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種なる正義が咲かせるもの  作者: 記野 真佳(きの まよい)
傍若無人なシニカル・ウォー
30/53

実動:戦場が分断された件について

 上も下もない奇妙な浮遊感に流されていく。俺達は見つけたワープホールを抜けて敵のダンジョンへ出た。

 冒険者も合わせて総勢50人ほどのダンジョン踏破組。俺達の前に広がったのは閉鎖的な圧迫感を感じる坑道だった。ちょうど着地した場所はホールのように広くなっている。

 坑道は掘り起こしてトンネルのような洞窟状になっている道のはずだが、壁の質感が明らかに異様であった。ごつごつとした岩肌はそこにはなく、冷たい光沢感のある黒鋼で出来ており、触ってみると磨かれた石のように滑らかさを感じられた。


「薄暗くて不気味ですわね。意図して作ったとしたら、ずいぶんと嫌な性格ですこと」

「本当です。幽霊でも出てきそうなくらいですね」

「やめてよオウレンさん。オバケ屋敷を思い出しちゃった。イチイちゃんは大丈夫?」

「…………」


 ミーヌの問いかけにイチイは応えない。その雰囲気はいつもとは違っていた。触れれば壊れてしまいそうなほどの繊細な面持ち。憔悴しょうすいしているような表情だった。別次元の重圧に、ひとりで必死に耐えているようにも見える。


「おい、イチイ? 本当に大丈夫か?」

「えっ、なに!?」


 いつものイチイに戻った。隣で俺達を眺めていた勇者のガジュツが失笑する。


「チビすけ。もしかして怖がってるのか?」

「違うもん! 怖くないもん!」


 イチイは顔を真っ赤にしてほほをぷくーっとふくらませながら、さりげなく俺の腕にしがみつくように抱き付いてきた。

 こいつはわりと無意識でくっつきたがる。嫌だけど今は緊急事態だから黙ってされたままにしておくことにした。


「あはははっ! おいおい、何が怖くないもん、なんだよ! こりゃ、笑っちまうぜ」

「べっ、別に! ご主人さまを守るためだからねっ!」

「くくっ、そうか。おや? あそこに不思議な影があるぞ」

「ひゃう――っっ!?」


 ガジュツが茶化して、イチイが涙目になる。


「うぅ、ごしゅじんさまぁ……! ぐすっ……ひぅっ、ひっく……」


 さすがに泣くとは思わなかったのか、ガジュツは小声ですまないと俺に言って、バツが悪そうにそっぽを向いた。

 仕方ない。俺はよしよしとイチイを撫でてあやす。


「おまえ、本当に大丈夫か? オバケが怖いなら、外で戦っても良かったんだぞ」

「怖いけど、オバケじゃなくて……。ごめん、分かんない。怖いけど、なにか違って……」

「分かった。でも、無理はするなよ。怖かったらこのまましがみついていろ」

「うん。落ち着くから、そうする……」


 トンネルのような穴を歩いていくと、開けている場所が見えてきた。

 銀翼の聖騎士のビスマスは慎重に歩みを進めて、ギルドマスターは敵の気配をうかがっている。


「足場はしっかりしている。戦える場所ではあるか……」

「仕掛けてくるかもしれんぞ。ダンジョン組は物陰には不用意に近づかないように。先頭は慣れている俺らに任せておいてくれ」


 急に空気が冷え切った。そう感じられるほどの悪寒にこの空間が支配されていく。真っ暗な影が集まっていく。その影の塊から現れたのは悪魔の風貌ふうぼうを持つ者だった。


不躾ぶしつけな訪来は歓迎であり、キミ達にボクは恐悦すら感じさせられるよ。よくぞ参られた」


 皆が武器を手に取り、辺りに緊張が走る。


「ボクは戦うつもりは毛頭にもなく、言うならばここのダンジョンマスターの保護者であり、同じくして観覧者でもあるだろう。ボクがここに来たのは、キミ達が道に迷わぬように、微力ながら手助けをしようと思ったのだ。もちろん正確には手助けではない。このダンジョンの趣旨を理解してもらわなければ、こちらにたどり着くのも非常に時間がかかり、お互いに徒労で終わってしまう可能性がある。言ってみれば、お互いに退屈にならないよう配慮と言ったところだろうか。横文字の言葉で大変恐縮ではあるが『Win and Win』という概念に近いだろうね」


