3-6.俺はサンドイッチィィッ!
仮面の少女のぶっ飛ぶような攻撃を横っ飛びで避け、地面に剣を突き刺して置く。ベルトからナイフを一本抜き、切り返しの減速を狙って投げる。無回転で飛翔したそれは、彼女の細っこい背中に突き刺さるはずだった。
機械仕掛けのような動きで反転し、レイピアでそれを叩き落とす。
「マジかよ。何食ったらそんな動きができるんだ?」
「今朝はお魚を」
彼女の冗談なのか本気なのか分からない返答を受け、膝の力がガクッと抜けるが――なんとか持ち直し、声を荒げながら全身に力を入れた。
「俺はサンドイッチィィッ!!」
速度を叩き潰すには技と力。近距離の打ち合いになれば、それが最大限に発揮できるはず。低い姿勢になり、剣は前へ。短剣は逆手で構えて横に向ける。
突進と見せかけて接近し、身体を大きく捻った斜め切り。竹入り畳表を九本まとめてぶった斬れる威力はある一撃。しかし彼女は、手首をクッション代わりにして、容易く細剣で受け止める。
(こいつ、ステータスだけじゃない。本物の実力を持っていやがるッ)
鍔迫り合いになれば武器の数だけこちらが有利になるかと思っていたがそれは誤算。ひらりひらりと避けられ、短剣を弾き飛ばされてしまった。
「これで平等ね」
雑魚とはいえ、こちらは連戦をしている。この程度では平等とは言えない。
「ほぉん? それはどうかな?」
俺の腕から奇っ怪な声がしたと思えば、少女の方へ腕輪がすっ飛んでいき、輪投げのごとく剣に入っていった。
「なにこれ、気持ち悪い」
前後左右に激しく動き回り、剣を揺するクグツ。その合間に叩き切ってしまおうと剣を上段に構えた瞬間、背中を爆炎で焼かれる。後ろを見ると、俺に手をかざす弟の姿があった。
「カネサダぁ……やりやがったな……」
チリチリとした強烈な痛みを徐々に感じ、肉の焼けたにおいが漂う。致命傷は免れたものの、腕輪を振り払った少女に俺の脇腹を剣で貫かれた。
HPが黄色で表示される位置まで下がり、もう一発食らったら終わり。
「お、ピンチか? 隠し玉の機能使っちゃう?」
いつの間にか俺の腕に戻ってきたクグツはのんきな様子。なぜなら、俺が負けるとは一ミリも思っていないからだ。
「隠し玉は……もっと強敵に使うッ!」
腹を貫いた剣を掴み、剣を持った彼女ごと持ち上げる。指の皮膚に刃が滑り込み、ひんやりとした感触。その間もHPが徐々に減少していく。
空中で無防備になった相手を剣で斬るため、左手と腹筋だけでレイピアを支える。それを察したのか、すぐに手を離して距離を取られてしまった。
そうこうしていると、視界の隅にオレンジ色の光が見える。それは、後ろからもう一度火球を飛ばそうとしたカネサダの詠唱。それに気づき、手に持った剣を振り向きざまに投げる。
投げた剣は回転しながら飛んでいき、狙い通り彼の腕を切り落とした。ゴアモードさえ解除してしまえば元通りだが、リアルなグラフィックのせいでそのことを忘れさせる。
痛みに悶えるカネサダと、初めて狼狽える様子を見せた仮面の少女。その合間に、インベントリから濃縮ポーションを手早く取り出してがぶ飲みする。
このポーションは一本で一銀。味は好みが分かれるらしいが、俺は結構クセになる味だと思う。飲んだ直後に三十パーセント回復し、自動回復速度が上乗せされた。
このゲームは瞬間的に大幅回復可能なアイテムが貴重で、暗に回復役を連れて行くパーティープレイを推奨している。
一度に何本も飲めばいいと思うかもしれないが、ポーション由来の自動回復量アップの効果が続いている場合、即時回復する効果が大幅に減少するのであまり意味がない。
HPは半分まで回復したので、腹に刺さったままの剣を慎重に引き抜く。指が切り落とされないよう、手の平を上手く使った。
この痛みは本物。目が覚めるほど刺激的だ。
「仕切り直しといこう」
レイピアを膝でへし折って投げ捨てる。ソウル化したそれを見た彼女は、次のレイピアを取り出した。今度のは少し安っぽい。さっきまで使っていたやつが本命だったのだろう。
俺は一旦全ての武器を外し、身軽になる。それから投げナイフを四本だけ腰に装備して、一本抜いて逆手で持つ。
「そんなもので戦うつもり?」
徐々に彼女の口数が増えているような気がする。これが打ち解けるというやつか?
「銃の次に得意だ。剣はまだまだ修行中でね」
海兵隊式のMCMAPの構えになり、戦闘スタイルを切り替える。このスタイルで勝てなかったら、俺に戦闘術を叩き込んだ仲間達に顔向けできない。
それに、VRでナイフを扱うことに関してはワイルドオプスで慣れていた。あのゲームは市街地などの近接戦闘に特化していて、ナイフオンリーのモードも存在している。なので、これが一番年季の入った戦闘スタイルだ。




