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種なる正義が咲かせるもの  作者: 記野 真佳(きの まよい)
泰然自若のリリカルキャッツ
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客情:冷凍食品のおかしパーティをすることになった件について

長めです。あとで修正するかもしれません。

 オウレンに新しいアイテムを開発したいと言われ、ガチャを引くことにした。


ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード、シルバーカード、ブロンズカード、ブロンズカード、ブロンズカード。


ノーマル

意外と強そうなもち

おだんごに使われる食材。強そうだから武器として使えるかも。餅武器だ。


ノーマル

カラオケ店の会員証

マイクが爆発している絵が描いてある。なんか怖い。


ノーマル

小型機械のパーツ

小さくても働きものなパーツ。


ノーマル

和菓子の本

おいしそうな絵がたくさん描いてある。


ノーマル

N磁石

N極だけの磁石。S磁石と合体できるぞ。


ノーマル

超小型30ギガバイトのUSBメモリ

小型化に成功したが、小さすぎて失くすというクレームをたくさん受けたらしい。


レア

エッチな店の会員証

えろえろな雰囲気がするピンク色のカード。


ノーマル

エクストリームな香水

こうばしい匂いがする。なんか強くなれそう。


ノーマル

フツーの焼酎

だいたい日本円で¥200くらいのやつ。個人的にはレモン系で割って飲むのが好き。


ノーマル

たまねぎのから

いらなかったからあげるね。



「なんだよ、たまねぎのからって! また生ゴミが入ってるじゃねーかよ!」

「面白そうなのがいっぱいあります。さっそく作ってみることにしますね」

「おまえ、前向きだなあ……」


◇◇◇

オウレンの日記ver5

◇◇◇


①ダンボール肉まん「3個セット」

材料:きれいなダンボール+白チョークの粉

効果:おいしそうな見た目にだまされて食べると、ダンボールだった衝撃に思わず黙ってしまう。相手は沈黙状態になり魔法を唱えることができなくなる。


ホミカ「あっ! まえにマスターさんがくれた肉まんですね! いっただきまーす! はむっ、むぐ……。えっ、なにこれ…………」

オウレン「おや、食べてしまいましたか。前から言っていますが、ここにあるものは勝手に食べたら大変ですよ」

俺「ホミカがショックのあまり、言葉を失っているな。しょんぼりとした顔をしてる」

ホミカ「 (´・ω・`)……? 」

コウカ「前から思っているのですが、どうしてあの素材でこれができるのか不思議ですわ」



②ぬるぬるした愛のムチ

材料:高級なローション+きたないなわ

効果:ムチを打った相手に好かれる。相手は2ターンのあいだ魅了状態になる。


ホミカ「オウレンさんに言われた農家のおじさんにあげましたよ。牛さんをぺしぺし移動させていました。ヌルヌルで使いにくかったらしいのですよ」

俺「それってまえに愚痴ってたクレーマーおじさんのことか? おまえはうらんでいるだろう。いくら町ぐるみの協力でも無理はしなくてもいいんだが」

オウレン「実はですね、次の日に、おじさんは牛さんに後ろから襲われて合体していましたよ。うふふふ……」

コウカ「ひっ、ひどい効果ですわね……」

ホミカ「そんな隠し効果が! 合体すると強そうですね。パワーアップなのです☆」

イチイ「ご主人さまとイチイが合体すると、最強になれるかも。ご主人さま、イチイと合体しよ!」

俺「合体ぃ? 駄目だ。一心同体とか寒気がする」

イチイ「それなら、ミーヌちゃんと合体してみようっと」

コウカ「いけませんっ! お子様には没収ですわ!」



③おいしいマシンガン

材料:意外と強そうなもち+和菓子の本+エッチな店の会員証

効果:白濁色のおもちをドビュドビュッ!と発射して、デロッデロに染めあげます。射程3。敵へ小ダメージと、1ターンの間だけ行動停止状態にする。


俺「ふはははっ! おまえら、俺色オレいろに染まりな!」

ミーヌ「ひゃうっ! うぅ、おにいちゃんの出した白いのが顔にかかっちゃった」

ホミカ「おくちに入ったら、苦かったですよぅ」

オウレン「敵に撃つものですからね。おいしかったら意味がありませんから」

俺「イチイ、テメーもくらいやがれっ!」

イチイ「ひゃんっ! あーうー、ぬるぬるベトベトまみれになっちゃった」

コウカ(ここで卑猥だとツッコミを入れたら、オーナーが血を吐いて倒れるかもしれませんわね。言わないでおきましょうか)



