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種なる正義が咲かせるもの  作者: 記野 真佳(きの まよい)
傍若無人なシニカル・ウォー
31/53

連動:次々にボスが現れた件について

◇◇◇


 赤影が高らかにうたいあげる。その凶暴な本性を込めた愛のうたが発動していく。


「I want to hear your sweet beautiful voice.(僕にあなたの甘い美声を聞かせて欲しい。)


Let's uncover the bone. Come on, peel off the meat. Come on, dividing the brain.(さあ、骨を晒そう。さあ、肉を剥ごう。さあ、脳髄を引き裂こう。)


Because you're of a glossy red color of the instrument.(あなたは艶光つやひかる真紅の楽器なのだから。)


So, the world is filled with blood.(そう、世界は血で満ちている。)


To invoke the magic circle. Voice of melting soul.(魔法陣発動――溶魂の声)」



 生気を吸い尽くすヴェールに包まれた世界ができあがる。飛び石のような足場が点在しており、数十メートルほどの深さの底には、血を連想させる紅砂の泉があった。


「これは死者の渇望が湧いている泉だ。生きているものが妬ましいという思いが具現化ぐげんかされたものだ。ゆえに、落ちてしまえば魂ごと溶かされる。これがお互いに課せられたルールだ」


 そう言って赤影がローブを脱いだ。それは人間の首だけもぎ取られたような姿で、耳が異様に発達していて翼のようにも見える。それはチョンチョンというモンスターだった。

 耳の翼で羽ばたきながら、オウレン達を眺め見る。キリキリとした耳障りな音で赤影が笑いながら告げる。


『俺ハ落チハ シナイ ケレドモナ!』


 ガラガラの声が泉から反響しつつ、赤い湯気が立っていく。


『吸イ込メバ 肺ガ 溶ケ崩レルゾ。触レタダケデモ 火腫レニナル ダロウ。目ニ入レバ 前後不覚トナッテ、意識ヲ奪ワレル』


 泉の蒸気が形作られていき、それぞれがコウモリの形になっていく。


『サア、行コウカ。我ガ同胞達ヨ』


 赤い霧の大量のコウモリがカタカタとあごを不気味に震わせて嘲笑する。一斉にオウレンとガジュツに飛び掛ってきた。

 コウモリが羽ばたくたびに、りん粉の如くの赤い蒸気を残していく。あの泉から生まれたのだから、おそらく効果も同じく触れただけで体は壊死えしするだろう。ひたすら不浄で、不気味なコウモリが次々に現れる。

 その姿には不気味にうごめくく血塗れた臓物を見ている不快感を感じられる。胃からせりあがってくる酸っぱいものが逆流する感覚が抑えきれない。


「クソッ! なかなかキツいじゃないかよ」

「あら、困りましたね。どうしましょうか」


 不安定な足場を踏み外してはならず、かといって足場に気をとられていたら赤いコウモリに殺される。逃げもできずに、隠れもできず、まさに詰みの状況である。始まって間もなく2人は絶望的に追い込まれていた。

 地獄の亡者を連想させるコウモリへガジュツが剣を構える。


「前衛は任せろ。おまえは前か!? 後ろか!?」

「サポーターです。アイテム係りですね」

「クソッ! 使えねぇヤツだな!!」


 最悪な相性であるとガジュツが吐き捨てる。


「この量は守れねぇぞ! 勝手に逃げ回ってろ」

「そうですね。では、そうすることにします」

「え?」


 反論がくるかと身構えていたガジュツは拍子抜けする。オウレンはゆったりとした動作でアイテムを使った。


「使わせてもらいますよ、ホミカちゃん。――ダンディなクレヨン!」


 クレヨンと絵を掲げるオウレン。パッとクレヨンと絵が輝くと、そこにはこの世のものとは思えない存在が立ちはだかった。


「な、んだ……それは……ッッ!?」


 ガジュツは戦慄した。かろうじて四肢があると分かったため巨漢のようにも見えるが、本能的にそれは人間の姿ではないと理解した。それは災渦を具現化した形であり、この世の全ての混沌を紡ぎだしたものに他ならない。それは人知を超えた存在であり、もはや化け物と表現するほか無い。異形の存在がオウレンを守るように立ちはだかった。


「なんだと言われましても。えーと、たぶん邪神じゃしんです?」


 それは、ホミカの絵と併用でダンディなクレヨンを使用したときの奇跡の産物。固有スキル『威圧のオーラ』を持つ『謎のだんでぃ?(障害物ブロック)』が召喚されたのだ。あくまでもその効果は強そうな敵避けのカカシではあるが、これの影に隠れていれば当面はオウレンの身は保障されたに等しい。

