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種なる正義が咲かせるもの  作者: 記野 真佳(きの まよい)
泰然自若のリリカルキャッツ
20/53

無情:ついに本格的にダンジョンを滅ぼそうとされた件について

「姫さま! 助けに来てくださったのですか!? いけません、ここはアマチャにお任せください!」

「任せられない。無理」

「くぅぅっ! なんたる愛の深いお言葉です! わたくしめのことはどうなっても構いません! ですから姫さま、お逃げください!」


 ぐじゅぐじゅと泣いているアマチャに、面倒くさそうにため息を吐いた姫さまと呼ばれている黒髪のネコミミ少女。


「わたしの名前、キキョウ。これ、わたしの部下。上司の責任だから、悪いことがあったらわたしの責任。何があったのか、言ってほしい」


 涼やかに言い放つキキョウと言う名の少女。


「おいおい、キキョウってマジかよ……」

「旦那さま、ご存知なのですか?」


 なんか後ろでわーわー言っているアホの子を置いといて、キキョウという名はヤクショウ国の姫の名前だ。文化史の勉強をしたとき、和風な感じだなと親近感を持った国なので覚えていた。


「少し問わせていただきますわ」


 コウカが次々にキキョウに問いていく。


「まず、年齢は?」

「14歳。そこにいるのも同じ」

「戦闘スタイルは?」

「刀で切る」

「好きな食べ物は?」

「パンケーキ。はちみつをのせるのが好き」

「最後の質問も、よどみなく答えましたわね。偽者でしたら、多少の詰まりを感じるはずですがそれもない。なるほど……」


 総合的にコウカが考える。


「先々週、帝国によって城が落ちたとギルドで聞きましたわ。ここにいるのも不自然ではない。となると、本物かもしれませんわ」

「証人が必要? 生き残りがいると思う。探せば私が本物だと証明できる」

「おにいちゃん。この人たち、たぶんダンジョンバトルに関係無さそうだよ」


 どうやらそのようだ。とりあえず、アホの子を開放することにした。さて、この子達は帝国に潰されたから帰るところが無い。となると……


「おねえさんたち、行く場所が無かったらここに住む?」


 ほら、イチイが言い出した。


「姫様は自由を愛しています。あなたたちの部下になど、なりません! むしろそちらが頭を下げるべきなのです!」

「誰にも縛られず、気ままに……。自由という環境に飽きたら、考える」


 つんと済ました黒猫娘がものすごくマイペースなのが分かった。


「旦那さま、話題が戻りますが結局いかがいたしますか?」

「町の保護申請に、ダンジョンバトルか。どうするか……」

「ん? なんのはなし? 町がどうしたの? 町で遊ぶから、変なことをしたら困る」


 黒猫娘に簡単に経緯を話していく。すると、意外な解決策が出た。


「簡単。ダンジョンを領土と考えるなら、相手のダンジョンを奪って村人を住み着かせればいい。新しい領土がもらえると町人を励ませば頑張って働くはず」

「なるほど。報酬として町人が帝国から逃げる場所も確保できる。それなら2つの問題も同時に解決しますね」

「姫さまだから土地を治めていたのだぞ。これくらいの政策、朝飯まえなのだ」

「提案したの私。一枚噛ませてもらう」


 黒猫娘たちは旅をしているらしい。新しい場所に行きたかったらしく、入手したダンジョン同士をつなげて自由にワープできる権利を貰うことを条件に協力をすることになった。敵のダンジョンは15戦15勝と言っていたから、最低でも15個は各地に土地ダンジョンがあるということだ。成功すれば2人の旅は格段に楽になるだろう。