④ブヒれない脳内メーター

材料:小さな花の化石+小型機械のパーツ

効果:脳内の好友度を下げることができる。味方の魅了状態を解除する。

オウレン「脳に特殊な刺激を与えて、好きという気持ちを下げるようです」

ホミカ「コウカさんに使って、マスターさんめがけてポチッとです☆」

コウカ「幼いワンコ族を性奴隷。実の妹を奴隷にして調教。変態ですわ! 最低ですわ! 大っ嫌いですわ!」

俺「嫌い、だと……? すごい誤解だけど、もっと言ってもいいんだぞ! さあ、ののしってくれ!」

ホミカ「コウカさんじゃなくて、マスターさんが壊れました! えーん、えーん!」

オウレン「旦那さまは、女性嫌いですからねえ。しかしこの前向きな発言はサド(S)なのでしょうか。マゾ(M)なのでしょうか?」


◇◇◇


 今日はいつもよりも多めにアイテムを作っている。明日がダンジョンバトルの日であり、気合いが入ってアイテムとにらめっこしているオウレン。その姿を椅子に座ってぼーっと眺める俺。


 オウレンが何か気づいたようにかぶり振った。


「いけない! かわいーものエネルギーが不足してる!」


 おまえ、何を言っているんだ?

 扉の音がする。ちょうどマッスル神の稽古けいこを終えたイチイが帰ってきた。


「あーうー。ご主人さまぁ、今日も疲れた~」

「うふふっ……。げっと!」

「きゃうんっっ!」


 オウレンがイチイに抱きついて、すりすりしはじめた。子供特有のみずみず々しくて張りのある肌を恍惚こうこつした顔で楽しげに頬ずりしている。


「ふぅ。良かった、危うく死んでしまうところでした」

「うぅ、オウレンおねーさん。またなの?」

「これは大事なことなのですよ。人間が生きるには、『衣』『住』『食』『愛』が大事なの。そう、人は愛がなければ死んでしまう生き物なのですよ。はぁ……もう、イチイちゃん、可愛いすぎるー!」

「むぐぎゅぐぅっっ!」


 オウレンはイチイを正面から抱きなおして、思いっきり抱きしめた。イチイがおっぱいで窒息して目をまわしている。愛に圧迫されて殺されかけて、逃げ出そうともがいている。


「ぷはっ! あそこ! オバケがいる! 大変だ! 逃げないと!」

「えっ、おばけ、ですか?」


 オウレンの攻撃で、涙目になったイチイがさっと逃げ出す。


「ふぇ~ん! ご主人さまぁ……!」


 俺のひざの上に飛び乗って正面から抱きつき、俺の腰に足をまわしてがっちりとホールドしてきた。オウレンの脅威おっぱいへの絶対防御体勢である。


 そういえばお祭りのときにだっこをしてからこうやってくっついてくることが多くなってきたな。寝る時には一緒だから今では慣れたもんだ。


「にしても、オバケっておまえなぁ」


 逃げ出すための渾身の嘘がオバケってどうなんだよ。


「そうですよ。わたしは元聖女ですから。悪霊系、いわゆるオバケ退治とかしてそうですよね。だから怖がる理由はありませんよ。たまに見えていますけど、まあ平気です」

「ふぃ~ん! ご主人さまぁ……!」


 マジでオウレンがトドメをさしにきた。かわいそうだから よしよし、と撫でてやる。

 こっちににこやかな顔を向けるオウレン。イチイはその笑顔を見てぞっとし、俺が命綱であるかのようにぎゅぎゅっと締め付けるように腕とまたに力を入れた。


「でも、本当はオバケ退治はしたことはないんですよね。どうしましょうねえ」

「オバケだから怖いから! 逃げないと駄目だから! オウレンさんもどっかいかないと! 逃げないと駄目だよ!」

「そうですか。怖いですから仕方ないですものねえ」


 そう言いながら、俺のうしろにまわって背中から抱きついてくるオウレン。

 豊満な乳房が、俺の背中にぐにゅっと押し付けられる。ブツが大きすぎて、ヤバイ。死の気配がする!?


