苦情:白猫少女と黒猫少女がやってきた件について
◇◇◇
オウレンの融合にっきver.4
◇◇◇
①『ハンダチ玉子』
材料:『ゆでたまご』+『超クサイニンニク』
効果:食べるとムラムラする、じゃなかった。口の中がヌラヌラする。HPが50回復する。
オウレン「あれ? ひとつ無くなっている?」
ホミカ「おいしいですよ~♪」
コウカ「ニンニクの臭いを漂わせながら戦うのも、どうでしょうかねえ……」
俺「臭いのせいで、ダンジョンに敵が寄って来なくなるかも。引きこもりになれるぞ! 量産も考えるべきか?」
コウカ「量産したら、ここを辞めさせてもらいますね」
②『国民的ハリセン』
材料:『艶やかなクギ』+『木製バット』
効果:叩かれた相手は小さくなる。頑張って小人の国を作ろう。2ターンの間、相手の打撃攻撃を半分にする。
ホミカ「まてまてですよ~☆ えーい、とうっ!」
コウカ「ちょっと! あわわっ!」
ホミカ「( ゜∀゜)アハハハ八ノヽノヽノヽノ \ !!!」
コウカ「ひぃっ! バットも怖いけど、顔が狂気的で怖いですわ!」
俺「(クギが刺さった木製のバットか。スプラッタな展開しか想像できない……)」
③『ステルス・マケット』
材料:『200MBのUSBメモリ』+『超・特盛りカレー』+『貝の化石』
効果:通称、ステマ。持っていると透明人間になれる彫像。3ターンだけ敵に近づいても攻撃ターゲットにならない。
オウレン「マケットとは彫刻を作るときの小さい試作模型のことです。所持していると効果が出ますよ」
俺「試してみるか。道具袋に入れて、よし、発動!」
コウカ「あら、本当に見えなくなりましたわね」
俺「(イチイにイタズラしてやれ。ほらっ、たかい、たかーい!)」
イチイ「きゃぁっ! 体が勝手にっ! やっ!」
俺「ぐぼぁ――っっ!」
オウレン「あぁ……。けっこう痛そうな音がしましたね」
コウカ「オーナー、大丈夫ですか? どこにいますか? 反応が無し。気絶してるみたいですわね。うーん、どうしましょう?」
ミーヌ「イチイちゃん。面白いものができたって、きゃあ! あれ? この踏みごこちは、おにいちゃん?」
コウカ「あの……なんで踏みごこちで分かったのですか?」
ミーヌ「何度も踏んでるから。おにいちゃんは、踏んであげると喜ぶんだよ」
コウカ「うわぁ……。み、見損ないましたわっ!」
俺「(背中のマッサージのことなんだけどなあ……)」
◇◇◇
バチバチと鳴る火の粉の音。俺は日記を閉じて、焚き火の様子を見る。となりにテクテクとテディベアのぬいぐるみ人形がやってきて、水の入ったバケツを渡してくれた。いいやつだ。
でも、イチイのオリンピック風味の日の丸マントをずるずると引きずりながら歩くのはどうだろうか。脱がないし気に入っているのか? いや、空気を読んでイチイが飽きるまで脱いでないだけか?
「オーナー、なにをしているのですか?」
「ん? コウカ、いたのか」
クマの着る毛布を着たコウカがいた。こいつも一度、うちのダンジョンで使ってからは脱げなくなったらしい。なんとも素晴らしい感性だ。グッジョブである。
「気分転換に料理をしている。今日の昼飯はホイル焼きだな。ジャガイモと、カジキのヤツだ」
アルミを巻いて火に突っ込めばいいのですごく簡単。代表的なキャンプ料理の一つだろう。食材の極意を使っていろいろ作ってみている。
「ほれ、味見してみるか? ジャガイモだ」
「いただきますわ。これはどうやって食べればいいのかしら」
「銀紙をむいて、バターをぜいたくに乗せてアツアツにほうばるが正義だな」
ホクホクしたジャガイモの素朴な甘さにとろりと溶けるバターを乗せてかぶりつくのが最強だ。想像しただけでよだれが出てしまいそうになる。ちなみに、カジキのホイルはバターとキノコ、タマネギをぶち込んである。
「はふっ、はほっ。たしかにアツアツのイモですわね。うん、シンプルですがだからこそ奥ゆきがある味わいですわ。加熱の仕方によって、こんなにおいしさが変わるのですわね」
「だろ? ホクホクしたジャガイモはそれだけで旨いからな!」
「その銀紙でくるんで焼けばいいのですね。冒険するときにも使いやすそうですわ」
「おまえも使ってもいいぞ。これ、アルミホイルだからダンジョンに初めからあった備品だな」
「えっ? アルミ、ホイル?」
「お前の渡した鎧と同じの素材だ」
「それ、ミスリルじゃないの!!!」
パンチでツッコミをされた。おい、コラ、俺は打撃防御が高いけど痛いんだぞ!
