内題:やっぱり住人が1人増えた件について
◇◇◇
俺たちダンジョン組の連携により2体の召喚されたモンスターは翻弄されていく。そして、隙を突かれた時はコウカの弓が走り堅実にフォローする。
「うおおォォ――ッッ! っしゃオラァ――ッッ!」
クロコリザードの開かれた大口を、俺は上顎と下顎を掴んで防御する。クロコリザードの鋭い歯が、手のひらにズブズブと突き刺さり、血が滴る。
「ミーヌ、手伝え!」
「おにいちゃん!? させないっ!」
口内へミーヌの光弾が打ち込まれる。その鱗は硬いだろうが、口内となれば例外だ。クロコリザードが痺れたように痙攣する。
「いくぜ、巻き込まれんじゃねーぞイチイ! おおォォっ、らァァ――ッ!」
「えっ? おわわっと!」
俺はクロコリザードのしっぽを掴みブンブンと勢いをつけて、その巨体をブン投げた。イチイの相手をしていて気を取られていた大トカゲにクロコリザードがクリーンヒットする。
「わたしに任せてくださるかしら。いくわよっ!」
風の矢を連射するコウカ。その矢は大トカゲとクロコリザードを空中に縫い付けた。2体は動けなくなる。
俺は拳を硬く握りながら2体へ向かう。
「さあ、いくぜ! これで終わりだ!」
筋肉がマグマのように煮えたぎり、膨張していく。沸騰する血液の煙をたぎらせて、自慢の一撃のもとで撃破せんと大きく脈動する。
「――覇道豪腕拳!」
2匹の体の中心をまとめて打ち抜いた。召喚された怪物は、光の粒となって空へ溶けていった。
◇◇◇
コウカの元執事を名乗る初老の男性がやって来て、傷の手当をしてくれた。消毒剤がしみて痛い。今は姉のキクカの執事をしているらしい。
「感謝します。服をありがとうございました」
「ご主人さまが、丁寧な言葉をしゃべってる!?」
えっ、驚くのがそこなの?
「コウカ様を助けてくださったなら当然です。まあ、パンツ一丁で戦っていたのは驚きましたが。どうしたのですか?」
「えーと。そういう呪いにかかっているのです」
町だから大丈夫だろうと思っていたのに、敵意を向けられてバリバリッとなりパンツ一丁になった俺は切なすぎる。マジで呪いの領域である。
「コウカ、なんで敵を倒したの!? 時間を稼ぐだけと言ったじゃない?」
「倒したほうが最良だった。その結末ですわよ」
「そういう問題じゃないでしょう!!」
2人が激しく口論している。
「あの、おにいちゃんが倒してはいけなかったのですか?」
「とんでもございませんよ。危険の元を取り除くのは素晴らしいことです。あのお二人はそういった仲なのですよ」
そう言いながら、執事がコウカとキクカの間に入った。
「コウカお嬢さま、お疲れさまでした」
「いいえ、わたくしひとりの力ではありません。みなさんがいたから、ラクができましたわ。ひとりではとても戦えませんでしたわ」
「それを分かっているならばなによりです。キクカさまはあなたの安否を心配しておられるのですよ」
「ちょっと! じいや!」
「ふふふっ、少し昔の話をしましょうか。そうですねえ、このじいやが以前に仕えた主についてのお話ですよ」
これは執事が仕えた、ある一人の少女の物語だ。
その少女は未知が好きであった。未知に触れれば新しい世界が広がっていき、自分の中で新しい価値観が生まれていく。もちろん全ての未知が飛躍であるわけでなく、暴力的な面に出会うこともある。それでも、その少女は未知を愛していた。
ゆえに彼女は冒険者になりたかったが、貴族の親はそれを許しはしなかった。冒険者とは主に社会不適合者を体よく家から追い出すときにならせるものでもあったからだ。
家族は愛しの娘が風評に差別されるのを阻止したかった。そして彼女は長女であり親の背中を見てきたため、必然的に彼女自身も妹に背中を見られていると学習していた。だから、家のために、妹のために、冒険者になることを諦めたのだった。
「――そういうお話がありました」
執事の話に、キクカは、ばつが悪そうに黙っている。
「そして、彼女は実際に働いてみて、親の言うことが正しいと分かった。世間の風当たりが厳しい。場合によっては、冒険者を出した家名そのものが中傷されてしまう。貴族は上に立つものであるため、民に嫌われやすい立場でしょうね」
ちゃんと話についてきているかと、俺に視線を向けられる。
