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種なる正義が咲かせるもの  作者: 記野 真佳(きの まよい)
藪(ヤブ)から棒にスタイリッシュダンジョン生活
4/53

命題:俺の信仰が幼女に破(やぶ)られた件について


 小屋の扉が開け放たれた。


「わたしの名前は、キジュミーヌ・マーズキ! 見つけました、深淵しんえんの森のダンジョンマスター」


 なんか丁寧に名乗ってきた良い子っぽい幼女が来た。

 清楚せいそに整った金髪のショートカットが愛らしく似合っている幼女。背丈も年齢もちょうどイチイと同じくらいだろうか。白いワンピースの上に胸当てを着こんだタイプの冒険者の服装で、森との迷彩を意識したのかその服装の上から若草色のポンチョを羽織っていた。


「わたしは、あなたを倒します!」


 凛としたかわいらしい顔に似合わぬ迫力は、強い信念からなるものかもしれない。人形みたいに綺麗に整っている少女。しかし、どうしてか人形のように表情が乏しくも感じられた。

 ショートカット幼女に鉄砲を向けられる。筒先つつさきが長い、いわゆるマスケット銃に似たデザインだ。


「おい、やめろ。それは、ヤバイ……!」


 体の中心に火がともった感覚がした。心臓の鼓動こどうが息苦しくなるほど激しく乱れ、マグマのように熱い血液が駆け巡る。全身の筋肉が脈動みゃくどうし、筋肉へ強靭きょうじんな力が激しく注ぎこまれ破裂しそうなくらいに力があふれていく。全身の筋肉がよりたくしく、より太く膨らんでいく。



スキル

マッスルしんの加護・剛筋の脈動

マッスル神に愛された者だけが得られるシークレットの加護である。

戦闘開始時に体中の筋肉が膨れ上がり戦闘態勢となる。打撃攻撃、打撃防御が2倍になる。



 ――今、マッスル神の隠れた加護が発動する!


 そして、バリバリッと俺の『着る毛布』が破れてしまう。


「おお、クマー! やっぱりだ! なんてこった! 俺のいやしが! うわぁぁアアァァ――ッッ!!」


 俺の姿にショートカット幼女が引いていた。彼女から見れば、ムキムキの男が毛布の残骸ざんがいを抱くように握りしめ、わなわなとふるえて、本気でむせび泣いているのだ。


「だっ、ダンジョンに眠る秘宝。そこの宝箱と、あなたの持つダンジョンコアをいただきに参りました!」

「そこの(エロ本入りの)宝箱だと? そんな物のために、俺の崇拝すうはいするクマは……。おまえは、なんて、けしからん幼女なんだァ――ッッ!」


 俺は悲しみに沈みながらクマの亡骸なきがらをそっと床に置く。クマが光の粉になっていき、さらさらと消えていってしまった。


 涙をぬぐいながら、俺は別れという名の永遠の悲しみを背負い立ち上がった。

 そして幼女をにらみつける。その鋭い眼光に幼女は銃を抱きしめて、わなわなとふるえた。


「宝箱……。お母さまに、持って帰るんだって約束したからっ!」


 銃を構えてエロ本を強奪ごうだつしようと叫んでいるけしからん幼女。俺は目を見開きステータスを確認する。


けしからん幼女のステータス

lv、4

体力(HP)33

魔力(MP)31

打撃攻撃25

打撃防御16

魔法攻撃20

魔法防御21

素早さ22

幸運21



 なんだ最初のゴブリンとどうレベルじゃないか。こんなやつによってクマは犠牲になったのか。


「強敵ならまだ分かる。仕方ないと諦めが尽くだろう。だが、その程度のレベルだと? 俺達がどんな思いをして手に入れたのか、テメェには分かるのか!?」


 体中に力がみなぎった。あふれ出した怒りのエネルギーの余波が全身からきりのようにもれていく。

 俺はゆらりと立ち上がった。


「貴様は俺を怒らせた。よって慈悲じひはやらん。ダンジョンコアもやらん。宝箱(エロ本)もやらん。俺が貴様に送る最大の情けは、一撃でほふること。ただ、それのみだ!」

「ひぃぃ――っっ! うわぁぁ――っっ!」


 銃を乱射するけしからん幼女。

 しかし、俺はマッスル神の加護を受けている。そして、クマの犠牲により脳内のアドレナリンが大量分泌された今となっては、もはや弾丸など数を確認しながら避けられるものとなっていた。


