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種なる正義が咲かせるもの  作者: 記野 真佳(きの まよい)
藪(ヤブ)から棒にスタイリッシュダンジョン生活
6/53

休題:とりあえず、ついに眷属(けんぞく)ができた件について

 けしからん幼女 (名前は忘れた)は食べすぎて、椅子いすに座って休んでいる。そして俺たちは、部外者には見せられない極秘の作戦を実行するために外に出た。


「ぬいぐるみ人形に眷属化けんぞくかして思い出したが、これは人間にも使えるらしい。というわけで、おまえらを眷属化けんぞくかして戦力強化をする」

「はーい!」

「あらあら、わたしも良いのでしょうか?」

「あげる俺が気にしていないからいいんだよ」


 ホミカはいつの間にかどこかに消えていた。なにかやらされると察知して逃げたようだ。


「と言うわけで、まずはイチイに眷属化けんぞくかを発動!」


 俺はイチイに手をかざす。途端に俺の体温がすっと手先から抜けていく感覚がした。俺の熱を持った魔力がイチイに注入されていく。

 それと同時に俺の中に暖かさも注入されていく。寒さに凍えて抱き締めたときのイチイのぬくもりと同じ温度をかんじた。


「ぬくもり……! ゴホぁ!?」


 ストレスからなる超急性の胃潰瘍が発症して吐血した。

 口の中が血の味と生臭さで一杯になる。くそっ、油断してた。最悪だ。

 スマホが点滅していた。気を紛らわせようと冷静をよそおって開いてみようとするが、血でぬれていて画面が見えない。大惨事だった。

 指で血をぬぐい取ると、NEW!が出ていたのでステータスを見てみる。


イチイ

lv、1

体力(HP)27

魔力(MP)24

打撃攻撃18

打撃防御14

魔法攻撃15

魔法防御14

素早さ19

幸運71


固有スキル(NEW!)

剣戟音階けんげき おんかい

あなたが攻撃を行うたびに、自身の攻撃力と素早さが上昇していく。


スキル

※所持していません



「うふふっ、次は私の番ですか」


 困った顔をしながらも、口元と声が笑っているオウレン。


「おまえ。俺がどうして苦しんでいるのか、なんとなくだが分かってるよな?」

「ええ。ちょっぴり恥ずかしいですね。困っちゃいます」


 ポッとほほを染めながらつややかな声で言い、自身の胸に手を当てるオウレン。可憐な仕草であるが、胸に手を当てるという動作が超兵器おっぱいのせいで俺の精神をガリガリ削ってくる。コイツ、俺を殺す気だ……!

 俺の場合は前世も今世も何人もの女性と会う機会があった。そして今世で襲撃してきた自称嫁候補達もそれなりに胸はあったが、オウレンの巨乳は格が違う。ここまでのものは備えていなかった。破格の大きさである。


 みるみる血の気が引いていくのを感じられる。俺はこの強敵にどうやって立ち向かえばいい。


「あら、あげると言っておきながら、まさか怖気おじけづいた訳じゃないですよね?」

「そっそういう訳じゃないぞ」

「ですよね。やると言ったらやりきるのが人としての人情です」

「ふっ。見え透いた挑発だろうが乗ってやろう。やると言ったらやりきるのが正義ジャスティスだ」


 断言する俺を、オウレンはにっこり笑って祝福した。なぜか受け取ったら負けな気がする祝福の笑顔だった。


眷属化けんぞくかを発動!」


 俺の身体に巡っていた熱がオウレンへ流れ込む。それと同等の熱量が俺の中に入ってくる。


「くぅ!!」


 俺は再び胃から迫り上がってくる吐血を噛み殺しながら、心の内の静寂に身を委ねた。


「ふっ、吐かなかった。構えていればどうってことはないな」

「ふふっ。ありがとうごさいました」


 そうしてオウレンは感謝を込めて俺の頬に軽くキスをした。


「ぐはぁーー!!」

「あら? どうしましたか?」


 無邪気にてへっ、と笑うオウレン。まさかの二段構えだった。

 俺は殴りたくなる笑顔というものがこの世に存在することを初めて実感した。

 俺は口元の血をぬぐいながら、スマホでステータスを確認した。



オウレン・ベルベーリン

lv、3

体力(HP)18

魔力(MP)28

打撃攻撃12

打撃防御10

魔法攻撃15

魔法防御14

素早さ11

幸運42



固有スキル(NEW!)

