8-7
右手で顔の血をぬぐう。
俺は太った組員の右手をサブマシンガンごと切り落とし、さらに胴体にも一撃を加えていた。
太った組員はよろけながらも体勢を保とうとしていた。
「俺は、Sだ!」
刀を頭上から振り下ろし、返す刀で横になぎ払う。そして、切り上げる。刀で三角形を描く感じ。
狭い部屋に甲高い悲鳴が響く。
耳障りだ。
刀を右手一本で持ち、刃が背中につくぐらい振り上げた。
キャハハハハ、ミタ? シンジラレナイ。
ナニカンガエテルンダ。オマエ。
バカジャナイノカ?
また幻聴。
そして視界が揺らぐ。
フラッシュバックも起ころうとしている。
瞬きを繰り返し、意識をつなぎとめる。
コイツバカダ。
エロホンバカリヨンデルンジャナイノ?
マタアイツガキタッテヨ。
ミンナダメダッテイッテルヨ。
ナニカンガエテルンダ!
ナメテンノカ、コラ? アア? ナクカ? コノ。
もうやめてくれ。
どうして、今になってこんなに。
そうだ。忘れそうになっていた。
俺を取り巻くこの空気。
俺はいつもこの中にいた。
自分ひとりが違う世界にいたようだ。
以前はそうではなかった。気がついたらこうなっていた。いつから始まったのかわからなかったが、消えたのもいつのことだかわからない。
本当に自分の知らない間に、そういう空気が出来上がっていたかのようだった。
何回かの瞬きのあと、視界が晴れてきた。
銃声がした。
俺は太った組員に気を取られすぎていた。
振り向くまもなく、首を縮め、わずかに身を低くした。
銃を撃ったのは組長だ。
先の二発の弾丸は外れたらしい。そして三発目が聞こえた。俺の目はその方向を見ていた。
弾丸の動きがとてもスローモーションに見えた。
まるでビデオのコマ送りのように。だが、俺の体はそれよりさらに鈍重な動きしか取れなかった。弾丸はまっすぐ俺の右目に向かってきた。
よけられない!
俺は何もせず弾丸を見ていた。
それはとても長いようで非常に短い時間だった。
弾丸が近づき、大きくなった。右目に直撃と思われた弾丸は、微妙にずれていた……?
ビチッ!
俺は声をあげてのけぞった。だが、倒れはしなかった。
意識はあった。
俺は死んでいない!
力が湧いてきた。怒りもあふれてきた。
今度は記憶が飛ばず、意識もしっかりしている。その上で俺の体が勝手に動き始めたのだ。
ほとんど全て、反射神経だけで動いているのではないか? そういう疑問も湧いてきた。
まず俺は刀を太った組員に投げつけた。
刀は組員の胸に深々と刺さり、背中まで貫かれた。組員はのけぞった。もう意識はないだろう。
次に俺は、サブマシンガンを拾った。
グリップに腕がついている。太った組員の腕を切り落としたが、腕はまだ銃を握ったままだったわけだ。
その腕を組長に投げつけ、サブマシンガンの引き金を引き絞った。
「うわわわっ!」
組長はあわてて机の下に隠れた。
高価そうな黒っぽい木の机は細かな木屑を飛ばし、いくつもの穴を穿たれていた。俺はそのまま銃口を動かす。
床に転がり、もう動かない死体を撃ち、さらに太った組員の体にも当たった。
俺は部屋の隅にいる女二人を見つけた。
まだいたのかとあきれたが、おそらく腰が抜けて立てないのだろう。
そいつらは笑っていた。




