表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3話

 一般的に、男と女を比較すると女のほうが魔力が多いと言われる。

 と言うのも、女が子供を産むとき、女の体内から魔力が子供へと流れていくことがこれまでの研究で分かっており、そのため女は子供を生むほどに自身の総魔力量が減っていくのだが、そのための備えとでも言うのか、生まれた時から総魔力量は多くなる傾向にあるらしい。

 これは純然たる事実であり、男と女の魔力量を比較すると、女のほうが平均で三割から四割高い。

 とは言っても、個人単位で言えば女よりも魔力量の高い男だっているし、男より魔力量の低い女だっている。

 ただ世界規模で見た時、総魔力量に順位のようなものをつけるのならば、上から二十番目くらいまでは女の名前で埋まる、と言うのが一般的な見解だ。


 魔法を使うには、必ず魔力が必要となる。正確には、魔粒子を作用させるとき、そこに魔力が発生するのだが、その魔力が魔法要素(マギエレメンツ)に干渉し、魔法を引き起こす。

 つまり総魔力の高さは、魔法の使用回数に直結しやすい。

 と、言っても。ほとんど人間…………それは無論、男も女もだが、だいたい五発、多くて十発も魔法を連発すれば魔力切れを起す。奇跡の代償はそれなりに大きく、そして人間の持つ魔力量と言うのはたかが知れている。

 だがそれだけならば、それであっさり魔法が使用できなくなるのならばマギアーツなんてやってられない。あれは長い時は十数分にも及ぶ長時間の勝負になるときがある。

 だが魔法の五発や六発、試合開始三十秒内で使い切るような頻度だ。だったらそれ以降もう魔法が使えなくなるのか、と言うとそうでも無い。

 ここで重要になってくるのが、魔力生成量と総魔力量の違いだ。

 どちらも読んで字のごとし、ではあるが、少しばかり数字を使って説明してみようと思う。


 魔粒子や魔法要素と違い、現在では魔力は数値で表すことができる。


 基準となるのは、創造系統の魔法、その中でも基本とされる灯火(ランプ)の魔法。

 これに必要な魔力消費量を1とし、その単位をMaF(マギフォースの略)とする。

 魔力生成量とは、秒間でどれだけの魔力を生成するか。単位はMaF/sマギフォースパーセカンドで表される。この数値は個人ごとに違うが、基本的には生まれた時から決定されているものであり、生涯変わることは無い。第三世代の赤子は生まれてすぐにこの数値を測定され、それぞれの数値に見合った導具を付けられる。


 ついで総魔力量とは、まさにそのままなのだが、個人の留め置ける魔力数値の()()()を指す。導具をつけていない時、魔力と言うのは永続的に増え続け体内に蓄積され続けている。第二世代の弊害については以前語ったと思うが、第二世代以降の人間は総じて体内のアンチエリクシルが減少傾向にある。逆に魔粒子は増加傾向にあるので、体内での魔粒子とアンチエリクシルのバランスが崩れており魔法が暴発しやすい。だからバランスが崩れないよう溢れた魔粒子を魔力に変換しながら導具に流し、貯蔵しながら日常の中で適度に放出しているのだが、このバランスが崩れるギリギリのライン、臨界点に至るまでに体内に留め置ける魔力量のことを総魔力量と呼び、MaF/allマギフォースオールと言う単位で表される。


 さて、ここでマギアーツと最初の話に戻るが、マギアーツにおいて、魔力量が高い、と言うことは、それだけ魔力切れが遅くなる、ガス欠になりにくい、と言うことである。高速で移動しながら互いに魔法を撃ち合うそんな試合だけに分かりづらいかもしれないが、たった一発分でも良い、相手より魔力量が高ければ、撃ちあいながら相手が魔力切れを起し、防御魔法すら使えなくなった無防備な状態へと攻撃を行える、と言うことである。

 実際は自身の魔力量を考えながら、魔力の回復を挟みながら撃ちあうので、早々そんなことにはならないのだが、それでも魔力量が高いと言うのはそれだけで優位性があるのは事実なのだ。

 故にマギアーツにおいては男より女のほうが優位になれる…………と、言われると実はそうでも無い。


 あくまで統計や平均の話であって、個々で見ればいくらでも例外はあるのだが、基本的に男と女では運動量の激しい競技をすれば男のほうが有利だ。それはマギアーツに限らず、プロスポーツの大半が男と女で分かれていることを考えれば自明の理だろう。マギアーツは魔法だけではない、単純な運動能力と言うのも存外必要となってくる。例えば相手が放ってきた魔法、それを対処するのに一々障壁を張って防ぐのと単純に身体能力を強化して回避するのとでは後者のほうが圧倒的に魔力消費も少ないし、反撃の余裕もある。