「今度は俺かよ。はーなーれーろー!」

「えへへ。旦那さま、かわいい反応ですねえ。だって、オバケが怖いですから仕方ないですよ。あー、こわいです。どうしましょう」


 俺はオバケよりもおまえの方が怖いです。具体的には圧殺兵器おっぱいとか。


「本音を言うとちょっと疲れました。MP(魔力)回復です」


 最近になって知ったのだが、俺は触れた眷属けんぞくへMP(魔力)を分け与えることができるらしい。俺の魔力を通して眷族になったのだから、触れるとラインが繋がって補充できるとマッスル神が言っていた。基本的に俺はMP(魔力)を使わないで戦うことができるから、あげる分には不便はない。


 というか、そろそろ押し付けるのやめろ。たぷっと実った大きなおっぱいの動きが徐々に大胆になってきてる。マジで死ぬからよせ。


「むむぅ。おむねをくっつけても反応が寂しくなりましたねえ。困ったものです」

「おまえはすきがあれば 爆弾おっぱいテロを仕掛けてくるから、もう慣れてきた。そう何度も死にかけて……うっぷ」


 やべぇ。意識しはじめたら吐き気がしてきたし、体の芯が冷たく痺れてきた。ちょっと目眩めまいもしてくる。


「イチイちゃんとか最近は旦那さまにくっついてるじゃないですか。だから間接的にイチイちゃんのエネルギーを補給しているんですよ」


 嘘つくなよ。単にイチイが逃げるから俺をいじりに来ただけだろ。


「イチイちゃんがわたしに構ってくれなくなってきたから、ちょっぴり寂しいんですよ。旦那さま、わたしを癒してください。ほ~ら、すりすり~♪」

「よせっ! やめろ!」


 俺が嫌がっているのを分かったのか、にこにこと俺にほおずりしてくるオウレン。くそっ、新しい攻撃方法を発見しやがった。

 呼吸の音が聞こえるくらい近い距離。オウレンのぬくもりが俺にすりこまれていく。


「おにいちゃん。みんなも、なにをしてるの?」


 ミーヌが通りがかった。助けてくれ。


「わたしは補充中ですよ」

「イチイは逃走中だよ」

「俺はいじられ中だ」


 小首をかしげてハテナを頭にうかべるミーヌ。いや、見て分かれよ!


「そういえば、おにいちゃんとイチイちゃんって仲がいいね」

「はぁ? 仲がいいのか?」

「えー。いつもと同じ感じだよ」


 そう言ったイチイがくるりと体勢を変える。俺にしなだれかかるように背中をあずけてきた。俺はイチイの髪をわしゃわしゃと撫でてやる。ヘアスタイルを乱す攻撃を仕掛けてみた。


「うぅ、やめてよぉ!」

「はははっ。おらおら!」


 イチイはねた目つきで俺を見上げるてくるが、その撫でる手をふりほどいたりはしなかった。なんだかんだ言って、俺に身を任せるように撫でられている。


「前にも言ったが、コイツと俺の関係は、農家のおっちゃんと、畑を荒らすイノシシくらいの仲の良さだぞ」


 ドリアのがしチーズを食いやがった恨みは絶対に忘れない。あとはホミカ、テメェもだ。


「うん、そうだね……」


 ミーヌはそう言ったきり黙ると、みるみるうちに顔が赤くなってきた。言いたいことがあるけど言えないと葛藤しているように、もじもじと両手の指先を合わせて上目遣いで俺を見つめてくる。どうしたのだろうか。