「あはは……なにこのダンジョン。ミスリルを料理道具に使うなんて……!」
「なに? アルミはミスリルだったのか!」
嘘だろ!?
だってミスリルは、鉄よりも丈夫で、炎に強くて、軽くて、錆びなくて、きらびやかな銀色な訳で……うわっ、完璧にアルミはミスリルだ……!
夢も欠片もない事実を知ってしまった俺の異世界幻想が崩れ去った。
「うーん、ミスリルを料理道具になんて、冒険者だった職業柄的にはもったいないと思ってしまうわ」
「ほら、プニ太郎。コウカの剥いたジャガイモのアルミ、食ってやれ。うまいか?」
「それ、一番もったいない使い方だから!!!」
今度はビンタするなよ。おまえ、クマを着てるから、川で鮭を取るクマっぽくてめっちゃ怖いんだけど。ビンタだけはやめろ。
プニ太郎がおいしー、とぷるぷるしている。まったく俺の癒しはお前だけだぜ。
もしょもしょとアルミを食べていると、プニ太郎が輝きはじめた。
――グリーンプニィが進化しました。グリーンプニィがミスリルプニィになりました。――
透明感のある銀色のプニ太郎になっていた。
「おい、マジかよ!」
「ええ!? なにこれ? 珍種じゃないの!」
俺はスマホを出して、プニ太郎のステータスを見る。
ミスリルプニィ
lv、8
体力(HP)87
魔力(MP)62
打撃攻撃46
打撃防御84
魔法攻撃12
魔法防御10
素早さ11
幸運15
固有スキル
食欲旺盛
なんでも食べることができ、食べると少しだけ体力(HP)が回復する。
スキル
スライムボディ:打撃ダメージを少し軽減する。
ミスリルボディ:打撃ダメージを30パーセント軽減する。
プラスチックボディ:状態異常を受け付けない。
アイアンボディ:打撃ダメージを軽減する。
ウッドボディ:地面に接していると、毎ターンと少しだけ体力(HP)が回復する。
ぺたぺたボディ:ペタリと壁に張り付けるため、高低さを無視した移動ができる。
ゼリーボディ:打撃ダメージをほんの少し軽減する。
巨大化変身:体を大きく膨らませて、体力(HP)、打撃攻撃、打撃防御を上げる。
形態変身(杖):触手を魔法の杖に変身させ、炎の魔法と回復魔法を唱えることができる。
形態変身(斧):触手を斧に変身させ、叩き切って攻撃できる。
形態変身(剣):触手を剣に変身させ、切り裂いて攻撃できる。
形態変身(槍):触手を槍に変身させ、突き攻撃できる。
ミスリルボディはアルミ由来だし、プラスチックは冷凍食品の包装か。アイアンボディは破壊された鉄の武器を食いまくってたからだろうし、ウッドボディは木の剣とかなんか食ったんだろう。ぺたぺたボディーはころころクリーナーのテープ紙で、ゼリーボディは遊びでこんにゃくゼリーを食わせたからか。形態変身(杖)の杖は聖騎士のときに食ったらしいし、他の装備は俺が盗賊とかを倒すときはだいたい武器破壊をしているからそれ食っていたかもしれない。巨大化変身は、進化して変形の幅が広がったから覚えたのだろう。
「いろいろ食わせていたから、なんか凄いことになってる件について」
「なんか、なんて言葉じゃすまされないわよ!」
コウカがスマホのステータスを見て叫ぶ。
「まずはこのスキルの量! そして質! スキルでの軽減系は、せいぜい10パーセント軽減なの。才能があるAランカーだと20パーセントの人がまれにいる程度ですわ」
「マジか。よかったなプニ太郎」
わーいとぷるぷるするプニ太郎。こいつは今日も俺の心のオアシスだ。
「あなたマイペースすぎますわよ! 普通はもっと驚くところなの! トップランカーと同レベルの才能を持つモンスターなんて……! Aランクグループ専用の討伐ボスで出てきてもおかしくないほどなのに。なんでボス級のモンスターがここではゴミ係りなのよ!」