「なるほど。指揮をしなければならないのに、嫌われるなら指揮ができなくなる。それは反乱の種であり、町そのものが危うくなる」
「そのとおりですダンジョンマスター様。理解が早くて素晴らしいですね。要するに疑心暗鬼の種をまいてしまうのです。勝手に冒険者に出て行ったひとりの責任ではなく、貴族だからこそ、民というたくさんの命の責任を負っているのです。そうですよね?」
執事がキクカを一瞥する。
「ええ、その通りよ。だからわたしは冒険者になれなかったのよ」
「お姉さまが冒険者に!?」
「なっ、なによ。驚かなくてもいいじゃない」
「だって、冒険者を思いっきり悪く言っていました。本当に?」
「本当よ。だからこそ、あなたの気持ちも痛いほど分かっていた。その勢いもね。それを止めるために、善意であなたが冒険者にならないように言っていたのに……。でも、あなたは振り切って冒険者になってしまったわね。まったく、頭が痛い話だわ。誰に似たのかしらね」
「お姉さまよりも頑固になったつもりはありませんわ」
「わたしの制止を振り切った人に、頑固がどうのなんて言われたくないわね」
2人がぐぬぬぬっと睨みあう。
どうしてか俺は、その姿を見てほころんでしまいそうになった。
キクカは一度言った手前には引けなくなって、ずっとコウカをしかりつけていた。でも、心の本音では応援したかったのかもしれない。コウカも実家を離れても姉の探し人の手伝いをしていたのだから、本当はキクカのことは嫌いではないのだろう。
そんな2人を温かい目で眺める執事の姿。俺はそっと実家のじいやを思い出した。
ごめんな、じいや。家を飛び出した不良なくせに、パンツ一丁になる変態体質になっちまった。マッスル神の呪いを受けてしまったんだ。マジで悲しすぎる。
「ご主人さま、いいはなしだね……」
「2人とも、本当は仲がよかったんだね。おにいちゃん、泣いているの?」
ああ。心が痛いんだ。詳しくは聞かないでくれ。きっと感動したんだねと、うんうんミーヌがうなずいてるが、今の俺の心はそれどころじゃなかった。
感動した空気に割り込むよう、たくましい体つきの男がやって来た。頬に大きな傷があり、いかにも熟練の冒険者といった風貌である。
「コウカ・ベニナーバはいるか?」
「はい。ここに」
「このたび、街を守っていただき町長としては感謝する」
含みのある言い方だった。
「しかし、俺はギルドマスターとしてそれは許しがたい行為だと思っている。ダンジョンマスターと手を組んでいたという事実は、決して見逃すことはできない。ゆえに、おまえはギルドから除名処分とさせてもらう!」
「ちょっと、おじさん! ご主人さまも、なんとか言ってよ」
「いいのですわ、イチイちゃん。ちゃんと分かっています。こういうことを見逃していたら、前例が付く。そういうことですわね。前例を使った大量の悪だくみが生まれ、市民を脅かす。ゆえに、前例を作りたくはない。それが町の治安を守るものとして、当然のことです」
「……すまない。堅い役所仕事であるのは分かっているが、その通りだ」
これが町の自衛団との協力なら話は変わっていただろう。責任はその町だけで閉じられる。しかし、全国にあるギルドならばその規模が大きくなってしまう。あそこのギルドが認めたからこっちも認めろと、悪意が前例を利用する。世界中にギルドがあるがゆえに、世界中が大パニックになる可能性を孕んでいるのだ。
キクカも貴族としてまとめる立場で働いているからこそ、その重さを知っているためにギルドマスターに対して何も言うことができなかった。
「コウカおねーさん。うちにおいでよ」
「俺は来ないほうが…………でも、来ても同じだからどちらでも、いいです、ぞ」
ミーヌがうるんだ瞳で袖をぎゅっと掴んできて、とんでもない罪悪感に見舞われて言質の先を思わず変えてしまう。べっ、別に行く当てが無いなら来てもいいと本当に思っていたんだからな。涙に弱いんじゃないんだぞ!
「ダンジョンか。その未知もいいかもしれませんわね。よろしくお願いしますわ」
「お、おう」
チーム幼女の2人がお互いに手を合わせて喜んでいる。くそっ、これで良い気がするけどなんか2人の喜びに釈然としない。分かっているけど、くそっ!
