図題:幼女と母親の関係図が面倒なことになってきた件について
これはオウレンの融合させたアイテムの記録である。
家の中を探したらノートが見つかったのでオウレンに渡そうとした。しかし、オウレンは文字は読めるが、書くことができないらしい。なので俺が書くはめになった。効果がありありと思い出せるように、作ったときの流れも残してほしいと言われたのでメモ風に書いていった。
◇◇◇
オウレンの融合にっきver.1
◇◇◇
①『ちくわ用のれんにゅう』
材料:『メロンを切ったときの真ん中の白いモジョモジョしたところ』+『スティックシュガー』から合成
効果:ちくわを甘く食べるために開発されたもの。HPが5回復、MPが20回復。
オウレン「これは必須アイテムですね」
ホミカ「チューブからちゅぅちゅぅするとたまらない美味しさです。これは食後の でざーと にはかかせませんね! 必須です!」
オウレン「あの……MP回復アイテムは貴重ですからね?」
俺「やっとモジョモジョを消費してくれたのか。感慨深いな……」
②『テラいいねっ!』
材料:『本格的なカメラ』+『聖なる先われスプーン』+『特盛りカレー(模型)』から合成
効果:相手の行動を誉めるアイテム。相手は前のターンと同じ行動を連続でしまう。
オウレン「この親指マークを相手に投げつけて使います」
ホミカ「なかなかスゴイアイテムですね☆」
オウレン「支援系の敵に使うと効果的ですね。タイミングによっては無抵抗で撃破することができそうです」
俺(あの材料。カレーを食べるシーンをカメラで撮る姿しか想像できないんだが、どうやって作ったんだ……)
◇◇◇
俺はベッドの上でダラダラと冷凍たこ焼きを食べながら『融合にっき』を閉じた。
今日のオヤツはたこ焼きにしたが、珍しくホミカが甘いもの意外にも高評価をしたものだ。
ちなみにパリパリ型のたこ焼きは俺にとって邪道である。あれはあれで旨いが、珍味としてのうまさである。ふにふにした食感を愛せてこそのたこ焼きマスターなのだ。
そういえばさっきスマホを見たら、マッスル神からメッセージが届いていた。『イケメン勇者撃退、おめでとう!』と件名に書いてある。
いつの間に撃退したのだろうか。ゴキブリの件みたいに、またダンジョンで勝手なことが起こっているかもしれない。メッセージには何が入っているんだろうな。ガチャチケットだったら、あとで引こう。
もうそろそろ夕飯が近い。食べるのをやめるべきか。だが、たこ焼きが旨すぎてだらだら食べ続けてしまう。ひとりで困っていると、体が急に大きくなってバリバリした。
「あっ、クマの人。勝負です!」
扉を開けて、銃を構えるけしからん幼女の姿があった。
キミさぁ、なんで1日に2枚も破くんだよ? クマに恨みでもあるの? 午前中にグラタンを食って会ったばかりだよね。ここ、君の家じゃないんだよ?
俺は寝そべりながら筋肉パワーでこんにゃくをポイッと投げてけしからん幼女を倒した。やっぱり保護する。あれからすぐに来たものだから体力も弱っていたようだ。
「まったく。執拗に俺のクマを破りに来過ぎだろ。家を追い出されたのか?」
またぬいぐるみと『同調』して調べてみるとするか。親の顔が見てみたいというやつである。
場合によってはひとことを言わないといけないな。おたくの娘さんが、俺のクマを惨殺しまくっています。2日で3体も犠牲になりました。荒ぶり過ぎですって文句を言ってやろう。
同調して街に着く。そういえば けしからん幼女の家が分からんと迷っていたところ、教会で悪だくみしていた太っちょの方を見つけた。なんとなくストーカーして遊んでいると、太っちょが豪邸までやって来た。美人な人妻っぽい人が出てきた。耳を澄ませてみると「おたくの不良娘さんが大変で……」とか言ってるのが分かった。
「へぇ。いきなり当たりかよ。こいつら、何をしゃべってるんだろうな」
太っちょがけしからん母親と楽しげに会話している。知り合いらしくけっこう長く話している。
