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種なる正義が咲かせるもの  作者: 記野 真佳(きの まよい)
藪(ヤブ)から棒にスタイリッシュダンジョン生活
16/53

詩題:思っていたよりもゼリーが神がかっていた件について

◇◇◇


 コウカがダンジョンへやって来た理由は、ギルドの依頼でダンジョンを調査するためだった。姉の話も大事だがほぼ諦めており、形式だけで期待はしていなかった。

 ギルドへ提出するレポートを書かなければとコウカは考える。


「どういうことかしら。評価できませんわね、あの人は……」


 そうつぶやき、もらった胸当てを取り出して観察する。


「本当に意味がわかんない。すごい装備をくれるし何を考えているの。本当に悪人なのかしら?」


 きらびやかな銀色。鉄よりも軽い。これで炎に強く、鉄よりも丈夫であれば、ミスリルのよろいではないかとコウカは考察した。


 科学力や求めている技術が違うなら、世界によって相場が変わるのは当然である。アルミニウムを精錬するには、ボーキサイトから化学反応を起こし、それを電気精錬しなくてはならない。要するに、錬金術的な化学技術と、物理学的な電気技術の二つが発達していなければ生産することは出来ないのだ。地球ではありふれた物ではあるが、異世界からみれば未知の物質なのである。


「これ、明らかに新品よね。耐性が付加できるなら、本当に凄いことになるわ……」


 ミスリルは貴重でありながら人気素材のため、仮に市場に流れても中古品ですでに耐性強化の改造がしてある場合が多い。新品で耐性強化が自由に付けられるものとなると、ただでさえ高い値段が倍以上に跳ね上がる。家が買えるというレベルではない。貴族から、村を収める権利をまるごと買い取れるほどすごいものなのだ。

 もちろんあくまでこれはミスリルであったときの予想である。レポートを出したら目利きのプロにでも鑑定を頼んでみよう。


 さて、なし崩し的にとりあえずもらった毛布をどうするべきか。


「あら。そでが付いていて、なるほど。着られるのね。あそこの人、みんな着ていたから民族衣装か何かかしら。うん、肌触りもいいし、寝巻き代わりに使ってみるといいかも」


 着る毛布の理解者(信仰者)が増えるのは、これから少し経ったときである。



◇◇◇



 コウカは、ゆったりとため息をついて荷物を見送った。その影が見えなくなるまで、ずっと見送り続ける。


「どうしたんだコウカ? 具合でも悪いのか?」


 声をかけてきたのは、先日一緒にダンジョンを探索した勇者であるガジュツであった。あれから三日は経っただろうか。


「別に。むしろ具合が良すぎるからかしらね」


 今まで重荷になっていたものが、あっさりと片付いたのだ。どちらかと言えば、身が軽くなりすぎて浮いていると言った方が正しいのかもしれない。


「わたくしが貴族の実家を見返したくて冒険者になったのは知っていますわね? 目標は貴族の権利すら買い取れるほどのミスリルの装備品。それが手に入ったから、実家に送りつけてやりましたのよ」

「いいことじゃないか」

「いいことだわ。しがらみも何も無くなったから。逆にこれからどう生きればいいのかしらね」

「どう生きればとは重症だな。夢が叶ったのだから、素直に喜べばいいだろ」

「心のどこかでは夢は叶わないものだと思っていたのかも。毎日を積み重ねていけば意外と叶うものなのね」


 実家を見返したいと一心不乱に夢を追ってきた。とてつもなく大きな夢だからこそ、追いかけることしか考えていなかったのだろう。実際に追いついた後のことを考えていなかったのだ。

 追いかけているという行動が自分の生きる目的だったから、自分というモノを失ったのかもしれない。


「ねえ、ガジュツ。あなたはどうして、あなたのままでいられるの?」


 見失ってしまった自分に足りないものをコウカは問いかけた。


「俺はあるがままに生きていたから今の俺になれたんだ。もしも俺が魔界に生まれていたなら、あるがままに魔王を目指していたさ。世間的な善と悪の価値は生まれで決まるのであって、本当に大切なのは自分がやりたいことかどうかなんだと思う。俺が俺であるかが重要なんだ。勇者というのは、たまたま拾った価値にすぎない」