「強いモンスターと言われてもなあ。捕まえるときはイチイがプニ太郎を倒してたし。いまいち基準が分からん」
「あの子が!? まあ、強いのは分かっていましたけど、そんなに?」
眷属化で得た固有スキルの話をするとコウカがのってきた。どうやら、固有スキルというものは、先天性の祝福であり、本来なら後付けできないらしい。
「固有スキルがレアなのは体感的に知っていたが、後天的じゃないんだな」
「ええ。ですからダンジョンに組する以上は、わたくしも固有スキルをいただきたいと思いますわ」
ええー。ちょっと待ってくれよ。本気で嫌なんだけど。どうしてか俺には死にかけた記憶しか無いんだけど。
「眷属化はもう締め切った。売り切れだから諦めろ」
「いいじゃないですか。減るものでもありませんし、1回だけですわよ」
減るものだ。具体的には俺の精神がガリガリ減る。
「仕方ありませんわね。よっと」
「うぎゃァァ――ッッ!」
正面から抱き寄せられた。やわらかいおっぱいが密着する。
やめろ! 俺の精神が潰れて、飛び散る!
「おまえ、なんていうやつなんだ……!」
「ふふっ、オウレンさんの言ったとおりで面白い反応ですわね。それっ、あはははっ」
笑うたびに小刻みに揺れるおっぱい。胸板をぷるぷると攻撃してくる。ヤバイ、こいつの胸、マジでエロすぎる。プルプルと震えるアレが俺の精神を蝕んでくる。
「ふふっ。オウレンさんほどではありませんが、なかなかでしょう?」
「クソッ! 俺は、色仕掛けなんかに負けてたまるか……!」
心が落ちるのでなくて、心が堕ちるの意味でな。
「ええー、それは残念ですわ」
言葉では残念と言うが、口元がにやけている。隠し切れないほど楽しんでいる様子である。このやろう、クソッ!
「冒険者をしていますから、たくましい体つきには憧れがありますわ。うふふっ、こうしてくっついていると、あたたかい胸板ですわね。やさしいぬくもりを感じますわ」
俺の胸に顔をうずめてきて、ゆっくりと堪能してくる。コウカの呼吸の温もりが俺の胸を優しく くすぐる。
「自分の体、あまり好きじゃありませんでしたわ。でも、オーナーに仕えている今だけは、ちょっぴりだけ感謝してもいいかもしれませんわね」
俺の胸元から見上げるコウカ。潤んだ瞳でちょっとだけ頬を赤くしながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「オーナーの意外な一面が見れて、ちょっとだけ、ときめきそうになりましたわ。わたくしはちょっと言い過ぎてしまうところがありますが、実は……わたくしは、その……あなたのことを嫌いじゃありませんわよ……」
「いや、それ……は、つまり……!?」
「その言葉の先をわたくしに言わせるんですか、もうっ。嫌いじゃないなら、そういうことなんですわよ。わたくし達を守るためにモンスターと戦っていたときのカッコイイオーナーも素敵ですが、今みたいにシャイなあなたも可愛らしくて……。うふふっ、オーナー♪」
あまくとろけた声。そっと俺の頬にコウカの指先が触れ、お互いの視線が絡まる。清楚な顔立ちのコウカ。上気した吐息が俺の鼻先にかかる。
「近い! 分かった! 眷属化するから、勘弁してくれ!」
「むむぅ。はーい」
コウカが俺を放してくれた。でも、その声色はちょっとだけ寂しそうだった。
なんでだよ。主張が通ったじゃないかよ。
「はぁ……仕方がないか。眷属化、発動!」
俺の手先から温度が奪われていく。指先は冷え切っているのに、魔力を送っている手のひらが熱いという不思議な感覚だ。そしてコウカの魔力が俺の内に入ってくる。
