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ミスレニアス・トラベラーズ  作者: カブメント
俺は悪い子秘密だよ
37/60

3-4.誤算

 落ちた穴はかなり深かったが、途中にあった出っ張りを掴み、滑り降りるようにしたおかげでダメージはほんの少しで済んだ。


 薄暗い底で、オレンジ色に輝く魔石とそれに照らされるトカゲの耐火革だけがよく見える。

 その石に触れても熱くはなく、それを光源代わりにして、革はインベントリに入れた。

 魔石はそれだけでなく、奥へ続く細い道も照らす。これが新発見の隠し通路かなんかだったら、いいアイテムでも手に入りそうだ。


「おーい! 聞こえるかぁー!?」


上にいる二人に無事を伝えるため、声を張り上げる。


「ああっ、良かった。無事みたいですよ!」


「サネツグ! 大丈夫なの!?」


 穴の間近に二人はいるようだ。まだこの一帯は危険地帯のままで、次に何が起こるか分からない。その原因を作った人物を特定し、早いところ始末しなければ。


「俺はちょっと用事ができた! 二人とも、今日はそのまま家に帰ってくれ! そうしたら、俺が戻ってくるまで出るな!」


 片付けなくちゃならない誰かが、この近くに潜んでいる。まさかここまで早い段階で遭遇するとは思いもしなかった。


「用事って? サネツグも危ないから一緒に――」


 レンの俺を心配する言葉。それを遮るように腕輪は言った。


「オレ達ちょっと訳ありなのよ。心配する気持ちも分からんではないが、今はお二人さんの身の方が心配だ」


 指向性会話モードを解除して言った言葉なので、俺以外にも聞こえている。


「うわぁっ! 腕輪が喋ったぁっ!」


「イデッ! 地面に叩きつけるのはやめろ!」


 シックな腕輪から、ひょうきんなおっさんの声がしたら気持ち悪いと感じて当然。結構派手に、何度も叩きつけられている。


 粒子化して腕を離れ、彼らにもう一度言い聞かせる。


「いいか、絶対帰れよ。この『絶対』は別にフリとかじゃねえからな。オレがメールで送ったIDのプレイヤー以外には接触するな。事が収束するまではそいつに守ってもらえ。でないと、サネツグの迷惑になるぞ?」


 強い口調で言い終えると、俺の方まで飛んできて腕にまとわりついた。


 パーティーメンバーの状態を映す画面を出し、二人が強制帰還の待機状態であることを確認する。一分ほど待つと、現在位置がザンヘルに切り替わった。


「よし、ちゃんと帰ったな」


「さ、一仕事しようぜ?」


 モンスター相手に今のステータスで戦うのは辛いが、対人戦なら少し自信がある。HPが高い相手なら、ゴアモードに切り替えて斬りまくってしまえばいい。


 魔石を持って暗い道を照らすが、ライター程度の明るさ。LEDのコンバットライトに比べると心許ない。


「なあステキな腕輪さんよ。ライト機能とかねえのか?」


「最大HPを一時間の間だけ五百ダウン。それを代償として出せばしばらく使えるぞ」


「ならイラネ」


 しょうがなく魔石で道を照らして進むとしよう。盾をウィンドウから回収して、剣と短剣の装備に切り替える。投げナイフは、剣の鞘を固定するベルトに五本取り付けた。

 短剣を右手で抜き、不意打ちに備えてゆっくりと進む。道は細長く、どこまでも続いているような感覚すらある。


「さっきは助かったよ、あのままじゃ二人とも死んでた」


 いつの間にか会話モードが変わっていて、無意識に脳内での会話になっていた。


「まぁ気にするな。そういうときのためのオレだ。ところで話は変わるんだが――」


 こう言ったとき、大体ろくでもないことを言う。


「あの男の子可愛かったよな? もう手出した?」


「出さねえよ」


 ロッタには色々とモロ出しにしたけど。


「何だよもったいねえなぁ。あの感じからして、お前にゾッコンだぜ?」


「知ってる」


 クグツを模倣したデータであることを忘れてしまうほど、しょうもない会話。やはり、データにも魂は宿るという考えは間違っていないのだろう。


 天井から滲み出た水滴が何度も頭を濡らし、肌寒くなってきた。緩やかな坂を下っているせいなのか、気温が下がっているらしい。


 歩くのにも飽きてきた頃に、目の前に行き止まりが現れた。


「ああクソ、これじゃあ戻って穴を登らなきゃならねえのか」


「忘れたかサネツグ? これはゲームだぞ。こんな意味深な通路が無駄なんて許せるか?」


 こういう道の場合、たとえ行き止まりだったとしても、製作者がねぎらいの気持ちを込めてそれなりのアイテムを置く。それの痕跡すら無いということは、行き止まりではないかもしれない。

