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第五話

荒川は、外に出るとすぐに駅に向かった。

ともかく、大学へ帰ろうとしたのだ。

そうして、大学の最寄り駅で降りた荒川は、まず公衆電話を探した。

返された携帯電話には、彼らの手が入っているのは間違いないからである。

携帯電話の普及に伴い公衆電話はめっきり数が減っており、かなり苦労したが、ようやく見つける事が出来た。

電話機に覆い被さる様な姿勢でボタンを押す。

尾行が付いていない筈は無いので、通話先を知られない様にしたのだ。


定時確認のために、荒川から預かっている携帯を持って外に出た。

家から十分に離れた所で電源をいれると、ついさっき入ったばかりのメッセージがあった。

メッセージを再生すると、それは予想通り荒川からの物で、その内容は研究室に来てくれ、であった。

「どうする?」

永田が尋ねると、加藤は言下に答えた。

「どうするって、行くに決まってるじゃないか。他に選択肢は無い。」


研究室のドアの前で、永田がドアノブに手を伸ばそうとしたのを加藤が制した。

「俺が先に入る。『俺が』呼んだら入って来い。」

加藤は中にも聞こえる様にわざと大声で言った。

荒川はそれを聞きながら、加藤の判断力は大した物だと感心した。

もし、荒川が脅されて二人を呼び出していたとしても、外に一人残っている状態では、手荒な真似は出来ない。

情報処理の成績はたいしたものではないが、頭の回転は優秀な様だ。

「失礼します。」

声を掛けて加藤が入って来ると、荒川の様子を観察した上で、部屋中を見回し、誰も隠れていない事を確かめた。

「取り合えず大丈夫だ。」

苦笑いしながら荒川が言うと、加藤は頷いて振り向き、ドアに向かって声を掛けた。

「大丈夫だ。入って来い。」

三人が揃うと、荒川は昨日の状況を説明した。

といっても、監禁され、解放されたという以上の話は無かったが。

「で、そっちはどうなった?」

二人は顔を見合わせたが、やがて、加藤が話し始めた。

「取り合えず、春香さんは今僕らの所に居ます。」

それは荒川には予想もつかない事だったので、思わず呟く様に言った。

「まさか、」

「いえ、本当なんです。」

今度は永田が答える。

「どうしてそうなったのか、教えてくれるか?」

見当もつかない様子の荒川に、二人は交互に事態を説明した。

腕組みして聞いていた荒川は、念を押す様に尋ねた。

「じゃあ春香は、『自分の意思で』招待に応じたんだな?」

「ええ、そうです。」

そう答える加藤の様子を見て、これは信じても良さそうだという気になった。

「それで、春香は今どうしているんだ?」

「特に何もしていません。申し訳ありませんが、勝手に先生の名前を出してしばらくそこで大人しくしていて欲しいというメッセージを送ったんですよ。で、それに従っているようです。」

「ふむ。」

荒川は軽く頸を捻る。

「春香は自分を保護した相手がM・Nだと知っているのか?」

「ええ。」

「何でそんな危険な事をしたんだ!わざわざ自分のテリトリーに引き入れるなんて、そこで暴れられたら君らはただでは済まんぞ。」

荒川は、娘を助けて貰った事自体は感謝しているが、彼らの犯した危険については、教育者としてたしなめざるを得なかった。

「他に、春香さんを保護する適切な場所が見当たらなかったんです。」

永田の答は抗弁ではなく、単に事実を述べただけの様であった。

「それで、この後どうする気だ?」

「HALCAやペンタゴンの危険が無くなったと判断できたら、解放します。」

その答えに荒川は異を唱えた。

「そんな事をすれば、君らはまた狙われるぞ。」

「仕方ありません。僕には彼女を閉じ込めておく資格はありませんよ。」

その声には、全く迷いが無かった。

「取り合えず、春香と話してみたいんだが。」

「わかりました。すいませんがウチまで来てください。」



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