 耳元でこそばゆくオウレンがささやいた。


「甘えたいんでしょうね。おにいちゃんに」


 そういえば、甘えるとか約束してたな。どうするかと考えていると、先にイチイが声をかけていた。


「ほらっ、ミーヌちゃんも座ろうよ」

「えっ、でも……」

「なんでもいいから、早く来い。今日はどんな鍛錬をしたんだ。俺に聞かせてくれよ」

「うん。じゃあ、座る」

「ミーヌちゃんも一緒に座ろう。ここ、つめるからちょっと待ってね」


 なんでイチイは勝手に俺のひざの上に許可を出すのだろうか。ほら、そう言ったからミーヌが期待した目をしてる。


 仕方がないと、俺はまたを少し開いた。右ふとももにイチイ、左ふとももにミーヌが座る。小さなふたつのおしりが俺の上に乗っかった。バランスが悪くて落ちそうだから、後ろから2人をまとめて抱き寄せるように腕をまわしてやる。

 よりかかる2人の体温。イチイは嬉しそうに俺に身体をあずける。ミーヌは甘えるのがこそばゆいのか顔をもっと赤らめさせて、恥ずかしげに顔を隠すようにうつむいた。


「それで、ミーヌ。今日はどんなことがあったんだ?」

「えーと。今日も空に飛ばされて、でも、いつもよりは早く終った。ホミカちゃんが見つかったから、鍛えなおすんだって言ってた」


 アイツがサボってるのは知ってたが、ついに見つかったのか。これはしこたま叩き込まれているだろうな。


 窓辺からふわふわした小さな影が入ってくる。俺の頭の上にホミカがぐでーっと乗ってきた。


「ホミカ、ついに見つかったらしいな。マッスル神に一撃でも入れてきたか?」

「そうなのですよ。なんですかあの筋肉さん。カジキミサイルして目を狙ったんですけれども」


 おい、練習試合でその一撃はマジでイカンだろ。


「まぶたをむんって閉じて、まぶたの筋肉で白刃取りをされました」

「やべぇ。人間技とは思えねぇ。人間じゃないけど」

「あーうー。インテリ系のホミカちゃんは体育会系の圧迫型強制感ディファクトスタンダードに汚染されて、精魂が容量過多キャパシティーオーバーなのです。マスターさん、ゴマ団子を出してください。超高速アサップで要求します」

「旦那さま、わたしはスイートポテトが食べたい気分です」

「イチイは、あんまんが食べたい!」

「では。わたくしはブリュレをいただきましょうか」


 いつの間にかコウカも部屋にいた。タオルで汗を拭きながら水を飲んでいる。こいつ、お嬢さまの家柄のせいか、動作がいちいち優雅である。


「コウカ、おまえもあがりか。まあ、オヤツにするとして、ミーヌは何が食べたい?」

「えっと……。おにいちゃんの好きなのでいいよ。一緒に食べたい」


 健気けなげな発言をするミーヌは今日も良い子モードだった。もっと言ってもいいんだがなあ。とりあえず、大判焼き(まろやかカスタード)にしとけばハズレは無いだろう。

 疲れたようにドアが開けられた。キキョウとアマチャが入ってきた。


「おまえら、ここに来るのは珍しいな。どうしたんだ、今日は疲れた顔をして?」

「さすがのわたしでも今日は疲れた。姫さまがいなかったら、本当は一大事だったんだぞ」

「帝国が町に攻めてきた。撃退してきた。はふぅ……」


 ノラネコ娘達がさらっとすごいことを言い放った。


「それは大変だったな。怪我はしていないか、大丈夫か?」

「怪我はなし。帝国も本腰をあげてきたかも」

「前にわたしと戦った副隊長が指揮していた部隊だ。オルフィアがいなかったのが幸いだったな」

「ダンジョンバトルと一緒に来られたら面倒。ダンジョンバトルは明日のうちに片付けないと」

「ここのところ帝国と縁があるな。どうして帝国が来たのか分かるか?」


 キキョウとアマチャが沈痛な面持ちになった。


「撃破のシンボル。帝国の維持に必要だから」

「姫さまという身分のせいだな。姫さまはヤクショウ国の名を背負っている。国は滅んだが、分かりやすい撃破の象徴も欲しいのだろう」


 アマチャが悪態をついた。キキョウは思案げに何か考えている。


「潮時。そろそろ次の町かも……」

「姫さま……」


 ただ生まれた場所に因果があっただけ。キキョウのせいでもなく、アマチャのせいでもなく、一方的に帝国に追われる日々。2人のため息が運命を物語っているようで、酷く重たく感じた。


