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種なる正義が咲かせるもの  作者: 記野 真佳(きの まよい)
傍若無人なシニカル・ウォー
43/53

情動:俺がその想いを背負う件について (上)

 真っ暗になっていた視界が陽光に焼かれた。

 気がつくと目の前には巨木が立ち並んでおり、そよ風が草原を吹きぬけた。


「……森か?」


 目の前には木々。いつもの深淵の森のダンジョンが広がっていた。

 しかし、テトロが創り上げた空間に飲み込まれたのだから、これは実際の森ではないかもしれない。小鳥のさえずりや風で揺れる葉の音も聞こえてくるが、どこか無生物じみた気持ち悪さを感じられた。


「……ッッ!?」


 猛烈な悪寒を感じて咄嗟に飛び引く。そこには影が渦を巻いていた。

 はじめはただの黒い影であった。それは人間の深層心理の深さを表しているかのような、どこまでも深い黒色だ。その影が徐々に厚みをもっていき、地獄から這い出るかのようにぬるりと立ち昇っていく。ついにそれは、立体的な人の形になった。


「まさか村人達なのか……?」


 どこかで見たような顔立ちや装備品の数々。村人兵士達を模した影が襲い掛かってきた。


「フッ。こいつら、手ごわいぞ!?」


 俊敏な槍さばき。鋭利な剣線。轟然とした斧のスイング。どれも、俺が見てきた上級冒険者達にも決して劣らないほどの一撃である。

 大気ごと貫き、切り裂き、叩き潰し、それぞれの武器の極限を存分に発揮した一撃たち。これは明らかに――。


「どうやら本物よりも上かもしれないな」


 期待に応えたいという俺の思いと、その期待を打ち破りたいという敵の思い。反発するからこそ、願いの向きが噛み合った奇跡が具現化する。自分のそれを証明したいというお互いの願いが基盤となってより強力な奥義と化している。


 どこからかテトロの声が聞こえてきた気がした。『耐えられるとえるならば耐えてみよ』と。

 絆という名の期待が強いほど、逆にその力によって押し潰してやろうという能力アラウザル。その想念が影となって現れて、試練として俺の前に立ち塞がったのだ。


「はァ――ッッ!」


 襲ってくる村人達を豪腕で殴り飛ばしていく。

 大量になだれ込んでくる影たちの攻撃の中で、鋭い刺突が射出された。俺はそれを殴り弾く。


「……ホミカのカジキか。急襲とは、相変わらずな挨拶だな」


 チラリと影の妖精が人ごみに隠れた。

 この影の魔法はテトロの絆を信じられない心が媒体となっている。信じられないからこそ強請きょうせいするのだ。その絆という言葉を実演する機会を強引に与えて、嘲笑うための深層心理が発端となったのがこの結果である。


テトロ(テメェ)の絶望の気持ち、ようやく分かった。そして、仲間達おまえらの気持ち。ああ、充分にその重さも伝わったぞ」


 仲間達かれらは俺に寄せる期待の数だけ強くなる。期待とは『こうなれば良い』という願いであり、彼らの基礎ステータスに願いの重量が上乗せされているのだ。


「なるほど。俺の決意と、仲間達の期待。どちらが重いのかを量る天秤てんびんと言うわけか」


 単純に言えば、俺がどれだけ想われているかによって、襲ってくる仲間が強くなっていく概念魔法アラウザルなのだ。そして俺の場合はチート能力を持っているため、仲間からの期待は想像以上になっているはず。