 悪魔が語り続けていく。


「ご主人さま! 長すぎて何を言っているか分からない……」

「よく分からんが、手助けしてくれるらしい。そうした方がお互いにスムーズに事が運べるから退屈しないんだと」


 悪魔が愉快そうに口元をあげた。


「語りすぎてしまうのはボクの癖であり、理解してくれるキミに好感を持てるよ。ぜひともダンジョンバトル以外で出会いたかったが、なかなか運命とは皮肉が効いているものだ。天に逆らう悪魔ですら運命を操れない。しかしながら、神が運命を操れるのなら愛嬌のない皮肉な悪意に満ちているこの世界とは何なのだろうか。キミとは悪魔と神のどちらが悪魔的なのか小一時間ほど語り合ってみたいものだね」

「悪魔の世迷いごとを聞いてはならん! 叩き切ってくれよう」


 あっ、ギルドマスターがキレた。


「待ちたまえ、端的に言おう。この戦いは死の遊戯(デスゲーム)である。それを伝えたくて、ここに来たのだよ。ルールは簡単だ。4人の敵がいて、それぞれが部屋にいる。全て倒したなら、中座の間へワープして、最終的には我らのダンジョンマスターにお目通りできるということだ」


 つまり、中座の間に行けば俺はこのダンジョンのボスを殴れるらしい。そこへ行くためには、それぞれの部屋にいる全ての中ボスを倒すことがスイッチになっているらしい。

 悪魔が朗々と語っていく。


「ここで注意点がある。それぞれの部屋は闇で満ちている。長居すれば部屋の闇に魂がむしばんでいき、最終的には肉体すらも闇の餌食えじきとなる。しかしながら、中座へワープする条件は、全ての部屋を制圧しなければならない」


 中ボスの部屋にはタイムリミットがあり、駄目だったら死ぬらしい。


「部屋に一度入ったならば出られない。つまり、全員が部屋を攻略しなければ一生部屋に入ったままであり、闇の餌食となる。ひと部屋でも脱落したならば、他の部屋は攻略していても部屋からは出られないため全員が闇に食い殺される流れとなっている」


 ひと部屋でも制圧に失敗したならば、全員がゲームオーバーであると言い放った。


「そう、これぞまさにデスゲーム! くふふふっ、あはははは――っっ!」


 破裂するような哄笑こうしょう。途端に闇のエネルギーが空間を覆い尽くした。世界を黒に塗り替えていく。それぞれの生きている気配がバラバラに飛ばされて別れていく。


『ボクはこの世の全てを憎く思う。ゆえに壊さなければならない。敵も味方も互いに価値があるゆえに、全てを平等に壊していく必要がある。さあ、破壊される世界の旋律せんりつよ、涙を流してボクらをたたえておくれ!』