「――君臨くんりんせよ、白き輝きを持つものよ。なんじ蛋白質プロテインにて、怨敵おんてき頭蓋ずがいを叩き潰せ」


 俺は『女性恐怖症』だからけしからん幼女を殴りつけることはできない。なるべくさわりたくないからだ。ゆえに――!


「いくぞ。『食材の権利』を発動! 女は、豆腐とうふのカドで頭ぶつけて死にやがれェェ――ッッ!」


 食材の権利で豆腐とうふを練成。怒りの臨界点を超えた筋肉パワーで投げつける。

 ブォン!と轟風を巻き込み、ジェット戦闘機と拮抗するほどの速度で豆腐が飛翔ひしょうする。その勢いで豆腐がはしがちぎれていき、さながら流星の光の尾のように美しくなびいていく。豆腐は刹那せつなの時を翔けて、けしからん幼女との距離を詰めた。


「きゃふっ!」


 けしからん幼女が豆腐に当たって気絶した。さすがに柔らかいから死なないよな。ちょっとは気を使ってみたんだぞ。

 それにしても、倒れたこいつはどうするべきか。あと、イチイ、おまえはなにをしているんだ?


「食材。もったいないから、食べてるー」


 けしからん幼女の顔をぺろぺろするなよ。背すじがゾクゾクするじゃないか。悪い意味でな。

 ああ、けしからん幼女がよだれまみれになっている。ばっちいな。イチイ、冷凍肉まんをやるからそれ以上はやめなさい。

 あと、顔を拭いてやったらベッドに寝かせておけよ。今日は『着る毛布』が当たって気分が良い日だから特別に休ませてやろう。


「それにしても、冒険者っぽいのも来たことだし、ダンジョンをちゃんと設計しないといけないか。イチイ、どんなところに住みたい?」

「お城がいい!」

「無理を言うなよ」


 ◇◇◇


 俺はクマの着る毛布に再びそでを通す。冷静に考えたらもう1回出せばよかったじゃないかという結論になった。


 さて、イチイにはあのように言ったが、しっかりとした拠点きょてんがあるに越したことはない。しかし、頼みの綱はガチャであり、運よく当たるご都合主義なんて期待できない。


「ならばどうするか。そう、ガチャで出ないなら自分で作ってしまえばいい!」


 いわゆるDo it yourself(DIY)の精神だ。ということで、とりでを作る計画が始まった。そう、お城なんていうファンシーなものじゃない。俺が目指すのは、敵を撃退するとりでである。


「DIYか。ふふっ、良い響きじゃないか。燃えてきたぞ! 世界にたったひとつの俺だけのオリジナルの砦作りに挑戦といこうじゃないか!」


 とりあえず気分から入ってみた。さっそく砦作りである。

 まずそこらへんから石をとってくる。次に筋肉を使って無理やりに石を圧縮して四角く握り潰して加工する。最後にレンガみたいに積む。うーん。チート筋肉のおかげで作業は簡単だが、これを俺ひとりでするのか。何年かかるんだろうな。真面目に考えてみたら途方もない現実に、俺のやる気がさっそく瞬殺された。

 よく考えたらDIYとか言う感覚じゃねーよ、これ。誰が日曜大工な気分ノリで手作りとりでに挑戦だとか馬鹿を言い出したんだよ。まあ、俺だけど。


 本気でとりで作りをどうするべきかと手を休めてた時、なんとなくスマホを確認してみる。ゴキブリの触覚が752個もたまっていた。


「へぇ。こんな画面があるんだな」


 気ままにメニューをいじっていたら、どうやら手持ちのアイテムをポイントに変換できることが分かった。ゴキブリの触手も元は生命体だからポイントに変換できるということか。ラッキー!