融合方程式バース シーカー

2つのアイテムを組み合わせて、別のアイテムを作ることができる。


スキル

心眼の心得え

敵からクリティカルヒットをされなくなる。



「旦那さまの温度。唇で感じちゃいましたね、ちょっと恥ずかしいです」


 こいつは俺の心臓を壊したがっているようだ。


「とにかく、オウレンはなにか作れるか? ランダムガチャで出てきたアイテムがあるから使っていいぞ」

「ええ。それでは作ってみることにします小屋のテーブルをお借りしますね」


 なにができるだろうか。わくわくしながらオウレンの背を見送った。ゲームで新技を覚えたらわくわくしながら使うのと似たときめきがした。ゴブリンのときのように、敵が来ないだろうかと待つ。


 少し経つとスライムが出てきた。この世界ではスライム系の敵をプニィと呼んだはず。色は緑だからグリーンプニィだろう。大きさはトレーニング施設で見かけるバランスボールと同じくらいの大きさだ。こうして見ると意外とデカい。ステータスを確認してみた。


グリーンプニィ

lv、6

体力(HP)76

魔力(MP)51

打撃攻撃30

打撃防御28

魔法攻撃8

魔法防御7

素早さ8

幸運14


固有スキル

食欲旺盛しょくよくおうせい

なんでも食べることができ、食べると微弱に体力(HP)を回復する。


スキル

スライムボディ

打撃ダメージを少しだけ軽減する。



 あれ、こいつのレベルってヤバくないか。


「いっちゃうよっ! やぁぁっと!」


 イチイが爪をたてて攻撃する。しかし、プニィの粘体質なボディがやわらかに避ける。


「すぅ、はぁ……。はァ――ッ!」


 一拍だけ呼吸して気持ちを整え、気合いの咆哮ほうこうを叫ぶ。真剣に戦わなければ勝てない相手と分かったのかイチイの目が本気になった。先ほどよりもするどい速度がプニィに襲いかかる。


「当たれ、シャッッ――!」


 怒涛どとうの連撃。プニィと交差する間に両手の爪で右へ横なぎに二連撃。そして、右へないだその勢いを利用して体を空中でひねり、三連撃目を叩き込む。獣人ならではのアクロバティックな攻撃を叩き込んだ。


「すごい! ご主人さまからもらった固有スキルのおかげで、すごく動けるよ! どんどん動けるようになってくよ!」

「油断はするな! まだ戦いはこれからだぞ!」


 プニィにはダメージが入っていないのだ。軟体のボディには爪での攻撃など児戯じぎに等しい。プニィの半身が触手しょくしゅのようにうごめき、ハンマーのように形作られた。

 イチイの体力(HP)は27。プニィの打撃攻撃30の戦槌ハンマーが命ごと粉砕せんとばかりに叩き振られる。


「――っ! 当たらないよ!」


 イチイはギリギリで回避する。俺がイチイに与えた固有スキルは『剣戟音階けんげき おんかい』であり、攻撃するたびに、自身の攻撃力と素早さが上がっていく。体が素早くなれば、当然に回避もしやすくなる。

 最初の三連攻撃はダメージにはならなかったものの、生き延びるための命綱となっていた。素早さが高ければ攻撃は当たらない。当たらないならそこにはレベルの差というものは存在しないに等しい。研ぎ澄まされた鋭爪で、より深く、そしてより早く、プニィを切り刻みにかかる。


「はあァァ――ッ!」


 カウンター狙いで振りかぶられる戦槌ハンマーをイチイは華麗にかわしつつ、それに合わせてカウンターをやり返す。

 素早さが高ければ、当然に攻撃できる回数も当然に増えていく。攻撃すればするほどに、一方的にパロメーターがどんどんと上昇していくのだ。これが『剣戟音階けんげき おんかい』の力である。レベル1のイチイが6倍も差がある敵と同等に戦えている脅威のスキルだ。