「その俺とやらが悪だとしたらどうするのよ。ワガママすぎて、いろんな人に妨害されそうな人生ですわね。非効率的すぎるわ」


 その横暴な思想のせいで、あなたは今のギルドで嫌われているという皮肉をしのばせてコウカは言ってやった。


「非効率だろうが妨害されようが知ったことではない。俺はやりたいことしかやらないんだよ。そのやりたいことの苦労は、努力のうちに入らん。努力は当たり前にすることだから、俺の世界には努力なんて単語は存在しない。とりあえず、思いついたものから手にとってみればどうだ? じゃあな」


 面倒くさそうにしながらも、ちゃんと答えてくれた。

 正直に言うと、あの傲慢ごうまんなガジュツがここまで丁寧に答えてくれるとは思ってもみなかった。結局は自分勝手に話題を切って去ったが、当初の彼を知っているものからすれば目が点になっただろう。あのダンジョンに入って変わったのは、どうやら自分だけではないようだ。


「やりたいことか……」


 単純なことを忘れていたようだ。ミスリルは到達点だったことは認めるが、コウカは冒険者になりたくて冒険者になったのだ。


「そうね。今度は勲章くんしょうでも狙おうかしら。ギルド印が入っている金ピカのやつ」


 新しい目標が決まった。あとは気が向くままに、思いついたものから手を取ってみよう。


「とりあえず、ミスリルをくれた人のお礼参りにでも行こうかしら」



◇◇◇



 なんかコウカが訪ねてきた。前に渡した防具がとても高価なもので、その礼もかねてらしい。手土産つきでだ。←ココ、重要!


