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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
79/134

7-7

 俺はチラッと見えたズボンの財布に手を伸ばした。

 スキンヘッドは地面にのたうちっていたので、時間がかかった。

 俺はそいつに蹴りをくれていたが、頭はあくまで冴えていた。スキンヘッドに何かするときも、俺の体は手加減していた。

 奴の本名は高山というらしい。

 高山の骨は何本か折れていたようだ。打ち所が悪かったせいだ。

 倒れた。その上に乗っかり、顔を踏みつける。

 俺は高山の右手を取り、開かせた。

「あ、あの、何を……」

 俺は答えなかった。

 そして、俺は人差し指をつまむと、曲がらない方向にねじった。

 鉛筆でも折るような軽く、乾いた音が聞こえた。

「ぎゃああああっ!」

 高山は悲鳴を上げた。

 俺はそいつの顔にかかとを落とした。悲鳴は一瞬で消えた。

 そして、俺は中指をつまみ、同じように折った。

「うきゃああああ!」

「うるせえ!」

 今度は二発。それも、体重をかけての踏み付け。

 さっきと同じく声は一瞬で消えた。

 だが、靴を通しての足の裏には衝撃が来た。何かが砕けた。だが、俺には関係ない。

「今度何か言ったら、頭を踏み潰すぞ!」

 こう叫んでから、俺は何を言っているんだろう、と思った。

 言っていることやっていることと、考えていることがあまりにも違いすぎていた。

 俺は実に冷静だった。

 親父に歯は大事にしろといわれていた。

 親父は歯槽膿漏で早い時期から入れ歯を使っていた。

 もちろん勉強しろとか言われていたが、同じくらいにそのことも口にしていた。

 歯が折れたみたいだな。

 口の中が血だらけではないか。

 高山は口を大きく開けていた。

 前歯は既になく、口の周りは血で汚れている。外灯の光は届かなくても、既に真っ赤であることはわかる。血の海、というにはまだ早い。

 俺は反省した。

 一瞬だけやめようかと思ったことを、だ。

 殴り合っているうちに、俺の心に火がついてしまった。

 とめられなかった。

 さっき吐いた言葉も俺の意思は働いてはいない。俺にはこれしかないのだと、本能的にわかっているのだ。

 高山の中指、薬指と続けて折った。

「ぐがああああっ! あきゃきゃかきゃきゃきや」

 高山にはすまないが、俺にはこうとしか聞こえてこなかった。

 小指もつまみ、力を加えている。折ってはいない。

「お願いします、助けてください! 助けてください! ぎゃあっ!」

 その声にかまわず、俺は折った。

 高山は右手を押さえ、胸に抱えるように左手で包んだ。

 彼には結構殴られた。

 それに、以前の俺なら最初のひと声で震え上がっていたことだろう、かなり高い確率で。

 俺は高山の左腕を握り、無理矢理彼の右手から放した。

 膝を立てた。足を踏ん張った。そこへ、俺は高山の左腕を引っ張り、膝頭に当てた。

「……!」

 ぺきっ。

 高山は悲鳴を上げることもできなかったらしい。

 苦悶の表情を浮かべ、左肘を押さえて地面をのた打ち回った。

 ここまで動くことができるのかといいたくなるほどの激しい動きだった。

 背筋を伸ばしてのけぞったり、丸まったり、地面に額をぶつけたかと思えば、大きな口をあけて何かを叫ぼうとしたり……足は激しく動かしていた。

 短距離走でもこんなに激しく動かしたりはしないだろう。

 その時点で、俺は思いついたことをしゃべった。


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