§第三話§パーティー
一日の授業が終わる頃、戦場帰りの敗走兵のような身なりをして成二が教室に帰って来た。その姿にかなりの同級生が驚いて目を向けていたが、本人はボロボロになったわけや誰にやられたのかを一切口に出さなかった。
そして帰りのHR担任の大石は一人一人にプリントを配っていった。
「今配っているプリントは来週の魔法のテストの試験についてだ、これは一人一人で行うものではなく友達と四人一組となり行ってもらうものだ。一年生の時にやっていない天野のために説明しておこう。この学校の生徒には試験を受け課題をこなす為に、ここではない世界つまりは精霊たちや幻獣たちの住む世界である、ユートピアに行ってもらう。ただユートピアは今だ完全に解明された世界では無いので危険が伴う、その為に一定のダメージを身体に受けると学校に強制送還される腕輪を各自に渡す。だがそれでもこの腕輪には範囲があってその範囲外から出てしまうと装置が作動しなくなってしまう、それに一撃で殺されるとやはり作動する前に死ぬのでこちらには死体しか帰ってこなくなってしまう。一番気を付けて欲しい事は腕輪を壊したり無くす事だ。そうしてしまうとこちらには救助隊が行くまで返って来れなくなってしまうことはもちろんユートピアにいる精霊たちや幻獣たちが腕輪を介してこちらの世界にきてしまうこともある。毎年この試験では数人の死者、行方不明者が出てしまう、十分に装備を整え細心の注意を払って試験に臨むように」
話していた大石の顔は真剣そのものだったが話し終えると気だるそうな顔に戻り簡単な挨拶をしてHRを終わらせ教室を出て行った。
(さてと四人一組か、一人で行く方が僕好みなんだけど試験だしなぁ。それにしてもユートピアかぁ文献でしか見たことなかったから行くのは初めてだな、なんだかここに来て初めてワクワクするなぁ)
そんな思いを進が考えていると三人組が近づいてきた。その三人の中には成二の顔もあった。
「ねえ進くん、今度の試験私たちと組まない?」
三人組の一人の少女が腰にまで届くかというような黒髪を揺らしながら進に話し掛けた。
「え?」
素直に進は驚いた、いや進だけじゃない。教室内の三人を除いた全ての生徒達が驚いている。生徒達は小声で「あのC組の三強が・・・。」「転校生って強いのかな?」「でも転校生も可哀相だなあの三人に狙われたらただじゃすまないし」などなど口々に喋っていた。もちろん小さく話していても大気が全ての声を進の耳へと運んでいるので意味が無い。
(そういうことか・・・。成二くん辺りがばらしたのかな?・・・でも)
「ごめんなさい、僕はのんびりとしたいので」
そこまで言うと
「そうなの!?なら尚更組みましょ、ただの人数合わせだから何もしなくていいから」
(なんですと!?)
頭の中で情報同士が全く繋がらなくなった、色々と理由を想定していた進だったが少女の口から出た言葉はそれほど予想外の言葉だった。
「で、でも・・・。」
進が目をキョロキョロとさせていると成二が少女の肩を叩いて
「おい千秋、進が困ってる。だから俺は言ったんだ進は絶対断るから誘うなって」
やれやれといった感じで肩をすくめながら言うと千秋と呼ばれた少女はいきなり手を合わせて進の前に膝を付いた。
「本当にお願いっ、他の皆は随分と前から四人組での戦闘の練習のために組んじゃってて誰も余ってないの、転校生の貴方しかいないの」
目を潤ませて頼む千秋、ここまで頼まれて断れば完全に進が悪者になってしまうような雰囲気へと教室は変わっていた。
「はぁ・・・わかりました。」
『わかりました』・・・この一言で千秋は一変する。
「じゃあ行きましょう、よし行きましょう、すぐ行きましょう」
そう言って先ほどの顔が嘘のように笑顔になり強引に進の腕を引っ張って何処かへ連れて行こうとする。
「ちょ、ちょっと・・・いったい何処に・・・。」
それでもなお力を入れてぐいぐい引っ張る千秋に見かねて今まで傍観していた三人組の最後の一人の少年が二人の間に割って入り千秋の額を手で突っ張って押さえる。
「千秋、天野にしっかり行く場所と目的を伝えてやれ」
三人の中では一番人間が出来ているらしくとても大人っぽく見えた。