「暗い話はおしまいだ。そんな顔しないでこれからオヤツだから何か食おうぜ。なんでも作るぞ。なにか注文はあるか?」


 ピコン!と耳が立つキキョウとアマチャ。


「パンケーキ……!!」

「ほほぅ、それはわたしへの挑戦なのか。ならば、ひとつ珍しいものを食べてみたいぞ。もちろん、甘くておいしいものだ!」

「では、わたしはお茶を持ってきますね。コウカさんはコップをお願いします」

「そうさせていただきますわ。ふふっ、なんだかお菓子パーティみたいになりましたわね」


 オウレンがお茶のボトルを持ってくる。ウチのダンジョンは探してみたら冷蔵庫が完備されていたので、お茶をボトルで冷やしておいてあるのだ。


 俺は聞いた注文を思い出して何から作ろうか考えていく。とりあえず、いつも作っているやつからにしよう。


「よし、それじゃあ最初はイチイだ。あんまんだ。ほらよっ」

「やった! いちばんだ!」


 ふかふかした真っ白な生地を中央から割るイチイ。餡子あんこから立つ湯気が甘い香りをくゆらせた。あずき特有の素朴な味わいが癖になる一品である。


「あまーい!! ご主人様のお菓子、おいしー!!」

「次はホミカ。ゴマ団子だ。ほっ!」

「素晴らしいゴマ団子(ベネフィット)です♪ 報酬イベント(マイルストーン)は心のオアシスなのです」


 ゴマ団子にかぶりつくホミカ。こうばしく香るゴマが食欲を刺激し、もちもちした団子の食感と、中の甘いあんのタッグは味の相乗効果がある。


「この1個のためだけにインテリ系妖精のホミカちゃんは今日も生きているのですよ。マスターさんのおかげで、至福の時間がすごせるのです!」


 テンションマックスでアツアツとかぶりつくイチイとホミカ。2人は食べるという行為を純粋に楽しんでいる。


「次はミーヌだな。大判焼き(まろやかカスタード)だ。そらっ!」

「ありがとう」


 大判焼きのクリームをミーヌに渡す。あとは俺の分も出しておく。

 甘すぎずにふっくらとした食感の生地に、舌の上で甘くとろけるカスタードクリーム。しっかりとした卵の味わいと濃厚なクリームの甘さと、甘くない生地の組み合わせが噛みあい、絶妙なおいしさである。


「おいしい。クリームはやわらかい甘さがあるから好きだよ。おにいちゃん、ありがとう……!」

「よっし。次はブリュレを出すぞ。コウカ、そらよっ!」

「いただきますわ」


 ブリュレとは、簡単に言えば食感の違うプリンのことである。

 とろけるような食感を追求しきったプリンの最終形態。つるりんと口の中で溶けていく卵の甘さがやみつきになるスイーツだ。


「このとろける甘さが素晴らしいですわね。さすが、オーナーですわ」

「オウレンはスイートポテトだったな。そいやさっ!」


 イモのおだやかな甘さとほくほくした食感が特徴のスイートポテト。しつこ過ぎない甘さと共にほろほろと崩れて行く滑らかな口当たりが、イモの香ばしいかおりと一緒にとろけていく。


「おいしいですね。旦那さまのオヤツは珍しいものが多いので、いつも楽しみです」


 ミーヌ、コウカ、オウレンはまわりと談笑しながらお菓子をつまんでいく。みんなで食べると、『おいしい』プラス『楽しい』になる。そういった嬉しい感覚を楽しんでいるようだ。


