まぁ、女の子は手に掛けたくないというか。そんな感じだ」


 俺の瞳を覗き込んで、それを否定した。


「嘘。今まで見た誰よりも怖い眼をしていたわ。おおかた、私を情報源として生かすべきだと思いついたんでしょ?」


 バレてやがる。流石、同郷の人間だ。


「もう手持ちの武器がないの。まさか折られるとは思いもしなかったから。私の予想通りならこのまま逃してもらえる?」


「好きにしろ。なんなら、雑魚モンスターに帰還を邪魔されないように見張っててやるよ」


「あら、至れり尽くせり。じゃあお礼に覚えておいて。何に使うかは聞かされてないけど、あの鍵はとても大切なもの。きっと誰かが取り戻しに来る。もしかしたら、もう一度私が来るかも」


 俺の言葉を疑いもせず、彼女は待機状態に入った。真偽は不確かだが、カネサダがくれた鍵のことも情報を漏らしていく。


 帰還を選択すると光の柱に包まれ、その中から一分ほど出ないでいると、最後に寝た施設や指定した拠点へ瞬間移動できるシステム。これがなければ、広大なミスレニアスで素材集めをする難易度は単純に倍になる。


 俺は彼女が何処かへ帰るまで、無言で見送った。


「この鍵が厄介事を運んできそうだな」


 俺のつぶやきに対して、刀のままのクグツが答える。


「厄介事を好転させる裁量がオレとお前には必要だな」


「AIなんだから、そこんとこはさっくり答え出してくれよ」


 腕輪の姿になり、腕にすっぽりと収まった。


「あくまで『俺』を再現している。バカな部分も同じだ」


「そのバカがとんでもなく強くしてくれるんだから、頼りにしてる」


「オレはちょっと刺激しただけだ。初めてであんなに使いこなされるとは思わなかったよ」


 小さな笑い声で返事をし、俺も帰還の待機状態になる。邪魔をされなければロッタの屋敷に戻るはずだ。


 派手な戦闘でモンスターは警戒しているのか、俺には近づいてこない。そのまま何事もなく空間を跳躍した。


 ――。


 光のトンネルを抜け、白飛びした視界が徐々に色を取り戻す。


 この豪華絢爛な装飾は、間違いなく俺が最後に寝た部屋だ。少し視線を下にやると、レンとロッタが驚いた顔をしている。

 レンは頭から飛び込んできて、後ろのベッドに押し倒された。


「うわぁぁん! よかったよぉ!」


「のわっ、やめろ! どさくさに紛れて変なとこ触るな!」


 涙目でぐちゃぐちゃの顔が、俺の胸あたりから徐々に下へ降りてきたので慌てて押し退ける。油断も隙きもありゃしない。


「大ダメージを受けたり、急にステータスの表示がおかしくなって心配したんですからね!」


 ロッタは涙こそ流していなかったが、まぶたが赤く腫れていて鼻声だ。


「ちょっと敵が強くてな」


 俺には、この二人に心配されるほど真っ当な人間ではない。俺が本性を隠している仮面は、サテン生地か鋼鉄製か。はたまたシルクや革なのか。内側にあるそれを知らないから、こんなにも気遣ってくれる。


 そう思うと、嬉しさとは別に気まずさが喉からこみ上げてきた。この純粋? な二人は、人殺しの手が触れていいものではない。


 ある程度場が落ち着いたので、下の客間に戻り、俺の任務と今の状況を話す。

 エニアス探しと、ある組織の調査。俺の手に入れた鍵の使い道と、それを狙う者達。必要以上に首を突っ込まないよう、肝心なところをぼかして伝えた。

 その流れでクグツが勝手に喋り始め、勝手に自己紹介も済ませてくる。


「こんなところだ。三人で冒険するのは楽しかったけど、当分は別行動になる」


 レンから文句の一つは出ると思っていたが、以外にもロッタからだった。


「それなら、私も一緒に行きます。そもそも私は、そこの腕輪さんから頼まれてサネツグのサポートをすることになっているんです。だから、そのくらい――」


 左腕をちらっと見ると、こちらが言わなくても察してくれる。


「この子もディモの被害者で、サネツグより前に誘拐された。あの時はかなりの人数だったよ。幸いにも、連れて行かれる途中の船内で決着は付いた。そのときは【AO0(えーおーぜろ)】の有名プレイヤーが多かったな」