 あざけた笑いだけがこの場に残った。



◇◇◇



 俺達が飛ばされた先にあったのは、一面の荒野であった。ここにいるのは俺と、ギルドマスターだけになっていた。


「戦力の配分は向こうが決めるのかよ。これは、マズいぞ……!」

「ダンジョンマスター。愚痴を言っている時間は無さそうだぞ」


 その荒野の中心に、大きな背丈で全身を緑のローブで覆い、深くフードをかぶった何かがいた。


「我らのダンジョンへようこそ参った。我は天空山のダンジョンに仕えし色影のひとり、緑影である」


 ローブの上からでも分かる屈強な体つきの男が語っていく。



 同じく天空ダンジョンの別室でも、コウカは敵対していた。彼女と一緒に飛ばされたのはビスマスである。

 対峙しているのは黄色のローブ姿の何者かであった。その存在はどこまでも不気味であり、常に怪しくゆらめているようにも感じられる。


「知ってのとおりだろうが、この黄影が親切に教えてやろう。四つの部屋に我ら、色影がおりそれぞれを撃破せねば先には進めない」



 同刻、腐臭の混じった異様な空間にて、オウレン、ガジュツが身構える。

 鮮血のような真っ赤なローブ。見ているだけで情緒が不安定になりそうな恐怖感が背筋からせり上がってくる。


「赤影が述べよう。すなわち、我ら色影のひとりでも倒しそこなえば、汝らに訪れるのは『死』あるのみ」



 白と黒の線でマス目が引いてある異様な空間。イチイ、ミーヌが目前の敵と対峙していた。


「白影がしゃべろう! 我ら色影は、元はダンジョンのモンスターである!」

「黒影がしゃべろう! 眷属化けんぞくかによって与えられた知性、そして力。我らのダンジョンマスターへ恩義に報いるために――!」



 同じくして場所は変わり、深淵の森のダンジョン。踏破を目指していた多くの冒険者達は外へ投げ出されていた。


「気配……。新しいのが出てきた?」


 ワープで投げ出された冒険者達をキキョウは眺めながら、新たな殺気の出所を探る。


「姫さまぁーー! 敵ダンジョンからのワープの罠が発動しました。ご無事でしょうか!?」


 キキョウとアマチャが合流する。


「無事。ダンジョンから吐き出された冒険者と一緒に、余計なものまで吐き出されてきた」



 キキョウが察知した気配の行方ゆくえ。その視線の先をアマチャが見る。そこにいたのは、紫色のローブを着たナニカであった。


「…………ッッ!」

「な、なんだ! こいつは……!?」


 キキョウ達はその姿を見て戦慄する。あえてそのローブの敵を言葉にするならば、それは殺気の塊と表現できるだろう。人間ひとりでは抱えきれないほどの殺意をローブで覆い、ヒトの形に整えればこのような姿になるかもしれない。


「我らのマスターの命に従い、この紫影が汝らに等しく死の祝福を与えようぞ」



◇◇◇



 緑影が呪文を唱える。


「Reality has already disappeared. Thought that was holding in the chest, it was already devastated.(現実はすでに掻き消えた。胸に抱いた想いも廃れた。)


All fragile. Therefore beautiful.(全ては脆い。だからこそ美しい。)


Therefore, I do not mourn.(ゆえに私は悼まない。)


All things, because they has a destiny that go out of fashion equally.(全てのものが、平等にすたれる運命を持っているのだから。)


To invoke the magic circle. Voice of devastation!(魔法陣発動。――荒廃こうはいの声!)」



 緑影から魔力の波動が放たれる。旋風が吹き抜け、俺とギルドマスターは思わず目をつむった。乾いた風が肌に当たり、俺は空間の違和感に気づく。


「まさか!? 複合理念魔法を使われたのか?」

「ほう、知っているとは博学だな。もしや、冒険者をしていたのか?」

「講師が良かっただけだ。まあ、これは予想の積み重ねになるが……」


 勉強だけがとりえだったのだから、魔法の知識もある程度は叩き込まれている。

 そもそもアラウザルというのは究極の『1』つの願いが発露したものである。ならば、例えば熟練者ではあるがギリギリで届かない『0.8』の想いがあったなら、届かぬのなら絶対に無理なのだろうか。もしかしたなら工夫次第では『0.2』程度なら他人から借りることはできるのではないだろうか。


「究極の『1』を求めるのでなくて、ほんの少し。純度が悪くなろうとも他人を利用したいと割り切ったとしたならば……」


 そもそも魔法とは精神の延長であり、心に左右されるものだ。よって、『そうである』と世界中の人間が心で思っている事。すなわち概念よって影響を受けやすいものである。

 そこで、例えば『部屋』である。部屋というものは内に複数人いるならばルールが決められるものである。部屋に入った人達はルールに併合して過ごすことが求められる性質がある。部屋のルールに従う概念をアラウザルの願いに利用したならばどうなるだろうか。


「そして仕掛ける側ならこの部屋自体に細工できるだろうな。例えば暴力的なアラウザルなら血を連想させるものとかが良さそうだ。気付かない間に暗示的に五感に血液を連想させるものを入り込むと、暴力に感化しやすくなるかもしれない。だから、多少なら狙ったものをつい『想って』しまうだろうな」


 ダンジョンだからこそ受け身の戦法が可能なのだ。待っていて仕掛けることは当たり前の戦術である。そしてここは、部屋という概念を魔法で強化したものだったとしたならば――!


「要するに自分だけで足りない部分を『部屋』というものを通じた生きザマで作った箱庭の世界。つまり部屋ごとをアラウザルと化したんだ」


 座学だけだったあの頃はなんとなく覚えていたが、体験してしまった今だからこそ確信がもてた。


「そして、部屋でルールを縛ってアラウザルを使うなら、俺達がその部屋に込められた願いを知ったときに発動する。おまえ、自分のアラウザルを宣言するんだろ?」


 俺がそう言うと、緑影がローブを脱ぎ捨てる。その姿を晒した。

 わずかに青みがかった緑色の人間とは思えない肌。筋骨隆々の体で、身長は3メートルあるだろうか。圧倒的に獰猛どうもうな存在感の巨漢。一つ目の巨人、サイクロプスだった。


「緑影の作り出す力は『荒廃こうはいの声』。この世界にある全ては荒廃する真理より作られた概念そのものだ。武器も防具も、アクセサリも、使ったものは全てがち消えていく。唯一無二のものはただひとつ。頼れるものは己の肉体のみ!」