 眼前の状況を理解したガジュツは不敵に笑い、剣の切っ先を赤影たちに向ける。


「分かったぜ。つまり、俺は全力で攻めにまわっていいんだな」


 上空をおおうほど、雪崩なだれのような真紅のコウモリたちの群れが殺到する。


『阿呆ガァ! コノ世界デ、守ルモ攻メルモ、アルモノカ!』


 重なり合うコウモリたちの叫び声。出現する数が一気に倍増した。

 複合理念魔法を使用している限りは、コウモリは無敵の大群である。幾人もの人間を飲み込んできた連戦連勝の成績に、そして自身が最強であると信じているがゆえに作り出せた魔法に絶対の自信が赤影にはあった。


 鮮血に似たコウモリたちの津波に飲み込まれるガジュツ。


「……りぃな。俺は勇者なんだ」


 それは巨人の豪腕で強引に振り払われたような光景だった。一瞬でコウモリの群れが黄金の輝きに薙ぎ消される。


「――勇者が悪魔を倒すのは常識だろ?」


 光り輝く剣を肩にかけるように持ち、不敵に笑うガジュツ。圧倒的な光景に赤影は驚愕を隠せない。


 勇者とは魔王を倒す祝福を受けた存在であり、すなわち魔を制する存在である。ガジュツの戦士としての腕前はそこそこ強いという程度であるが、勇者としての性質により、邪悪な性質のものに対しては神がかった威力を発揮する。赤影のコウモリ達は亡霊のたぐいでいわば闇の存在であり、輝かしい祝福とは対極の存在である。ゆえにガジュツの攻撃は抜群の効力を発揮する。全ての闇を輝きにて切り払わんと勇者の剣が神々しく輝いている。


「その名は神撃護聖ホーリネス・グローリー。栄光を約束された剣の加護、なかなか効くだろ?」

『光ガ怖クテ、戦イヲ 怖レルハズガ アルカァ――ッッ!!』


 コウモリ達が咆哮する。泉から湧き上がった死毒の濁流が竜のようにうねり上がった。


「いくぞ、相棒! おらぁぁ――ッッ!!」


 ガジュツが光の剣で薙ぎ払っていく。極光の風圧が全てを吹き飛ばし、足場になっている岩石すら丸めた紙のように軽々と吹き飛んでいく。

 赤い波がガジュツを飲み込み、光の波が赤い波を飲み込む。二色の波が交互に圧し合っていく。勇者としての本会をとげた奇跡の連続攻撃が赤い闇を切りはらうが、大群は果敢にも幾度もなだれ込んでいく。


『カッカッカッカ! 貴様ガ 戦ッテイルノハ 無敵ノ軍勢。コノ世ニ 怨恨ガアル限リ、ヨミガエリ続ケル地獄ヲ味ワエ!』


 しかし、圧倒的なコウモリの物量の前には状況は変わらない。たしかに一撃で数十匹のコウモリを倒すことができるが、それに対しての敵の供給量が多すぎる。


「自分で無敵だとか、オツムが悪すぎだろ。ガキの妄想と同レベルかよ」


 軽口を叩き、嘲笑しながら反撃していく。

 だが、ガジュツは自身の体調がわずかに変化してきているのに気づいた。


『気ヅイテモ遅イゾ? 馬鹿ナノハ、オ前ダ! 俺達ヲ 何匹殺シタト 思ッテイル?』

「チッ、何が言いたいんだ?」


 ケラケラと笑うコウモリたちの群れをガジュツは閃光で薙ぎ払っていく。しかし、攻撃するほどにどうしてか違和感を感じた。体の中で何かが噛み合わなくなってきた気がしたのだ。もちろん身体は正常に動いているし、動作も問題は無い。だが、何かもやがかったようなぼんやりとした恐怖がガジュツの内から湧いてきていた。


『弱ッテイルゾ。悪アガキハ終ッタノカ?」

「悪あがきと決め付けるな。勇者が負けるのなんて、物語的にありえねぇだろ?」


 ガジュツはわずかに息を切らしながら攻撃的な口調で言い放った。その様子がおかしいのか、ケラケラと笑い出す赤影。


『ソロソロ分カルダロ? 腕モ、上ガラナクナル ハズダガ?』

「おまえ、まさか……!?」


 このときガジュツは違和感の真相にやっと気付けた。どうしてか腕に力が入らない。筋肉が徐々に侵食されていき、骨が内側から蝕まれている感覚がする。息苦しさもあり徐々に肺もダメージを受けている事実に気づいた。