「男女で長い会話……。まさか不倫現場なのか!?」
そんな訳があるかどうかは分からないが、2人が家の中に入ったのでドキドキしながら侵入してみた。
屋根裏からけしからん母親の部屋まで付いていった。2人の会話に聞き耳を立てる。
「あなたたちのおかげでぇ、アタシはぁ前の夫を無事に殺せて良かったわぁ。財産いっぱいチョー幸せぇ! あとねぇ、このまえ聖騎士さまがプロポーズしてくださってぇ、アタシこれから聖騎士サマの妻になれるのよぉ。キャハハ!」
「お前の猫かぶりは昔から本当に効くよなあ。どうやってアイツらをおとしたんだよ」
「べっつにぃ。『最近、娘が反抗的で、どうしたらいいのか分からないのぉ』って泣いてたら勝手に盛り上がってくれただけよぉ。前から言ってるけれどもぉ、アタシはぁ、何も悪いことはしてないのよぉ?」
「かはははっ。2人の愛で不良の娘を矯正しようとか言いそうだな。となると不良娘じゃなくて、本当はバカなほど素直で正直者のお嬢ちゃんだって気づかれるんじゃないのか。どうするんだよ?」
「そうねぇ。結婚するにはぁ、あの子は邪魔になるわぁ。だからぁ、ダンジョンに送ってるの。だからぁ、ダンジョンで死んだらラッキー! もしも成功したらぁ、ダンジョンの秘宝が手に入ってハッピー!」
「そいつは面白い。だが、もしも本当に秘宝を持ってきたらどうするんだ?」
「たしかに生きていたら邪魔になるわねぇ。どうしましょう、困ったちゃうわぁ」
「それなら、ひとつ名案がある。深い話がしたい。例の部屋は空いているか?」
「いつでも開いているわよぉ。行きたいなら、自分で開けなさい。アタシは女の子だからぁ、重たいものはダメなのよぉ」
母親なのにブリッ子属性。しかもウザいタイプとは、誰が得をするんだ。プロポーズした聖騎士さんとやらが逆に気になってきた。
太っちょが面倒くさそうに大きな鏡をズラすと、地下へ行く階段が現れた。
ぐぬぬぬぬ。地下室に天井裏はないだろうしここまでということか。俺はここで『同調』を切った。
「さて、かわいそうだが、ダンジョンを渡すわけにはいかない。面倒なことになってるな」
けしからん幼女は面倒くさいがまだ可愛げがある。この母親は本気で危ないうえに面倒くさいタイプだ。
俺はこの母親のように他人に対して感情移入できないタイプの人間は苦手だったりする。子供を自分のパーツの延長だと思っているため、一般的な感覚としての子供と扱っていないのだ。例えるなら、爪が伸びたら別れを惜しみながら切る人間はいないだろう。その感覚と同じように自分の子供と接しているのがこのタイプだ。自分のパーツの一部だが、邪魔になったらためらいも無く切り落とせてしまう感性。感情の根本が違う人間性だから、感情移入ができなくてどう動くのかが読みづらいのだ。
王子で逃げ回っていたときは、このタイプが一番面倒くさかった。身内を平気で切り落として襲ってくるのだ。『自分』と『その他』しか価値観が無いため、びっくりするような開き直り方で加減なく侵略してこようとする。一般の感性では感情移入できないものだから、何が牽制になるのかも想像ができない。簡単には止められないのだ。
その都度に『執事のじいや』に助けてもらったけど、今は元気にしてるかな。けしからん幼女よりも、俺の方がよっぽど不良なのかもしれない。
「あの、何をしているのですか?」
けしからん幼女が起きていた。偵察した内容を話していく。
「ちがう! そんなことない! もしその話が本当だったとしても、だからこそあなたを倒して認めてもらい、お母さまとの仲を取り戻す!」
初めて出会ったあの時と同じ信念を持った力強い瞳。逆に火に油をそそいでしまったようだ。
でもさ、勢いで俺に武器を構えるなよ。4体目が犠牲になったじゃないかよ。1日でクマを3体撃破って、ギネス級じゃないのか。着る毛布じゃなくて、切る毛布だと勘違いしてないか。