 しかし、生きているものには『疲れ』というものがある。


「きゃんっっ! ああぅぅ、くぅ……、マズったかも」


 プニィの戦槌ハンマーが命中してしまう。なんとか防御できたため絶命こそせずに済んだが、体力(HP)の半分以上を削りとられてしまった。

 つまるところこの戦いは、イチイが先にプニィの防御を超えるまで攻撃を高められるか、疲労を狙われ 一撃の下で玉砕ぎょくさいするかの戦いであった。


「すごいのができましたよ~」


 真剣な雰囲気をぶっ壊すような、気が抜けた声でオウレンがトコトコとやってきた。

 なにができたんだと鑑定してみる。



アイテム:『ドクダ・マグラ』

材料:『銀の霊薬』+『ゴブリンの右耳』から合成。

効果:よく分からない細胞体。所持しているキャラクターが攻撃されると、反撃で飛びついて毒状態にする。



 イチイではないが、すっごく凄いのが出来ていた。

 あのレアアイテムがこんな風に役に立つのか。というか、なんでゴブリンの右耳を選んだんだよ。メロンのモジョモジョをどうにかしろよ。残すなよ。


「イチイ、下がれ!」

「スゥっ、はぁッ!」


 一発だけプニィにりを入れて、イチイが下がった。そして『ドクダ・マグラ』が入っている道具袋を渡した。


「これを使ってみろ。俺の見立てだと、かなり有利になれるはずだ」

「うん、分かった! ご主人さまを信じるね!」


 イチイが戦闘を再開する。プニィがイチイに攻撃しようとする挙動にはいった。


「おおぉ! びっくりアイテムだ!」


 プニィの攻撃に反応し、袋の縫い目から紫色のスライムのようなものが飛び出した。例のドクダ・マグラがプニィの表面に付着すると、侵食するかのように溶けていき、ついには見えなくなってしまう。


「これで弱るはずだ。一気に攻め立てろ!」

「らじゃーっと。ハァッ、それっ!」


 プニィが毒で弱っていき、イチイが追い討ちをかけていく。先ほどよりもイチイの攻撃回数が増えていった。やはり俺の考えたとおりで、こういった拮抗している戦いでは、毒のような状態異常は効果的だった。


「あっ……!」


 イチイがプニィの攻撃の読みを誤った。戦槌ハンマーがイチイの魂ごと叩き潰さんと降ろされる。

 しかし、まだ袋に残っていたドクダ・マグラが飛びついた。きょをつかれる形となり、プニィの攻撃は失敗してしまう。それどころか、追加の毒も食わされた形となったのだ。戦況はみるみるうちにプニィの劣勢となっていく。


「シャッッ! やった、入ったぁッ!」


 イチイの攻撃で、スライムの流体が崩れた。はじめて攻撃が効いた瞬間であった。

 はじめは通らなかったダメージも、徐々に通っていく。プニィは瀕死とばかりに動きが鈍くなっていった。


「イチイ、下がれ。やってみたいことがある!」

「りょうかいっ! ササッと!」


 俺はプニィの元まで駆け走った。そしてプニィへ手をかざす。


「いくぞ。『隷属化れいぞくか』、発動!」


 従順させる魔力をプニィへ叩き込んだ。プニィは送られてきた魔力に意識を飲み込まれたのか、動きを止めてその場で伸びた。


 スマホが点滅して、NEW!マークの画面が出た。隷属化に成功したようである。


「ふぅ、終わった。はじめての仲間だ……。まともなやつの、モンスターの……!!」

「ご主人さま、おめでとう!」

「良かったですね。はじめてのモンスターで、ダンジョンらしくなりますね」


 スマホに新メッセージがあった。魔王から、初の隷属化記念でアイテムが贈られている。スマホで閲覧できるモンスター図鑑だった。魔王の良い人さに涙ぐみそうになる。

 モンスター図鑑を起動させてみる。スマホから映像が飛び出してきて立体映像になった。



ウルトラレア:グリーンプニィ

『ゴミでもなんでも食べちゃうぞ。食べるのが生きがいらしい。臆病おくびょうな性格で出会うとすぐに逃げ出す。貴重種なので、見かけたら今日はラッキーと思おう。人間界においてはトイレやゴミ処分のために共存していた文明もあった』