「おまえ、なんだかすごいな! すっごくおいしそうだぞ! さあ、はやくわたし達に出してみるんだ!」

「……! (わくわく、そわそわ)」

「ああ、待ってろ。珍しいものに、パンケーキだったよな」


 たしかスマホに出せる冷凍食品の一覧があったはずなので調べてみる。俺のステータスから極意をタップして、詳細説明をタップする。


「ちょっと待て。パンケーキはメープルシロップしかないな。それでいいか?」

「ん。パンケーキなら挑戦してみる」

「じゃあ、先にキキョウだな。そいやっ!」

「……わふー!」


 ふっくらした狐色に焼きあがっているパンケーキ。メープルシロップの甘い香りと、バターのほんのりした風味がダブルで鼻をくすぐってくる。


「……めーぷるしろっぷ! なんという輝きを持つものだ、これは……!」


 とろりとかかっている琥珀こはく色のシロップ。なつかしさを感じさせる素朴な甘い香り。はちみつのような濃厚な甘さも良いが、メープルシロップには繊細な甘さでありながら強い甘さも持ち合わせている絶妙な加減の味わいがある。

 キキョウがおそるおそるパンケーキを口に運ぶ。


「……新、食感っ!!」

「ん? そういえば、包装に『モッチリふわふわ』とか書いてあったな」


 こちらの世界には無い不思議な食感だったのだろう。キキョウはその衝撃に一時停止したように固まっていた。かぶりつけばふわふわとした口当たりでありながら、モチモチしたおいしい食感。キキョウが再び動き出すのはそう時間はかからず、次の一口を求めて動かす手が止まらなくなっていった。


「……素朴な甘さでも、主張のある甘さ。パンケーキの甘さと触感を生かすには、クリームのようなこってりじゃなくて、厳選されたおいしさが鍵……! 両立している味が、存在しうるなど……!」


 なんかキキョウにしてはめっちゃしゃべりながら、フォークの先が感動に震えていた。


「…………おいしいっ!! 素晴らしい!」


 口をもきゅもきゅと動かしてほうばりながら、キラキラした尊敬のまなざしで俺を見るキキョウ。今さらだが、こいつに誉められたのは珍しいかもしれない。


「これほどまでとなると、家に飾るのもやぶさかではないだろう……!」


 その誉め方は俺には理解できない件について。


「姫さまをうならせるほどなのか。これは楽しみだ。最後のトリなのだ期待させてもらっていいのだろう?」

「まあ、任せておけ。アマチャは変わったやつか。そうだな、チョコレートナッツピザとかあるぞ」

「ちょこれーと、は聞いたことが無いな。ぜひ所望させてもらおう」

「じゃあ、いくぞ。それっ!」

「おお! なんだこれは!」


 生地の上にたっぷりのチョコレートが敷かれて、香るナッツが撒かれている。

 冷たいイメージがあるチョコレートだが、温かいチョコレートのとろける食感も一度食べてみればなかなか捨てがたいものである。


「なんとも珍妙な。しかし、香りだけでもおいしいと分かるぞ。甘くて良い匂いだ!」


 チョコレートは他のスイーツに比べて香りが強い食べ物である。その香りで気付いたのか、皆も食べる手を止めて、チョコレートという珍しい存在に目を惹かれた。


「よし、食べるぞ……!」


 口に含んだ瞬間、アマチャは目を丸くした。口の中でとろけるチョコレートの甘い味。そして、カカオの香りの奥にあるほのかな苦味がすっと溶けていく。甘味に隠れたオトナの苦味。その調和こそまさに、チョコレートの殺人的なおいしさの真髄しんずいである。


「うぅ、あぁ……!」


 はじめて食べたチョコレートの味に、言葉を失くしているアマチャ。

 あとひく味わいと共に、口の中ではじけるナッツの香りの余韻よいんが脳髄へ甘い快楽を刺激する。そのおいしさのあまりに、全身が痺れているように、アマチャは動くことができない。


「……すごい! これはなんだ……! おまえ、すごいな! こんなもの食べたことがないぞ! おいしすぎるぞ……!」

「……アマチャ」

「はいっ! 姫さま!」

「少しちょうだい」

「いいですよ。一切れ差し上げます」

「ありがとう。パンケーキ、ひとくちあげる。はい」

「ありがとうございます、いただきます。むぐんぐ……おおぉぉっ! これもウマイ! なんという美味びみなものだ……!」

「はむむぐ……。ちょこれーと、おいしい。すごい……!」


 キキョウとアマチャは、ひとくちずつ分け合って新しいおいしさに出会ったワクワク感を楽しんでいる。


 テーブルの下からそろりと小さな影が出てきた。ささっと飛び出したホミカが、アマチャのチョコレートナッツピザを一切れ奪っていった。


「あっ! ホミカちゃんズルい!」


 最初に気付いたのはイチイだった。

 バカヤロウ、なんていう暴挙に出たんだ。それをやったら、戦争じゃないか……!