「えっと、作業はよろしいのですか?」

「いいだろう。そろそろ終わるはずだ」


 俺が、イチイとミーヌに手芸を教えていたところだった。戦えば服は切れるし、ボタンは取れるしと磨耗していくため、自分の服は直せるようにと教えていたのだ。

 2人はちくちくと布はぎれ同士を縫い付けて練習している。


「ふぅ。完成……!」

「やった! できたー!」

「おう、2人ともできたか。どれ、見せてみろよ」


 まずはミーヌの布はぎれを見る。


「うわっ、小さすぎて評価できない……! むしろ、よくコレ同士をくっつけられたな?」

「はぅ……ごめんなさい。いらない布をくっつける練習って言ったから」

「いや、謝らなくてもいいが。もっと遠慮せずに大きい布で練習しても良かったんだぞ」

「うん。じゃあ、今度はもっと甘えてみる」


 布を使うのくらいは甘えじゃないんだけどな。

 俺は頑張ったミーヌをやわらかく優しく撫でてやる。ミーヌは嬉しそうに頬をほころばせた。


 その一方でイチイは……


「じゃーん! ちゃんと大きい布でやったよ!」


 紙でいうA3サイズの白い布のど真ん中に、丸く切られた赤いフェルトをドンと貼り付けるダイナミックな作品ができていた。


「もうちょっと遠慮をしろよ。しかも、フェルトの縫い合わせ方。波縫なみぬいにしてるとか……」


 ぶっちゃけ、不恰好な日の丸みたいな状態である。丸も微妙に崩れてるし。

 ふっふっふと不敵に笑うイチイ。


「しかし! なんと、たいぃ!」


 イチイがテディベアの首を布でぎゅーっと締め付ける。


「ふふっ。そう、実はマントだったのだ!」


 日の丸を背負っちゃったよ。オリンピック選手かよ。洋風なテディベアとの組み合わせが、非常にシュールな格好になっている。

 そのイチイに遊ばれているテディベアは、身じろぎせずにぬいぐるみとしてじゅんじて黙ったまま動かない。おまえ、ぬいぐるみとして空気を読みすぎだろ。


「ご主人さま、なでなでしていいんだよっ!」

「はいはい。ほら、どうだ?」


 コイツは、ぐしぐしと思いっきり撫でてやる。


「きゃうっ! えへへ~」


 嬉しそうである。

 イチイの作品が完成したのを見て、コウカが話を切り出した。


「実は手土産でお茶の葉を持ってきました。メジャーどころですが、ここだと手に入れるのも大変でしょうし」


 えっ、お茶なんだ。菓子折りじゃないの。別に嫌じゃないけどさ、嫌じゃないだけというかなんというか。

 とにかく持ってきたからには、その場で開けるのが礼儀だろう。みんなでお茶会をすることになった。


 そういえば茶器はあったかなと探してみると、なぜか戸棚の中にティーポットがセットで入っていたのを見つけた。俺のダンジョン、優秀すぎる。魔界の技術スゲーって久しぶりに思った。


 お茶ができた。オウレンとミーヌがお茶に口をつける。


「教会にいた頃によく飲んでいましたね。懐かしいです」

「前のおうちの香りがする。こんな味だったんだ。いいかも」


 2人には好評のようだ。

 俺も飲んでみる。ほんのりとした甘みのある香りに、すずやかな苦味がすっとのどを通り過ぎる。優しいのどごしだ。ほっとするような、心が落ち着く味わいだ。ストレス社会(女ばかりのダンジョン)の中を生きている俺にとって、まさにオアシスであった。


 お茶っていいなあ。俺、ダンジョン経営が軌道に乗り始めたら、茶畑作るんだ……って、おもわず考えてしまいそうなほどに素晴らしい。まあ、森だから土地は山ほどあるだろうし、今後はそういうことを考えていくのも面白いかもしれないな。


「あぅぅ……。ご主人さま、苦い……」

「テンションがガタ落ちなのですよ。くんくんって甘い香りに騙されました。くんかくんか詐欺なのです」


 まあまあ。このまえ当てた権利のこんにゃくゼリーやるから気落ちすんな。

 お客さま待遇と言うことで、興味本位で魔王セレクションを頼んでみた。どうやら味が2個ずつ入って合計12個入りのようだ。


 どれどれ中身は何が入ってるだろう。

 マスカット、グレープルフーツ、なるほどメジャーでもウマイ所は押さえているとはさすがじゃないか。ほう、ハニーシロップ味とはなかなかレアっぽいな。シュワーヌソーダはラムネ系だろうか。おい、レジェンド グランドってなんだよ! 伝説級の大地の味がするの!? 土味の時点で伝説だよな!? なんてふざけた味なんだ! ば、ばかな……たまご味だと!? その発想は無かった。ヤバイ、まったく味の想像がつかない!


「6人いるから、ひとり2つずつだな。ジャンケンするぞ」

「じゃんけんとは、なんですの?」

「手でこうやって、勝つのと負けるのがあるんだよっ!」

「手の握り方に相性があるのです☆ 手を握るのが2本の指に勝てて、2本の指は手を開いたのに勝てて、手を開いたのは手を握ったのに勝てますよ☆」

「なるほど。三すくみになっているのね。いいですわ、やりましょう!」

「よっしゃいくぞ! 勝ったやつから2つずつ決めるんだぞ! じゃーん、けーん、ぽんっ!」



◇◇◇



結果発表

NO1、イチイ

マスカット味。シュワーヌソーダ味。


NO2、ホミカ

ハニーシロップ味。マスカット味。


NO3、コウカ

シュワーヌソーダ味。グレープフルーツ味。


NO4、ミーヌ

ハニーシロップ味。たまご味。


NO5、オウレン

グレープフルーツ味。レジェンド グランド味。


NO6、俺

レジェンド グランド味。たまご味。


 俺、幸運のステータスが異常に低かったよね。よく思い返すとさ、最初に戦ったレベル1のゴブリンにも負けていた気がするんだ。あと4位と5位が遠慮しあってるけどさ、その遠慮が俺に届いていないんだけど。