前回と同じく母親のためにと宝箱を要求される。渡すかどうかを迷ったが、あの母親を刺激すると八つ当たりがけしからん幼女に来るかもしれない。前回と同じく白金貨30枚の宝箱を渡して帰らせた。さてどうしたものか。
◇◇◇
時間は深夜。勝手に『同調』が人形の方から繋がった。今更だけどこの人形は生きていたんだな。いないときは誰かに片付けられたと思っていたが、本当は勝手に出歩いていたらしい。
けしからん幼女が母親に連れられている。一緒に夜空を見ながらピクニックに行こうと言われていた。
あの話を聞いたらめっちゃウソ臭い。しかも、母親の話し方がブリッ子してないときたものだ。
けしからん幼女は、やっと自身を気にかけてくれた母親へ嬉しそうについていく。
「夜は怖いわねえ」
「大丈夫だよ! お父さまの銃で、わたしがお母さまを守るからねっ!」
「その自慢の銃であなたは何度もダンジョンマスターに負けたと言っていたわよね。そして、ダンジョンマスターもあなたを殺すつもりが無い」
「えっ? うん……そうだけど……。あの人は、よく分からないけど、きっと良い人だよ」
「良い人か悪い人かは関係無いの。あのねぇ――あなたがいるとぉ、邪魔なのよ」
けしからん幼女の背中にナイフが差し込まれた。邪魔だからと言う理由で爪を切る。その例えと同じように、容赦なく娘との縁を自身から切り落とした。
「ぐ、ぐぅ……おかあ、さま……?」
「邪魔だからぁここにいなさいねぇ。モンスターのぉ餌になって人知れず死ぬのかぁ、例の盗賊に拾われるのかぁ、どっちになるのかしら楽しみね。アタシとしてはぁ拾われてもらったほうがぁ、あとでお金が入るから嬉しいわね」
「どう、して……?」
「最後くらい、アタシの役に立ちなさいよぉ。良かったじゃないの、あなたがぁ恋しがっていたお父さんとぉ同じになれるのよぉ?」
不幸なことに母親はナイフが不慣れだったからか、けしからん幼女はふらつきながらも立ちあがる体力が残っていた。仕方ないと母は、その腹を蹴り、顔を殴りつけ、執拗に暴行していく。
「これくらい弱っていればぁ、きっと家に帰れないわねぇ。あとはぁ、勝手にしなさい」
俺はぬいぐるみ人形との『同調』を切って、現場まで走った。
俺は素早さが高いため、すぐに現場へ着くことができた。
銃声が聞こえた。音のしたほうへ向かうと、けしからん幼女が息を切らしながらナイトウルフに銃を向けていた。大型犬サイズのモンスター、ナイトウルフが10匹。弱っている血の香りにウルフ達がひきつけられていく。
「クソッ! 邪魔だ、どけぇぇ――っ!」
近くにいたナイトウルフを蹴り上げ、宙に浮いたところでソイツの腰を掴んで別のナイトウルフへ豪快に叩きつける。そして、けしからん幼女へ飛びかかるナイトウルフへ、近くにいたナイトウルフを蹴り飛ばして守る。
別の角度からけしからん幼女へナイトウルフが襲いかかる。しかし、ぬいぐるみ人形が飛び込んできて、カジキの剣で串刺しにした。なかなかやるようだ。
「だいじょうぶか!? 生きてるか?」
「あ……クマの、ひと?」
その声にいつもの気丈な強さは感じられない。揺らいだ瞳で俺を見上げていた。
「アンタはぁ、誰なのかしら? 盗賊じゃあないわよねぇ、冒険者にしてはぁ装備が足りてないしぃ。ここのダンジョンマスターかしら?」
「だからどうしたんだよ!」
俺は母親を射抜くように睨みつける。
「べっつにぃ。アンタの場所ならぁ、ここに来る人のことを知ってるかもと思っただけぇ」
風を切る音が迫り、背中に激痛が突き刺さった。
「ぐぁぁアアッッ!」
弓で射られた。盗賊が近くにいたのだ。
「いっ痛ゥ……ッ! 吹っ飛ばされたくないやつはどいていろ! 邪魔を……するなァァ――ッッ!」
闇に溶けて大斧が風を切って振りかぶられる。そして背後には剣が抜かれる音。
「オラァ! ヅァァ――ッシャア!」
大斧を裏拳で叩き割った。剣で背中を切られる。しかし、切られた感覚に沿って腕を伸ばし、剣を掴んで粉々に握りつぶした。無茶な掴み方をしたせいか指を深く切り、血まみれになる。
