3-5.俺は悪い子、アイツは良い子
子を授からなかった俺の両親は、なんやかんやで施設にぶち込まれていたハズレの俺を引き取る。最初こそ親子のように接していたが、ある時、情事に熱が入ったせいかポンとカネサダを妊娠した。
いざ実子を授かると、そうではない俺は邪魔者で、あらゆるものに最低限を強いられる。金と立場のある両親は世間体を気にしてか、傷が残るようなことはせず、罵詈雑言なんかの地味な嫌がらせがずっと続く。
一番応えたのは、食事の質を落とされたことだ。夕飯にシリアル続きだったときは、家中から金を盗み、近所で一番高い焼肉を食いに行った。
それでも俺を殴ったり追い出すまでは至らず。体裁を気にすることを知ってからは楽なもので、恨みはちょくちょく晴らし、全部を奪う計画も進めていく。
思い出にふけっていると、我が弟は足先から胸辺りまである剣を横に構え、飛び込んでくる。
こうして戦うのは初めてだが、過去に一度だけゲームで対戦したことがあった。弟が連れてきた友達が「四人でやりたい」と言うので、母親が人数合わせのため、倉庫みたいな部屋から俺を連れ出す。それこそが、俺が初めてテレビゲームに触れた瞬間だ。
最初はボロ負けだった。でも、俺は勝つために仕組まれた存在。操作方法さえ解れば三人相手なんて造作もないことだ。
だから、コイツがどう戦うかよく知っている。守りと要撃を知らない、単調なクソみたいな戦い方。
「うわぁぁぁッ!!」
剣筋が鈍いとは正にこのこと。左手の短剣で弟の横切りをいなし、挨拶代わりに右肩に浅く剣を入れた。
切っ先に一筋の赤い線が追随し、愛しの弟は肺から絞り出すような悲鳴を上げる。
「ゴアモードってこういう機能。よく理解できただろ?」
「悪趣味な機能を……」
「殺人ソフトのオリジナル持ってるやつらに言われたかねえよ」
彼は涙を浮かべながらもなんとか立ち上がり、痛まない左手だけで剣を持った。昔よりかは弱虫が治ったらしく、兄として嬉しい限り。
HPの差は圧倒的にカネサダが上だったが、これはRPGの皮を被った格闘ゲームのようなもの。実力さえあれば、対人戦はどうにかなってしまう。
「お前は『よくも両親を殺したな』と思っているだろうが、食い物と趣味の恨みは恐ろしいもんだ。てめえがのんきにカレーを食ってるころ、俺はシリアルとビタミン剤だけだったからな。生きていることもひたすら否定された。酷く恨んだよ、お前の両親を」
「それでも……。それでもッ!」
「俺を殺したいか?」
今度は沈黙でなく、行動で答える。不慣れな左手で剣を振り回し、俺の命を狙った。
しかし、そんなものが当たるわけもなく、空を切り続けたので、胸を蹴り飛ばして転ばせる。
「くっ、また……負けるのか……」
「知ってるよな? 俺が工業製品だって。世界は強すぎる【強化兵】という改造人間を恐れ、徹底的に排除しようとしてきた。核よりも制御が難しく、何よりも強い兵器は売れずに商人は頭を抱える。そこで考えついたのが『優れた遺伝子を優れた人工子宮で育てた人間』の俺達だ。遺伝は教育じゃどうにもならないからな。思考パターンも生まれた直後に調整されている。だから俺は強くて当然だ。まぁ、お前の場合、弱さの一番の原因はすぐに諦める癖だけど」
図星を突かれたにもかかわらず、諦めて目を瞑ってしまったカネサダ。死にそうになるとそれしか考えられなくなり、そういう行動をしてしまう。
腕輪が「味気ねえ戦闘だなぁ……」と呟き、落ち込んだ様子だ。俺もガッカリしている。
「命乞いをして、ディモの情報をおもらしするなら考えてやるがどうする?」
押し黙ってしまい、答えはない。
心臓めがけ剣を突き立てようと瞬間、刃を横から凄まじい勢いでぶっ叩かれた。
低空を飛ぶように突進してきた物体は、遠目に見ていたはずの仮面の少女。レイピアを前に構え、弾丸のような挙動だ。
通り過ぎる瞬間、仮面の奥の純粋な瞳と目が合う。
「なにッ!?」
彼女は慣性で地面を滑りながらも体制を立て直し、次の攻撃の待機に入る。
「お、なんか強そうなの出てきたじゃん。良かったなぁ?」
腕輪がヘラヘラと笑い、その振動が伝わってくる。
「だな。ゲームの敵は、強くなくちゃ」
あれ程のスピードが出せるということは、装備という装備に速度補正が掛かっている。並の人間だったら制御できないレベルの速度。それでも精密に剣だけを狙うということは、戦闘センスも抜群のはず。
「今度は身体に当てる」
少女の死刑宣告に、微笑みで返した。
「お好きにどうぞ」
剣を構え直し、神速の突撃に備える。
エンシェントヒーロ以来の、ピリピリと心地よい緊張感。ただのゲームじゃ味わえない、最高の一瞬が始まる。