「はっはっはっ! 陽国の皇女に守られるとは、もはやこの戦いは勝ったも同然だ! 姫さまはすごいんだぞ!」

「国が滅んでるのに、あやしいジンクスですわね。呑気な人たちだこと」

「それで、その服。あなたたちの格好、シンボル?」

「いつの間にかですけれども、そういうモノですわね。良かったら着てみますか? ウチのオーナーが大喜びで作りますよ」

「フン! われわれは、そんなけったいな格好で――」

「ちょうだい。着たい」

「流行を先取りした素晴らしい慧眼けいがん! さすが姫様です!」


 すごい変わり身の早さである。さすが忍者だ。ダメな意味で。

 着る毛布を注文しようとしたら、新しくパンダバージョンが入荷されていた。2枚の白黒パンダの着る毛布を進呈する。


「おぉ。この着心地、すばらしい……!」

「わたしは、その……。姫様と同じ召し物を着るなど、とんでもないですので、そういうことです。はい……」


 こっちのネコミミ娘は着ないらしい。まったく、分かっていないやつだ。

 ふと違和感が起こる。誰かがダンジョンにやってきたようだ。


◇◇◇


 深い森の中を兵士達が歩いていく。その数は43人で、みなが等しく漆黒しっこくよろいを身に付けている。唯一の異なっている点といえば、先導している隊長らしき三人が黒い馬に乗っていることだろう。


「ったく。いいんスかねえ、こんな田舎のダンジョンなんかに足を運んで。もっと派手に戦えるところもあるでしょうに」


 黒い馬に乗っている副隊長の男、アゼルジエード・ミルチ・リギンが退屈そうに吐き捨てた。


「アゼル、これは任務ですよ。隅々まで把握してこその、しっかりとした作戦が立てられるものです。なにも脅威は無かったという情報も無駄ではありません」


 こちらも黒い馬に乗った副隊長の男、フェデー・メチニルトが彼の苦言を正した。


「だけどですねェ、フェデー副隊長。俺たちが戦っている間に武勲を取られちまうと思うと、なかなかキツいモンがあるじゃないですか。血祭りにあげていい敵は限りがあるんですぜ」

「あなた、それはどういう意味でしょうか……!?」


 刺し殺すほどの眼光で軽蔑を乗せてにらみつけるフェデー。不穏の空気を壊したのは、この部隊の隊長に上り詰めた女傑、オルフィア・ジラウ・アマーリンであった。


「二人ともよすのだ。帝国の誓いを忘れたのか?」


 力が物を言う戦場で、女性でありながら上位にのぼり詰めたからこそ湧き出てくる人間としての凄味。その言葉共に発せられた威圧感に2人は思わず黙った。

 オルフィア隊長が馬の歩みを止めさせて振り返らせる。そして、アゼル副隊長、フェデー副隊長、そして40人の漆黒の兵士達を一瞥いちべつして声をあげる。


「諸君らに問おう、我らの意義はなんだ!」

『全土を帝国が支配し、一つの国家の統治による永久の平和をもたらすこと!』


 率いている兵士達全員が乱れることなく一斉に唱える。


「帝国という名の国があったからこそ、我々は生きることを感受できたのだ。先人達が血を流して作った国だからこそ、我々は誰からも害されること無く育つことが出来たのだ。汗、血を流して我らを育ててくださった親を敬うのと同じく、国に忠孝ちゅうこうするのは当然であろう!」

『当然である!』

「ならば行こう帝国の屈強なる兵士達よ。小さきダンジョンなど、打ち滅ぼせ!」

『おう!』


 隊長の指示により兵士達が一斉に駆け出していった。それを見送る副隊長の2人。


「いやいや。ホントですねェ。帝国があったから、俺たちは好き勝手できたんだ。帝国サマのために、今日も汗水を流しましょうかねェ。フェデー副隊長殿」

「ええ、アゼルジエード副隊長。あなたのおっしゃる通りです。環境が人を育てると言います。ならば、親と同じく環境くにを大切にするという気持ちは間違ったものではないと自負しております」


 アゼルが弾けた哄笑こうしょうをした。


「くはははっ! おいおい、フェデーよお。本当に思っているのか?」

「オルフィア隊長のおっしゃることだ。もちろんです! アゼル、疑っていますか?」

「いいや、確認だよ。大切ですからねェ、忠義って」


 まるで何かをさげすむように、アゼルは忍び笑った。



◇◇◇



 ダンジョンは未曾有みぞうのピンチにおちいっていた。大量の兵士達が攻めてくる。彼らの技の錬度れんどはすさまじいだけでなく、津波のような戦意の熱をって押し寄せてくる。

