§第二話§屋上で
魔法学校ではやはり魔法の授業をやる、一応数学、国語、英語などの基本科目もやるがそれらは週に一、二回程度で残りは魔法の授業に費やされる。魔法の授業は簡単に分けて三つあり、戦闘魔学、非戦闘魔学、魔科学、である。戦闘魔学はその名のとおり戦う為の魔法を中心として教える授業で時々訓練で生徒同士の模擬戦が行われる事もある、次に非戦闘魔学だがこれもその名のとおり戦闘以外の日常で使う魔法を教える授業で治療魔術などが当てはまる。最後に魔科学だがこれは魔力を燃料として動く機械についての授業で原理などを勉強する。
そして現在は戦闘魔学の授業をしているところだった。
大石の長い説明が終わり生徒達全員手元にある簡単な魔術書の写本の教科書を開いている、だが進は来たばかりということもあり教科書の類はおろかノートも筆記用具もなかった。
「何だ、天野お前教科書渡されてなかったのか・・・しょうがない隣の鳳に見せてもらえ」
進は言われたとおり見せてもらおうと机を近づけるが・・・成二は一定の距離を保って離れていく。もう一度近づくと近づいた分だけ離れていく、
「あの、成二くん・・・だよね、見せてくれない?」
進が営業スマイルのような爽やかな笑顔で語りかけると返事のように風の刃が飛んできた、進は笑顔で風の刃を自らが作り出した同じ風の刃で相殺していった、しかし周りの生徒は使っている魔法が風という事もありこの二人の戦いに全く気付かず、唯一気付いた大石も溜息をついて見守っていた。
そんな攻防が二分間ほど続いているとついに成二が折れて机を近づけ二人の机の真ん中に教科書を置いた。そして成二は進の耳元でそっと耳打ちをする。
「いつか覚えとけ」
言い終わると成二は授業に集中し始めた、
(へぇ〜、不良かなって思ってたけど授業はちゃんと受けるんだ・・・。)
進は頭の中で変なことを考えつつ、大石の授業はしっかりと聞いていた。
そして授業が終わると成二は進を教室の外に連れ出した、連れて来られたのは誰もいない屋上だった。そして今まで沈黙をしていた成二が進へ振り返った。
「おぃ天野進、お前いったい何者だ?」
いきなりの質問に少し驚いた進だったが笑いながら答えた。
「ただの世間知らずの中学二年生だよ」
進を見る成二の眼光が一層激しくなったが進はあまり気にしなかった。
「じゃあその世間知らずが何で俺より魔法が上なんだ?これでも俺は学校でも数少ない天人呼ばれる人間だ、もちろん同じ組にも学年にも天人はいる。それでも俺は組では上位三番までに入る実力を持ってる、学年でだって同じようなもんだ。自信過剰ってわけじゃない事実だからな、それなのにだ・・・なんでお前は俺よりも強い?」
成二の勢いは下手な事を言うと掴みかかってきそうな勢いだった。真剣な成二の顔を見て進は笑顔を消した、その顔に成二は一瞬怯むが睨み返す。
「別に僕は君より強いわけじゃない、全て偶然勝っただけ・・・って言おうと思ってたけどそんな答え君は望んでいないね、いいよ教えてあげるよ・・・僕に攻撃を一撃でも当てる事が出来たらだけどね」
その言葉を聞いた瞬間成二はバックステップで進との距離を開ける、そして指先に蝋燭の火のような小さな火を十個灯し進に飛ばす、火は次第に一つになって巨大な火球が生まれる。
「この程度なら、一生知れないかもね」
そう言って手を振り上げて指揮者が音楽を始める時のように振り下ろす、すると火球は二つに裂かれ進の左右に飛んでいった。そしてそのまま消えるかと進が思ったところで裂かれた二つの炎が小さな爆発を起こす。
「読み間違えた・・・さっきの魔法、最初から当てる気なんてなかったのか・・・。」
黒煙が二人の姿を隠し屋上は少しの間静寂に包まれる、進は冷静に指を鳴らして風を起こし黒煙を吹き飛ばす、とその時進は成二の魔力が高まっているのを感じる。
(凄いなぁ・・・ここまで計算ずくでやってくるなんて少し驚かされたよ)
その時、成二の声が屋上に響いた。
「いでよ、風の精霊シルフッ!!」
そして辺りを一瞬透き通った空気が流れたと思ったら成二の隣に中に緑色の服を着た少年が服をなびかせながら浮いていた。
「召喚魔法で精霊クラスを呼び出せるんだ・・・やるじゃん。」
素直に進は成二を誉めた、
召喚魔法とは、魔法が解明されていく中で見つけられた魔法でこの世界では存在しない空想上の生き物や物質をこの世界に呼び出す魔法で、呼び出す相手がより上のクラスの者になってくると必要な魔力の量が多くなり、魔法の理論も複雑になってくる。
クラスが下の順に並べてみると、魔獣クラス、幻獣クラス、精霊クラス、天使悪魔クラスとなってくる。ただこのパワーバランスは必ずあっているというわけではなく例外の例として幻獣クラスのドラゴンなどは、精霊クラスと同格の力を秘めているものも存在する。
「こら、こんなところにいきなり呼び出していったいどうしたんだ!?」
シルフと呼ばれた精霊は自分の呼ばれた理由がいまいち理解できていないらしく必死に成二を問い詰めていた。
「シルフ、今日お前を呼んだのは倒してもらいたい奴がいるからだ、あそこにいる根性ひん曲がった馬鹿に自分の惨めさを思い知らせてやれ」
シルフは了解したのか弓を背中から取り、風を圧縮して矢を作り出しそれを放とうとした。
「だ、誰が・・・。」
何故か進の方が震えていた。
「誰が根性ひん曲がった馬鹿だっ!!」
その口調はいつもの丁寧な言葉ではなかった、思いのほか怒っているように見える、いや確実に怒っていた。
「シ、シルフッ!!」
「はいさっ!!」
掛け声とともにシルフの構えていた弓から風の矢が放たれた、物凄い速さで接近する矢は誰の目から見ても進にあたるかに見えた。
「邪魔だ」
進はホントに自然に邪魔な蚊や蝿を払うように手を振る、すると今まで直進していた矢が方向を変え地面のコンクリートに当たり大穴をあける。
「少しだけ・・・痛い目見てみようか?」
今度の進の顔は笑顔だったのだが・・・その笑みには感情というものが一切なく見るもの全てを凍りつかせるものだった。
「ま、待って・・・。」
成二が口を挟んだときには遅かった、以前成二が進に向かって放った風弾が成二と比較にならないほどの速さと威力で四方八方から襲った。つまり全方位、風の精霊であるシルフが風では傷つかない事を知ってかシルフの存在を無視した攻撃だった。
「戦いとは、常に悲しいものなんだよね」
そう言って屋上を後にする進の後ろにはボロ雑巾のように変わり果てた成二の姿があった。