 全部を換算したら手持ちの総ポイントが1301ポイントになった。あっ、いま勝手にポイントが1増えた。たぶん、不屈の剣がゴキブリを倒したのだろう。

 ガチャメニューに行く。『レア以上確定ガチャ』は1回15000ポイント。『ランダムガチャ』は1回100ポイント。


「とりあえず、ランダムガチャを10回するか。おっ、10回まとめて引くとオマケでもう1回出るらしい。気前が良いな。さあ、来い!」


 願いを込めてガチャをまわす。この祈りながらガチャを引く時間もちょっぴり好きだったりした。そして結果は――!



 ブロンズカード、シルバーカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード。


ノーマル

クサいニンニク

パワーが湧きそうだけど臭いぞ。


レア

銀の霊薬

なにかの素材に使えそうな、綺麗な霊薬。飲めない。


ノーマル

かちかちのパン

歯型がついている。かたすぎて食べられないパン。


ノーマル

さっき拾った木の板

海に行った記念に持って帰りました。


ノーマル

聖なる先われスプーン

こうごう々しい輝きのスプーン。手元が光りすぎて食べにくい。


ノーマル

本格的なカメラ

ギミックが凝りすぎて、ボタンが多くて使い方が分からない。


ノーマル

古銭ふるぜに

カビが生えている。きたない。


ノーマル

特盛りカレー(模型)

高さ10センチのご飯の上にカレーがとろり。わりとおいしそう。


ノーマル

メロンを切ったときの真ん中の白いモジョモジョしたところ

ここを食べたことがある人はいるのだろうか。未知の物質である。


ノーマル

スティックシュガー

さらりと水にも溶ける実は凄いタイプ。


ノーマル

無線型マウス

電池が入っていないから使えない。そもそもどこに繋ぐのか。



 なんだよ。マシなのが出ないじゃないかよ。ふざけんなよ! 詐欺さぎだろ! 泣くぞ!


「ご主人さま、どうしたの?」

「マジでショックなことが起こった。がんばってポイントをためたのに、ゴミしか出ないんだぜ。なんだよ、メロンを切ったときの真ん中の白いモジョモジョしたところって。モジョモジョってなんだよ。つーか、アイテムですらねぇよ。ただの生ゴミじゃねぇかよ。あー、イチイも1回だけ引くか?」

「うん、がんばる!」

「ちょっと待て。やっぱりお前は、2回だ!」


 俺より運がよかったから、奇跡が起こるかもしれない。イチイにスマホが見えるようにかたむけてやる。

 イチイがランダムガチャをガチャりと引く。出てきたのは――ゴールドカード、シルバーカード!



スーパーレア:硬貨の権利

支払ったポイントに応じてお金が届けられる。


レア:ワンボックスのスキル

ひとつの名前のアイテムを無限に持ち運べる。



「おぉ! 権利シリーズだと!? スキルも来たぞ! 良くやった!」

「えへへ。ありがとうー」


 イチイが人懐っこい笑みでわらう。


「とりあえず硬貨の権利は、全種類を1枚ずつだな。よし、注文!」

「あわわっ! ご主人さま、金貨だ! 金ぴかだ! はじめて見た! わあ! こっちは白金貨だ! 白金貨って王様の単位って言われてるんだよ! こんなの出せるご主人さまって、ホントにすっごくすごいよ!」


