§第七話§学園最強の生徒
そしてついに試験前日となった、周りにいつもと違う気配を感じつつ進は学校へ登校した。教室の中に入ってみるとよりいっそうその違いが感じられた、クラスメイト一人一人の視線が分厚い魔術書の写本に注がれており新しい魔法の概念を覚えたり再確認しているようだった。進もその雰囲気に圧され自分の席に座ると両親から送られてきたまだ遺跡から発見されて間もない解読もされていない魔術書の解読を始めた、解読の作業に夢中になっているといきなり肩を叩かれた、振り返ってみるとそこには成二の姿があった。成二はいつも一時間目か二時間目が終わってからフラリとやってくるのだが今日は朝早くからやってきたので進は少し驚いていた。
「なあ進、その本ってまだ解読されてないみたいだけど何処で手に入れたんだ?」
油断していた為か隠すのを忘れていた魔術書を見つけられて言い訳を考えていると、
「まあいいや、それより今日千秋が俺とお前と東で試験直前の戦闘練習をしようって言ってたんだけど参加するか?」
深く問い詰めてこなかった事に安堵した進は笑って答える。
「良いけど・・・あんまり僕の実力知られたくないからかなり手加減するよ?」
「それが良いと思うぜ、前の模擬戦で千秋は進のこと魔力の少ない頭の回転が少し速い奴程度にしか感じていないみたいだからいきなりお前の本気見たりしたら過剰に反応して激しく暴走しそうだしな」
「うん・・・そうだね、それで何時から何処でやるの?」
「時間は放課後の部活が終わった時間、千秋も東も部活に入ってるからな、大体六時ぐらいでいいと思う、場所はいつも二人で訓練している個人闘技場だ、わかったな?」
「わかったよ」
話していると朝のHRの始まりのチャイムが鳴り一分ほどしてから大石が入ってきた。そしていつも通りの授業が始まると思ったが・・・。
「今日一日明日が試験日ということもあり全て自習とする・・・以上朝はこれまで」
一通りの挨拶を終えて大石が出て行くと同時に生徒が一人一人違う行動に移った。ある者は朝と同様魔術書を読み始めたり、またある者は仲の良い友達とともに個人闘技場へ模擬戦に行ったり、そんな中進は図書室へ行き解読をしていた、ふと周りが異様に静かに思い見渡してみた図書室は不思議と人が自分以外に青年一人しか居らず快適であったが試験前だったので逆に無気味に思えた。だがすぐに無駄な事を考えるのをやめて進は黙々と解読を進めていった、二時間ほどで二十頁ほどの解読を終え一息つく、すると突然背後でパチパチと拍手が聞こえた。
「解読しちゃうなんて凄いね、君って見たことないけど転校生なのかな?」
先ほどまで少し離れたところで本を読んでいた青年が背後で進の解読していた魔術書を覗き込みながら言ったので進は警戒して魔術書を抱えて距離をとった。
(いくら油断してたとはいえ気付けなかった!?この人・・・何者だ?)
「そんなに警戒しないでよ、別に危害を加える気なんてないし」
「貴方はいったい何者ですか?」
「僕は聖徒戎の生徒会長の天草義輝」
「聖徒戎?」
「あぁ、聖徒戎って言うのはこの学校の実力者のみで構成される風紀を守る人たちの会でね、簡単に言えば生徒同士の暴動ややり過ぎた行為を鎮圧させたり止めたりする役割りの人のことを言うのさ・・・その様子じゃ二つ名についても知らないみたいだね?」
「はい、知りませんけど」
「じゃあついでに教えてあげるよ、二つ名っていうのは学園内の強い者につけられる別称でね、この学校では・・・二十四人いるかな」
「色々と教えてありがとうございました、では僕はもう行かせてもらいます」
なんとなくここには居たくないという気分になり事務的な挨拶だけ済まし図書室から出て行こうとすると・・・。
ガシリと手を掴まれ引き戻される、少し礼儀がなってないと思い振り向き様に拳を突き出したが・・・手首を掴まれ身動きが取れない状態となる。
「意外と乱暴だね天野進くん、いや十文字進と呼んだ方がいいかな?」
十文字という単語を聞いた瞬間身体の表面に電流を流し義輝を振り払う。だが義輝は攻撃が当たる直前に自ら手を離し電流を回避していた。