 指揮している男が声を張り上げる。


「帝国の名を地の果てまで知らしめよ! いくぞ!」

『おう!』


 剣戟けんげきに銃声の嵐。稲妻いなずまの魔法が轟音をあげて地を穿うがたれる。


「クソッ! 連携に惑わされるな! 攻め続けろ!」


 ここまで早く小屋まで到達できるとは思ってもみなかった。

 小屋を囲い込むように敵は攻めてくる。今までの個人戦の得意な冒険者たちの戦い方ではなく、いま戦っているのは群れとして統率のとれた兵士たちだ。


「遅いよ! シャァッ!」


 華麗に跳躍して、敵をなぎ倒していくイチイ。単純に撃破数だけで言えば、イチイが一番に活躍しているだろう。

 しかし、裏を返せば一番の標的になりやすいということでもある。2人の剣兵がイチイに飛びかかる。イチイは素早くかわすが、それと同時に弓が放たれる音が聞こえた。4本の矢がイチイに迫る。


「やらせない。まだみんなと生きていきたいから!」


 屋根の上にいるミーヌの銃声が割り込む。放たれたうちの1本の矢と当たると同時に、ミーヌの弾丸が炸裂した。七宝染銃の爆発効果の弾丸による風圧で、矢の進行を乱す。

 ミーヌの的確なサポートが無ければ、隙を突かれてダンジョンはすぐに陥落かんらくしていただろう。戦場全体を一望できる場所にいるからこそ常に目を配り戦況を機敏に操作し続けている。ミーヌの動き1つで戦況が変わるという意味では、おそらく一番に神経をすり減らしている配役だ。


「勝機を焦らない。防御陣を崩してはいけませんわ」


 炎の槍で薙ぎ払いながら堅実に戦力を削っていくコウカ。冒険者をしていただけあって、咄嗟の判断力にはすさまじいものがある。冷静な判断力で、かつ魔武装を用いた万能の動きが出来る彼女が構えているからこそ、俺たちは安心して背中を預けることができる。


「はい、追加のアイテムができました!」


 オウレンが追加のアイテムを作り、それを受け取ったぬいぐるみ人形が戦場を駆け走る。ぬいぐるみ人形がコウカに魔力(MP)回復アイテムの『ちくわ用のれんにゅう』を投げ渡した。

 オウレンのアイテムによる回復で防衛戦は可能だ。そして小さい背丈であるぬいぐるみ人形が補給係として動くことにより、敵からの攻撃を受けにくく、細やかにアイテムをいきわたらせることができる。


「後ろからも敵さんが大量発生! これは、マズいのですよっ!」


 カジキを投げて敵を牽制けんせいし、命綱であるぬいぐるみ人形のアイテム補給をサポートするホミカ。目に見える脅威では彼女が一番に警戒されているだろう。人形と同じくらい小さな体が、羽を使って飛び回るのだから攻撃が当たりにくい。そんな彼女がカジキ連射をして脅威を降りまいていく。


「オラ! まったく効かねーぞ! かかって来いやァッッ!」


 目の前の兵士を殴り飛ばしたとき、俺の元へボーリング玉ほどの火球が4つ飛び掛ってきた。


「オオッ――! シャァ、オラァッッ!」


 炎を強引に殴り消す。立て続けに剣兵と斧兵、槍兵が猛攻をしかけてきた。


「ウゼぇんだよ、何人かかってこようと正面からなら俺は負けようがねぇんだよ!」


 突かれる槍の柄を握ってへし折り、振りかぶる斧兵には頭突きをかましてかぶとごと脳天を砕いた。剣兵の攻撃は剣の腹を裏拳で弾いたのち、目の前にいる斧兵を腰ごと掴んで叩き投げつける。スキル「投擲」の倍率が乗り、鎧と成人男性の体重を含めれば計100キロ以上にもなると言われている威力が乗った豪快な一撃が剣兵をぶっ飛ばした。