 はっはっはっ。それほどでもある。

 たしかお金の価値は100枚で次の単位になったはず。そして銅貨が一番低い値だった。これを日本円にして考えてみる。


 銅貨は一番小さい単位なので1円玉。

 銅貨100枚で銀貨1枚。つまり銀貨は100円玉。

 銀貨100枚で金貨1枚。つまり金貨は1万円玉。

 金貨100枚で白金貨1枚。つまり白金貨は100万円玉だ。


 注文するためのポイント消費量は、銅貨1P。銀貨3P。金貨10P。白金貨40P。

 差分がおかしい。明らかに人間界の貨幣システムを壊そうとしてるな。いや、ダンジョンは魔王側だからあたりまえか。

 100万円玉かあ。じゃらじゃら持ち歩いていたら、たしかに王様だな。ていうか、今の手持ちですら100万円を越えている時点で金持ちだけどな。


 そういえば、大雑把な計算だがゴキブリ駆除システムを逆算したところ1時間で120P程度稼いでいるっぽい。それを白金貨と交換すれば……寝ているだけで時給300万円だと!? しかもアレって24時間休まず稼動してるし、なんかすごいことになってるぞこのダンジョン。働いている場合じゃねーよ! 町人を買収ばいしゅうしてとりでを作らせちまおう。自分で作る喜びを楽しむDIYだぁ? 貧乏くせぇ、カネで買っちまえ! ヒャッハァー!


「あっ……クマに戻ってる」


 けしからん幼女が起きていた。しかも、戻ってるじゃねーよ。いや、クマを崇拝すうはいする者としては、これは喜ぶべきなのだろうか。


「とりあえず、風呂にでも入ってろ。顔がアミラーゼまみれでベタベタしてるだろう?」

「あっ、はい。すみません」

「あっ、イチイが案内する! こっちだよ!」


 俺の言うことを素直に聞き入れるけしからん幼女。なんかすごく真面目そうだと思った。



 ◇◇◇



 けしからん幼女達が風呂からあがった後は、夕飯にした。冷凍チャーハンと、冷凍春巻きを3人で食べる。

 このチャーハンはコショウがきいておいしいな。春巻きも久しぶりに食べるとうまい。パリパリしていないが、レンジで作った特有のしっとりとした噛みごたえがたまらん。

 食べていると、けしからん幼女がもじもじと何かを言おうとしている。


「あのですね。お食事中ですが……」

「うん? 春巻きは嫌いか? なら海老エビシュウマイだな。ほれっ、うおっ! われながらこれも絶品だな」

「ぷりぷりしてる! おいしー! ご主人さまの料理って、おいしくてしあわせー!」

「違います! えっと、ですね」

「なにコレも駄目なのか? 仕方ない。小籠包しょうろんぽうを出してやろう。今日は中華フェアをしてる気分なんだ」

「あちゅいっ、おにくっ、おしるがすごい! あちっ!」

「話を聞いてくださいっ! お母さまからの命令なのです。ダンジョンに入ったなら、ただでは帰れません」

「メシを食って、風呂に入って、それ以上を求めるというのか。まったく、けしからんやつだ」

「そっ、それでもダメなんです! ごめんなさいっ! でも、ダメなんですっ!」


 泣きそうになりながらも、母親のためにと健気けなげにがんばり続ける けしからん幼女。目が赤くにじんできて、今にも涙がこぼれてきそうである。


「おいおい、待て。泣くんじゃないぞ。ったく、しょうがないな」


 泣いたら俺が対処できないからな。別に、泣き落としに弱いわけじゃないんだぞ。本当だぞ!

 俺は宝箱の権利を使って宝箱を作る。宝箱の中身は、硬貨の権利でカネを作ってやるか。とりあえず、120Pならゴキブリで勝手に溜まるし妥当だろう。どれくらい入れるか考えようとしたが、女のために思考すること自体が面倒だから一瞬で考えるのを放棄ほうきした。白金貨を3枚でいいや。軽くて持って帰るのがラクだろうしOKだろ。


「よし、宝箱だぞ。コレをやるから、今日は俺らを見逃してくれ」

「ありがとうございます。あれ、軽い……? あの……こんなのじゃなくて、奥の宝箱はダメですか?」

「奥の宝箱は(エロ本だから)ダメなんだ。渡せない」


 幼女にエロ本を渡して帰らせるプレイを要求された。どうやら彼女は無意識てんねんの領域で俺を変態にしたがっているらしい。やはりけしからんな。


「駄目ですか。分かりました。はい……」


 宝箱の軽さに幼女は期待ハズレな顔をしてしょげている。

 説明すんのも面倒だから訂正しないでいいや。ふはははっ、本当は300万円相当が入っているのに勘違いしてやがる。滑稽こっけいで面白いから黙っていてやろう。家に帰ってヅラでもいていればいいさ! 俺って女は嫌いだからテキトーに扱ってやるのさ。優しくしない趣味なんだぜ! まさに、俺は外道のダンジョンマスターだな。


