2-2.はちみつちょうだい
バグを見つけるという一仕事を終え、スッキリした俺。
ロッタの住処はセントラルタウンから北に行った街にあり、馬車で向かうとのこと。
初心者はその街へ行くのがセオリーらしい。洋風建築で魔法をふんだんに使った街並みが人気で、旅に必要なアイテムが安く、便利なマジックアイテムも豊富にある。
東に行くと自然豊かな地域。和風建築や、武器加工に優れた資源と人材を求めて訪れる人が多い。
西は変人の集まり。ミスレニアスでは弱いとされる銃を好む人達が、現代的な都市を形成して住んでいる。これはロッタの偏見が混じっているような気がした。
南に行くと市民を選択した人の居住区。旅人用のアイテム生産などで稼ぐ者もいる。
ミスレニアスには多くの街が存在するが、弱いうちは遠出をするのも難しく、便利な北か東か西の街を拠点にするのがほとんどだという。
西の街に行きたくてしょうがなかったが、今は彼女の言いなりになっているのが得策だ。
「そろそろ噴水広場です。セントラルタウンは中央通りが南北。交差通りが東西の方位を示す形になっています。大通りと四方向にある門を探すことがこの町で迷わない秘訣です。離れ離れになったら、メールを使って噴水の近くで待ち合わせが定番ですね」
「そういえば、メールってどう使うんだ?」
意識してメールのことを考えると、メール画面が表示される。連絡先の項目を指で押したが、特別に繋がるようにしてもらったブルズアイ本部の連絡先しか存在しない。本来、外部との通信は一部の施設や装置が必要になるが、俺の場合特例だ。
このゲームに慣れているはずのロッタは何かの項目を探しているが、なかなか見つからない。他人のメニュー画面を覗いても、何をしているかわからないようになっていた。
「あ、ありましたプロフィール画面。この画面にある光の玉は連絡先などの情報が入っていて、交換するとフレンド登録ができます。一方的に渡すことも可能になっているので、メールアドレスに似たものですね」
「えっと、この画面って言われても――」
ゲーマーの勘で、コミュニティ機能でもないかと思い浮かべると、あっさり出てくる。その中にプロフィール項目があり、触れると例の光の玉が表示された画面にたどり着く。
「――あ、これか」
「ああっ、ごめんなさい! そうですよね、見えないですよね」
この不慣れな感じ、まさかぼっちプレイヤーか?
プロフィールには公開範囲設定や、コメント欄がある。適当にコメントを「はちみつちょうだい」に設定した。
彼女が俺に向かって光球を飛ばしたので、それに習って飛ばし返す。ゆっくりと飛翔して、彼女に当たると吸い込まれていった。俺の胸にもそれが飛んできて吸い込まれる。画面を一つ戻すとフレンドの項目があり、そこにロッタの名前が追加されていた。
開いてみると、プロフィールには「私は魔法使いのロッタ。まだこの世界に来たばっかりで弱いけれど、他の世界では全属性を使いこなしていたから『マスターウィッチ』って呼ばれていたわ。みんな私の力を恐れて近寄らないけど、本当は寂しいの……」と書かれていた。
「ほう、マスターウィッチとな。でも、来たばっかりにしては随分とステータス高そうなんだが……」
「ひゃぁぁぁぁ!! 消し忘れてたー!!」
なるほど。あまりにもぼっち期間が長すぎて、プロフィール画面を開く機会も少なかったのか……。なりきりプレイを恥じらう感情が今になって芽生え、この反応。彼女には、いろんな意味で優しく接する必要があると感じた。
「サネツグもプロフィールに何か書いてましたよね? あ、呼び捨てにしちゃった」
「別にいいから呼び捨てで。こういう世界なんだから、キャラ作りも楽しみの一つってもんじゃないか?」
呼び捨て……素晴らしい。特別感とか出ちゃう。
「それでもなんか恥ずかしいんです! サネツグのコメント見ちゃいますからね!」
俺が書き込んだものは、とある伝説のプレイヤーがチャット欄で言い放ったもの。回復アイテムの原料を他プレイヤーにねだる究極のワードだ。
「なになに……『はちみつちょうだい』ですか。はいどうぞ。甘くて美味しいですよね」
ロッタがインベントリから瓶詰めのはちみつを取り出し、俺に手渡そうとした。
「あ、このネタ通じないのか……」
「え? え? 何か特別な用語だったんですか?」
ロッタは不思議そうに首を傾げ、両手ではちみつ瓶を差し出したままでいる。
「いや、なんでもないんだ」
知らないなら知らなくていい。それは、オンラインゲームに太古から存在している深い闇だ。
はちみつ瓶をインベントリに戻すよう言い、そっとプロフィールのコメントを「VRMMO初心者ですが、剣術と射撃はそこそこ得意です。よろしく!」と書き換えた。