 マギアーツはスポーツと銘打ってはいるが、中々に野蛮で激しい戦闘行為である。故に単純な運動量だけではない、精神的な疲労などにより試合中は加速度的に体力を消費していく。

 そう言った面で見ると、女よりも肉体的に勝っている男は有利なのだと言える。


 と、まあマギアーツに限って言えば、男も女も実はそれぞれに利があり、難がある。故に中々に男女平等な競技であり、プロになっても性別で分けたりしないやや珍しい競技である。


「と、言うわけで、だ…………マギアーツには魔力操作も重要だが、体力だって必要なんだ」


 そう言って部員たちのグラウンドに走るよう部長が告げる。

 その言葉にやっとか、と言った辟易した表情で部員たちが走り出す。

「いや、前置きが長すぎだろ」

 そんな様子を見て、思わず口に出さずにはいられず、口で突いて出た言葉に部長の少年が振り返る。

「おう、勇樹、来てたのか」

「来てたのかじゃねえよ、このくそ暑い日にグラウンドで長々語って、あいつらが可哀想だろ」

 因みに先ほどまでの前置きは全てこの男が今部員たちに向けて語った言葉であり、この真夏のくそ暑い真昼間から部員たち全員をグラウンドの日向で太陽で焼きながら長々と十五分近く熱演していた言葉であることをここに伝えておく。

「マギアーツは簡単なスポーツじゃない、試合中は苦しいこともあるし、辛いと思うこともある。それでも耐えることのできる精神を身につけるためには仕方の無いことだ」

「嘘つけ、説明につい熱が入って長くなっただけだろ、良いこと言って誤魔化そうとするな」

「おっと、バレたか。相変わらず鋭いなあ、勇樹は」

「お前何回同じことやってると思ってんだ、宗司」

 呆れ混じりの俺の視線に、部長…………マギアーツ部部長暁宗司はてへっ、と舌を出して誤魔化す。男がやったって全く可愛く無いどころか、腹立つだけだったので、軽く頭を叩いておく。

「いて、ったく。なんか機嫌悪そうだな、昨日なんかあったのか?」

「……………………」

「お、図星? んで、何があったんだ?」

 話すべきか、話さざるべきか。まあ個人的な事情なので話さなくても良いのだが。


「…………絶対誰にも言うなよ?」


 前置きする。


「おう、任せとけ」

「約束しろ」

「そこまでか?」

「ああ」

 念押しするように言う俺に、宗司が目をぱちくり、とさせ。

「…………分かった、男の約束だ!」

 ぐっと拳を握る。宗司もまた同じようにし、互いに拳を合わせる。

 こいつがこれをしたなら信じても良い。少なくとも、この幼馴染は“男の約束”だけは絶対に破ったことが無い。

 だから少しだけ安堵しながら昨日のことを語り始める。



 * * *



「お、おま、なんでお前がここにいるんだよ!?」

「アンタこそ、なんでここに…………どういうことよ!?」


 互いに混乱の極み。だが驚いたのは俺たちだけでは無かった。

「勇樹? 藤間さんの娘さんと知り合いだったのか?」

「悠希? 神代さんの息子さんと知り合いなの?」

 父さんも、唯さんも目を丸くして驚いていた。

「嘘だろ、唯さんの娘さんってお前かよ」

「は? なんでアンタがお母さん知ってるのよ、ていうかこれ何の席なのよ」

「おい、父さん冗談だろ、やっぱ前言撤回するわ、こいつは兄妹とか絶対にお断りだぜ」

「は? 何気持ち悪いこと言ってるの? そんなのこっちことお断りに決まってるじゃない、ていうか母さん、もしかして今日ここに来たのってそう言う話なわけ?!」

「あら、先に言われちゃった。そうなの、お母さんね、こちらの神代さんと再婚しようかと思ってるの」

「挨拶送れて済まないね、神代陸奥と言う。お母さんとは会社の同僚でね、親しくさせてもらっているんだ」

「あ、はい…………母がお世話になっています、ってこの人、イサのお父さん?!」

「悠希ちゃんは、うちの息子と知り合いなのかな?」

「え?」

「そう言えば、勇樹くんもうちの娘と知り合いなの?」

「は?」

 ぐだぐだな会話が続く中、父さんと唯さんの言葉に、互いがピタリ、と硬直する。

 ぎぎぎ、と互いに顔を見合わせる。


  話してないのか?


