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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
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1-8

 死体の上に残ったのは俺と組長の二人だけ。組長はともかく、俺が残ったのは奇跡。

 俺は銃をしまい、死体に刺さっている刀を抜いた。

 壁には血のあとと、弾痕が残っていた。

 いすや机は既に壊れていた。ガラスも割れた。

 死体を片付けても、この部屋は使用不可能だ。木製のものは銃によって蜂の巣。いまだに警察が来ないのが不思議だ。これだけの騒ぎなら、誰かが気づくはずだろうに。

「やはり、生き残ったか」

 組長の問いに、俺は笑ってうなずいた。

「わしの組はもう終わりだ。一緒に立て直さないか?」

「いや、無理です。俺にはすることがあります。この一件で、決意が固まりました」

 組長は残念そうにうつむいた。

「ところで、金庫はどうやって開けるのです?」

「どういうことだ」

 組長の顔色が変わった。

「あのフリーターから取った四百万。返してもらいますよ。それを借金返済に充てます。悪いけど、今追われるわけにはいかない。それに、色々と道具も落ちてるし、俺は隠れることにします」

「わしを殺すのか?」

「俺が名義を貸したのも、俺の名前とあのフリーターの顔を一致させるためです」

「すぐにばれる」

「数日間もてばいい。二日後には、ばれてもかまわない」

「なるほど。わしらを利用したのか」

 刀を肩に担ぎ、組長をにらむ。

「お前を見たとき、いやな予感がしたんだ。普通の人は何か違うと思っていた。事実、お前は並の極道よりも強かった。殺すことに関しては、天才的な才能を持っていた」

「ありがとうございます」

「わしの説教は無駄だったな。お前は既にわかっていた。いや、理解する必要がなかった。お前は極道にはなれない」

「サイコサスペンスの主役になら、なれますかね?」

「お前は既になっている」

「精神異常者、か。そうかも知れない……」

「金庫の番号は右に3、左に2、右に7だ」

 俺が刀を構えると、組長は切りかかってきた。刀を大上段に振り上げていた。

 俺は剣道なんか習ったことがない。高校の授業の選択科目で剣道と柔道があり、俺は剣道を選んだ。経験はそれだけ。

 俺は身を低くし、すばやく近づいた。

 腕を折りたたみ、刃を組長の体にあてるように出した。勢いのついた組長の体をいとも簡単に切り裂いた。刃の半ばから切っ先にかけて引っ張るように動かす。のこぎりで木を切るときのように、刀を振り切る。

 左足を前にだし、刀を左手で握る。体がその方向にねじれていた。それが反動となり、返す刀を上段から振り下ろす。組長は振り向いたばかりだった。切っ先が頭に食い込み、そのまま切り裂いた。頭から鮮血が上がった。と、同時に体が後ろに傾く。刀を振り切った勢いが右手に残っていた。一瞬左腕を柄から離し、右腕だけを振り回す。今度は首筋に食い込んだ。

 それがとどめとなった。


 罪悪感はなかった。

 サブマシンガン三丁とダイナマイト。9ミリ弾と50AEをかき集め、リュックに入れた。金を持ち出すのは忘れなかった。

 すぐに逃げ出し、ビル街の陰に潜む。金はあるが、しばらくはホームレスだ。ホテルに泊まれば、つかまる。

 俺は、すべてを始末したい。

 身勝手だろうが、鬼畜と呼ばれようが、そうしたい。そうでなければ、俺は救われない。もう、戻れないところまで来てしまった。

 手にはべったりとした血の暖かさがまだ残っている。

 銃を撃ったときの反動もまだ残っている。

 そして、俺は今たくさんの武器を持ち歩いている。見つかったら、即逮捕だ。俺は借金を返すと、姿を消すことにした。

 この事件は、次の日にはテレビで放送されていた。

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