§第四話§忘れっぽさ
進が入学してから三日が過ぎた、この三日間別段特別な事もなく授業中に今日の献立を考える。授業のノートには、ニンジンやらキャベツやらと全く授業とは関係ないことが書かれるようになっていた。
「サラダと日持ちするカレーが良いかな・・・でもカレーばっかりじゃ流石に飽きるし・・・。」
考え込んでいると進の耳に風の魔法でメッセージが届く
『おい進、今日も訓練手伝えよ』
そのメッセージは成二からだった。この三日間で変わった事は実は一つだけあった。それは成二が進に訓練という名の魔法の模擬戦をさせられている事だった。
進は軽く溜息をつくと成二に『わかった』とメッセージを送り返した。
学校が終わると成二は個人闘技場という魔法の練習用の小型体育館に進とともに来ていた。
「進よろしく頼むぜ」
そう言って進に向かって成二は構えるが進は自然体のまま「どこからでも来て良いよ」とやる気無さそうに言う、最初に訓練をした時こそ成二は進の態度に不満を漏らしたが一撃も与えられなかったことと毎度の事で慣れたということもありそのまま向かって行く、風の魔力を乗せた蹴りが進を強襲するが右手に同じ位の風の魔力を集めて放ち成二の風の魔力を相殺させ半歩下がる、眼前で空を切る蹴りを瞬きせずに目で追い重心となったもう片方の足を軽く払う、すると自分の蹴りの力に成二は飲まれ転倒してしまった。
「風ばっかりを使うのも良いけど少し戦闘経験のある奴にならそれだけだと全部かわされちゃうよ、もう少し弱くても良いから他の魔法も使って翻弄させてから必殺の一撃として使わないと、後はもう少しフェイントとか入れよう、攻撃が正直すぎるから」
一応訓練としては、ちゃんとやっているらしくちゃんと直すべきところはしっかりと伝えてくる。成二は黙って立ち上がると一度進と距離を取るために後方に飛ぶ。
「本当に強いよな、でも何でその強さを誇示しようとしないんだ?」
成二の問いに進は少し考えて答える。
「僕は別に偉くなりたくて強くなったんじゃないから誇示したいとかは思わないよ」
「そんなもんか、まあ人それぞれって言うからな」
納得したような顔になると訓練を再開した。
一時間後掠り傷と少し汚れた汗だくの成二の前に最初の立ち位置から少ししか動いていない進が疲れた様子もなく立っていた。
「き、きつい・・・。」
「そんなにきつかった?じゃあ今日はこれくらいにしとこうか」
そう言うと進は個人闘技場を後にした。その後近くのスーパーでカレーの食材を買うと寮に帰っていった、一方一撃も与える事が出来なかった成二はその場に寝転がると深く溜息をして天井を見つめて呟いた。
「毎回思うが・・・あいつホントに何者だよ・・・。」
そして疲れ果てたのかそのまま成二は眠ってしまった。
時計が八時を指した時、進はカレーを食べ終わっていた、満足そうにしていると何かを思い出したように壁に立て掛けた天剣を手に取る。
「そういえば天剣に封印術かけといたんだったなぁ、もう少しで試験だしもしもの時のために解いた方が良いよなぁ。」
そう呟くと握った右手から魔力が溢れ出し剣全体を包み込む
「封印、破砕」
バキッという音とともに黒い刀身が剥がれ落ち純白の色が現れ始める。
「ぐっ、少し封印強すぎたかも・・・。」
唸るように言うと更に進の手から魔力が剣に吸われていく、握る手の血管が浮き出て進の表情も険しくなっていく。
「魔力吸引の罠術まで、忘れてた・・・。」
(策士策に溺れる?少し違うか・・・。)
自嘲気味に笑うと無理矢理左手を右手に添えて放出する魔力の量を倍増させる。一瞬部屋全体を剣の刀身が眩く照らす、すると封印も魔力吸引の罠術も消え去っていた。だが進の額には似合わない脂汗が出ていた。
「一応成功したけどこんな危険な事もうやらないと肝に銘じとこう。」
疲れた進は天剣を壁に立てかけようと手の平を向けて天剣を宙に浮かそうとしたが、
「あれ・・・浮かない」
その時進は恐ろしい事に気付いた。
「魔力が感じない・・・。」
