2-1
銃を買ったときから、俺の幻覚はひどくなった。幻聴も加わった。
俺のことを少し話そうか。
小学一年のころ、隣はやたらと怒鳴りつけるブサイク女だったな。細かいことで怒鳴りつけて、うるさかった。俺の弱気はそのときからだった。どうすれば怒鳴られないか、考えながら動いていた。
実にブサイクだった。今でもあんなにキーキー言ってるのかな。
俺は、話し方もそうだし、自分では気づかないところで、色々と変なところがあったのだろう。
誰からも笑われ、誰も庇ってくれなかった。
いつも馬鹿にされてね。成績はよかったが、運動がダメだった。
少林寺拳法を習ったが、全然ダメで
「少林寺習ってるのに弱いぞ、イエーイ」
なんてバカにされたよ。
自分がされていやなことは人にもするな、と先生は言っていた。俺はしなかった。だが、他の奴らは誰も守っていなかったように見える。
成績はよかったが、俺の場合、脳の言語野の発達が遅れていたのだろう。 言いたいことはある。しかし、何と言っていいかわからなかった。いつもそうだった。
班を作るが、俺はいつも最後のほうだった。
いざ班を作っても仲間はずれにされがちだった。彼らにとって、俺は邪魔者だったらしい。友達も作れ、と教えられる。が、俺は一人のほうが楽しかった。みんなと一緒のほうが楽しいなんて、嘘だ!
友達らしきものはいたが、少ないと馬鹿にされた。多けりゃいいのか?
今、俺には友達と呼べるものは一人もいないが、全く困らないぞ。
一念発起して、学級委員に立候補したこともある。そのときは俺のほかに五人ほどの立候補がいた。
俺には一票も入らなかった。
だが、班を作れば、他の班員は一致団結して俺を班長にした。面倒だから押し付けられたに過ぎない。全くうれしくなかった。
俺を馬鹿にする奴はいつも男だ。いじめはいけない、と先生は言い、俺は実践している。
多少俺も行き過ぎたことはある。クラスの前で謝罪したこともある。しかし、他の奴らは?
いつも俺に何かいってくる奴がいて、俺が反撃した。そしたら、俺が悪いことになっている。
俺を弁護する声もあったが、すぐに他の話題に移された。
学年が上がるにつれ、友達と呼べる奴はできるようになった。しかし、クラスが違えば、もう話さない。逆に、他のクラスから馬鹿にする奴はいた。 中にはかつて仲の良かった奴も、いつの間にか向こう側に回っている。友人なんかいない。親友なんかできない。漫画では友情は大切なものとあった。多分そうなのだろう。俺以外の奴はそうだと思っているようだ。
だが、白々しい……。うそ臭い……。
少なくとも、俺には縁がなさそうだ……。
親父は言っていた。友達なんか必要ない。学校が違えば、どうせ別れるものなのだから。
事実その通りだ。
俺には親友と呼べるものはなかった。
俺は何もしていない。誰にも迷惑がかからないようにしてきた。色々気を使っていた。どんな相手でも誠実に対応して来た。やり方が間違っていたのかもしれない。だが、俺だけがどこか違うらしい。
成績は良かったが、誰も俺をすごいといわなかった。俺のばあさんは
「百点とれば、みんな『すごいねー』って褒めてくれるよ」
そう言っていたが、嘘だった。
俺は路上生活を始めた。新聞紙に包まれば、結構暖かいので気持ちよく眠れる。はじめのうちは公園のベンチで寝ていた。寝床が硬いのは寝ていくうちに慣れていった。青いビニールシートも手に入った。金はあるので、食事には困らなかった。一日一食。後は水か酒で空腹をごまかした。
俺はやくざの事務所で決めたことを実行することにした。そのためにホームレス生活はちょうどよかった。
俺が最初に殺そうと考えた奴は二人。
俺は工場では二回異動している。最初に配属された上司と最後の職場の上司。二番目の職場は一番居心地が良かった。一番楽しかった時期かもしれない。この職場にいれば、俺は今頃まともな人生を過ごしていたかもしれない。ここの職場の人たちに俺の姿を見せたくなかった。
そのため、ターゲットの二人がいつ、どこから出てくるか知る必要があった。