「ふぅ……。無事に終わったか……」
「うん、力がみなぎってきますわね。ありがとうございますわ。ですが、何をそんなに緊張してましたの?」
「眷属化には死にかけた覚えしか無いんだよ」
「眷属化はそんなに命懸けだったの!? 無理を言って申し訳ありません」
「いいや。大したことは無い。ただオウレンが間に入ると、終わったらキスするように嘘を教えてきたりだとかな……」
「あー。予想はつきましたわ。失礼いたしましたわ。でも、これでわたくしも固有スキルが、うふふっ。それでステータスを見せてもらえるかしら」
コウカ・ベニナーバ
lv、12
体力(HP)121
魔力(MP)133
打撃攻撃67
打撃防御55
魔法攻撃60
魔法防御48
素早さ52
幸運65
装備品
装魔の指輪
打撃攻撃力+21。魔法を現界した形で保持できる魔法戦士専用の武器。
二重鉄の軽装
打撃防御+18、魔法防御+15。頑丈な鉄と、抗魔の鉄の二枚重ねになっている胸当て。
ギルドの黄金勲章
コウカ専用の装備。全ての異常状態を無効化し、クリティカル率が10パーセントアップする。
固有スキル NEW!
オーロラの羽衣
敵からの打撃攻撃のダメージと、罠ダメージを半減する。
スキル
魔武装・炎槍
魔力(MP)10を消費する。1ターンのみ、通常攻撃のダメージをアップさせ、炎属性を追加する。
魔武装・風弓
魔力(MP)10を消費する。1ターンのみ、通常攻撃のダメージをアップさせ、風属性を追加する。
魔武装・水剣
魔力(MP)10を消費する。1ターンのみ、通常攻撃のダメージをアップさせ、水属性を追加する。
応急処置
魔力(MP)15を消費し、味方の体力(HP)を20パーセント回復させる。
「やったわ! 何よこれ! すっっごく嬉しい! 本当にありがとう! あはははっ!」
コウカは嬉しさのあまりに俺の両手をとって、胸の前で重ねてぴょんぴょんと跳ねまわる。
おいヤメロ! 手のぬくもりがコウカの体に近くてヤバイ! おっぱいがボインボイン跳ねて俺の指先がおっぱいの中に沈んだり、はさまったりしてヤバイ!
「お、おう。良かったな。なにがすごいんだ」
頭が真っ白になりかけながらも冷静に切り返す俺。早く冷静になって手を放してください。お願いします。
「半減なんて、御伽噺の伝説の英雄みたいな規模のスキルだわ。こんな夢みたいなスキルがもらえるなんて思わなかった! それに、罠の半減も冒険者なら、喉から手が出るほど欲しがるスキルね。罠は打撃防御を貫通するダメージだから手ごわいのよ。だからメンバーに罠外しができるレンジャー職を連れて行くのに、これだとレンジャーの活躍の場が要らなくなっちゃうわ。打撃攻撃半減だけでも、罠ダメージ半減だけでもスゴイのに、2つも効果があるなんて! 本当にすごいわ!」
コウカが感動のあまりに目を潤ませてぐぐっとこぶしを握りしめる。やっと手を放してくれた。
ふう、俺の命は今日も危なかったぜ。戦闘よりも日常の方が危ないなんて、まったくなんて人生なのだろうか。
違和感がよぎる。誰かがダンジョンへ入ってきたようだ。
「誰か侵入してきたな」
「いいじゃないの。ちょうど実験台が来たってわけね」
「じゃあ行って来てくれ。俺のクマが死んでしまうから」
「そうですわね。強いですけど意外と困りますわね、その能力は。では、行ってきますわ」
コウカを見送ってから少し経った。
どんなものかと屋根にのぼって眺めると、コウカとイケメンなマント君が戦っていた。どうやらコウカが圧勝しているようである。
「お前、なんでダメージを食らわないんだよ!」
「べつに。ガジュツに教える必要はありませんわ!」