 つまり、この地獄から抜け出すためには――


「俺がこいつら全員の期待おもいを超えた強さになればいい。いま、この瞬間ごとに最強になっていけばいい」


 やるべきことは単純明快。ありったけの気合いで目の前にいる全てを押し潰していけば良い。

 ゆえにこれは、期待に押し潰されるかどうかの試練である。英雄であり、強いからこそ期待をされる。全員の願いを背負い、それを貫けるかの戦いを強要しているのだ。

 このアラウザルの意図を完全に理解したうえで、俺は鼻で笑った。


「この筋肉チカラは守るために貰ったモノだ」


 全身に力がこめる。筋肉で体が大きく膨らんでいった。


「そして、この馬鹿デカい背中は、誰かを背負ってやるための大きさだ。こいつは飾りなんかじゃねーんだよ!」


 戦いによって全ての期待を背負うこと。これが俺の勝利条件となった。



◇◇◇



 群がる村人兵士達を拳圧で一掃する。右の一振りで10人ほどを吹き飛ばし、左の一振りで5人ほど叩き潰した。


「過去はすでに飲み干した。だから俺は正義ジャスティスを誓ったんだ!」


 唸る鉄拳。胴体ごと貫くひざ蹴り。影たちを微塵の容赦も無く粉砕していく。


「さあ、いつでも来るがいい。お前たちの想い、俺が背負ってやろう」


 その声に呼応するかのように、刹那が駆けてきた。漆黒の羽が宙を舞う。

 首元を狙う鋭利な一閃。体を反らして避け、その剣の持ち主を見る。銀翼の聖騎士、ビスマスの影だった。


「キザ天使ヤロウが来やがったか。ん?」


 ビスマスよりも後方から、俺の全身をゆうに覆えるほどの、極光の一振りが払われる。


「おぉ!? グゥゥゥオォォラァァ――ッッ!」


 拳圧で殴りあげて軌道を反らす。命中することは避けられたが、拳がしびれてしまう。光の勇者がまとっている加護は、触れただけでもダメージを受けてしまうようだ。


「イケメン勇者ヤロウ! くぅっ!」


 その瞬間に出来た隙を逃がしはしないと、誰かがさらに割って入る。

 模範的でありながら、だからこそ避けることが困難な堅実な銀閃。ギルドマスターの影が無防備になった俺の腹へ剣撃を叩き込もうとしてきていた。


「ぉぉおおおッッ! しゃぁらァ――ッッ!」


 俺はバク転するように気合いで避ける。


「おいおい。テメェら、なかなかじゃないかよ」


 俺と敵対したのは3人の強敵達。いずれも一級品の武を持った人間達だ。

 俊敏な攻撃を仕掛けてくるビスマスに、一撃必殺の大技で決めにかかるガジュツ。その連携を堅実に繋げていくギルドマスター。戦い慣れした連中達で構成された、俺の知りうる限りでは最強の布陣と戦っているのだ。


「いいぜ。お前らくらいを乗り越えられなければダンジョンマスターなどやってられない。全力でかかって来い!」


 ビスマスの影が漆黒の翼をはためかせて、一瞬で距離を詰めてきた。


「オラオラオラァ――ッッ!」


 剣線がはしる。拳が乱れ飛ぶ。その剣撃の乱舞1つずつを拳圧で弾き飛ばしていく。

 速度はビスマスの影の方が速いが、あの時の比ではない。悪を倒すべきと発露した力が、悪ではないと俺を認めたあとである今の状況では以前よりも発動しにくいのだろう。


「今のテメェの背負う正義には誇りが感じられねぇんだよ。この程度で俺を倒せると思うなァ――ッッ!」


 適正な使い方をしていないため効力が抑えられている。俺と戦うことが正義でなくなった時点で、俺とコイツとの相性は劇的に変わっていたのだ。

 しかし、それは能力の相性の問題であり、その剣筋は相変わらずに達人の領域。避け切れない高速の剣舞。俺の頬から血飛沫が飛び散り、腕の切り傷が増えていく。


「だが、これで終わりだァ――ッッ!」


 根性で突き進む強引な突撃。ダメージと引き換えに、ビスマスの影の顔面へカウンターを叩き込む。豪腕による一撃が決まり、ビスマスの影が立ち消えていった。


「来たか!? フゥッ!!」


 極光が木々を蒸発させていく音。ガジュツの影の振るわれた光の大剣。俺はそれを回避する。

 こればかりはビスマスのように正面から戦うことは出来ない。勇者の加護がのせられたそれは、悪に対して激烈なダメージを与える効力がある。ダンジョンマスターという、いわば悪役の俺にとってのそれは弱点に他ならない。