 AO0はAlpha Omega 0(アルファ・オメガ・ゼロ)の略で、今のVRゲームの前身ともなる存在だ。俺も以前プレイしていてそれなりに有名人だったが、ガチャ爆死を経験して引退してしまった。


 俺達三人は、偶然にもディモが影響している。それならば余計に関わらせたくない。


「気持ちは嬉しい。でも、鍵の件が一段落するまで人気の少ない場所に近づかないでくれ。なるべく早く片付けるから。あと……誰だっけ?」


「ん? ああ、外で見張ってるのは【ニカ】ちゃんだ。ちっこいけどそれなりに頼りになる。ブルズアイの優秀なコックだ」


「そうそう、その人とすぐ連絡できるようにな。――って、名前だけしか知らないけど、こっちに来てたのか。というか、コックに護衛やらせるか普通?」


 それは愚問だと知りつつも言わずにはいられない。共闘したルイスは本来人事系の仕事だというし、殆どの役職の人物が戦闘員も兼ねている凄まじい組織だ。


「そりゃぁ、いかつい野郎がうろついてるより、普通の女の子っぽいほうが怪しくないだろ? 密偵にはある意味向いている」


「そう言われればそうだけど……」


 よくあるイメージの、黒服に黒中折れ帽とサングラスのスパイは希少種だ。ごく普通の一般人にしか見えないやつはスパイだと思ったほうがいい。となると対策のしようがないが、プロとはそういうもの。


「さて、話すことも話したし、今すぐにでも事務所へ向かおう。情報の共有と人員の再配置もしたい」


 腕輪が勝手に俺の腕を持ち上げ、外に出るように促す。俺は二人に「じゃあまたな」と軽く言ってからその場を後にした。

 それからパーティーを離脱して、現在位置などを特定されないようにする。


 門を抜けるとそこは正午過ぎの賑やかな通り。ちっこい通行者も多くてどれがニカちゃんとやらか分からない。


「どいつがニカか分かんねえだろ?」


 脳内で話すのも、特に意識しないでやれるようになってきている。


「さっぱりだ。何かを見張ったり、警戒してるやつって独特の雰囲気出てるんだがなぁ。そんな人間一人もいない」


「だろ? 変に話しかけてもニカの邪魔になる。さっさと馬車でセントラルタウンに戻るぞ」


 だがその前に、絶対にやらなければならないことがあった。


「メシ、食ってからでいいか?」


「ったくしょうがないやつだ。オススメはここから近い【龍の肝臓】って店がある。名前はアレだが、なんかこう……栄養が詰まってそうだろ?」


 やはり、思ったことは言ってみるもんだ。


「逆にファンタジーっぽくて良いんじゃないか? 牛丼チェーン店なんかあったら、ロッタがぶち切れて更地にしそうだ」


 これ以上悪口を言っていると、ゆらりと背後を取られ、またあの触手で辱めを受けそうだ。

 会話は店で料理を待ちながらもできるので、足早にマップに表示される店へ向かった。


 十分距離を取ってサネツグを尾行する二つの影。小さな声で文句を言いながら走っていた。


「まったくもうっ! いくら私でも、破壊不能な他人の所有物は更地にできませんよ!」


(壊せたら更地にするつもりなんだろうな……)


 そんな二人の追跡にサネツグとクグツはもちろん気づいていて、どう巻こうか頭の片隅で考えていた。

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