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2-5.フグ系女子

 街歩きを楽しみ尽くした俺とレンは、噴水広場のベンチに腰掛ける。


 気がつくと空は深い藍色になり、星々が浮かぶ。魔法式の街頭が灯り、この街はまだ眠らない。空を眺めていると、すっかり忘れていたロッタの顔が思い浮かんだ。


「やっべ、待ち合わせしてるの忘れてた……」


 メールを送ってからもうどれほど経っているだろうか。時計を出すと、午後七時を過ぎたところ。


「え、それならそうと言ってよ!」


 レンと一緒に北門まで走って向かう。屋台にある看板の陰からこっそり門の方を覗くと、頬をフグみたいに膨らませたロッタ。腕組しながら待ちぼうけしている最中だ。


「まさか、あの子と待ち合わせ?」


「ああ」


 答えを聞いた途端、レンはぎょっとした表情で俺の腕を掴んで震えている。


「な、なんで皆殺しのロッタと知り合いなの?」


「皆殺しぃ?」


 あの人畜無害そうで愉快なふくれ顔からは想像できない単語。だが、可愛らしい容姿でありながら男の一人も寄ってこない理由があるとすれば、その恐ろしい名前の由来にあるのかもしれない。


「どういう経緯でそんな風に呼ばれてるんだ?」


「ロッタは殲滅系魔法をほぼ全ての属性で習得していて、その威力も桁違いなんだ。彼女がダンジョンなんかに踏み込むと、当分はそこでモンスターが再出現(リポップ)しなくなる。もちろんお宝も根こそぎ回収していくから、土地そのものが死ぬ。それを恐れて、一緒に冒険に出るプレイヤーは一人もいなくなったという……」


 レンの言葉だけで思わず冷や汗が出てきてしまい、頬を伝った。街頭で明るかったはずの視界が、不意に暗くなる。


「知ってしまいましたか、私の二つ名……」


 俺達を覆った影は、ロッタが街頭の光を遮ったから生まれたもの。愛想笑いをしながら、立ち上がる。


 膨らんだ頬をつついて空気を抜いたが、もう一度膨らんで跳ね返してきた。


「追いかけっこが続いて遅くなったならまぁいいですよ。それどころか、妙に仲良くなっているようですね……」


 ロッタが自分に魔法を掛けると、赤い目が鋭く光る。


「手持ちにヘヴィハルバードと投げナイフ。長時間の攻撃力上昇の強化効果バフ……ほぼ同じ残り時間ということは、一緒に食事……これは、ミートサンドの効果ですか? 私はお昼ごはんも食べずに待っていました」


 透視魔法を使ったのだろう。何をしていたか、ロッタにバレてしまった。


 メールボックスを開くと、ロッタからのメールが何十通も入っている。件名の「今どこ?」や「まだ?」というシンプルなもので、受信箱が埋め尽くされていた。


 さあこうなったらすることは一つ。土・下・座。


「すんませんでしたッ!!」


 往来のど真ん中で石畳に頭を打ち付け、擦り合わせる。レンが「僕が連れ回したせいだから」とフォローするが、許しの言葉はまだない。


「さぁ、俺に跨がれ! そのまま街中を無様に闊歩してやる!」


「私の変な噂を増やすつもりですか」


 レンがそこに割り込み、迷案を繰り出した。


「じゃぁ僕が跨るよ!」


 有言実行。そのまま俺の上で一緒に土下座した。


「サネツグ! やっぱ逆がいい!」


「それはダメだッ! 俺が下じゃないと反省してる感が薄れるッ!」


「分かったよ!」


 さあ無様な俺を見ろ。ここまでされたら怒る気になれないはずだ。


「はぁ、怒る気にもなれないです。もういいですから、頭を上げて下さい」


(よっしゃぁ! ちょろいぜぇ!)


 策の成功に喜び歪む顔を悟られないよう、頭を上げる前に表情を戻そうとした。


「随分と、余裕そうな顔ですね。やっぱ反省なんてしてないんじゃないですか?」


 てっきりロッタは前に立っていると思っていたが、しゃがみこんで横から俺の表情を窺っている。脚で絶妙にパンツを隠していたので、見えなかったのが悔しかった。いや、今はそれどころではない。


 彼女の右手に紫色のエフェクトが集まり、気味の悪い触手を形成する。至極色のそれからは体液のようなものが滴り、蒸気が立ち上っていた。

 道端に落ちている、薄汚れた軍手を見るような死んだ目。それに見つめられると、股間のあたりがキュッとする。


「アァァァァッ! ゴッメンナサイ! マジでゴッメンナサイッ!」


 驚いて立ち上がると、レンがずり落ちる。そのせいで彼もそれに気づき、慌てふためく。手を合わせて命乞いをするがもう遅く、触手を伸ばしてきた。


 俺は咄嗟にレンを突き飛ばす。触手に蹂躙されるのは俺だけでいい。


 ――それからのことは思い出したくもない。触手に絡め取られてからは、生暖かさと絶妙な臭さとぬめりに襲われる。人々の目の前で散々嫐られ、俺は何か大切なものを失った気がした。


 おしおきが終わり、徐々に正常な思考を取り戻すとロッタはとりあえず許してくれる。どうやら、レンを庇うような行動が反省の色に見えたらしい。

 実のところ、レンの触手プレイという絵面を見てしまったら、俺が新境地に辿り着きそうだったから回避しただけ。そうとは口を引き裂かれても言えなかった。


 あの触手は、敵の防御力と移動速度を落とす闇魔法の一つ。対人戦では、大きな精神ダメージを与える効果もあるとのこと。やはり、廃人プレイヤーというものは恐ろしい。


 男を二段重ねで土下座させ、ぬめりけのある触手で蹂躙した彼女は後に「女王様のロッタ」や「触手のロッタ」という二つ名が増えることになる。それを本人が知るのは、また別の話。

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