自分の体に起こった異変に驚いた進だったが同時に魔法の基本を思い出す。
(そうか、自分の限界の放出量の魔力を短期間で無理矢理引き出しすと体が警告信号を出して魔力を使えなくさせるんだっけ)
初歩の初歩のことだったが魔力の限界値がかなり高い進は今までこんな事を起こした事がなく、初めてのことだったので動揺していた。
「と、とりあえず身体を休めるために寝ないと」
そして疲れ果てた身体を引きずるようにベットに入りすぐに寝始めた。
次の日昨日の疲れを引きずっているのか気だるそうに教室へ向かい教室の自分の席で寝始めた。
夢の中で楽しい気分に進がなっていると突然頭に強い衝撃を受けて現実へと戻った。そこには戦闘魔学の教師である小川佳子という女教師が学級日誌を片手に進の目の前にいた。
「天野くん・・・私の授業で居眠りするなんていい度胸ね」
「えっ、あ・・。」
「小川ちゃん、進は昨日俺の練習に付き合ってもらったから疲れてんだ、許してやってくれ」
言葉を失う進を成二がフォローすると
「鳳くん教師をちゃん付けしてはいけませんよ!!・・・でも練習したって言うなら後半の授業の模擬戦ででも成果を見せてもらおうかしらね。生徒が努力するのは良い事ですから」
そこまで言うと小川は教室にいる全員に大闘技場と呼ばれる魔法の戦闘用の巨大な部屋に来るように伝えた。全ての生徒が小川の指示に従い大闘技場に向かって行った。
「進も行こうぜ」
成二の誘いに進は眠い目を擦りながらついて行った。
大闘技場につくと生徒はくじを引かされた、くじは1〜20までの番号のついた紙を二枚ずついれた簡単なもので同じ番号同士が戦うといった感じのものだった。
黙々と生徒達は紙を引いていき進は最後に残った紙を手に取る、紙には8と書かれていた。
「そうね・・・じゃあまず練習の成果を見せてもらうために天野くんが一番最初に戦ってくれる?」
「え!?」
(や、やばい・・・昨日の影響が少し回復して多少魔法が使えるようになったけどまだつらい・・・。)
そうこうしているうちに近くにいた生徒の一人が面白半分に紙を取って読み上げる。
「8って書いてあるぜ、相手は誰だ?」
すると人込みから少女が一人歩いてくる。少女はなんと千秋だった。
「同じパーティーって事もあるからちょっとは手加減してあげる」
そう言うと言い返す暇も与えず小川が開始を宣言した。
「まずは、小手調べっ!!」
そう言うと火を握りこぶしほどの大きさの玉にして投げてきた。進は上体を反らせて避ける。だが背後に飛んでいった火の玉がターンをして帰ってきた。
(コントロールできるのか)
避ける事が不可能と思った進は少ない魔力を振り絞って水の魔力を右腕に宿して一気に火の玉に叩きつける、すると火の玉は霧散し消えた。
「判断能力が速いんだね、じゃあこれならどうする?」
地面に手を叩きつけると地面が軽く割れその割れた隙間から炎が吹き荒れる、広範囲に広がる炎は完全に逃げ場を塞いでいた。だがその魔法を見た進の行動は早かった、炎が一番少ない上に水球を放って間をおかず風の魔法で身体を軽くし飛び上がる、思ったとおり弱い水の魔法で炎を打ち消す事ができ流れ狂う炎が開けた空間を埋め尽くさないうちに飛び出すことにも成功した。下を見てみると自分のいたところまで蹂躙していた、そして炎は降りる前に過ぎ去り消えていた。
(勝つためにはもうあまり無い魔力を攻撃の終わったこの瞬間にぶつける)
そう考えた時には体が動いていた、手の平に風の玉を練り上げる。千秋の炎の魔法に防御されないように風には酸素を全て除外した真空状態の風の玉を作り出し鳩尾を狙って放つ、やはり千秋は炎で防御しようとするが真空状態の風の玉は炎を無いものと思わせるように通過していく。真空状態と気付いたのか千秋の顔は険しくなる、だが炎が一瞬揺らぎ一気に消え次に千秋の手の平から閃光が放たれる。
(やば、千秋さんの得意の魔法はもう一つあったんだっけ・・・。)
気付いた時には遅かった、進は忘れっぽい自分の体質を怨みつつ雷撃により意識を手放した。