 命中すれば即死。回避ですら体をあぶるように体力を奪っていく。最悪な二者択一を迫ってくる大技が乱れ振られる。


「だが、周りを見ていない。それがお前の敗因だ!」


 振り上げた剣が発動する前に、俺は敏捷な素早さのステータスを駆使して接近する。ガジュツの影の腹へ拳を叩き込んだ。

 要はステータスのゴリ押しだ。己は勇者であり偉く、誰かが援護してくれて当然であると思う傲慢さにより、ガジュツの影は勝利を焦るあまりに誰もフォローできないタイミングで攻撃してしまったのだ。


「おっしゃ! 残りは……!」


 勇者は倒された。聖騎士も倒された。しかし、ギルドマスターはまだ生き残っている。老熟した戦意は失われず、むしろ先ほどの犠牲は踏み台であったかのよう。既に俺の側面からギルドマスターの影が攻撃をしかけてきていた。

 その攻撃はまさに長年の経験から見破った絶好のタイミングだった。ビスマス、ガジュツという猛者もさに意識をとられていた隙を狙った完璧な一撃。


「フン! 効かねぇんだよ!」


 ガンッ!という金属が挟まる音が響く。いつかのガジュツへやった筋肉による真剣白刃取りである。

 ギルドマスターは堅実ではあるが、だがそれだけだ。特化したところは無く満遍なく強いために周囲とは連携しやすいが、戦場の先駆けにはなりきれない。ギルドマスターは円滑に仲間をサポートする役割のプロであり、強靭な力を発揮して単騎で駆け抜ける勇者にはなれないのだ。


「単純に力不足だ。オォォらァ――ッッ!」


 俺はギルドマスターの影を殴り潰した。これで前衛のエリート組は全て撃破されたことになる。

 激戦が終わったのを見計らって、村人兵士たちが一斉に襲いかかってきた。その一歩ごと力強く踏み鳴らされる足音には、油断してはならない強靭な脚力を連想させる。

 そして、上空から小さな影が降ってきた。足音に紛れて鋭く風を切る針柱の豪雨が落ちてくる。



 俺が見上げると、頭上からホミカの影がカジキの槍の雨を降らせていた。周囲は屈強な村人兵士で囲まれて、空から槍が降ってくる危機的状況。


「イタズラするならもう少し凝った物を用意しておけ。フッ!」


 上空からの槍の豪雨を見切り避け、俺に命中しそうだったカジキの切っ先を1本掴み取った。神からの超人的な肉体補正により、動体視力も常人以上になっている俺にとっては簡単なことだった。


ホミカ(おまえ)なら奇襲する。むしろ読めていたぞ」


 戦場と日常も同じである。都合よく生きようとしている時点で、何をしようとするのかこちらにしてみれば簡単に読めているのだ。

 ホミカが奇襲を狙うだろうと事前に分かっているなら、その攻撃は奇襲ではなく、単なる見切った通常攻撃となる。

 カジキの雨に当たらない俺を見たホミカの影は、作戦失敗を即座に察知する。村人兵士達の群れの中へ飛び込んで隠れた。


「逃がさねぇ! セイぃぃリャァ――ッッ!」


 俺は先ほど掴んだカジキの切っ先をホミカの影が隠れた群れへ投げ返した。スキル『投擲とうてき』により威力が上昇し、空気ごと巻き込んで轟然と風を起こしながらカジキの切っ先がスピンしながら飛んでいく。ホミカの影は隠れこんだ村人兵士の群れごと払い飛ばされた。



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