支度を整えたコウカが町を歩いていく。町人はコウカを見てはいるが奇異の目としてであった。誰もコウカに目を合わせようとしない。そうしている間に町の外へ出た。
「おにいちゃん。誰もコウカさんに声をかけなかったね」
「いざこざに巻き込まれたくないんだろうさ。問題児として処理されたようなもんだからな」
そのコウカを見ると、泣きそうな目をしていた。
「……いいですわ。気にしないでくださいまし」
「気にするのも、気にしないのもそんなのは俺の勝手だ。おまえに指図される筋合いはない」
「ほんと、勝手な人ですわね」
ふいにコウカに抱きつかれた。
「ちょっとだけ。今だけ、胸を貸してください……」
今までこらえていた悲しみを放つかのよう、一気に泣き出した。
「おまえはよくがんばったな。えらいぞ」
「はいっ……」
「正しいことをしたと胸を張って言えるんだろ。じゃあ、みんな分かっている。声をかけれなかっただけで、感謝はしているんだよ」
「うんっ……はいっ!」
すがりつくように、もっとぎゅっとされる。
「今度は俺たちがいるんだ。ひとりじゃないから安心しろ」
「はい……っ!」
「……というわけで、離してくれませんか?」
「ふふっ、嫌ですわ」
冗談を言っているように笑うコウカ。新しく手に入れた仲間という宝を離さないと言っているようにぎゅっと俺に抱きついている。
俺は胃の痛さが最高潮になって盛大に吐血してぶっ倒れた。
◇◇◇
「最悪ですわよ。ダンジョンマスター」
「……すまない」
だけど、本当はお前が悪いんだぞ。キッとにらみつけてやると、コウカは罪悪感があるのだろうか申しわけ無さそうに視線を外した。
「知ってはいましたが、女嫌いにもほどがありますわよ」
あのあとコウカが緊急で町へ走り、死にかけている俺を執事とキクカが保護したのだ。
お前も恥ずかしいだろうけどな、俺も恥ずかしいんだよ。
ちなみにイチイとミーヌは先に帰らせた。体調を見て一泊するように言われたので、さすがに4人も泊まらせるのは申し訳ないと思ったからである。
「慮外なうれしいことは歓迎ですよ」
そう言う執事さん。マジでイケメンな精神をお持ちですね。ドアがノックされると、キクカが入ってきた。
「コウカ、帰ってきたということは貴族の仕事をやってくれるつもりなのかしら?」
「アホですか。今度はダンジョンの管理ですわよ。冒険者よりもとびっきり野蛮ですわ」
「そんなことするなんて……とっっても楽しそうねっ!」
「さすがにこっち側に入るなんて思いもしませんでしたわ。逆の立場になれるのが、面白そうで仕方ないですわ」
「いいな~。わたしもダンジョンの管理やりたいっ!」
「そのうち案内しますわよ」
「絶対だからね!」
キクカのお姉さんキャラが崩れてる。外面と内面の差がパネェ。あの一件があったせいか、心の壁を取っ払いすぎだろ。
嬉しそうにこれからのことを語る2人。この姉妹はホントに新しいことへの挑戦が好きらしい。
「そういえばお姉さま、バルバロインの探索でしたが、この方、ダンジョンマスター側でも情報は無いそうですわよ」
「生真面目にやっていたの? べつに良かったのに」
「認めて欲しいと思ったからこそですわ。しっかりと動いてみせないと信じてくれないでしょ」
しっかり似ている姉妹だなと、執事さんが忍び笑いしてる。
「もういいのよ。王族に対する点数稼ぎみたいなもので、当たったら運がいいと思う宝くじ程度だったし」
「宝くじですか。でも、タダならやるべきかと思いますわ」
「冒険者根性が丸出しね。これに関しては、本当に探さなくてもいいのよ。だって、王子様があなたのそばにいることが分かったからね。今度は子供が出来たときにでもウチに来なさい」
俺を意識してしまい顔が真っ赤になるコウカ。
コウカを意識してしまい顔が真っ青になる俺。
「これからダンジョンに帰ったら、エプロン付けてお出迎えするのかしら。ダンナ様 (はーと♪)ってやつ」
「ありえないですわ。料理は出来るけど、誰かが歓迎するほどの上手さはないわよ。塩を振った肉の塊を出しても喜んでくれるなら話は別だけど」
「分かってないわね。平民の男は、エプロン姿にグッとくるそうよ。犬のワッペンのついたエプロンがおすすめよ」
「はいはいそーですか。わたくしの私物にまであなたの犬好きを押し付けないでくださいませ」
