私情:ネコ娘が思っていたよりもやり手だった件について
「引けい! もうよいぞ」
隊長らしき女性の声に、さっと兵士達が引いていく。しかし、まだ戦闘しているという戦場特有の威圧感は収まらない。それどころか、さきほど指示を出した隊長から発せられる威圧感が、それを上回っている。
「皆の者、大儀である。無闇に命を散らす必要は無い。この隊長オルフィアが出よう!」
そのまま数で押せば陥落したかもしれないにも関わらず、隊長が1人でやって来た。そこまで自信があるということだろうか。
「さあ、どこからでもかかって来るがよい。わたしが相手をさせてもらおう」
優美にゆっくりと剣を抜き、挑発的な言葉をかけてくる。
イチイが一番に飛びこんだ。ミーヌが乱射して援護する。
「コイツを倒せば終わるんだ。行っちゃうよッ!」
「チャンス。逃がさないから……!」
何度も攻撃して、その素早さが最高潮になっているイチイ。イチイは風になり、猛スピードで切りかかる。
「やぁ――っ!」
イチイの加速した威力が乗った急襲を――
「セイヤッッ!」
オルフィアは一撃で弾き飛ばした。
「ふぁっっ! なんで!?」
「わたしに任せて! 当たれ!」
ミーヌが乱射した魔弾がオルフィアへ一斉になだれ込む。2人のチームワークは完璧で、一瞬の隙も作らずに勝利を狙い続ける。
「……見えた。そこだ!」
オルフィアは弾幕の雨の中へ突っ込んだ。剣をふるいながら魔弾をかき消していく。
「まずは1人目だ。戦場に立っているのだ、覚悟はよいな?」
オルフィアがイチイへ追撃をしようと猛進する。
「いけないですわ!」
「させないですよ!」
コウカが風の矢を形成し、乱射する。ホミカもカジキを乱れ撃つ。しかし、オルフィアの猛進は、止まりはしない。
「俺に任せろ! おおォォ――ッッ!」
「フフッ。来たか、ダンジョンマスター!」
無我夢中で殴りつけて拳圧を飛ばす。剣が華麗にいなして乱舞する。オルフィアの動きが変化し、ギアが上がったのが分かった。イチイと戦っていたときは本気ではなかったようだ。
「っしゃ、らあァッ!」
「うおおォォ――!」
戦場には拳圧のクレーターが叩き込まれ、切り返した剣線により深く地がえぐられる。単純な速度では俺の方が上手だったが、オルフィアは対人戦での読みが神がかっていた。
「当たれやァッッ!」
「させん! フン!」
剣でいなされながら、返しの一閃を右肩に食らわされた。血飛沫が舞い、剛拳と鋭剣がぶつかり合い火花を散らす。
こちらの攻撃は全て不発に終わっているが、裏を返せば当たっては危険とオルフィアは察知しているのだろう。マッスル神から直伝の加護により、チートと化した打撃の破壊力はまさに生きている大砲そのものだ。
オルフィアは紙一重で避け続ける。たしかに必殺の一撃ではあるが当たらなければ意味がないのだと、オルフィアは優雅に切り返していく。
「フッ、まだだァッ!」
「ぐぬぅぅぅ! いくぜ! ドォォ――、りゃああァァ――ッッ!! 」
俺の肉を剣閃が切り裂くが、それでも前へ強引に押し進んでいく。わき腹がえぐられるように切られた。左腕から肘までにかけての痛ましいほどの量の傷がうずいている。だが諦めない。体力と打撃防御だけは高いのだから、ここで根性を燃やさなければ意味がないと突き進む。
「こいつめ! まだ来るのか!?」
「こんな程度じゃ、俺の正義は止まらないぜ! ヅァァらぁッッ!」
裂傷は増え続けていくが、一発でも当たったなら勝負は引っくり返る。それほどの力がこの拳には宿っているのだ。自慢の拳を心の底から信じ、愚直なまでに突き進む。
「もらった! 覇道豪腕拳!」
スキルによって筋肉が莫大なエネルギーを受けてドクドクと活性化し、太くたくましく膨れ上がる。煮えたぎる拳の一撃を握り締める。
オルフィアは見慣れぬ技に焦り、防御を構えた。ならば防御ごとこのまま打ち抜け。この一撃で勝負を決める!
