1-2.ドカンと一発!
輸送機から飛び降りて間もなくパラシュートを開く。だいぶ高度を落としていたので、さっさと開かないと地面と激突だ。
足元には草原が広がり、ロシア製の対空自走砲、ツングースカがよく目立っている。C-130の外装とジャマーが昔のままだったら、俺は細切れになっていたかもしれない。
二連装機関砲の弾幕が俺達を狙うが、距離もあるので滅多には当たらないだろう。
飛び降りてから十秒もする前に、クグツはパラシュートにマシンガンをぶっ放して急降下する。
「な、何やってんだアイツ!?」
頭に三葉虫でも湧いたのかと心配したが、すぐに合点がいく。この高さから生身で落ちるのには納得いかなかったけど。
空中で萎んだパラシュートのワイヤーをナイフで切り離し、見事に対空自走砲に被せた。そのまま彼は地面に激突するが、銃を庇って転がる。何事もなかったように立ち上がり、随伴歩兵を蜂の巣にした。やはりあの生き物は、理解しようと思うだけ無駄か。
続いてルイスがパラシュートを脱ぎ捨て、急降下する。ダメだ、こっちも理解できないタイプの人間だ。
しなやかに着地すると、機敏な昆虫のように走り回って散開した兵を仕留めていく。銃で撃ったり、走った勢いで蹴りを食らわせたりしていた。
落ち着いてこのHEAT弾頭を命中させられるよう、場を整えている。期待に答えなければ。
俺の得意技は、動く目標を素早く撃ち抜くこと。それは銃に限らず、対戦車兵器も同じだ。
パンツァーファウスト3のスコープを覗く。風に煽られて揺れ動くのは百も承知。その揺れに合わせて引き金を引く、華麗な職人技をご覧あれってか。
「当たれ……いや、当てるんだよぉ!!」
引き金を引くと、バックブラストが俺のパラシュートを襲う。少し端っこが破けたが、問題ない。
弾頭は迷うことなく目標に吸い込まれた。爆発の圧力によって、弾頭内の金属が液状化。それは容易く装甲を貫く。
「当たりぃ!」
ガッツポーズをして、火を噴く対空自走砲の近くに降り立った。役目を終えたロケットランチャーとパラシュートを置いて、M4に持ち替える。
熱で少々暑いが、開けた場所では燃える車両を盾にするしかない。右から左へ、視線を動かした。
近場で動揺している敵を一人見つけ、銃に載せたスコープの予備照準器で狙う。四倍のスコープで狙うには近すぎた。
思いっきり銃を肩に押さえつけて、三発分出るまで引き金を引く。すると、対象の腹から胸の間に着弾した。
その銃声を聞きつけた敵兵たちが、背の高い草むらから続々出てきて、視界内だけで八人に増える。
「やっべ」
草の海に潜り、横に転がる。押し倒された草である程度の場所は分かってしまうが、突っ立っているよりはマシだ。当てずっぽうで撃たれているので、さっさと終わらせなければ。
「このための二挺拳銃ってな」
スリングで身に巻き付いたM4を外し、身軽になる。それから腰のM9を抜いて、地面を思いっきり蹴り飛ばした。
計五ヶ月の訓練は身体能力を大きく向上させ、靴下を立って履くだけでよろける自分からおさらばしている。クグツに、変なクスリを打たれたからかもしれないけど。
飛ぶように草原を駆け、敵陣のど真ん中まで来た。近場の敵に飛び蹴りを食らわせ、あえて混戦状態を作る。運良くどいつもこいつも防弾ベストをしていない。
あの映画で学んだクグツが扱う技。それを俺が引き継いだのだ。
腕を左右に突き出し、右側の四人、左側の三人に二発ずつ正確に叩き込む。そして、蹴られてグロッキー状態になった男の胸部に、二つの銃口を突きつけた。交互に引き金を引いて、念入りに六発の弾丸を食らわせた。
その筒音を最後に、場は穏やかさを取り戻す。普段と違うであろう情景は、燃える車両と転がる亡骸だけ。
草をかき分け、どこからともなくクグツが湧いてくる。愉快そうでありながら、尖った笑顔で言った。
「お疲れさん。そんだけできれば、ミスレニアスでも困らんな」
俺は拳銃に安全装置を掛け、二挺同時にホルスターに収める。
「あんたとルイスには敵わねえよ。あの高さから落ちても平気って、昆虫か何かなのか?」
「もうちょっとかわいい例えはないのかよぅ」
クグツは呵呵と笑い、天を仰いだ。それにつられて小さく笑っていると、ルイスもひょっこり出てくる。
屍の山を背景に三人で微笑みあっていると、間もなく仲間が集まってきて後始末を始めた。これだけ隠れていたのなら、見てないで戦闘を手伝ってほしいものだが、俺の訓練も兼ねての戦闘だからしょうがない。
ハンヴィーに乗ったお仲間に、ナイフ以外の装備を預ける。サテライトの一定範囲内へは、飛行機どころか自家用車すら近づけない。万が一武装したまま近づいた場合、大量の無人兵器と追いかけっこをすることになる。特に、出火の原因になるものを嫌うらしい。
もしそれを陥落させたいのなら、米軍の大隊でも連れてこなければならないだろう。サテライトの隠し持っているAI制御された兵器は、俺達の扱う兵器の数歩先を行っていた。
幸いにもその兵器群は、秩序ある人工知能が自己防衛のためだけに使い、人間の管理から完全に独立している。