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第三話

ログが途切れている事に気付いたオペレータは、必死に平静を装ってその事実を背後のスタインリッジに覚られまいとした。

しかし、この男はオペレータの肩が一瞬落ちた事を見逃さなかった。

「どうした?」

今までとは打って変わって穏やかな口調で話し掛けられた事で、オペレータは泣きそうな気分になった。

この上司は、本気で怒った時は激昂とは無縁の態度を取る事を、過去の苦い経験から学んでいるのだ。

ここで変に誤魔化せば、それこそただでは済まなくなる。

彼は諦めて、正直に報告する事にした。

「ログが途切れています。」

スタインリッジは、その一言で事態を理解した。

少し考えた後、平静その物といった声で言った。

「トラクターからの報告を見落とさない様に注意して、入ったら即時報告しろ。」

オペレータにとっては、その落ち着いた口調は、千の雷よりも恐ろしかった。

震え声で了解アイサーが返ってくるのを気にも止めず、スタインリッジはここまでの事態を頭の中で評価していた。

合衆国ステイツにとって緊急の対応を要する存在であったHALCAはもう消去済だし、その飼い主のヒライも拘束の目処が立っていると将軍が言っていた。

後は、さしあたって合衆国への脅威となる恐れは無さそうだから、少々の取りこぼしは、まあ良かろう。

どうせ、アライやその仲間を全員始末するわけにもいかないのだ。


いつまでたっても大口が彼女を呑み込む気配がないまま、激しい物音が響き続けた。

やがて彼女が恐る恐る目を開けると、彼女の視野を覆った物体の正体が判った。

それは極めて薄く目の細かいネットであり、今それは怪物をすっぽりと覆っていた。

怪物は、そのネットに覆われたままで懸命にそれを内側から喰い破ろうと四苦八苦している。

しかし、ネットは信じられない様なしなやかさを持っている様で、その牙はネットの内側をつるつると滑るだけであった。

どうしても破れないと覚ったらしい怪物は、ネットに絡め取られたままで再び彼女に襲い掛かろうとし、春香は思わず軽く後退りした。

しかし、そのネットは驚く程の強靭さで怪物をその場に繋ぎ止めていた。

やがて、驚愕に目を見開いたままの春香の前で、怪物は壮絶な咆哮を上げ始めた。

最初の内それは怒りの現れだと思われたが、少しずつそれに苦しげな調子が混ざってきた。

改めて怪物を見ると、心なしか全体が小さくなっている様な気がする。

春香がなす術もなく呆然と見つめる中、怪物を包むネットははっきりと縮小していき、それに応じて怪物の咆哮も小さく弱々しくなっていった。

やがて、聞こえるかどうかの微かな断末魔の悲鳴を残して、怪物はネットと共に消滅した。

そうして、ここまで全くの受け身でいるしかなかった彼女が、ようやく辺りを見回す余裕を取り戻した。

ここは、中央にテーブルが一つあるだけの部屋であった。

どうしたものかと思案していると、唐突にそのテーブルの上に封筒が現れた。

その宛名は、春香様となっている。

春香はしばらく躊躇っていたが、やがて封筒を手に取った。

彼女が取り上げると封筒は自然に開き、一枚の手紙が出てきた。

『荒川先生とは話が付いています。色々な問題が片付くまで、出来ればしばらくここで隠れていて下さい。 M・Nより』

手紙はごく素っ気なかったが、M・Nがパパと話を付けているという点には軽く驚いた。

しかし考えて見れば、M・Nのいる明峰学園はパパの勤務先であるから、特に不自然な話ではない。

春香は塔に閉じ籠っていても、外界を見ていないわけではなかった。

パパの様子は常にそれとなく観察しており、苦しんでいるパパに何も出来ない事は、いつも苦痛の種子だった。

だから、パパが明峰学園で職を得た事でほっと胸を撫で下ろしたのだ。

しかし今の彼女には、そんな事よりも本当に愕然とする事があった。


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