 石を積み上げた重そうな壁を蹴っ飛ばすと、少しだけグラついた。


「お、行けそうだなこれは」


 何度も蹴って噛み合わせを悪くし、蹴り心地が変わり始めたところで渾身の一撃を加える。すると、大量の石が崩れ落ち、明るい空間へ出た。天井に穴が空いていて、外の光を光源としているらしい。


 まず目に飛び込んだのは、あの扉と同じような顔をした巨大な石像。その次に、二人の人影が石像の下に佇んでいた。


 一人は俺より少し下ほどの青年で、もう一人は仮面で顔を隠した黒装束の少女だった。

 壁から現れた俺に、男の方は酷く動揺した表情を見せる。


「よう、あんたらもダンジョン攻略? そんな顔して、俺の顔がハンサムすぎてビビったか?」


 青年の方は【カネサダ】と表示されるが、少女の方は何も表示されない。それどころか、プレイヤーを示すマークすら見えなかった。名前やIDは隠せるが、何もかも非表示の彼女。まともなプレイヤーではないことは確かだ。本来、それを人間と認識した時点で何かしらの表示は出る。


 優男は拳を震わせ、おぼつかない口を必死に動かす。


「そ、その名前を聞いてもしやと思っていた……まさか本当に、お前がこっちに来ているなんて……」


 カネサダ? そういえば、そんな知り合いがいたな。


「兄さん……いいや、製造ライン(クロガネ)、個体識別名(ズク)!」


「おお、まさかカネサダお前なのか。てっきり死んだと思っていた。良かったなぁまた再開できて――」


 顔は少し変わっているが、特徴的な部分はそのまま。この男は間違いなく俺の弟だ。


「よくも、よくもそんな白々しい言い方ができるなッ! 僕の両親を殺しておいてッ!!」


「おいおい、殺したなんて酷い言い草じゃないか。こっちは心中に巻き込まれるところだったんだぞ」


 俺の挑発に乗せられ、顔を歪めていく弟。


「その状況を作ったのはお前だ!」


「そうかもな。それで一つ聞きたいんだが、あのトカゲはお前の仕業か? 無関係のパーティーメンバーまで危ない目にあった」


 カネサダは怒りと疑問が入り交じった表情をして、隣の少女を見る。すると彼女は小さく頷いた。


「あれほど、無関係の人に手を出すなと僕は言ったのに……」


「でも、あの人敵だって聞かされてるから倒さないと」


「それでもだ」


 流石我が弟、素晴らしい倫理観を持っている。

 待てよ、今俺のことを敵だと認識している発言があった。まさか、ディモ関係なのか?


 しかし、それよりも重要な事があった。


「あの子の声可愛くね?」


「お、サネツグもそう思う?」


 腕輪と会話する俺を見て、ぎょっとするカネサダ。わざと聞こえるように話して、冷静さを奪う思惑もある。


「どうも」


 一方の少女は頭を下げ、礼を言う。


「随分と素直っすね」


「逆にオレらの調子狂うわ」


 精神を揺すったところで、本題の質問を投げかける。


「それはそうとおめぇ、どこで俺の生まれを知った? まさか、ディモ・フォスターか?」


 カネサダは質問に対して動揺と黙秘で返した。間違いなくヤツと関わりがある。それに、このまま生かしておけば復讐者として立ち向かってくるだろう。


 クグツがたった一人殺し損ねた結果、多くの仲間を失った。俺もそうならないように、さっさと恨みの芽を摘み取らなければ。復讐は連鎖すると言うが、全てを刈り取ればその限りではない。


「その沈黙を、俺は肯定として認識する。話はこれくらいにして死んでもらうか、カネサダ」


「ひゅー! 今のお前最高に悪役だぜ」


 腕輪に茶化されながらも、ランプ代わりの魔石を仕舞う。左手に短剣を持ち替え、右耳の裏にあるスイッチを起動した。


《GORE MODE》


 表示されたそれに触れると、感覚が研ぎ澄まされる。ゲームというデフォルメから解き放たれるようだ。

 この機能さえあれば、対人戦では俺が有利になる。なぜなら弟は弱虫で、ちょっとの怪我でも泣いてしまうような性格。


 右手でするりと剣を抜き、カネサダへ向けた。彼は額に多くの汗を浮かべ、吠えるように言い放つ。


「お前、このゲームモードは何だ!?」


「ヤれば分かるさ」


 弟は震える手で、背中のそこそこ大きい剣を抜き、隣の少女に下がるよう手で合図した。


「手出し無用だ。この男は、僕が倒さなければならないッ!」


 随分と格好が良いセリフを吐くものだ。そんなことを言うと、負けたとき大恥をかく。そう思いつつ、俺も少しおどけたセリフで自分を着飾ってみたくなる。


「さっさと終わらせようぜ。そろそろ腹が減ってきた」


 レンやロッタには、あまり知られたくない事実を抱えた人物。任務の遂行という体で、それを叩き潰す。

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