 なるほど。俺が正義側の加護を持っているから、臆病なはずなのに襲いかかってきたのだろう。図鑑を見ていると、プニィが光りだして小さくなった。風船くらいの可愛いサイズになる。


 ごしゅじんさまーとばかりにぷるぷるとなついてきた。


「馬鹿な!? 意外とかわいいだと……!!」


 褒美ほうびにゴマ団子を出してやることにした。ホミカがうるさいからナイショだぞ。そうだ、名前が必要だな。今日からお前は、《ぷに太郎》だ。

 俺が与えたゴマ団子をぱっくりと包装ごと食べるぷに太郎。そしてペッとゴマ団子だけ吐き出した。もっとちょうだいとぷるぷるして懐いてくる。


「あら? 包装の方が好きのようですね」

「ホミカちゃん居なくて良かったね。泣いちゃいそうかも」

「コイツはゴミ置き場にでも連れて行くか。あそこ、包装が溜まってただろ」


 俺はぷに太郎をゴミ置き場へ案内した。ぷに太郎はゴミ山を見ると子ウサギのようにぴょんぴょんと興奮して跳ねまわって、嬉々として包装を食べ始めた。本当にゴミしか食べない種族のようだ。


 ドアの開く音がした。けしからん幼女が小屋から出てきた。


「もう休まなくてもいいのか?」

「はい。あの、帰ります」

「そうか。じゃあ、ちょっと待ってろ」


 よし、それでは例の作戦を実行する。

 俺はけしからん幼女に白金貨30枚を宝箱を渡してやった。ついでにクマの着る毛布もいるかときいてみたが、いらないと言われた。ちょっと悲しかった。


「えへへ。これでダンジョンらしくなってきたね。ご主人さま、本当にダンジョンマスターだったんだ。いっつも毛布でぬくぬくしてるから、途中まで忘れてた!」

「俺をなんだと思ってたんだよ。まあ、今日はがんばっていたから許そう。感慨かんがい深いな。これが、ダンジョンマスターへの第一歩になるのか……!」


 これから新しいモンスターを増やしていきたい。隷属化れいぞくかをするには弱らせないといけないが、俺だとパワーがありすぎてモンスターを即死させてしまうだろう。そして、イチイだと攻撃するたびにパワーアップするから本来は捕獲に向いていない。オウレンも、アイテム補助がメインだから向いていない。ホミカ、ぬいぐるみは戦力外だ。


「おかしい……。かなり頑張った気がするが、まったく整っている気配がない」


 チートの加護をもらっているのにダンジョン運営的に絶望的であった。どうやら本当にスカウトしか俺の生きる道は残されていないようである。



◇◇◇



 時は同じくして深淵の森のダンジョン。彼らが気付いていない間に『勇者』が裏からやってきていた。勇者がモンスター達をなぎ倒して行った先に見つけたのは、小さな小屋だった。


「あれは? どうやらダンジョンの中枢のようだな。ククッ、俺にかかれば、こんな辺鄙へんぴなダンジョンなどお手の物だ」


 勇者が推測する。あの小屋に住んでいるということは、サイズ的に巨人や大悪魔ほどではないだろう。下級の悪魔かそのたぐいなら、今回は楽な討伐になりそうだとほくそんだ。


「おぉ! 運がいいぞ、さすが俺だ。マスコットフェアリーがいるじゃないか」


 妖精は経験値が豊富であり、その羽根は美しいため高値で取引されている。そしてこのマスコットフェアリーは魔法が使ったという報告は無く、体力も低いためかなり討伐が楽なモンスターだった。要するに、経験値が豊富、お金になる、倒すのがラク、という三拍子そろった美味いモンスターと認知されている。


「あっ、侵入者さんを発見なのです! さっすが意識高い系のインテリ派マスコットのホミカちゃんなのです☆」

「チッ、見つかったか。まあいい、さあ俺の伝説のいしずえとなってもらおうか」


 この勇者は傲慢ごうまんであった。例えば異世界召喚モノの勇者なら普通の世界で生きてきた経験が何年もあるため、それなりに謙虚けんきょな人間だっただろう。しかし、この男は生まれながらにして勇者だったのだ。皆は俺に尽くすのが当たり前。俺よりも弱いのが当たり前。そういった環境で育ってきた。そして幸か不幸なのか、美形という見た目によって持ち上げられ傲慢ごうまんさに拍車はくしゃがかかってしまっていた。