「このダンジョンにあるものは、全て情報共有シェアする必要があると思うのです。何が最もおいしいのか、不明慮コモディティなのはそれぞれのお菓子の存在意義アイデンティティに関わることだと思うのですよ。ゆえにこれは、正当な判断です☆」

「ホミカちゃん、ダメだよ。そういうのはおにいちゃんも困るから」

「はっはっは! まあ、良いぞ。その代わりソッチのゴマ粒のお団子をもらうからな」

被害者の同意(コンセンサス) が得られたなら問題ないですよ。はい、どうぞです♪」


 戦争なんだが、お菓子を食べているとドーパミンだったか、セロトニンだったか忘れたけど何か不思議な力が働いてゆるくて幸せな戦争になっていた。


 アマチャのチョコレートナッツピザが珍しがられて、全員と1枚ずつ交換していくことになった。結果としてコイツがいろんな味を楽しめて一番トクをしたのかもしれない。チョコレートはこの世界では珍しいのか、みんなには随分と好評をもらった。


「ふぅ、お茶がおいしいですね。旦那さま、おぎしましょうか?」

「ああ、頼む。それにしても、今日はペースが早いな」

「当然ですわ。みんなこの場にいることを楽しんでいますから、きっとそれが原因ですわね」


 わいわいと楽しんでいる風景。近頃は帝国やら、ダンジョンバトルやらで緊張していたことが多かった。しかし、お菓子を囲っている今は、それを忘れて夢中になって楽しんでいる。純粋な光景だった。


 なら、俺のできることはケンカにならないように追加のお菓子を用意することだろう。さっきスマホで見つけたアップルパイを出してみることにする。スティックになっているアップルパイを全員分を出した。


「ほらっ、新しいの出してやったぞ。ひとり一本ずつな」

「姫さま、新しいものが出てきました!」

「良い香りがする……!」

「これ、中に入っているのはアプルの実だ! おいしー!」

「おにいちゃん、これサクサクしていておいしい!」

「はじめて食べる食感です。旦那さまは、物知りなのですね」

「なんと……! これは甘く煮付けてあるのですね♪ あたたかいアプルもおいしいです! はじめて食べました!」

「あら? 中にクリームも入っているのね。甘いクリームとアプルの歯ごたえがたまらないですわ」


 みんながおいしいといってくれるので、調子にノッてもっと出すことにする。スマホで出せるものを探していると『濃厚NYチーズケーキ』なるものがあった。

 えっ、あったかいチーズケーキなの!? 食べた記憶が無いぞ!? モ、モンブランもあるだと……!? 馬鹿な、こいつはどういうことだ……!?


 興味本位で両方を出してみることにする。ケーキの箱が2つ出てきた。

 箱には『業務用』と書かれており、どこかで見たような名店らしきロゴ。そのロゴの横にファミレスの名前のハンコが押されていた。


 なるほど。ファミレスの名店フェアみたいなやつのケーキか。あれって名店から注文したやつを冷凍してたんだな。知らずに冷凍食品を食べていたようだ。たしかに、よく考えてみれば店の裏で有名パティシエが作っているようなイメージは無いしな。裏社会の秘密を知ってしまったな。まったくファミレスは恐ろしいところだぜ。