「ヒャッハァー! もらったのはこっちだぜ!」
「ぐはぁぁ――っっ!」
アゼルの騎馬が走ってきて体当たりを仕掛けてきた。覇道豪腕拳は無防備にダメージを受けてしまう両刃の剣の技である。
軍馬は時速70キロで体重500キロと言われている。その弩級の衝撃が俺に激突し、横殴りに飛ばされたのだ。
「あの世に行きな! 喰らいやがれ!」
吹き飛んでいる最中の俺の体に銃口を向けられる。このままでは防御もままならない。鳴り響く銃声。
「……まだ諦めちゃダメ」
抑揚の無い言葉と共に、弾丸はカンと軽い音に両断された。
「この人は大事な人。まだ話し合いの途中」
「おまえ……キキョウ?」
「そうだ。助けに来てやった。気が向いたから」
黒のネコミミがピンとはねる。キキョウが参上した。それも、パンダの着る毛布を羽織った状態でだ。
「テメェ、何者だ!」
「無礼者めが! お前に姫さまの名乗る名などない!」
瞬間移動したかのような動きでアマチャも参戦する。こっちは毛布を着ていない。いつの間にか軍馬に近づいていたアマチャが、ひゅんと腕を振る。うっすらとキラリと光る鉄糸の螺旋がアゼルの腕に絡みつき、流れるような勢いで投げ落とされた。
「ぐあっ、しまった?」
「はっはっは! 馬から落ちた騎兵など、とるにたらんわ!」
「このっ、クソッ! 喰らえ!」
「おお? やるのか? いいぞ、こっちは体を動かしたいと思っていたところだったからな!」
パッと取り出した大苦無を逆手に持ち、ニコリと笑いかけるアマチャ。
それを挑発的な笑みと見たのか、アゼルがサーベルを抜いて切りかかった。
◇◇◇
漆黒の騎兵隊長、オルフィアとキキョウが対峙している。
「……弾丸を切断するなど、聞いたことがないぞ」
「初めてだができた。思ったよりもラクだった」
涼しい顔をして、なんてことなしに言い切ってしまうキキョウに、オルフィアは苦笑する。
「どうやら貴様は『幸運の黒猫』殿と見受けられる」
「二つ名に興味なし。ここにあるのは、強いか、弱いか。ただそれだけのこと。『黄昏の黒騎士』殿」
「その名を知っていたのですね。恐縮であります」
黄昏の黒騎士だと!? 知ってはいたが、まさかそんな有名人が目の前に現れるなどとは思っても見なかった。本名しか名乗らなかったから気づけなかった。
知っているモノならステータスが見えるはず。俺はじっと黄昏の黒騎士を見た。
オルフィア・ジラウ・アマーリン(黄昏の黒騎士)
lv27
体力(HP)412
魔力(MP)254
打撃攻撃131
打撃防御102
魔法攻撃52
魔法防御84
素早さ64
幸運45
固有スキル
※所持していません
スキル
逆境の奮闘
あなたのレベルが相手よりも低ければ、全てのステータスが1.5倍になる。
向上意識
あなたの打撃攻撃が相手よりも低ければ、全てのステータスが1.5倍になる。
強者の打撃
こちらの打撃攻撃力が、相手の魔法攻撃よりも大きければ、相手の魔法攻撃を打撃攻撃で無効化できる。
威圧の眼力
隣接したエリアの敵キャラクターは、打撃攻撃が少し下がる。
統率者の勘
あなたの指揮下にいるバトルメンバーの全ステータスが少しだけ上昇する。
騎士の勘
乗っている軍馬の最大移動距離が+2される。
はぁ? 体力(HP)がヤバすぎる。高レベルだから全体的にステータスが高いうえに、スキルが強すぎる。自分のレベルが高ければもちろん相手に勝てるし、『逆境の奮闘』、『向上意識』のスキルで相手よりもレベルなどで劣っていてもステータスに補正がぐんと足されてしまう。なんだコイツ、勝てる気がしない。
つーか、俺はコイツと殴り合って接戦だったなんて逆に自分の才能に驚いた。今更だがマッスル神の打撃系の補正と、ゴキブリの素早さ補正がパネェな。
対するキキョウ姫のステータスを見る。
キキョウ姫 (幸運の黒猫)
lv28
体力(HP)199
魔力(MP)178
打撃攻撃163
打撃防御85
魔法攻撃132
魔法防御76
素早さ148
幸運92☆
固有スキル
※所持していません
スキル
先読みの心得
近接からの打撃攻撃に対して回避率が上昇する。
居合いの魂刃
魔力(MP)を全て消費し、あなたの体力が半分になる。打撃攻撃と、消費した魔力(MP)と、消費した体力(HP)を足した値の威力の刀撃をする。
真空の裂刃
魔力(MP)を15消費し、1ターンのみ通常攻撃の射程を+1増やす。
マイペース
状態異常によるステータスの増加、減少、行動停止を受けつけない。
陽后の加護
太陽が出ている限り、幸運の値に補正が付く。
アラウザル
???