 散り飛んだコウモリの死骸は紅砂となる。砂という小さな形状だからこそ、容易にガジュツへ振りまかれるし、呼吸で吸うこともあるだろう。それがガジュツを内側から食い殺していったのだ。


『サア、サア! 聞カセテクレヨ、オ前ノ 絶望ノ声ヲ!』

「言ってろよ。勝つのは俺だ!」

『アア、羨マシイ。生キテイル、ソノ姿ガ 気ニ食ワナイ。気勢ガ 生意気ダ。我ラノ、恨ミヲ、憎シミヲ……。我ラノ憎悪ノ灼熱ニ、ソノ身ヲ焼カレロォ――!』


 本能をむき出しにコウモリ達がガジュツへ突撃してくる。殺しても、殺し尽くしても防ぎきれない憎悪のコウモリがガジュツへ引導を渡しにかかる。



◇◇◇



 白影がうたい、黒影がうたう。大いなるものを連想させる壮大な響きで、うたが発動していく。


『White chain ate soul. Black chain ate the wall.(白の鎖が魂を食い破る。黒の鎖が壁を食い破る。)


By itself two chains went to eat the bonds between humans.(またひとりでに2つの鎖が縁を食い破る。)


This life has been saved by you. How, I want you to put me in your dreams.(拾われたこの命。どうか、あなたの夢に乗せて欲しい。)


Our hometown is not, why is because we have been destroyed.(帰る場所など我が手で失ってしまったのだから。)


To invoke the magic circle. Voice of mortality.(魔法陣発動――死滅の声!)』



 戦場が震撼する。本能の全てが凍てついた。ソレは人類の力ではどうしようもないものだと悟ったのだ。力を持った生物の全てが思わずひれ伏せてしまう威圧感。

 魔法世界の暴力の王道が、この世界に君臨する。


「わたし達に当たるなんて、ハズレを引いたね。かわいそうだね」

「かわいそうだね。僕たちは色影の中で一番強いもんね」


 ただそこにいるだけで世界が激動する。全身が総毛立ち、イチイとミーヌは現れたソレを見上げた。


「うぅ……ああ……!」

「あれは……!?」


 イチイは言葉を失くし、ミーヌは思わず銃を抱き寄せた。

 高層ビルよりも高い背丈の竜が、それも2体も現れたのだ。まぶしいほどの白の竜に、どこまでも深い色の黒い竜。

 天地を揺るがすほどの偉大な存在。攻撃を回避するなどという甘い幻想は全て吹き飛ばされた。残っている選択肢は『どう死ぬか』のみ。戦うという選択すら彼方へと吹き飛ばされている。もはや格が違うという言葉すら通り越していた。


「こわいだろうね。かわいそうだね」

「かわいそうだから、あわれだね」


 白影と黒影がローブを脱いだ。2人はそっくりの双子のゴブリンだった。双子が声を合わせる。


『さあ、恐怖に呑まれ殺されてしまえ!』


「立ち止まっちゃいけない。やぁ――ッッ!」


 裂帛の気合いを込めて、ミーヌが弾丸を乱れ撃った。

 七宝染銃の効力により全ての弾丸には異なった性質を持たせている。毒。麻痺マヒ。睡眠。混乱。貫通。もてるあまりの全ての性質をこの場で叩き込めたのは、相手が人知を超えた存在であると本能が奮い立ったからであろう。

 弾丸が白と黒の竜に命中する。


「――っ!?」


 白い竜に当たった弾丸。それが、白い砂を散らして崩れた。風圧に巻かれてほこりのように舞い消えてしまう。むずがゆかったというように、白い竜は少しだけ身じろいだ。

 そして黒い竜に当たった弾丸。こちらは、影に飲み込まれたかのように貫通もせず、音すらも飲み消えていった。減退すらできず、無慈悲に黒い竜という名の闇の中に溶けて無くなったのだ。


「……そんな」


 呆気にとられるミーヌを、けらけらと白影と黒影が笑う。


「これはオセロの魔法なんだよ」

「だからリバーシブルの魔法なんだね」


 2匹の竜が動き始めた。地面ごと剥ぎ取るように爆進しながら、それは死の暴風と化した。


「イチイちゃん、逃げないと!」

「うぅ……ああァァ――ッッ!? アアぁぁああ――!!??」


 イチイは錯乱していた。しかし、竜の圧倒的な力の前で戸惑っているのではなく、別の次元の何かを見ているように発狂している。心がここにあらずといったように……


「――っ!? ごめんね、引っぱるから!」


 ミーヌがイチイを引っぱって強引に伏せさせる。


「きゃぁ――っっ!」


 指向性を持った凶暴が疾走する。その場を通るだけで大気すらも揺れ動かし、その風圧に触れただけでも魔力ダメージを受けていく。その場を横断するだけで起こる災渦の波。まさに生きている大災害そのものである。もはや、黙って過ぎ去るのを待つくらいしか選択は残されていない。