加護持ちだからこそ出来た、力のごり押しでの対処。無謀な行為をパワープレイによって、無茶をしたという程度の認識で強引に成功させることが出来た。今日ほど筋肉をありがたく思ったことは無いだろう。
「はぁ――っ、はっ――ぁ。小屋まで、いくぞ。いつものところだ、分かるよな?」
「おかあ、さま……おとう、さま……。どうして、なんで……」
ミーヌは自身の小さな体を掻き抱いて、呆然として震えていた。
「俺が守ってやる。だから、安心しろ。こんな面倒くさいこと、嫌だからすぐに片付けてやるから」
「でも、わたしは、駄目な子だから……。何をやっても駄目で、できなくて、ダンジョンだって勝てなくて……」
「うるせぇんだよガキが! 返事は聞かねぇぞ、俺はダンジョンマスターだ! ここじゃ一番えらいんだよ! 絶対に連れて行く。安全な場所ができるまで、お前が安心できる場所ができるまで。俺がその場所になってやる! おまえの道が見つかるまで、俺の近くで生き延びてろ!」
次々に盗賊が現れていく。弓がしなる音。避けたいが、体力が無いこの子を抱きかかえながらでは咄嗟に動くことができない。
それとは別に、背後から駆け走る音が迫ってきた。ナイフで背中を切りつけられる。
「グァっ! こんのヤロウ! フン!」
腹へ肘を叩きつけて怯ませてからの、アッパーでナイフの盗賊を打ち上げる。
その瞬間に矢が発射された。アッパーで打ちのめしたナイフの盗賊を掴み寄せて盾にするが、矢がナイフの盗賊の体を貫通して俺の腕に突き刺さった。
「うっ、ぐぅ――っ!」
盾にもならない薄い筋肉だったようだ。マッスル神の筋肉信仰の大切さとやらを少しだけ同意した。
「痛ぇじゃねかよ! 数が多いからって調子ノッてんじゃねーぞ! オラァ――ッッ!」
俺はナイフの盗賊を、矢を撃ち出してきた方向へぶん投げる。遠くだからと油断していたのか、人間が剛速球で放り投げられるという本来はありえない現実が弓の盗賊に命中する。投擲のスキルによって威力は相加され、2人ともども木々をへし折りながら吹き飛んでいった。
「ヘヘッ。ザマァみろ、クソが! はぁ――っ、は――っ!」
俺の腕からしたたる血が、けしからん幼女の顔に一滴落ちる。
「ひぃぅっ!」
したたる血でようやく現状と認識が追いついてきたのだろう。震える幼な子の身体。その矮躯は俺の体で隠れてしまうほどに小さい。だからこそ俺自身が体を張っていれば守ることは可能だった。決して手放さないよう、大切に抱っこして守りながら森を駆けていく。
「駄目ですっ、置いていって。お願いだからっ!」
「ダンジョンマスターが誰かの言うことを聞くと思ったか!? 俺はやりたいように、なんでもやってやる。それが俺の正義だ!」
弓矢の雨に突き刺されながらも命がけで進んでいく。すると前方から足音が近づいてきた。
「血の匂い……! ご主人さま!」
「旦那さま、傷の手当をしましょう!」
「この子供のほうが優先だ。俺はイチイと戦う。イチイ、いくぞ!」
「ラジャー! すぅ……。シャァ――ッ!」
イチイのスイッチに入った。一瞬で木々を駆け抜けると、3つの激痛の悲鳴が響いた。その声を身にまとい、一気に倍速となったイチイが追撃を与えようと鋭さを増した攻撃をしかけていく。
「あそこにいるのは、川に落とした聖女じゃないか!?」
「首輪の無いワンコ族がいるぞ! ここら一帯にいるやつらは全て奴隷に落としたはず。クソッ、何をやってたんだあの奴隷商は!」
「うるせーんだよ、弱いものイジメしかできない雑魚が! テメェら黙ってろ! オラァ――ッッ!」
「ギャ――っっ!」
俺達は盗賊たちを次々となぎ倒していった。
「ここは撤退しろ! ここはあいつらの領域だ。地下で体勢を立て直すんだ!」
ちょうど俺が10人目を倒したとき、盗賊たちは撤退しはじめた。あの子の受けたショックと比べればまだ敵を倒し足りないが、今は守ることが先決だ。俺達は疲れた足取りで小屋まで戻った。