何かを思い出したのか、コウカの表情がむすっと変わった。
「まったく。冒険者のみんなが冷たすぎでしょうに。何度か顔を合わせた人もいたのに。ギルドだってそうよ。1回や2回どころじゃないのよ」
「へぇ、そうなんだ」
ぷんぷんとしているコウカを、キクカは何かを隠しているかのように含み笑いをしてながめる。
なんですかとコウカが怒るが、べつに~とキクカはかわし続けた。
◇◇◇
次の日になった。俺とコウカは森のダンジョンに帰るために歩いていく。
「管理者って、どうしてダンジョンを作ったのですか?」
コウカは俺のことをオーナーと呼ぶことにしたらしい。道中が暇すぎてコウカが俺に質問を投げかけてきた。
「居場所が無かったからが理由かもな。自分の主張が封殺されて、これが常識だからと黙って従っていく人間の雰囲気が嫌いになった」
「なった、ということは以前に何かありましたか?」
コウカが鋭い質問を飛ばしてきた。
「むかし弾かれたことがあってな」
それは転生する前の世界の話だ。あれから時間は経っているが少しだけ胸が痛んだ。
「独りよがりじゃなくて、まわりも正しいと口では言わなかったが俺が正しいと感じていたんだと思う。ちょうど、おまえのようにな……」
「だから、わたくしを?」
俺は頷いて肯定する。もちろんなし崩し的な流れもあったが、それは俺を後押ししたに過ぎない。言ってしまえばコウカに感情移入してしまったのだ。
「俺のダンジョンは弾かれ者の最後の居場所なのかもしれないな」
「ありがとうございます。あなたがいたから、今のわたくしが生きていられるのかもしれませんわね」
冒険者として全力で生きてきたからこそ、冒険する権利を剥奪されるのはコウカにとって命を奪われたのに等しかったのだろう。そんなコウカに俺は生きる意味を新しく与えた存在になったようだ。
「生きるとか、そんな堅っ苦しいのはウチでは無しだ。ダンジョンは何をやっても自由だから気楽にいこうぜ。うまいモン食って、だらだら昼寝して、ぐうたらして過ごしても誰も文句を言わないんだ。マジメに生きている連中のことをこんなにバカにして生きられる場所は存在しないぞ? だって、悪の巣窟だからな!」
「ふふふっ。そうですわね。そっか、これからはダンジョンに住むのですわね……。そういえばお昼寝とか、意外と久しぶりかもしれませんわね。ほら、冒険は陽が出ているときが基本ですから」
「昼寝はいいぞ。いや、ちょっと待て。昼寝はアイツがいるからあまり静かじゃないかもしれない?」
「ふふっ。イチイちゃんのことですか?」
コウカが小さく笑った。皆まで言わずともコウカもイチイと付き合いがあったらしいから分かったのだろう。
「あいつは最強にうるさいうえにワガママだ。自分の性根に真っ直ぐすぎて迷惑すぎる」
「でも、だからこそ信じられるんじゃないですか? 隠し事をしなさそうですからね」
「まあ、そういう意味では信じられるけど……」
コウカの『信じられる』という単語に、俺の心が微かにざわめいた。
「だけど、俺は…………」
「やっぱりご主人さま、来てたんだ! こっちこっち! 大変だよ!」
俺の絞り出る声が漏れる前に、イチイが俺達を見つけて駆け走って来た。祭りのときに匂いで分かるといっていたから それで俺達を察知したのだろう。
「どうしたんだ!? 冒険者がたくさん来たのか?」
「そうだけど……ちょっと違う。えーと、説明するのめんどくさい! とにかく来て!」
「お、オーナーを相手に面倒って? そんな理由で説明拒否するなんて……!?」
「いや、よく考えたら俺もよくしてる気がするし、ここってそういうモンなんだよ。ほら行くぞ」
「本当に、すごいところに来ちゃったわねぇ……」
コウカが苦笑した。このレベルで苦笑してるとなると、コイツは根っからのマジメ系なのかもしれないな。
そしてイチイは急かすように俺の手をぐいぐいと引っぱってダンジョンへ向かわせようとする。
子供特有の張りのあるやわらかさと小さな手の感触。俺は女と触れ合っている事実に胃が痛くなるが、若干だけ以前よりも和らいでいる気がした。我慢とか慣れたという次元ではなくて、ほんの少しだけ。かすかに安らぎすら感じられているようにも思える。
(さっきの言葉が原因か? そんなワケねぇよ。俺は、絶ッ対に女嫌いなんだ……!)