なるほど。マント君が様子をみるために小技で弱い攻撃をしかけてみるから、ただでさえ低いダメージが半減されてほぼ通っていないらしい。スペック自体もかなり使える能力でありながら、小技が効かなくなるという意味では対人戦でも鬼のような強さを発揮する能力のようだ。
「あのクマ男と同じなのか!? クマを着ているから強くなれたのか!? おまえの趣味なのか!?」
「それは違うと言っておくわ。このダンジョンは、そういうルールですのよっ!」
まったくこのマント君は。クマの偉大さは着なければ分からんようだな。
本音を言えば、どうせ着ないと夜は越せないからなんとなくダラダラと着続けているだけだったりする。感覚的には朝からずっとパジャマでいるようなイメージに近い。あれ、じゃあ ここのダンジョンってダメ人間の集まりなんじゃ……。
いま、コウカがマント君の剣を弾いた。
「……チッ。お前は知らないだろうが、昨日のプレゼントを届けに俺は何往復もしてたんだぞ。その仕打ちがこれなのかよ。今日の俺は伝令役なんだぞ」
「それを隠れ蓑に襲ってくる人間もいる。武器をおろしてから信じてあげますわ」
「強制的におろされたぞ。ほら、これがギルド長からの手紙だ。ダンジョンマスターに渡してこい」
◇◇◇
というわけで、全員がテーブルを囲って手紙についての会議となった。
内容はサース町が俺のダンジョンへ保護申請してきたとのこと。帝国が活動的になっているためであり、セリ村も共同で申請してきている。
「――というわけだ。その要求を聞く見返りは、あとで話し合いをして決めると手紙に書いてある」
「仮に許可したとしましょう。ゴミはどうしましょうか?」
オウレンの疑問にプニ太郎が、まかせろーとぷるぷるしてる。
「わたくしも同意見です。2つの町を引き取るのですよ。ミスリルプニィ1匹では難しいと思いますわ。場所もありませんし」
「ご主人さま、たしか場所はあるんだよね。ガチャで1階の権利を引いたって言ったし。そうなると村の人を1階に住まわせて、2階の小屋はイチイ達が使うとか?」
「却下だ。ウチのメンバーはワケありがいっぱいだから、そのうち2階にいる連中がバレる」
「おにいちゃん。本当にダメなの? 2階は進入禁止にしたらいいと思うけど」
「ウチのダンジョンは、モンスターも入って来るんだぞ。引き取る人数が合計で約200人いるなら2階に逃げるやつも出るだろうさ」
無断進入するつどに口うるさく注意すんじゃなくて、マジで1回でも漏洩したら揉め事になる可能性があるのだ。元聖女のオウレンを筆頭に、問題な親がいたミーヌ、差別されているワンコ族のイチイ。しかもその2人は、今は形式だけだが奴隷でもあり、もっと差別される可能性もある。仮に村人や町人を保護した場合は、慣れないダンジョンで長時間過ごすのだから、苛立ちの矛先がこちらに来る可能性を考えれば保護するのはリスクが高いだろう。
重たい空気が流れている。
突然に机の上に巨大なナニカが降ってきた。テーブルをかち割り、落下した勢いで着地したときに低い地揺れの音を響かせた。そこにいるのは筋骨隆々な肉体だった。
「おまえは、マッスル神じゃないか!?」
「ダンジョンマスター、久しぶりだな。今日は重大な事を知らせに来た!」
「なんですのっ、この話すたびにポーズして体をくねらせる人は!?」
「ご主人さま、変な人が落ちてきたよー!」
「えーと。おにいちゃん、なんでこの人はパンツだけなの?」
「むせるような圧力を感じる人ですね、旦那さま」
「うわっ……。マスターさんの同類が増えましたね☆」
めっちゃ言われているマッスル神。気にしていないのか、ポーズを決めてニカッと白い歯を見せて笑った。
