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§第九話§試験開始

午前五時という早朝、武陽中学校の寮の辺りでキュッキュッと擦るような音が響いていた。

音の原因は一人の少年がベランダで白い刀身の剣を磨いているのが原因で、実はかれこれ一時間ほど磨いていたりする。とそこで一度音が止む、見ると少年は満足げに太陽に向かって剣を掲げ光らせていた。

少年は剣を鞘に入れると部屋に入り今度はリュックサックを取り出してきた。リュックサックにはきっちりと物が入っているらしく重みを持っていた。少年は部屋の中心にある机にバックを置くと中身の確認を始めた。

缶詰、缶詰、缶詰、缶詰、レトルトカレー、缶詰、缶詰・・・出し終えると机の上には缶詰が山のように並んでいた。少年は満足そうにそれを眺めると再びリュックサックに戻していった。が突然少年の手が止まり台所へと走っていく、数秒後戻ってきた彼の手には缶きりが握られていた。

「危ない危ない、もう少しで缶詰を食べれないところだったよ・・・。」

そして黙々と缶詰を入れていき・・・全てを入れ終えた。

「もう忘れ物は・・・あっ!!」

少年は思い出したようにたくさんのダンボールの中から一つを開け大きな壺を取り出した。壺の中には白い玉がたくさん入っていた。少年はその玉を一つ取り出して巾着のような小さい布製の袋に入れる。

それをポケットに入れると磨いていた剣を腰に携えリュックサックを背負い勢い良く部屋を出て行った。玄関の扉が閉まる一瞬少年の口から言葉がこぼれる。

「今日は待ちに待った試験の日だ・・・。」



そう・・・今日は武陽中学校の試験の日なのだ。




少年こと天野進は走っていた。それはもう凄い速さで走っていた。ここで注意だが彼は遅刻をしているわけでも、誰かと約束をしているわけでも、まして誰かから逃げているわけでもなかった。それでも彼は走っていた・・・その顔に笑みを浮かべて。

腰に携えた天剣が地面にあたりカツンカツンと規則正しい音を鳴らしていた。だが進はそんなこと気にせず走っていた。彼の目線の先には武陽中学校の校庭があった、進は校庭に入ると徐々に速さを緩め・・・止まった。

校庭には誰もいなかった、まあ当然といったら当然なのかもしれない、カチッという音とともに学校についている時計の針が一つ進む、時計は六時を指していた。

そこで進は苦笑交じりに一言呟いた。

「ちょっと速すぎた・・・かな?」

ついでに試験の開始時刻は八時・・・でもこのことを進は知らない。

「まあいいや・・・教室で寝てよ」

そう言って進は教室に向かって行き・・・自分の机で寝息を立て始めた。


進は周りの音で意識を覚醒させた、覚醒したてでぼんやりふわふわした感じの意識を頬を挟むように叩く事で無理矢理最高の状態まで覚醒させる。そして音のする方に耳をすませてみた、人がたくさん集まった時に起こる特有のガヤガヤした感じが校庭から感じられた。そこで初めて進は教室に備え付けられた円い時計を見た。時間は八時を指していた・・・。

「二時間ぐらい寝ちゃったんだ・・・あっ!!試験始まってるかもっ!!」

そこまで口にすると進の行動は早かった、寝るために脇に置いておいたリュックサックを背負い進は校庭に向かった。

校庭に着くと初老の男性が皆の前で話していた、どうやらこれが話しに聞いていた全校朝礼という一種の儀式的な習慣なんだと進は悟った。

とそこで進は成二達の姿を発見する、成二は眠たそうに大きな欠伸をしていて、千秋と東はしっかりと初老の男性の話を聞いているようだった。

進は姿勢を低くして三人に近寄っていく、ところが

「では・・・皆の帰還を心より祈る」

という言葉とともに先ほどまで何も無かった校庭の地面に幾多もの古代語の羅列が浮かび上がる。

そして・・・校庭に集合していた全生徒が校庭から消えていた。




移動した・・・そう理解するのに進は時間が掛かった。今まで見たこともない古代魔法、それも魔方陣という古典的で時間の掛かる手法で行ったと言う事・・・進は荒野の中で考えていた。

他の生徒達は自分のパーティーと思わしき人達と集まってそれぞれ別々の道を進んでいく。

(考えるのは後だ・・・僕にはまだ時間はある)

そこまで考え進はしっかりした足取りで三人の下に向かって行った。転送魔法(?)による移動で一時見失ってしまった進だったが、皆がある場所から離れていくので場所を割り出す事は簡単に出来た。

「でも・・・なんでこんな事になっているのかなぁ?」

そう言って進は溜息を吐くと目の前で起こっている睨み合いを見た。

頭を抱えでどうしようか考える東に、やるならやるよ?とでも言いたそうな目をしている千秋に、もはや臨戦態勢に入っている成二、相対して三年と思わしき少し自分達よりしっかりした体格の五人、その光景を見ていて進は

(なんで僕の周りってこんなに戦いが多いんだろ?)

と思っていた。

とそこで三年の一人が進の視線に気付き睨んで怒鳴ってきた。

「おいっ!!見せもんじゃねぇぞっ!!」

とそこで初めて成二達三人は進の存在に気付いた。

「進じゃん、もう来ないかと思ったぜ」

と成二が言い

「進はあんたと違ってサボろう何て考えないの」

と千秋が言い

「これを付けろ」

と東が言いながら腕輪を差し出した。

「これって・・・。」

「一応先生からお前の分を預かっておいた、知っていると思うが話であった緊急用の腕輪だ」

進はへぇーと声を漏らしてまじまじとその腕輪を様々な角度から見た、これと言って凄いものには見えなかった。

「あ・・・それよりこの状況は?」

進の質問に東は頭を掻きながら

「あの成二ばかが、また無駄に喧嘩を吹っ掛けたんだ。まぁ理由は分かるから責めないが・・・。」

と溜息混じりに答えた。進はまだ睨み合いを続けている二人を見て

(理由ねぇ・・・どんな理由だろ?)

と考えていた。とそこで睨み合いに変化が起きた。三年生の一人が痺れを切らして地面の砂を蹴り上げたのだ。地面の砂は土属性の魔法が付加されているされている様で次第に集まり数本の針となって飛んでいった、成二はそれを手で払う動作で起こした突風で簡単に吹き飛ばす。それが合図となり戦闘が始まった。と言っても進と東は見ているだけだが・・・。

千秋は目を瞑ってその場から動こうとしない、結果的に三年生の攻撃は動き回る成二ではなく千秋に言ってしまうのだが・・・。寸でのところで成二が千秋と放たれた魔法との間に割り込んで風の結界を張り千秋を守る。と言っても流石に一対五の状況なわけで少しずつだが成二の風の結界は確実に削られていた。だがそこでやっと千秋が目を開き「成二退いて」と大きな声で言う。

待ってましたと言わんばかりに成二は笑みを浮かべその場から飛び退き・・・瞬間炎によって作られた龍が身を躍らせて三年生五人に向かっていく、五人は驚愕の目でそれを見ると相殺しようと魔法を放つだが放った魔法が炎の龍に当たっても炎の龍は全く勢いを弱らせる事無く五人に襲い掛かった。

とそこで炎の龍は真っ二つに裂かれる、黒い閃光によって・・・。

「こんなところで喧嘩とは・・・いい度胸をしてるじゃないか」

そう言って現れたのは黒い大鎌を担いだ聖徒戎の長、天草義輝だった。

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