イチイのぬくもりに耐えつつも、湧き上がる悪感情と混乱に、俺はただ戸惑ったままイチイに手を引かれ続けた。
「ここが現場なのかしら? あの小屋がそうよね?」
コウカの声でわれに返った。
いつの間にか小屋のそばにいた。困惑していたから分からなかったらしい。見てみると、戦場にあまり出ないはずのオウレンまで外に出ていた。その手には綺麗な箱を持っている。
「旦那さま、お帰りなさい。冒険者の人が次々にプレゼントを置いて行ってくれて、運ぶのが大変だったですよ」
そこには鮮やかな色合いのプレゼントボックスや、綺麗な瓶のお酒、たくさんの花束が置かれていた。
コウカは目を丸くして、一目散にその箱たちへかけていった。
「この箱はハニシロせんべい。こっちは、クロミーツの香水。えぇっっ!? 夜行の傘まであるの!?」
上品な刺繍の入ったハンカチに、犬のマークのエプロンなど庶民的なものまで、さまざまなプレゼントが置かれていた。
「みんな、覚えていてくれたんだ……!」
コウカは感動に打ち震えている。
「良かったじゃないか。ちゃんとみんな感謝してたぞ」
「ご主人さま、ギルド長の感謝状もあったよ! コウカおねーさんの名前がついてる! きらきらしたワッペンも付いてるよ!」
イチイの見つけたワッペンは、ギルドの黄金勲章だった。コウカは感謝状を手にとってくしゃりと抱きしめ、はらはらと涙を流しながら感謝に震える。コウカは1日越しの壮大なツンデレを受け取った。
NEW!
――ギルドの黄金勲章――を手に入れた。
コウカ専用の装備。全ての異常状態を無効化し、クリティカル率が10パーセントアップする。
◇◇◇
夕飯を食べて団欒を過ごす。ウチのダンジョンはうるさいらしいが、それがいいとコウカは言ってくれた。あと、風呂を見せたときはとても驚いてくれた。どうやら、この規模の風呂は見たことが無いらしく、王族であっても土地柄的に難しいらしい。さすがスーパーレアである。最初に当てた俺、非常に誇らしい。
ゆっくりと風呂に入り、時間は夜になる。このときに、初めてベッドが1つしかないことに気付いた。
深夜は冷えるので仕方なく全員が一緒に寝ることになる。オウレンが俺の左肩を腕枕に。コウカが俺の右肩を腕枕に。ミーヌが俺の左胸の上で、イチイが俺の右胸の上でうつ伏せになるように寝る形になった。
「マスターさん、モテモテですね☆」
「うるさいぞ、ホミカ」
四方八方をついに塞がれた俺は、よりどりみどりの角度からの攻撃に精神的苦痛を感じる。
「誰かと一緒に寝たのは、子供のとき、お姉さまと一緒に寝たとき以来ですわ。こういった未知も悪くはないかもしれませんわね」
「あのね、ご主人さまはあったかいんだよ。ぎゅっとすると、あたたかいんだよ」
「うん。一緒だと、安心できていいから。あたたかいのは、いいよ」
2人の純粋な言葉に、コウカは小さく笑う。
「毎晩一緒に寝ているってこのことだったのね。寒いからこそ、優しい温もりを感じやすくて。いいですわね」
「毎晩って、コウカさんは、何を考えていたんですか? 具体的に教えてください☆」
「べっ、別にいいでしょう。もうっ」
ホミカからの追求に、恥ずかしそうに俺へ顔をうずめるコウカ。ちょっとグッときた。ストレス的な意味で。
「コウカさん。旦那さまってたくましい体ですよね。こうやってくっつくと……」
「おあ゛あ゛っ! 急にするな。驚いたじゃないか」
「急にするから楽しいんですよ♪」
「じゃあ、わたくしも。えいっ♪」
ふにょんと柔らかなぬくもりが俺の脇腹を包み込む。
「ひぎぃっっ!」
ヤメロ! みじろぎするな! 俺の魂がぐわしゃってなって飛び散る!
「ふふふっ。オーナーって、面白いですわね。あんなに頑張って戦っていたのに、形無しですわ」
「おまえ……。あまり遊びが過ぎると、この布団から蹴り飛ばしてやるぞ」
「突然にそういった行動をしないで、ちゃんと警告してから言う。やさしい方ですわね。このぬくもりも、全部が…………」
そう言ってコウカは眠りについた。
俺に身を任せるように静かに身体を寄せて、穏やかな寝息をたてはじめた。