「あ、東、分かったから頭放して・・・。」
よほど額を分からず屋の子供を押さえるときように押さえていたのが恥ずかしかったのか顔を赤くして千秋は手を叩いた。
「分かったなら良い」
東と呼ばれた少年はパッと手を放すと元の位置に戻っていった。
「ふぅ・・・ごめんなさいね進くんあまりの嬉しさについ・・・ね」
一番最初の落ち着いたような感じに戻った千秋は一呼吸して言葉を紡ぎ始めた。
「これから進くんには私たちと一緒に試験を受ける為のパーティー登録っていうものをしてもらいたいの、でそれを受け付けているのが担任の先生だから今から一緒に職員室に行ってもらいたいの、分かった?」
「分かったけど」
「それじゃあ行きましょ」
そして先程よりやや力を緩めて千秋は進を引っ張って職員室に向かって行った。盛大な溜息とともに成二は二人を追いかけ、東も苦笑気味に追いかけていった。
職員室でのパーティー登録はただ紙に名前を書いて担任に提出するという簡単なものだった。提出するさい担任の大石に進はこれから自分が住む事になる寮の部屋の鍵を貰い、その時初めて寮に住むという事を思い出し、炊事洗濯を頑張らなければいけないと心に刻んだ。ここまでは良かったのだが鍵を受け取ったのを千秋に見られてしまい何故か進の部屋で歓迎会を開く事となった。そして現在コンビニ袋を両手に携えた四人は進の部屋に向かっていた。
「なんで僕の部屋で・・・。」
と愚痴を零しながら貰った鍵でドアを開け部屋の中に入っていった。部屋の中には未開封のダンボールが数個詰まれていて椅子、机、本棚などの家具が部屋の中に置かれていた。それらの家具には見覚えがあった。
(僕の家の部屋の家具、父さん母さんありがとう)
と感傷浸るのも一瞬だけでずかずかと成二は部屋に入るとおもむろにダンボールの一つを開く、中には一本の長剣が収められていた。
「こ、これ本物か?」
恐る恐るといった感じで開けた本人が持ち主に問い掛ける。
「その剣は正しい使い方をしないとただの重い鉄の棒だから何にも斬れないよ」
そう説明してから手の平をダンボールに向けて進はダンボールを宙に浮かして部屋の押入れに適当に放り込んだ。
「初級魔法程度なら使えるんだね、魔法が得意じゃないって言ってたはずだったけど」
不思議そうに問い掛ける千秋と千秋の言葉を聞いて顔をしかめる成二、成二はこのままではろくな事にならないと思ったのかテキパキと三人の手からコンビニ袋を取りリビングの大きな机の上に綺麗に並べていった。
「お前ら変なこと話してないでこっち来てさっさと始めようぜ」
成二の言葉に三人は部屋に上がっていった。
コンビニで買ってきたパンやお菓子を食べる前に千秋が自己紹介を始めた
「まずは自己紹介をしましょう、私は藤岡千秋、得意魔法は火と雷です。」
(火と雷か、攻撃に優れてるってことか)
「俺は鳳成二、得意魔法は風だ。」
(やっぱり得意なのは風なんだ、まあいっぱい使ってたし)
「俺は八神東、得意魔法は氷だそれと治療系の魔法もそれなりに出来る」
(性格が出てるって言うかなんていうか・・・合ってる、それにしても治療系は覚えるの難しいはずなんだけどそれをどの位か分からないけど扱えるなら心強いな)
「僕は天野進、得意な魔法は特にないです」
そう喋ると成二の視線が強くなったのを感じるが進はやはり気にしなかった。
その後は他愛のない話をして気付けば午後十時を過ぎていた。
「そろそろ帰らないとね」
千秋が時計を眺めながらそう言いゴミを片し始めると成二と東は立ち上がり食べ物のゴミを袋に詰めて片す、片し終わると三人はそれぞれ挨拶をして部屋から出て行った。
「なんか今日は疲れたな・・・そうだ天剣をダンボールから出しとかないといけないな」
そう呟くと進は押入れのダンボールから長剣を取り出した、鞘からスラリと長剣を抜き放つと進は軽く振るう、長剣の刀身は黒く炭の塊のようだった。何かを確かめるように振った長剣を見終えた進は長剣を鞘に戻すと壁に立てかけた。
(試験まであと一週間、ワクワクして眠れないかも)
そしてニヤリと笑みを浮かべると進はベットに潜り込みそのまま寝息を立て始めた。