 ゆえに、この妖精も、このダンジョンも、心の底から見下していた。


「さあ、来るならこい!」

「いっきますよ~♪ てやっ!」


 妖精が手を広げると四角い箱が現れた。その箱の中からもの凄いスピードでナニカが勇者のほほかすった。勇者は自身の血がにじんだほほに触れ、攻撃されたことを理解する。生まれて初めて無抵抗に傷つけられたことに驚愕きょうがくした。


「おっ、おい! いま、なにをしたんだ?」


 魔法を使えずにノーダメージで倒せるはずの存在に傷つけられた衝撃しょうげきに動揺する。その驚きのあまりに立ち止まってしまった時間を、のちに勇者は激しく後悔した。


「おや? 間違えました。連続アジャイルで出すには、こうです☆」

「ちょっと! 待て! なんだこれは! 連射!? 量が多すぎるだろ! ぎゃァァ――ッッ!」


 箱の魔法もといワンボックスのから高速で吐き出されるのは、ダンジョンマスターからもらった『カジキの鼻っぽいとがった部分』である。もちろん高速連射してしまえば150個など撃ち切ってしまうはずである。

 しかし――


「おお! これはラクチン戦術ですね☆ むむぅ、でもゴマ団子をとっておけなくなったのが残念ですが。はむぐむ、おいしい♪」


 妖精は人間をイタズラで道に迷わせてしまう言い伝えがある。ホミカもそれを固有スキルとして受け継いでいた。



固有スキル

妖精の迷い

あなたの近くにあるモノを1種類だけ、空間に隠すことができる。



 これは変則的なアイテムボックスの類似スキルであり、言ってみれば認識した存在を空間にストックできるスキルである。本来の用途である『道』を隠すのではなく、ホミカはマスターから貰った『ゴマ団子』を隠していたのだ。そして、ストックしていたゴマ団子を出しきった今、彼女は恐ろしい運用をしていた。ワンボックスから発射したカジキを妖精の迷いで回収し、回収したカジキをワンボックスへ送っていたのだ。つまり、やっていることは槍の無限連射である。

 現代風に言えば、マシンガンと同速で槍が無限に連射されていくと言われれば、どれほど強力な技なのか察せられるだろうか。


「ちょっと待て! ここのマスコットフェアリー、本気マジでヤベェ! まさかダンジョンのボスだったのか!? ぎゃ――っっ! 刺さる! 死ぬゥ――っっ!」


 勇者と名乗っている彼は戦いのプロである。まず飛ばされてきているのは青黒あおぐろい槍と勇者は判断した。槍の練成もとい金属練成魔法というレアな技を、それも連射できるということは魔力(MP)が非常に高いのだろうと連鎖的に予測していく。


「ありえない!! 嘘だろ!? こんなところで!!」


 声が恐怖で震えていた。予測するごとに絶望が立ち並んでいく。

 彼は『勇者の加護』を持っており、しかもlv8となると相当の実力があると誇っていたが、それは間違えだったとプライドをへし折られた。雑魚と思っていた存在に、虫けら同然になぶられる。それどころか、あの妖精は菓子を口にほうばってダラダラと眺めているのだ。


 そして、妖精のとなりにはぬいぐるみ人形が控えており、おそらく眷属けんぞくなのだろうとも予測した。あのぬいぐるみまで戦闘に参加したならたまったものではないと震え上がる。


「マズイ、本当にヤバイ! 体が震えるの初めてだ。怖い、嫌だ。死にたくない、死ニタクナイ!」

「はぁふ。食べたから、ねむたくなってアクビが出ちゃいました。はやく終わらないでしょうかねえ。お昼のきゅーけい時間が終わって、もうすぐおひるねの時間が押しているのです。多忙タイト予定スケジュールなので、オヤツの時間までズレ込んだらハイパー大変なのですよ☆」


 勇者はこの妖精は別次元の強さで生きている存在だと察した。相手は全力で気を抜いている。これでも全力でないとなれば、真の実力はどれほどのものだろうか。本気を出される前に逃げ出さなければ命が危ない。イケメンな勇者は涙を飲んで撤退てったいした。



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