 箱を見ると、冷蔵庫でゆっくりと解凍してくださいと書いてあった。冷凍食品の極意は食べられる状態で出てくるから、ちゃんと冷えて食べごろな状態で出てきたようだ。


「ケーキは甘い菓子のはなだよな。さて、何個入っているか?」


 箱を開けると業務用なせいか、見栄えなど気にせずにギッシリとつめられているケーキ達が入っていた。二段の箱になっていて、ひと箱につき10個以上は入っていそうである。


 オウレンとコウカが気を利かせて、皿とフォークを持ってきてくれた。俺はケーキをとりわけていく。


「こっちがチーズケーキで、こっちがモンブランだな。おっ、久しぶりに食うとウマいな」

「チーズの匂いがする。すっごくすごい! おいしー!」

「はわわっ、今日は大盤振る舞いですね。最高に幸せな日(ベストプラクティス)なのです♪」

「うん。おいしいし、楽しくて、いい日だねっ!」

「わたしはモンブランが好きですね。ほっくりしているマゥロンの味が好きです」

「こちらのチーズケーキも良いですわよ。口の中でほろりとなる甘さが上品ですわ」

「……おいしい。パンケーキもあって、他のお菓子もたくさんあって、嬉しい」

「ダンジョンマスター! おまえって、本当はすごいヤツだったんだな! 見直したぞ!」


 スイーツの王道。それも、俺の世界のケーキである。

 そのおいしさに興奮を隠せずにもっとお菓子パーティは盛り上がっていった。



 全員が食べ終わり、おいしかった余韻よいんにひたってまったりしていると、窓をコンコンと叩く音が飛び込んだ。

 窓をあけるとポンコツ丸がそこにいた。装備品が完成したから来るように言われた。


 俺達はポンコツ丸の鍛冶場へ向かった。


「おっしゃ、全員おるな。今日はお披露目会じゃァ!」


 ノリノリのポンコツ丸が、イチイに手の甲に刃がついた指貫しかんグローブを渡した。


NEW!

武器:パニャニャンダーグローブ lv1

打撃攻撃+29。クリティカル率+5%。


「おお、強そう! かっこいい!」

「そうじゃろう。そんで、銃のお嬢ちゃんにはコレじゃ」


NEW!

武器:ボゥペンニャンマスケット lv1

打撃攻撃+36。


「すごい。改良されて、軽くなっている……!」

「ミスリルを使った自慢の一品じゃ。そんで、魔法戦士のお嬢さんはこっちの魔術刻印の腕輪じゃな」


NEW!

武器:チャイディ バンド lv1

打撃攻撃+24。魔法攻撃+12。


「なかなか品があるデザインですわね。気に入りましたわ」

「そう言われると嬉しいのう。元聖女のお嬢さんにはこれじゃ」


NEW!

武器:コプチャイ・ライライ lv1

打撃攻撃+17。魔法攻撃+17。毒攻撃 lv1。


「うーん。鉄の扇子センスは重たそうで……あら? 意外と持てますね」

「ミスリル製は軽いからのぅ。そんで仕込みが入っちょって、毒を飛ばせるんじゃ」


 ポンコツ丸がまん中の鉄板の羽をスライドさせる。カチャリと仕込まれていたバネが作動して、鉄板がカッターのように飛んでいった。


「真ん中の鉄板の羽は毒が入っちょる。綺麗な花にはトゲがあると言うしのぅ! あっはっはっは!」


 えげつないのを作りやがった。コレだけギミックが本格的じゃないかよ。


「そんで、にゃんこ族のお嬢ちゃん達にはこれじゃ。こっちはあまくりかえったミスリルを糸状にして、ちぃとずつ編みこんだんじゃ」

「ひぇっっ! みっ、ミスリルだと!?」

「おー。ミスリル」


 瞠目どうもくするアマチャに、マイペースに驚くキキョウ。

 ポンコツ丸の機械の手では破れるかもしれないらしいので、俺が2人に渡すことになった。手に取ってみるとさらさらした感触がした。わずかに光沢が感じられて非常に上品なつくりになっている。


「ほう、これはなかなかじゃないか。たしか、キキョウは白色のスカーフだったな」


NEW!

アクセサリ:ガオノーンのスカーフ

睡眠無効。打撃防御+10。体力(HP)+30。


「おおー。着物に合う色。嬉しい」

「アマチャは紫色のスカーフだが、おまえ、本当に紫でいいのか?」

「いいぞ、もちろんだ! ふふっ、忍びらしくていい色だ」


NEW!

アクセサリ:ソークディのスカーフ

打撃防御+15。幸運+20。


 みんなが装備品を見せ合っている。新しく身に付けるものだから、新しい服を買ったみたいで新鮮な気持ちなのかもしれない。これでこちらの準備は整った。




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