 メシを食い終わったあと、けしからん幼女を見送る。宝箱をありがとうって、何度も頭を下げられた。中身を見られたかとあせったが、宝箱をあげたことを素直に感謝しているらしい。

 けしからんクセに、本当に純粋すぎるヤツだ。悪い人間に騙されていいようにされてしまわないかと逆に心配になりそうだ。守ってやらなければならないという加護欲を刺激してくる。まったく、女でなければ最高なんだがな。いや、男だったら男でダメな発言じゃないかよ。


「ご主人さま、なんか嬉しそうだね」

「分かるか?」

「うん、すごく楽しそう!」


 たしかに楽しみだ。なにせ、もうじき夜になる! 俺が信仰する神なる毛布、クマ様の出番だ! ふっふっふ。今宵こよいのクマは寒さにえておるぞ。今度こそ、1人で寝てやるのだ!


 と、調子にノッていた ぶん殴ってやりたい過去ができました。やっぱり寒さには勝てませんでした。



◇◇◇



 翌朝、イチイと冷凍パスタ(たらこバター)を食べながら考える。マスコットフェアリーはゴマ団子だんごが気に入ったようだ。


「んふふ~♪ ゴマさんのツブツブの香りがよくて、中のアンコさんがおいしいです! 超・絶品(ベストプラクティス)です☆」

「コイツ、寝る、食う、しかやらねーのかよ。本気で働く気がないんだな」

「妖精は無邪気な種族ですからね☆ 雇用アライアンスの条件を出すなら1日15時間睡眠を確保できるところでないと働く気が起きないです。あっ休憩時間は9時間で♪」

「24時間休憩とか、コンビニに喧嘩ケンカ売ってるのか。本気で働く気がないんだな……」

「でも、あながち冗談ではないのですよ。人間でも、モンスターでもいいので、活力がたくさんある場所でないと、妖精は生きられません。ここ、2人じゃないですか。わたしを働かせる最初の壁(キャズム)的にはまだまだですよ。あっ、そうだ! お名前をくださいです!」

「えー、名前? お前が歩くと、ほみほみって効果音が付きそうだから、ほみ……ホミカでいいや」

「ガーン! すっごいテキトー(ジャストアイディア)で付けられたー!」

「ご主人さまー。パスタ、初めて食べたけどおいしいね!」

「イチイちゃん、無視ですかー! この会話の流れ、どうなんですかー! 今のは無視しちゃいけないですよ! 名前がかかってるんですよー!」

「まったくだ。たらこバターは神なる組み合わせだと思う。それにしても、これから女の冒険者が来たときどうするか。さすがに豆腐とうふだけで戦うのは大変だろうし。困ったぞ」

「こっちもですかー! 徹底過激ドライスティックすぎますよぉ!」


 妖精フェアリーもとい、ホミカに頭をてちてち叩かれながら、俺はパスタにかぶりつく。

 ダンジョンマスターのカンがピンときた。侵入者が来たようだ。


 小屋を出ると大人おとなの人間がいた。俺よりも目線が少し低いくらいの背丈だろうか。気品のある白のインナーに紫の旅人のローブを着ておりその色合いと雰囲気に神秘的なものを感じられる。正体を隠しているかのように深く被った帽子ぼうしがなんとなく気になった。