こっちもヤベェ。何がすごいって『陽后の加護』がマジでうらやましい。幸運補正が無い俺が涙目になる。あと、アラウザルを持っているのが驚いた。久しぶりに見たなこの単語。
キキョウの方がレベルが1高く、打撃攻撃も高い。なので敵であるオルフィアにステータス補正がかかるが、アラウザルがあるならもしかしたらやれるかもしれない。
「黄昏の黒騎士、オルフィア・ジラウ・アマーリン! いざ、全力を以って勝負いたそう!」
「心の底から手を抜いて勝ってあげる。どうぞ。ご自由にかかってきて」
◇◇◇
華麗に舞う忍者の残像を追うように、曲剣が風を切り裂いていく。一振り、二振り、三振り。何度攻撃しても、サーベルはアマチャに届かない。
サーベルが振られるたびに、ぴょこぴょこと陽気に白いネコミミがはねる。
「シャっ、オラァァ!」
「ふはははっ! それっ、どうした?」
アマチャは余裕の笑みを漏らしながらアゼルを翻弄する。それもそのはずでステータスはアマチャの方が優勢であった。
アマチャ
lv19
体力(HP)131
魔力(MP)122
打撃攻撃88
打撃防御49
魔法攻撃85
魔法防御51
素早さ92
幸運13
固有スキル
※所持していません
スキル
俊敏の足
最大移動距離が+1される。
忍法・猛炎の術
魔力(MP)を20消費し、炎玉を1個消費する。あなたのレベルの値の威力を持つ炎魔法を行う。(射程距離:3)
忍法・風迅の術
魔力(MP)を20消費し、風玉を1個消費する。あなたのレベルの値の威力を持つ風魔法を行う。(射程距離:3)
忍法・雷鳴の術
魔力(MP)を20消費し、雷玉を1個消費する。あなたのレベルの値の威力を持つ雷魔法を行う。(射程距離:3)
忍法・影隠の術
魔力(MP)を20消費し、闇玉を1個消費する。3ターンのみ回避率が上昇する。術の効果中に移動をすると効果はなくなる。
投擲
投げた物のダメージが通常時よりも1.2倍に上昇する。
見切りの心得
離れた場所からの打撃攻撃 (弓など)に対して回避率が上昇する。
慢心と根性
あなたの素早さが相手よりも高ければあなたは慢心となり全てのステータスが0.9倍に減少するが、あなたの素早さが相手よりも低ければあなたは根性で全てのステータスが1.5倍に上昇する。
その結果『慢心と根性』のスキルが発動しており、アマチャは少しばかり有頂天になっていた。
具体的には、足元の小石ですっ転ぶドジをするほどである。
「はははっ、あれ……? きゃうんっ!」
「もらったァ!」
振りかぶられるサーベル。死を連想させる冷たい刃がアマチャの脳天を両断しようと迫る。
「にゃにっ!? にっ、忍法・影隠の術!」
アマチャの影が地面からめくれあがり、大きくなった影がアマチャを周囲の空間ごと包みこむ。
「クソッ! どこへ行きやがった!」
「ひゃんっ! うわぁぁっっ! ああああっ、頭の上、通ったぁぁ! 危なかったよぉ……」
「チッ! 当たらねぇぞ!」
影はアゼルのサーベルの一振りでばらばらに砕けるように消えていった。現れる2人の姿。アマチャは指を素早く組み変えて印を組んでいた。
「これを受けて立っていられるか? 忍法・雷鳴の術!」
突如に現れた雷雲がバチバチと鳴いた。その雲に稲妻のエネルギーが飽和していく。
「当たれ!」
「ぐァッッ!」
轟音を引き連れて落雷が降ってきた。落雷がアゼルに命中する。ダメージを受けて怯んだ隙をアマチャは逃さずに、大きく距離を取ってから手裏剣を投擲する。
アゼルは落雷でしびれる体でふらつきながらも、ギリギリで手裏剣を避けていった。
「ヤバイ。なんだコイツの技は? どうなっていやがるんだ!?」
「はっはっは! 摩訶不思議だろう? 忍術の恐ろしさを、とくと味わうがよい」
「チッ。忍者の秘伝だったのか!」
アマチャが用いているのは忍者の秘伝の魔法体系である忍法である。特殊なアイテムを併用することにより、魔法の心得えがなくとも強力な魔法攻撃を行うことが出来るとこの世界では言い伝えられている。
しまったと悔しそうに歯噛みをするアマチャ。しかし、アマチャは不敵に笑い返した。
「べっ、別に忍者だとバレても問題ないもんねっ! ふふーん、なかなか見事な洞察力だな。しかし! ヤクショウ国の歴史を裏から支えてきた忍法の力、タネが分かったところで簡単には破れまい!」
「本当のことでも、こいつに負けていることが釈然としねぇ! コンニャロウ!」
「はっはっは! ほらっ、わたしの足には追いつけまい! このまま遠距離から手裏剣とか、忍法とかを使って、おまえの体力(HP)をけずり倒してやるぞ! ふははははっ!」
「ぐぬおおぉぉッッ! 分かってても腹が立つな、コイツは!!」