「ついにおまえの筋肉の力を見せるときが来たようだ。おまえ、ダンジョンバトルを申し込まれたぞ」
「マジかよ。なんで問題が重なったときにそう来るんだよ」
ダンジョンバトルとは、要するにダンジョン対ダンジョンの戦争である。
マッスル神の説明によると、敵は天空都市タイプのダンジョンだ。破壊衝動が強い悪魔が加護についているため、ダンジョンに入る人間を倒すに飽き足らずに他のダンジョンすらも壊したいらしい。ダンジョンランキングとやらでは131位/263位の実力とのこと。
「真ん中ぐらいじゃねーかよ。意外と頑張れば倒せるか?」
「オレの神データによると、こいつのダンジョンは、ダンジョンを倒し続けてデカくなったタイプだ。15戦15勝らしい」
「なるほど、気が抜けませんわね。直接的な強さは、ランキングは当てにならないのかもしれませんわ」
「ちなみにここのダンジョンは242位/263位だ」
だと思ったよ、チクショウ。しかし、個人戦力だけでここまでランクが高いのは、ある意味では芽があるか。
しかし、ダンジョンバトルに、町の保護申請の話。考えないといけないことが山積みだ。どうするんだよコレ。
「旦那さま、相手が中級ダンジョンとなるとこのダンジョンへ偵察が来ているかもしれません。あやしいものが見つかったら、警戒したほうが良さそうですね」
「たしかにな。怪しいと言えば、俺たちのベッドでいま寝てるのは誰なんだ?」
全員の視線がベッドに釘付けになる。ネコミミの付いた少女がよだれをたらしてだらしなく寝ていた。
誰かコイツを知ってるかと目配せすると、全員が首をふる。
「よ、よく分からんが捕まえろ!」
◇◇◇
「お、おのれ! なんという姑息な罠を! なんなんだあのベッドは! すごく気持ちが良すぎるだろ!」
このタイミングでマットレスが役に立ったという意味不明な伏線回収をしてしまった件について。罠というか、勝手に寝ておいてひどい言い草だ。
白金を連想させるような白みがかったショートカット。ぴょこぴょこ動くにゃんこの耳が特徴なネコミミ少女がコウカに縛られている。
「そらっ! キリキリと白状なさい!」
「いたたたっ! ベッドに隠れたら心地よすぎて寝てしまったんだ。変な小屋があったから見に来たの! それでおしまい!」
「本当なの? さあ、さあ、さあ!」
「ひぃぃ! この人、鬼だ! 姫さま、申しわけありません! アマチャはここまでのようです」
「ご主人さま、この人、アマチャって言うらしいよ」
「ふふふっ、やっと白状したじゃないの。もっと言いなさいったら!」
「ぎゃーっ! 誘導尋問された! なんたる不覚!」
「おにいちゃん、誘導尋問ってなに? 自白することなの?」
「自白させるようにすることな。たとえば、コイツの道具を見たら手裏剣とかあっただろ。これって忍者セットだよな」
「わたしは忍者じゃない、にゃんっ! 勘違いだ! 最近の女子は、忍者セットが乙女のたしなみなんだ!」
あっ、やっぱりコイツはアホの子だ。
「なるほど、これが噂による忍の秘密道具ですか。さすがわたくし達のオーナーですわ。よく知っていましたわね」
「あっ、違うんだ! これは忍者セットじゃなくて、十字の形の包丁なんだ! 料理だから乙女のたしなみなんだ!」
包丁を持ち歩くなんて最近の乙女って物騒だな。
明らかにあやしい忍者。というか、すぐに自白したり、隠れられない忍者ってどうなんだよ。ダンジョンバトルの偵察かとコウカが問い詰めていると、コンコンとノックされた。
「失礼……。こっちにうっかりしている忍者、来てる?」
能面のように冷えた無表情。鮮やかな藍色の着物を身にまとい、黒く長い髪。ネコミミが愛嬌のある静かな声の少女がやって来た。