「危ない危ない・・・電流を作り出す素振りなんて全く見せなかったけど、まさか思っただけで作り出したのかい?」
「貴方に言う義理はないと思います、それよりも僕の素性・・・どうやって知りました?」
「秘密、と言っても無理にでも聞き出そうとするんだろ?しょうがないから今から個人闘技場で僕と一戦交えて勝てたら話してあげるよ」
「分かりました」
そのまま二人は何の用意もせずに個人闘技場へ向かった、途中で訓練している生徒達の視線が集中しているのに気が付いたが別段気にしないで個人闘技場へとついた。
「今回の戦いは僕と君だけの戦いだから写真もビデオも撮ってない、要するに周りの目を気にしないで思いっきり掛かって来なって事だよ」
「後悔しても・・・知りませんよっ!!」
進は向かうあうと同時に一瞬で加速し義輝に飛び掛かり両拳に赤い炎を纏わりつかせ一気に勝負に出た。
(情報を聞き出す為に・・・少し手加減して・・・。)
後二歩踏み出せば拳が当たるというところで義輝は動き出した、上体を斜めに反らし一発目の拳を交わすとカウンターの要領で進の顔面に拳を突き出した、避けられる思っていなかった進は慌てて手を引き戻し防御しようとするが間に合わず義輝の拳が進の鳩尾にめり込んだ。
グハッと口から少量の血を吐きながら前のめりに倒れこむ進を義輝は興味なさそうなめで見ながら倒れた進に向かってこう言い放った。
「所詮は良い所の坊ちゃんか・・・少しは楽しませてくれると思ったんだけどね。ハァ、これで後継者探しも最初からやり直しかな」
そして出入り口から出て行こうとする義輝が一歩踏み出した時だった。
「待てよ・・・。」
声に誘われ振り返ってみるとそこには倒れたはずの進が立ち上がっていた。
「あらら。一応本気で殴ったんだけどもう復活しちゃったんだ。でももう無理しないで良いよ、傷つけて悪かった・・・慰謝料なら後で聖徒戎に請求書を送って・・・。」
義輝の言葉は途中で終わった、何故なら目の前にいる進が先ほどとは別人のような気迫を纏っていたからだ。
「僕は今この学校で貴方に逢えて少しだけ良かったと思っています、だってこのまま僕がこの生活を受け入れ続けていたら戻れなくなっていたと思いますから、でも貴方は僕に戦場を与えてくれました・・・先ほどは見苦しいところを見せてしまってすみません。これからが・・・これからが僕の本気ですから」
そう言って義輝を見据える進の瞳の色は黒から白金へと変わっていた。
直後今度は義輝が走り出した、足元の影から五本ほど針が伸び進の上下左右と正面から襲い掛かった、進はバックステップで全ての攻撃を交わしたがそれは義輝がわざと残しておいた逃げ道だった。進の背後には影で出来た巨大な剣が迫っていた、進はまるでそれが待っていたことが分かっていた様に背後も見ずに左手をかざす、すると進の左手から光の粒子が放たれ一秒も経たないうちに巨大な剣を消し去った。
「うわぁ・・・光系も使えるんだ、これは僕にとっては天敵だな」
困ったように言っているが義輝の顔は全く困っていなかった。
「じゃあ僕も本気を出すよ?」
そう言って影の中に手を伸ばし何かを掴むと引き出した、引き出された手には大きな鎌が握られていた、戦場に立つその姿はまるで死神を連想させるものだった。
「武器使って良いなら僕も使わせていただきますよ」
進はそう言うと指を噛んで傷を作りそこから滴った血を地面へと垂らした。すると垂らした場所が光り輝きだし辺りを光で覆い隠した。
「この光・・・やっぱり転送魔法か」
転送魔法とは召喚魔法の小さく分かれた種類の一つで物体を呼び出したり送ったりするのに使う。この場合は進が呼び出すものと血の契約を交わしており垂らした血によって物体を呼び出したと思われる。
光が収まるとそこには天剣を持った進の姿があった、天剣を見た義輝は一瞬驚いたような顔をしてから感心したように天剣を眺めていた。
「放出系壱の剣、魔破・・・」
眺めていた義輝を無視して進は天剣を両手で持ち肩に構える、
「斬!!」
