3-2.バットでグッドなピクニック
馬車から降りると、巨大な森が広がっていた。それを構成する木の太さは俺の身長よりもあり、高さも見当がつかないほど高い。
「はえー、すっごい高い」
「低いものでも百メートルはあるそうです。この木を移動するモンスターも多いので、頭上に注意していきましょう」
ロッタは、俺にぶちかましたときのやつとは別の杖を出す。木製のいかにも初級という感じのものだ。手加減しないと、俺の出る幕なんて無いのだろう。
俺はイージスとハルバードを出す。それらを片手で支え続けるのはかなりの重労働だ。流石に装備を手に持ったままは歩きにくいので、盾は背負ってハルバードはすぐに振り回せるよう肩を支えに手で持った。
装備スロットは限界まで埋まり、もう枠がない。今日の攻略である程度は増やしたいところ。
森に踏み入れる前に三人でパーティーを組んだ。
このゲームはパーティーを組むと、拾った素材アイテムは全員分に増えて行き渡り、レアドロップの場合は個人のインベントリに未鑑定品として入れられる。レアアイテムをしばらくは秘密にできるので、ある程度はトラブルを減らす。一部の演出を伴うアイテムの場合は、その限りではない。
森の中に一本道の簡単な舗装路があり、それに沿って進む。道から外れても、今の俺に必要のない素材が手に入るだけだという。それに、数十人で挑むようなモンスターもうろついているらしい。
薄暗くも視界に問題はなく、襲撃の事前察知はできそうだ。
俺を先頭に、ロッタ、レンの順で一列に進む。魔法使いを守る基本の陣形だが、今回は俺が攻撃を受けるためのもの。
昔ながらのゲームと違って、敵の出る頻度はかなり少ない。森に入って数十分過ぎても動物の気配すらない。移動もゲーム性の一つなのだろう。
「それにしても、全く敵出ないな」
半分独り言のように漏らしたそれに、レンが反応する。
「極端なんだよね、そこのところ。全く出てこないと思ったら、急に三十体近く襲ってきたり。それが案外楽しいんだけど」
「普通のゲームだったら、クソゲー扱いされるな『移動がダルすぎる』って。そういえば、レンは他になんかゲームやるのか? VRじゃないやつで」
何か共通の話題があれば少しは話しやすくなる。だが、コントローラー離れが進む昨今、VR以外知らないという年代も出てきた。
「僕は結構やる方だよ。名作って呼ばれるようなやつは、ドット絵の時代のやつもやってるし」
「おぉ! それは気が合うな。今度何かのゲームで対戦しよーぜ。ロッタもどうだ?」
対戦となると二人か四人がちょうどいいが、仲間外れにもできない。
「私もレンほどではないですけど、やったことはあります。二人でサネツグを倒しましょう!」
「おー!」
当たり前のように一致団結し、俺が敵になる。
「お、お前ら一対二とは卑怯な!」
「サネツグの戦い方すんごく意地悪なんだもん。きっと他のゲームでも酷い方法で攻めてくるし、変なバグ技とか使ってきそうだし。だから二人がかりで平等だよ!」
脅威として認識されるのは、ゲーマーとしては願ったり叶ったり。今度対戦するとき、二人まとめて絶望の淵に叩き落としてやろう。バグなんか無くとも勝ってやる。
話し声に誘われてなのか、キーキーとモンスターらしき鳴き声が周囲に響いた。黒い何かの集合体が、木々の隙間を縫うように飛び回っている。
「ブレードバット!」
レンが真っ先にモンスターを特定して、警告する。ロッタは全体に防御バフを掛け、盾を構えた俺の後ろに隠れた。レンもそれに続く。
「数回攻撃を受けたら電撃で一掃するので、撃ち漏らしはお願いします」
「分かった」
先頭に立つ俺を優先的に狙うコウモリ。羽を広げたそいつは、バスケットボールよりも一回り大きい。数は十や二十では済まないほど。
ブレードバットの名に恥じず、立派な刃を足の代わりにぶら下げている。仲間同士で傷つけることなく、上手く距離を取って飛んでいた。
ヤツらは群れのまま俺に突進して防御を崩すつもりだ。この戦闘でインダストリアル・イージスの性能を試させてもらおう。
真正面からモンスター共の波状攻撃を受け止める。
ごとりという骨肉がぶつかる感触に、鉄盾を叩く無数の刃の甲高い響き。盾の重量と特殊な構造のおかげでほとんど手首に反動を感じない。この世界の一般的な盾というものを知らないが、これは結構いいかも。重いけど。重いけど……。
盾で弾かれて左右に分断されるが、また塊になって俺に襲いかかろうとする。
力んだ唸り声を出して、盾を後ろにぶん回す。レンとロッタはひょいと避け、素早く後ろに回り込んだ。
今度は防御するだけでなく、突っ込んでくるタイミングに合わせて盾を突き出す。すると、濁った鳴き声を出して五匹ほど地面に落ちた。
死骸は一瞬で黒い煙になって消え、刃の部分がドロップアイテムとしてその場に残る。
それから五回は攻撃を受け流したところで、ロッタが杖を突き出した。盾に弾かれたブレードバットが進行方向を切り返そうと団子になった瞬間、彼女の放った電撃が俺の横を通り過ぎる。一体に命中すると、それは次々と敵を巻き込んでいく。
少し遅れた個体が電撃の連鎖から逃れ生き残り、臆することなく攻撃を続けようとした。
盾の自立用スタンドを展開し、ハルバードを両手で持つためにその場に置く。
残りは七体。その全てを突き落とすため、集中して動きを読む。十分に引きつけてから、キレのある動きで連続突きを繰り出す。全ての攻撃に手応えを感じ、足元にコウモリの置き土産が大量に転がった。
手にとってそれを意識すると《ブレードバットの刃》と表示される。
「このアイテム、何かに使えるのか?」
俺の質問にレンが答えた。
「それは鉄鉱石の代わりになるアイテムだね。鉄系の素材は結構お金になるから、集めておくといいよ。素材はどんどんインベントリに投げ入れて、レアなもの以外は適当にNPCに売るのが基本かな? クラフト系のプレイをするなら売らない方がいいこともあるけど」
ロッタは驚いたような顔で、その発言を否定する。
「流石にこれを集めるのは効率悪くないですか? 上位の武器を落とすモンスターをばりばりどかーんと――」
俺とレンは目を合わせ、無言の会話をした。
(流石、皆殺しのロッタだな)
(考え方が違うね)
ロッタ様のご意向に沿わない素材集めを早急に済ませ、森の奥を目指す。コウモリ以外の襲撃はなく、ちょっとしたピクニック気分だった。
美少女と、おとなしいモードのレンと一緒にそれができるのだから、俺はかなりの幸せ者だ。一生分のラッキーを使い果たして死にそうだとも思えてくる。




