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1-6.クレードル

 クグツがミィサに通信機の場所を聞き、壁に隠されたそれを起動させる。意外と古風な物理ダイアル式装置で、彼女が言うには「今のハッキング技術と噛み合っていないので、逆に安全」とのこと。

 クグツは迷うことなく通信機を操り、どこかへ繋いだ。


「よう、こちらはみんな頼れるリーダー様。そっちの様子はどうだ?」


 彼の言葉に答えたのは、落ち着きながらもどこか幼さ残る女の声だった。


「頼れるリーダーは、何も言わずバカンスに出かけるような真似はしません。リーダーになったら、もう少し理性的になるかと思っていたのですが……」


 業務連絡の開幕から冗談をかましていける図太さは、結構性に合うので好きだ。こういう冗談が、組織の柔軟さをもたらしている部分もある。そのまま流れるように、通信先の声の主は続けた。


「問題なく作戦は終了しましたが、興味深いものがいくつか。直接見てもらいたいとのことです」


「了解、こっちはサネツグを送り届けてもう帰るところだ」


「では、お二人の帰還用車両の手配と、サネツグさんが後々帰ってきたときに使う車などをバスターミナルに置いておきます。サネツグさん、お気をつけて。車の鍵や場所を記したものは、バスターミナルのロッカーに入れておきます。必要なものがあったら随時追加するので、活用して下さい」


 顔も知らぬが大切な仲間。気づかわれるのは、悪い気がしない。


「ああ、助かる。ありがとうな。またどっかで」


「はい。それでは通信を終了します」


 通信を終えて、装置を壁の中に戻す。視線をミィサのほうにやると、半透明の頬を膨らませ、ぷんすかしている。


「なんでバスターミナルのロッカーを、本人以外が好き勝手開けられるんですか! 一応、サテライトの管轄内ですよ! そんなことされたら、プライバシーとセキュリティの信頼がガタ落ちですよ!」


 ルイスがわざとらしく笑い「それが我々の得意分野の一つですから」と言ってのける。多くの主力を殺され、弱体化するはずが勢いを削がれない強さ。一般人だった俺が、この組織に魅了されてしまった要素の一つでもある。居場所があり、そこを守る生き方ができる初めての場所だった。


 サテライトの入口まで戻って、クグツとルイスにしばらくの別れを告げ、最後に二人と拳を突き合わせる。


 ミィサに誘導されるがまま、特に手続きもなしに奥へ案内された。どうやら、事前にいろいろと済ませてあったらしい。


 薄っぺらい病院着のようなものに着替えさせられ、更衣室の前で待っていたミィサの前へ出た。ノーパンでスカスカのズボンってのは、なんとも言えない開放感を生み出す。腰を振るたび、我が息子は官能的に舞い踊る。


「何腰振ってるんですか、気持ち悪い」


 やはりこの女神、可愛げがない。いや、別に罵られるのが嫌いというわけではないが。


 裸足で更に進むと、前後からシャッターが乱暴に落ちてくる。洗浄液をぶっかけられて、それから溺れるほどの水洗い。最後に生暖かい強風で乾燥させられる。洗濯物の気分だ。


「ミィサ、もうちょっと優しく洗えないのか? 耳の中に水入ったぞ」


「いつもより水圧マシマシです。私をおちょくった罰だと思って下さい」


 ああもう、絶対ミィサエロ画像スレの住人になってやる。

 決意を新たに拳を握りしめ、【クレードル】と呼ばれる装置の前まで来た。


 カプセル状のそれには生命維持装置や、個々の五感などを制御するためのCPUが組み込まれている。メインの演算装置だけの場合、大人数の五感まで計算すると流石に処理落ちするらしい。複数のクレードルの相互作用によって、異常なまでのリアルさを実現する。とはいえ、ゲーム内の映像をスクリーンに映し出すとCGだと分かってしまうが、もう一つの機能の「錯覚」が働く。ある程度大雑把なグラフィックでも、どういうわけか現実と同じように認識できてしまうのだ。


「うーん、ロマンを感じる。数万光年先までコールドスリープする、宇宙船クルーの気分だ」


「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと乗る!」


 クレードルが蒸気を吐き出しながら口を開き、俺はそれにもたれかかった。座るような、立っているような微妙な体勢だが、自然とリラックスできる。


 蓋が閉じつつある状態で、ホログラムの少女が不安げに言った。


「妹のこと、お願いしても大丈夫ですか……?」


「絶対連れ戻してきてやる」


 そこで初めて彼女は、心からの笑みを見せる。そんな顔の前で絶対に言えない。エニアスちゃん可愛いから会いたいとか思ってるなんて。あのへそとか脇を高画質で見たいなんて言ったら、何をされるやら。


 カプセルに密閉された途端、何かの気体を流し込まれる。徐々に多幸感に飲み込まれ、判断力が鈍っていく。恐らくこれは、閉所恐怖症の人間がパニックを起こさないようにするためだろう。レールを滑って行くと、途方もない数のカプセルが並んでいた。地下深くまでそれは存在したが、俺のクレードルは比較的浅い層で止まる。


 別の気体が注入され、叩き落とされるような睡魔。次の瞬間、グレーの世界で目が冷めた。


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