「敵、ではなさそうだな。何の用だ」

「いいえ。通りかかっただけです、だ」

「ここはダンジョンの奥だぞ。通りかかるなんて、よくもデタラメが言えたものだ」

「そうなのですか、だ。申しわけありません、実は迷ってしまったのです、のぜ。水と食料を売って欲しいのですが、分けてくださいますでしょうか、だぜ」


 男にしては高めの声だった。あと、なにかおかしい気がした。具体的には語尾とか。


「……ご主人さま、なんか頭が不自由な人がいる」

率直サマリーで言うと、脳の言語中枢がイッちゃってる人のほうが正しいと思いますよ☆」

「おまえら、なかなか辛辣な表現するな。こっそり言えよ」

妖精フェアリーは純粋な心を持つ部族なのです。ですから、無邪気なので仕方ないですよ☆」


 おまえ、自分で無邪気とか自己申告するなよ。そういうやつってだいたい腹黒いヤツだぞ。


「とにかくどうぞ、お上がりください。ちょうど食事をしていたので一緒に食べましょう。食べている最中だったのですよ」

「あっ、ご主人さまの分、たべちゃった。ごちそうさまー!」

「お前、ご主人さまと言ってりゃなにをしてもいいと思ってないか? ぶっ飛ばすぞ」

「きゃー、こわーいっ! 追いかけっこだ! あはははっ!」


 俺はイチイを追いかける。食前の運動、じゃないな。食中の運動をしてから変な人間と食事をすることになった。ちなみに新しくパスタを出した。ナポリタンだ。

 イチイは満腹でナポリタンを食べれなくて、ぐぬぬぬっと歯噛みをしている。ざまーみやがれ。俺の分まで食ったからそうなるんだ。


◇◇◇


 お腹が痛くて死にそうになった。中途半端に食べた後に運動をしたので もの凄く痛い。やっと半分まで食べれたがもう限界だ。だが、イチイにざまーみろと言ったのに残すのはかっこ悪いから無理をして食べ続けていく。


「ほ、ホミカ。興味があるなら食うか?」

「マスターさん、そのとしで脳がハイパーイッちゃいましたか? 妖精は甘味かんみしか興味がないですよ☆」


 助っ人から拒否された。残り3割くらいか。ここから先が、フォークがまったく進まない。


「ありがとうございました。とてもお料理がお上手なんですね、だ。夢中で食べてしまいました。とても美味しかったですぜ」

「そうですか。ところで体が汚れていますよね。よろしければ、お風呂も使ってください」

「いいえ! そこまでお世話にはなれません、だぜ」

「ここの風呂はかけ流しです。誰が入っても、入らなくても、ずっとお湯が流れ続けるのでこちらは気にしないですよ」

「そうですか。では、お言葉に甘えて……」

「お風呂ならイチイが案内するよ! こっち!」


 イチイに風呂場まで誘導されていく。

 その間に俺はトイレへ駆け込む。やっぱ無理! おなか痛い! 死にそう!


◇◇◇


 すっきりして戻ってくる。俺のナポリタンが無くなっていた。そしてイチイの口元がナポリタン色に赤くなっている。


「おまえ、まさか!」

「おなか、痛い……」

「おまえってやつは……」


 俺も無茶をして食べたので馬鹿だとかの罵声を言うに言えなかった。俺は黙ってトイレをゆずってやった。


◇◇◇


 俺は気分よく風呂場に向かった。今も旅人の人は入浴中で、いわゆる男同士の裸の付き合いである。俺は男のスキンシップに飢えているのだ! 鼻歌を歌いながら浴場へ入る。


 ガララッと浴場の扉を開ける。そこにいたのは、さっきイチイが風呂場まで送った変な人間と同じ身長で、巨乳な『女性』がいた。つややかな長い髪に、驚くほど圧倒的なボリュームのおっぱいの美女。

 美女がこっちを見上げたときに、ゆさゆさとデカいおっぱいも動いた。はち切れんばかりの張りがある圧巻のおっぱい。服越しとかじゃなくて、なまおっぱいである。大迫力のなまチチである。

 すなわち、それは俺の健全な精神をひどく害するものである。


「アババババ、ピャ――っ!?」

「ええっ!! ちょっと、どうしましたか!?」


 なんか普通のしゃべり方で声をかけられた気がした。意識が遠くなっていく。俺の世界が真っ暗になった。



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