 豪腕の怪物を相手に、同じく腕力という土俵で戦うことを余儀なくされる。人間はモンスターと同じ土俵で戦うことは、本来は不可能である。魔法が弱点の怪物には魔法使いを。打撃が弱点の怪物なら剣という武器を開発して兵士が戦う。そうやって、敵を研究し、弱点を突くことで戦っていくのが人間の戦闘スタイルだ。それを封じられた挙句に、怪物の得意分野で戦わなければならない最悪な状況に落とされた。


 ギルドマスターが剣の柄を堅く握りしめる。


「絶望的な状況か……!」


 本来ならばそうなのだろう。だが、俺の場合は話が別だ。


「俺が行こう。中ボス風情が。肩慣らしにしてやるぜ!」


 俺の体に内にあるエネルギーが煮えたぎり、目の前の敵を倒せと筋肉が膨れ上がる。


「その心意気、よし。いざ、参るぞ!」

「いくぞ。シャァ、オラァ――ッッ!」



◇◇◇



 黄影の魔力波によるフラッシュで、視野がホワイトアウトする。


「Because I defend you, you Defend me.(わたしがあなたを守るから、あなたはわたしを守って欲しい。)


You kept the promise, but I had forgotten that you swear promise.(あなたは約束を守ったが、わたしは約束を誓うことを忘れていた。)


So I show the beautifully shining soul to you that in heaven.(だから天国のキミに美しい魂をきらめき見せよう。)


Come on, Let's play with soul. (さあ、魂を巡り遊ばせよう。)


To invoke the magic circle. Voice of pleasure.(魔法陣発動――遊廻の声。)



 その詠唱により、マス目のような丸の絵がいくつも描かれた床になった。マス目はそれぞれ線で繋がっており、基点となっているマス目に3つの光が点灯している。


「全力でいく。援護は任せた!」


 戦闘慣れしているビスマスの行動は早かった。いきなりワープさせられたとしても、思考の遅延は許さない。聖騎士は祈るだけが仕事ではない。戦闘特化したその感性は瞬時に攻撃体勢になった。

 ビスマスが一瞬で気をみなぎらせて、突っ込んでいく。


「I will follow the mother of the madness of love, I had to follow the father of Hellbent.(母の狂愛、父の暴勇に追従し、)


I am stupid, I am an early age, so I lost sight of ego.(わたしは愚かで、わたしは幼く、わたしはわれを見失う。)


When the ego is the whole body was stained with blood by the mad love and Hellbent, finally I met with the ego, I have met with God that existed within the ego.(狂愛と暴勇に引き擦られ滴る血に染まるとき、ようやくわたしは我に出会い、わたしは我の中にいた神と出会えた。)


O God, I want to tell this prayer to you.(おお、神よ、この祈りを聞いて欲しい。)


If you are my appearance at that location is visible, please give me the courage to take off.(そこからわたしが見えるなら、どうか飛び立てる勇気をください。)


I will give it to you. Silver wings of ego it lead you to the sky――(ならば授けよう。汝を高みへ導く自我の銀翼を――)


Arousaler ――Angel embracing! (超越覚醒アラウザル ――聖光舞い降りし銀翼抱擁!)」


 銀色の翼を身にまとい、優美にひと羽ばたきするとその体がさらに加速していった。


 黄影が初手で魔法を使ったということは、近接戦闘は得意ではないとビスマスは判断した。特に魔法が完成しきる前に倒せるならばなお良いだろう。こちらが素早く進展するほど有利はこちらにある。

 ビスマスが先手必勝とばかりに飛び込んだ。


「ケッ! もう来たのかい!? トリック・オア・アライヴ!」


 上空から巨大な3つのサイコロが落下してきた。軽自動車ほどの巨大な重量がビスマスめがけて落下する。しかし、ビスマスは翼をはためかせて風圧を呼ぶ。サイコロはビスマスには届かない。


「もらった!」


 ビスマスが剣を逆袈裟ぎゃくけさに切り上げる。身体をズラして避けようとする黄影だが剣先はギリギリで頭に届いてしまう。ガンと鈍い音と共に、ビスマスは確かな手ごたえを感じた。それは敵を切り捨てたとき特有の手ごたえだった。


「惜しかったネェ。アタチの魔法陣の弱点をついてきた。ウンウン、だからこそ惜しいネ。もうアタチを倒すことができなくなったから……!」


 黄影がローブを脱ぎ捨てる。

 勝利を求めてさ迷い歩く亡者を連想させるボロ切れを繋ぎ合わせた服。それは何かを内に隠しているかのような不可思議な印象に感じられた。そして何よりも目立つのは大きなカボチャの頭に、くりぬかれた目と顔。それはジャック・オ・ランタンというモンスターだった。いわゆるハロウィンのカボチャ頭の怪物である。

