3-1.ビッグなそれ
ダンジョンへ向かう前に、魔動式ボートで露店通りへ訪れた。朝食は具沢山サンドイッチ。それを腹に入れてきたので、朝から満腹だ。
皆殺しのロッタとモテモテのレン。この二人と歩いているからかどうしても視線を感じる。
別のゲームでは俺を嫌悪する視線と、一部のファンからの視線が入り混じっていたので慣れたものだ。
こちらでもプレイヤーや雇われたNPCがアイテムを販売していて、セントラルタウンよりも平均相場が低い。しかし、レンの勧めで買ったヘヴィハルバードは、三倍の値段が付けられている。素人が値段を決めているので、買い物をするのもなかなか難しそうだ。
ここへ来た理由は、俺のステータスを荒療治で上げるため、重量のある盾を探している。
ハルバードと盾を同時に持つのはかなりの重量だが、それが効く。バックラーやカイトシールドではなく、パーティー全体を守れるようなタワーシールドがいい。
複数の露店を横目に進んでいくが、なかなかお眼鏡に適うものは見つからなかった。需要が低いと、こういう場で売らず適当なNPCに売ってしまうのだろうか。
奥の方まで行くと、少し毛色の違う店がある。商品は、工具のような厳ついデザインの装備品で統一されていた。
足を止めると、さっぱりとした性格をしていそうな中年の男が話しかけてくる。
「ん? うちの商品が気になるかい?」
「ああ。トレーニングに使えるくらい、重くて大きい盾を探してるんだ。デザインも好みだし」
店に並ぶ剣や斧は規格外のサイズで、これぞゲームというような存在感がある。
「おお! この良さが分かるのか! それならこれはどうだ? 防御してよし、殴ってもよし、置いても使える【インダストリアル・イージス】だ。ソウルシステムの影響を受けてないから、装備条件も無い。でもそこらの伝説級の盾より頑丈なオリジナル製品だ。でもなぁ……重すぎて全然売れないんだこれが」
彼は苦悶の表情を浮かべながらそれを持ち上げ、俺に持たせようとする。受け取った瞬間、思わずよろけてしまった。それは鈍い鉄色で、要塞を思わせる姿形だ。
「うおっとと。これは確かに重いな。でも、見た目よりは意外と軽い。ギリギリ持って歩けそうだ」
「外装は合金だが、内部に何層も樹脂や繊維の衝撃吸収材が入ってる。頑張ってある程度軽量化してあるんだけどよ、軽くて小洒落た盾ばっかりに人気が集まっちまう。でも! 性能は本物だと保証する。崖の上から落とせば、ドラゴンだって伸びる頑丈さだ。それにほら――」
正面から持った盾を裏返すと、縦横の取っ手が付いている。それとは別に、立てて置くための棒も折りたたまれていた。
「必要に応じて持ち変えられるし、使いこなせれば強いぞ。使いこなせれば……。最悪部屋のインテリアとしても使える! これでたったの三十金ポッキリ!」
「自虐的! 高い!」
三十金ということは、現実では三十万円相当。それだけあれば、最新式のアサルトライフルを買ってもお釣りが来る。
盾だけならレンから貰った分で足りるが、他に必要なものを揃える資金が減るのは痛い。
「だよなぁ……高いよなぁ……重いよなぁ。そこでお客さんに良い提案がある! このザンヘルと西の【ガラル】を拠点とする【ブラント・スティンガー】のロゴが入ったイージスならタダで譲ろう。もう売れなさすぎて、とにかく宣伝が必要だと我々は判断した。これを使って、て良かろうが悪かろうが目立ってくれ」
奥の方から出してきた盾は先程のイージスと同じだが、盾の表と裏に控えめにロゴが入っている。正面は上部の角に小さく白い字で書かれ、裏面はプレートが貼り付けてあるだけ。むしろ《Blunt Stinger》という文字がいいアクセントになっているので悪くない。
「レース用車両のスポンサーロゴみたいなものか。それにしては、控えめな感じだけど」
「デザインも商品の内。変に派手だと、格好良さが薄れる」
続けて小声で耳打ちされ、悪くない条件を付けてくる。
「この十パーセント引きチケットが使われたら、お客さんに売上の五パーセントが入るってのはどうだい? とにかく宣伝してほしいからさ。変なノルマも設定しないし、悪くない話だろ?」
タダで強力な盾が手に入り、このブランドの装備を紹介すれば多少の利益が出る。思いもしなかった好条件の話。例え詐欺だったとしても、今ここで盾が手に入るだけで十分すぎる収穫だ。
「でも、ずっと装備してるわけじゃない。大型狩りとかトレーニングするときに使うつもりだ」
「少しでも宣伝に協力してくれるならそれでいい。何よりも、うちの武器を気に入ったと言ってくれた人に渡るなら、我々も嬉しい限りだ。さあ持ってけ新人! これでモンスターもプレイヤーもぶっ飛ばしてこい! ブラント・スティンガーをよろしく!」
運良く目当てのものがタダで手に入り、売上の一部を受け取るためにフレンド登録をする。彼の名前は【ガンゲン】というものだった。
「ありがとう。こんな高価なもんタダで譲ってもらって」
「ウィンウィンの関係ってやつよ」
後ろから見ていたレンとロッタはヒソヒソと会話している。
「なんて言うんだろう? これが大人の取引ってやつ?」
「さぁ、どうなんでしょう? どちらかと言うと、マニアックなロボットアニメの趣味が合った人の会話のようにも見えますね」
ロボットアニメの例えは間違っちゃいない。半世紀以上前の作品を知ってるような同胞は貴重という感覚に似ている気もする。
装備も中々潤沢になり、ポーションや毒消しなどの最低限のアイテムも揃えた。
俺は早速盾を背負ったまま歩き、宣伝とステータスの経験値を稼ぐ。重くてしんどい姿を見られると逆効果かも知れないが、別の価値を見出して欲しがるやつがいたらラッキーだ。
ほんの少し歩いただけでステータスはみるみる上がり、疲労感を感じにくくなってくる。現実のトレーニングもこれだけ容易ければ良いのだが、そうは行かない。
そのままボートに乗ると重量制限に引っかかり、泣く泣く装備を外した。
昨日利用した停留所前でボートを降り、今度は遺跡行きの馬車へ乗り込んで冒険の旅に出かける。
その先で、現実というものが待ち受けているとは知らずに。