「オセロだから、はさまれたら怖いんだよ」

「リバーシブルだから、はさまれたら大変なんだよ」


 竜が通ったあとには、大量の魔弾が浮遊していた。黒の魔弾同士が、白の魔弾同士が共鳴するかのように、一気に引き寄せられていく。


「きゃぁぁ――ッッ!」


 黒の魔弾同士がくっつくとそれは破裂した。暴力的なエネルギー波にあぶられる。


「気をつけて。白のドラゴンもいるんだよ?」

「大丈夫かな。黒のドラゴンもいるからね?」


 今度はドラゴンが迫ってきていた。ドラゴンのあごが開かれ、小さな生命を砕きに迫る。退路はすでに魔弾で塞がれており、どこにも逃げ場はない。


「――! 見つけた。そこッ!」


 だが、ミーヌは炸裂する魔弾の隙間を見つける。イチイを引きながら決死の思いで飛び込んだ。

 魔弾の爆発する余波で体が引きちぎられそうになりながらも、ドラゴンの牙を避けることに成功する。


「はぁ――っ、はっ――ッ! なんとか、なった」


 かろうじて大ダメージで済んだ。一秒でも遅かったなら、おそらく2人は存在ごと粉砕されていただろう。


「私たちが遊ぶのを止めるまで、ずっと黒と白のオセロは増え続けるよ」

「僕たちが遊び終わるまで、我慢してないと駄目なんだよ」


 双子が声をそろえて言う。


『だってオセロは2人で遊ぶものだからね』


 ニコニコと逃げまどうミーヌ達を眺めている双子が言い続ける。


「だからおねえちゃんたちは、黙って見ているだけでいいよ。それがわたし達のルールだからね」

「だからおねえちゃんたちは、最後まで見ているだけで勝ちになるんだからね。これが僕たちのルールなんだよ」

「そういえばね、わたしたちに攻撃しても届かないんだよ」

「そうだね、真剣な勝負の邪魔をしちゃいけない概念ルールによって、僕たちは守られるからね」


 白と黒の戦いを、決着がつくまで見ていろと2人の影は言い放った。

 こちらの攻撃は当たらない。触れば即死。時間をかければオセロのような魔弾が残り続けて、いたぶられるだけ。それも理不尽極まりない怪物から逃げながらである。


「でも、僕たちの試合を最後まで見てくれた人はいないよね」

「だって、私たちの試合はとっても長いからね。2人とも強いから仕方ないよ」

「黒のドラゴンが強いから仕方ないよね」

「白のドラゴンも強いから仕方ないよね」


 竜が吼え猛ると、空間全体が圧倒的なエネルギーで震え上がる。魔力波による大破壊がもたらされた。

 人類程度であれば、最強生物の前ではこの程度である。そもそも土俵が違うのだ。争うといった以前に、別の次元の話なのである。


「なんなの、あれは!? ……やだ。あの竜、怖い。いやだ……! 思い出したくない! やだ、やだっっ! 助けて……!」


 イチイは体を震わせ、ミーヌの腕にすがりつくように立ちすくんだ。その原因は明らかに圧倒的な威圧感ではない。もっと別の何かに対しておびえていた。


「だいじょうぶだから。心配しないで」


 ミーヌはあの日のことを思い出しながら、そっとイチイに寄り添った。

 どうして彼女だけ冷静でいられるのか。もちろん、ガンナーとしての資質が後押ししたのもあったが、それは違う。まぶたの裏に焼きついた彼の幻影が彼女に勇気を与えていたからだ。

 守られたからこそ、自分はここで生きている。そして、彼に憧れにも似た思いで、誰かを守るために生きていたいとも彼女は思っていた。


「わたしの正義ジャスティスはもう譲らない」


 ゆえにそれをここで証明しよう。この気持ちに偽りは無い。母親によって失い続けていた彼女にも、譲れないものができたと言うことをここで示すのだ。


「だからわたしは戦うよ。この胸にともった熱い想いを、嘘にしたくないから……!」


 そうしてミーヌは立ち向かう。暴力の権化ごんげへ決意の銃口を向けた。



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