 頭の左上は先ほどの攻撃によって欠けており、ビスマスの急襲の失敗を物語っていた。


「さァ、遊戯ゲームの始まりだヨ。もうアタチの進行は止まらなくなったサァ!」


 床に描かれている丸い絵が点滅し、中心となっているマス目に乗っていた3つの光が動き出した。


「アタチが5。アンタは2で、後ろの女は3。さァ、ショータイムの始まりなのサァ!」


 黄影がマントをなびかせる。その内から大量なやいばが発射された。


「くぅっっ!」


 咄嗟にビスマスは銀翼で全身を包み込むようにしてガードする。甲高い金属音が激しく打ち鳴らされ、凄烈な火花を散らす。


「そして、アタチと女は打撃攻撃がアップ! さァ、こんなのはどうカナ!?」


 今度はトランプが投擲とうてきされた。旋転するトランプが鋭利に風を切り、コウカに迫る。


「このっ! エイヤッ!」


 コウカは炎の槍を練成し、薙ぎ燃やした。続々と投擲されるトランプも巧みな槍捌きで全て焼き尽くしていく。

 だがコウカは不審に思っていた。あまりにも攻撃がお粗末過ぎる。こっけいな茶番としか言えない攻撃に裏があるのではないかと勘ぐり始めた。


 そのとき、頬にひとすじの激痛が走った。途端に宙がひっくり返るようなめまいがしてくる。ジャック・オ・ランタンの手には、ダーツが握られていた。


「目隠しのトランプに、毒のダーツ。やりますわね」

「ケケッ、すぐにバレるなんて、深淵しんえんの森のダンジョンマスターはいい人材を持ってるようだネェ。爆弾の件といい、なかなか驚きだったヨ」


「ならばもう一度 驚愕してみろ。気づいたときには、あの世だがな!」


 刃の突風から抜け出したビスマスがジャック・オ・ランタンに切りかかる。


「えぇー。ちょっとくらいは待ちなヨ。トリック・オア・アライヴ!」


 いつの間にか先ほどのサイコロは消え、再び空から落下する巨大な3つのサイコロ。またビスマスは襲われるが、再び風圧で跳ね除けた。


「今度こそ、逃がさないぞ!」

「残念だケド逃げられるのサァ。アタチが4。おまえは2で、後ろの女は1。ふふっ、アタチだけ素早さアップだ!」


 ジャック・オ・ランタンの動きが変化した。ビスマスが一閃するが、あざけるように避けていった。まったく攻撃が当たる気配が無い。


「ルールを説明する前にやっちゃったから効果が薄くなっちゃったケド、まあ聞いてチョーダイね。アタチの部屋はすごろくの部屋なのサァ。空からダイスが振られて、マス目に描いてある効果が得られる。そして先にゴールしたほうの勝ち。負けたヒトは闇に飲まれて死んじゃうんだよネ。ただし――」


 変化が見えないカボチャの顔だが、どこか小ばかにしているように笑って見えた。


「ここがこの部屋の醍醐味だいごみサァ! アタチのダイスは4~6が出やすいイカサマのダイス。アンタらのダイスは1~3しか出ないイカサマのダイスなのサ。アンタらはすごろくでは(・・・・・・)絶対に勝てないってワケなのサ」

「平等じゃないわね。ずいぶんと卑怯なことをしてくれるじゃないの」

「おっとっと、待つんだネ。今から言うところが平等な部分なのサァ。じゃなくちゃ、魔法陣として起動できないからネ」


 ジャック・オ・ランタンが説明していく。ダイスを振る許可が得られるタイミングは相手が攻撃してきたらということらしい。つまり、ダイスを振る猶予ゆうよは全てコウカ達に任されてあるということである。


「始まったなら最後まで抜け出せないネ。ゲームを続けるのも、中断して様子を見るのも全部アンタらの責任。首を絞める結果になっても全てが自業自得と言うわけサ」


 コウカ達が攻撃でジャック・オ・ランタンを仕留めればコウカ達の勝利となり、仕留められずにダイスが振られ続ければジャック・オ・ランタンがゴールして、ジャック・オ・ランタンの勝ちとなる。言い詰めれば逃げるジャック・オ・ランタンに、追い続けるコウカ達。『すごろく』という形式の『死の鬼ごっこ』という訳である。お互いに勝機がある平等さがこの魔法の発動条件なのだ。


「つまり! 今、ここにあるのは平等な命の瀬戸際せとぎわのみ! さァ、楽しいデスゲームを始めようじゃないのサ!」

「この道化が。こちらは本気でいかせてもらうぞ!」

「やってられないわね。さっさと終らせるわ!」



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