「俺に任せよ! フェデー・メチニルト、参上する!」


 先ほど指揮していた男。黒い騎馬兵が突っ込みながら剣を抜いた。その流れる動作をひと目見ただけで、こいつだけ格が違うと分かってしまった。

 俺をダンジョンマスターだと分かっているのか、さっきから強い戦力だけ俺のところに集中して来ている。


「受けてみなさい! うらぁぁ――ッッ!」


 剣先がぶれて、連続突きをしてきた。咄嗟とっさの出来事に両腕を構えてガードする。しかし、聞こえてきたのは静かに耳元で風が切られる一つだけの音。野生的な勘が働き、腰を強引に反らした勢いからの無理矢理じみたバク転で回避する。


「ほほう。なかなか腕が立ちますね」


 強い筋肉があったからこそ、無理な体勢から力ずくで矯正きょうせいしたバク転の回避ができた。

 先ほどまで立っていた地面に一つの深い亀裂が入っていた。


「おまえ。攻撃の動作と、実際の攻撃が全然違うじゃねーかよ」

「戦いですから、派手さなどは必要ない。求められるのはしたたかさですよ」


 地面を切り裂いといて、派手な攻撃は必要ないとよく言えるもんだ。やつが再び剣を構える。


「おにいちゃん、危ない!」


 ミーヌの声に振り向くと、背後に剣線が迫ってきていた。身体を投げ転がすように避ける。その背後から襲ってきた剣線は、さきほど目の前で話していたフェデーというやつの剣線だった。そして、目の前でしゃべっていた方のフェデーの姿が掻き消える。


「くっ、失敗しましたか……!」

「俺がおしゃべりしていたのは偽者の方だったというわけか。お前、まぼろしを見せることができるな?」

「ッ! さあ、敵にそこまで説明するはずありませんよ! セイッ!」


 目に見える映像では上に振りかぶる動作と同時に、下から振り上げる動作が重なって見えてしまう。質が悪くブレたテレビを見ているようだ。

 俺は大きく跳び引いて様子をみる。本物の剣線は俺の胴体を輪切りにしようとするなぎ払いの攻撃だった。


「おらおら、そこの大将! 死んじまえやァァ――!」


 別の騎馬が馬で突進してきた。ひたいの部分に剣が付いているかぶとをかぶった馬が頭を下げて特攻してくる。俺はその馬の剣を両手で挟んで掴みとる。


「くひひっ、おめえの両手を塞いだぜ。ったァ!!」


 突っ込んできた騎兵は銃を持っていた。ほぼゼロ距離という外しようがない状況。俺の頭に合わせて引き金に指をかけようとする。


「俺の筋肉を、ナメんじゃねーぞ!」


 バキリと馬の剣が折れる音。手を合わせただけで、その剣は叩き潰されていたのだ。男が引き金を引く直前に、俺の片手が銃先を握る。発砲音と同時に銃が潰されて、内部で暴発した。


「このヤロウ! くそっ、なんてやつなんだ!」


 黒い騎馬兵が舌打ちして撤退する。


 よし、それでいい。ダンジョンでの戦いは篭城戦ろうじょうせんであるが、俺の場合は現実の篭城戦とは違った面がある。それはいくらでも耐久が出来るのだ。

 具体的には俺の場合は冷凍食品の極意がある。いくらでも食料を湧かすことができ、兵糧を気にせずに戦い続けられるという強みがある。要するにこの戦いは敵を全滅させるのではなく、攻略するのが無理だと敗走させるのが俺たちの勝利条件というわけだ。

 戦況は平衡へいこうのようだが、逆に言えば奇襲でその結果ならばパワーはこちらに有利が付いていると言えるだろう。ならばこのまま押していけば勝ち筋も見えるはず。


「イチイ、ホミカ、オウレン、ミーヌ、コウカ! あと、ぬいぐるみ! このまま押していくぞ!」

「ラジャったよ!」

「はいですよ!」

「了解しました」

「うん、分かった!」

うけたまわりましたわ!」

「(コクリ!)」



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