「では、最下位さんがハイパーかわいそうですので、最下位さんから先に食べてもらいましょう☆」


 ホミカ。おまえ、めっちゃ楽しんでるだろ。


「おにいちゃん。できたら感想を聞かせてくれたら嬉しいな。特にたまご味を。ちょっぴり怖いから……」

「旦那さま、交換しますか? レジェンド グランド味なら出しますよ」


 それをやったら、俺がレジェンド グランドの二刀流の危機におちいってしまう。その誘いは、本当にレジェンドになれてしまう罠である。


「ええい! 男に情けは無用だ! お望みどおりに、たまご味、行ってやらぁっっ! ……ん? うおっほぉぉ! たまご味うまいぞ! 当たりだった!」


 これはアレだ。ケーキの生地に似た味だ。ゲテモノだと思って食べたから、予想外に味が整っていて驚いた。


 まさかと思いレジェンド グランド味も食べてみる。これは懐かしい味がする。これは、きなだ! 色は土っぽいもんな。名前の付け方による文化の違いだなあ。うめぇぞこれも。


 さすが魔王様セレクションだ。ちゃんとウマい物しか入ってない。たまご味まで探索するなんて、よほどこんにゃくゼリーが好きなんだな。恐れ入ったぜ。


「あっ、たまご味。思ってたよりもおいしい」

「レジェンド グランド味もいいですね。意外と役得になれました」

「あらっ。初めて食べましたが、シュワーヌソーダもなかなかですわね。未知の味は素晴らしいですわ!」

「ほんとだ! ご主人さま、これすっごいよ! しゅわしゅわしてるし、面白くておいしいよ!」

「ぐぬぬぬっ。未知に挑戦(ブルーオーシャン戦略)するべきでしたか。マスターさん! もう一回やりましょう!」


 新しい魔王様セレクションを出して、もう一回やることにする。かなり盛り上がったジャンケンになった。


◇◇◇


 ダンジョンから帰った次の日、執務官がコウカの泊まっている宿屋にやってきた。ミスリルをどのように手に入れたのか、違法性がないかを細かく問われる。開放されたのはその日の夕方だった。もうギルドは開いていない時間だろう。


「お聞きしたいことは以上です。おつかれさまでした。長いあいだ拘束してしまい、大変申しわけありません」

「いいえ、分かりますよ。中古のミスリルならともかく、新品でしたからね。疑うのは当たり前ですわ。むしろ、きちんとお仕事に従事なさっていて関心したくらいです」


 貴族の家から飛び出したコウカは国に所属しているというのは大変なことなのだと知っていたし、同時に手を抜いてはいけない事を知っていた。だから執務官をとがめはしなかった。

 執務官がほほをゆるめる。


「ご理解をいただけて、ありがたいです」

「とんでもございませんわ。それと、あなたの香りで少しは癒されていましたからね。香水ですか?」

「よく分かりましたね。職業柄、遊びの幅が少ないんですよ。ですから、こういった方面の楽しみ方をしているんです」

「わりと好きな香りでしたよ。どこの香水かしら」

「クロミーツの香水です」


 コウカは香水に詳しくなかったが、それでも耳にしたことがある名前なのだから良いブランドなのかもしれないと思った。


「そういえば、今朝に宿屋のおばさんと話していたわ。香水ではないですけど、センスの良い小物を持っている人は上品な人柄だと。おばさん的には、ハンカチのポイントが高いらしいですわよ」

「ハンカチですか。次はそれもいいかもしれませんね。香水はよろしければ差し上げますよ。同好の仲は嬉しいですから」

「冒険者ですから無駄になってしまいますわ。冒険者でなくなってから、お願いしますね」


 プレゼントを断るのが今日で2回目だ。宿屋のおばちゃんに、美人でもったいないからハンカチをプレゼントしてあげると言われていた。こちらも冒険者という職業柄、すぐに汚れるからいらないと断った。

 執務官と談笑したあと開放された。明日は何をしようかとコウカは夜空を見上げながら思った。


◇◇◇



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