 と言ったこちらの視線に、そっちこそ、と言った様子で返してくる。

 数秒見つめあい、やがて出した結論は。


「「ちょっとトイレ」」


 目を丸くする親たちを置いて、そそくさと部屋を出る。

 部屋を出て少し離れ、声が届かないか、と一度視線を部屋へと向け、大丈夫か、と戻す。

「どういうこと?」

 同時にハルがそう尋ねてくる。

「そっちこそ、どういうことだよ」

 聞きたいことは同じなのだろう。

「MATのこと、知らないのか?」

「MATのこと、知らないの?」

 ピタリと互いの声が揃う。

「「……………………はぁ」」

 互いに顔を見合わせ、ため息を吐く。

「どうやら、互いに事情あり、みたいだな」

「そうね、まあそれはさておいて、どういうことなの? アンタと私が兄妹とか、意味の分かんないこと言ってたけど、あの二人の様子見る限り、そう言うことでいいのね?」

 ハルの問いにこくりと頷くと、ハルがもう一度嘆息した。

「…………正直な話、アンタどう思ってるの? あの二人の再婚…………と言うより、私たちの関係について」

()()()()()

 即答だった。だがそれが偽らざる俺の本心である。

「お前だってそうだろ?」

 そう尋ねれば、ハルはその整った顔を僅かに歪めながら…………そうね、と返した。


「有り得ない、確かにその通りね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんなハルの物言いはともかく、言ってること自体は全く持って同意である。


 神代勇樹と藤間悠希の関係性を一言で表すならシンプルな一言に落ち着く。


 即ち、好敵手(ライバル)


 互いに並ぶものがいないほどの力を持つが故に、もうお互いしかいない。

 そんな他人には分かりづらい関係。


 そしてだからこそ、困っているのだ。


 母親が亡くなったのは、もう随分と昔のことだ。まだ俺が小学校に上がったばかりの頃だったか。

 交通事故だった、何の予兆も無く、あっさりと。家から一人、住人が消えた。

 あの日のことは今でも覚えている。

 学校から帰ってきて、いつもなら母親がいるはずの家、けれどその日だけは誰も居なくて。

 母さん、なんて声を挙げても何の反応も無く。

 不意に嫌な予感がした。

 ちくたくと、時計の針がやけに大きく聞こえた。

 そうして予感に背を押され、家を飛び出そうとした俺にかかってきた電話。

 あの日、俺の中で大事なものが一つ欠けた。

 それからの父さんは酷かった。涙を見せたのはその日だけだった。次の日からは全てを忘れるように仕事に打ち込み、母親の代わりに家事をこなし、休む暇も無いくらいに必死に働いた。実際それで良かったのだろう、もし時間を余らせれば、母親のことを思い出したのだろうから。

 俺は…………どうしていたのだろう。自分でも良く覚えていない。昔のことだから、と言うのもあるが、余りにも唐突な出来事に、現実味が感じられなかった。

 ようやく心の整理を付けたのは、その一月後、父さんが過労で倒れた時だった。


 と、まあ。今はそんなことは良い。

 問題は、母さんが亡くなってから十年近く、父さんは男手一つで俺を育ててくれた。

 自身の全てを俺に捧げるかのようなその生き方を苦々しく思っていたのも事実だ。

 その父さんが、自分の幸せを掴もうとしているのなら、素直に応援してやりたいと思っている。


「でも、俺は…………父さんが幸せになれるのなら」


 呟いた一言に、ハルが目を閉じ、黙り込む。

 数秒の沈黙。そうしてハルが再び目を開き。


「そうね…………私も、母さんがそうしたいって思うのなら、反対はしないわ」


 アンタと姉弟ってのは癪だけどね、と呟くハルにこっちの台詞だ、と返す。


「妥協しよう…………そこに異論は無いか?」

「無いわ…………仕方ない部分は確かにあるから、けど」

「そう、けどだ…………絶対に妥協できない部分もある」

「つまり」


「「馴れ合わない」」


 ぴたり、と言葉が重なる。

 互いに視線をぶつけ合い。そうして笑いあう。

「問題無いな」

「そうね、結論は同じみたいね」


 家族になる、と言うのならそれでも良いだろう。

 新しい関係性、兄妹と言う思っても見なかった関係性を築くのも仕方ないと割り切る。


 だが絶対に馴れ合うことはしない。


 ことマギアーツにおいて、俺たちは絶対に妥協しない。


 戦うなら全力で、そして死力を尽くし、全霊を持って叩きのめす。


「そこだけ線引きできてるなら俺たちはやっていける」

「…………正直、複雑な気分だけどね」


 そんなハルの言葉に。


「俺もだよ」


 そう言って苦笑した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