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2-9.オペレーション・ニューヨーク第一段階

 やっと戻ってきたロッタは、その間に色々準備をしていたらしい。なんとか立て直したらしく、いつもの冷静な彼女に戻っていた。


「お風呂を入れたので、先に入って下さい。私はちょっと夜更かししたいので。その間に、明日出かけるダンジョンは私が決めておきます。朝六時にこの客間に集合で」


 すかさず「お風呂」という単語にレンが反応し、俺に熱い視線を送っている。一工夫しないと、一緒に入ってきて何をされるか分からん。見た目がほぼ美少女というのもあるので、逆に俺がどうにかなる可能性すらある。


「それと、サネツグの部屋着を作っておきました。流石にそのままで寝るのもアレですから。体温調節エンチャントを付与しておいたので、薄着ですが寒い地域でも使えます」


「おぉ! ありがとな!」


 受け取った上下の服はグレーで、硬いような柔らかいような何とも言えない手触り。ファンタジーを重んじる彼女にしては、シンプルなTシャツとゴムが入った緩い長ズボンだ。着心地を優先してくれたのは素直に嬉しい。


 服のステータスには、確かに温度調節が付与されている。ロッタ先生のミスレニアス講座で知ったことだが、このゲームはアクセサリー以外の防具に明確な防御値が存在しない。甲冑なんかの頑丈な防具は、ダメージ計算から運動エネルギーを引き算する形で防御効果を得ているという。つまり、防具の隙間に攻撃を食らわせるというのも戦術の一つだ。


「後はメイドさん達が案内してくれるので。私は遅くに入りますけど、覗こうなんて考えてませんよね?」


「その前に俺が覗かれそうなんだが」


 既に二人分の風呂桶を抱えて、眼をギラギラとさせているレンが浮足立っている。


「お風呂には鍵が無いので、がんばって下さいっ!」


「見殺しかよぉ」


 このままでは、風呂でのリラックスタイムが阻害される。そんなことがあってはならない。


(レンに干渉されず入浴……ああやってやるよ。潜入、偵察、暗殺技能をそこらのプロ以上に鍛え上げられたんだ。たった一人の少年ごときに、どうこうできる俺じゃあねえぜ。現時刻より、作戦名を《オペレーション・ニューヨーク》に設定。確実に……入浴するッ!)


 作戦の起点となる寝室に案内されるが、あろうことかレンの部屋と隣り合わせにされてしまう。ベッドもやたら豪華で、やはり落ち着かない。


 任務を確実に遂行するためには、地形を頭に入れることが重要だ。水を飲むフリをして調理場へ行きつつ、風呂の位置を確認。外の空気を吸うついでに、外装の足場や窓の位置を把握する。その間、ずっとレンに監視されていた。


(レン。お前は俺に敵わない)


 筋書きは思い浮かんだので、作戦の開始地点にする寝室に戻る。施錠して、レンがどこで待機するかを様子見した。

 壁に耳を当てると、何かをぶつける音や、衣擦れの音。ロッタやメイドだったら、長時間部屋の前で待機しているとは考えにくい。となると、レンで間違いないだろう。


 そもそも、外部の入浴施設でも探しに出かければいい話だ。しかし、それでは負けた気がする。この敷地から出ずに任務を遂行してこそ、完全勝利というもの。


 では、作戦開始だ。


 ロッタから貰った部屋着に着替え、パルべライザーを取り出す。その先端に旅人の服を巻きつけ、少し大袈裟に窓を開けた。

 剣を持ったまま飛び降り、音を立てて着地する。その場所にそっとそれを置き、レンの部屋にある窓から見えない場所に隠れ、様子をうかがう。

 剣を服で巻いたのは、人間の着地音に近づけるためだ。実際は落とさないのだが、視覚と聴覚の矛盾を避けるためのもの。


 音を聞いたレンは、彼自身の部屋から外の様子を確認することになるだろう。そしてパルべライザーを見つけたら、俺が扉から逃げると勘違いする。


「やられた!」


 彼の悔しそうな声。俺が部屋の扉から逃げるという推理に踊らされて、時間を稼がせてくれた。レンは足が早く、単純な追いかけっこではリスクが伴う。それを避けるための策に見事引っかかった。


 足音を消しながらも急いで風呂場へ向かい、服を着たまま脱衣所から浴室へ入る。

 やたら広かったが、それどころではない。お湯でいい感じに頭を濡らし、脱衣所にあるタオルで拭いてから首に掛ける。すると、湯上がりサネツグの完成だ。石鹸を少し首に塗ってから流したので、リアルな風呂上がり感が出ていた。

 この時点で風呂場の窓の鍵を開け、下準備。窓に鍵を付けるなら、扉にも付けておいてほしいものだ。


 レンは俺が扉から出てくると勘違いしたが、一向に出てこない。まだ部屋にいるかもしれないし、もしかしたら窓から出ているかもしれない。そう悩んでいたであろう一瞬で事を終わらせた。


 風呂場から出た瞬間に、レンが駆けつける。


「よう、どうしたそんなに急いで」


「あーっ! やっぱり窓から逃げてた! しかももうお風呂上がり!?」


 見事に引っかかってくれて俺は嬉しいぞ。


「はっはっは、カラスの行水ってやつだ」


 濡れた髪と石鹸の匂いにあっさり騙され、レンはトボトボと一人で風呂に入っていった。


 ここからは容易いもので、レンが部屋に戻ってきたら窓から静かに脱出。音のする扉の開閉を避け、壁を伝って風呂の窓から侵入。これでゆっくり入れる。


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