と言い放つと同時に振り下ろした天剣の刀身から魔力の塊が放たれ地面を削りながら義輝に迫った。義輝は避けずにその場に止まるとと大鎌を振り上げ無造作に魔力の塊を斜めに刈り取った。刈り取られた魔力の塊は嘘のように消えその場に静寂が訪れた。
「なかなかの魔力を込められてるみたいだけど、そんな手加減をしたままの攻撃じゃいつまで経っても僕に攻撃を当てる事は出来ないよ」
進はチッと舌打ちをすると目を閉じる、小さく何かを呟いているようだが耳で聞き取れるようなものではなかった、だがそれを見た義輝の顔が先ほどのような余裕が失われており大鎌を構えて凄い形相で襲ってきた。
「今から使っても彼の方が展開は速い・・・ならっ!!」
さらにスピードを上げて進に義輝は迫る、構えていた大鎌の刃の無い柄の部分で進の足元を狙う、が振り下ろしたその場には進の姿は無かった。
「光系古代魔法レクイエムか・・・。」
そう言って見上げる義輝の頭上には巨大な白銀色の光で創られた十字架が現れていた。義輝は避けられないと思ったのか大鎌を地面に突き刺し周囲の影を大鎌に集め始めた。
(完全に無傷で受けきるのは不可能だ、なら・・・どうにかして威力を外に流すか)
そして影を吸収して三倍ほどに大きくなった大鎌を義輝は正面に構えた。その時にはレクイエムの発動準備は完璧に出来ていた、そして十字架の交差している部分に進が現れる。突き出した左手には天剣が握られておりその切っ先にレクイエムの全ての魔力が集中しているようだった。次の瞬間、天剣の先から光の閃光が放たれ義輝を襲う、歯を食いしばり手の平を血だらけにしながら大鎌を力強く握り威力を必死に堪えながら回りに精一杯衝撃を流していた。義輝の足は五センチほど地面にめり込みもう少しで靴が全て陥没してしまうところだった、その時閃光が放たれるのが途絶えた。
「耐え切ったぞ・・・!?」
全てを耐え切ったと思った義輝の考えは甘かった、進の持っている天剣の光は失われていたもののその背後にある白銀色の十字架は今なお健在であった。
「これが本当の・・・レクイエムです」
進の呟きとともに十字架が義輝目掛けて落下した、地面に十字架が触れた瞬間辺りは閃光に包まれ十字架は大地と空を射抜く光の柱となり数秒間その姿を保ち幻のように消えた、レクイエムのあまりの威力に個人闘技場の結界は消滅させられ天井と闘技場の地面には十字架型の大穴を開ける結果となってしまった。回りを砂埃が覆っている中、天井の穴から一人少年が飛び出した。その少年は一度闘技場の方へ目をやるがすぐに視線を戻し寮の方へ消えていった。
そして闘技場の地面の十字架型の大穴の横には仰向けに天井を見たまま笑っている義輝がいた、騒ぎを聞きつけた先生や生徒が集まる中義輝は先ほど出て行った進のことを考えていた。
(わざと外したなぁ、もともと言う気が無いから約束なんてどうでも良かったけど・・・彼にならこの学校を任せても良さそうだ。でもそれはそれ、これはこれってことで今度やる時はなんとしても勝たないとなぁ)
その顔には清清しい笑みが浮かんでいた、それを見た回りの生徒は口々に「あの『闇夜の死神』が笑ってる・・・」「この人間離れした破壊力・・・流石学校最強の『闇夜の死神』だ」「見るの止めとけ、あいつは所詮学校の犬だ」などなど、聞こえてはいたが義輝にはどうでも良かった。そこに一人の眼鏡の似合った女子が歩いてくる。
「会長、ここで何がありましたか?」
眼鏡を一度上げてから聞く、どうやら癖の様だ。義輝は立ち上げると色々な意味を含めた笑みを浮かべて
「育てたらものになる仔犬を見つけたと思ったら、とんでもない狼だったよ。」
と言った。一瞬呆然としていた眼鏡の女子だったが、何の答えにもなってない事に気付き更に問いただそうとするが、間に合わず義輝は逃げるように去っていた。
その頃進は学校に戻るかこのまま寝るか考えていた、考えているとあることに気付き時間を見る。
「ヤバイ・・・皆との約束の時間だ・・・。」
そう時計は六時を指していたのだ。
所々傷が痛んだが進は身体に鞭打って個人闘技場へと走っていった。




