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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
78/134

7-6

 不意に空しくなってしまった。

 こいつの声が俺をすり抜けていく。

 ちっとも心に響いてこない。

 下手なテレビドラマでも、もう少し気の聞いたことを言いそうな気がする。でも、俺はやってしまうだろう。

 何回か殺したくないと思ったことがある。

 だが、そんな考えは一夜で忘れていた。

 反省し、もう誰も殺さない、一人でひっそりとホームレスとして生きていこう。何も食えなくなったら、潔く野たれ死のう。

 俺に殺された人たちには無責任極まりない話かもしれないが。

 左の頬骨に重みと痛みが加わった。

 殴られた、とそう考える間もなく後頭部が壁に当たる。

 前後で続けて衝撃を受けてしまい、頭全体が割れるよう錯覚した。

 スキンヘッドはなにやら叫びながら、俺の胸倉をつかみかかる。銃に手が伸びそうになった。拳を握り、とめる。

 痛いが、この男を殺すのに銃は必要ないような気がする。

「ああっ! どうだ! 調子こきやがって! このごみ……がっ!」

 スキンヘッドの手が俺の服を放した。

 苦悶の表情で俺を見据え、膝をわずかに折る。

 俺は頭突きをしてこようとしていた奴の首の側面に手刀を打ち込んだ。

 俺が両手で打ち込んだからか、スキンヘッドはあっさり手を放した。

 宙に浮かせたままの両手でスキンヘッドの頭をつかみ、振り上げた膝にあわせた。

 一瞬悲鳴だかなんだかわからない声がして、俺の両手からスキンヘッドの頭がすっぽ抜けた。俺の服にピッと数的の血飛沫が散った。

 すぐに相手をつかみ、同じ箇所に頭突きを二回。

 そして、腕を引いて壁に投げつけた。スキンヘッドはよろけ、肩を鉄筋コンクリートにぶつけていた。

 俺のやる気は低下していた。だが、俺の拳は強く握られ、相手を殴り倒そうとしている。俺の意思ではどうにもならないもののように。

「……あぁぁ」

 スキンヘッドは低くうめき、首を振る。

 眉間どころか顔中にしわが入り、三角にとがった目の中で小さな瞳が俺をにらむ。

 鼻と口から血が流れていた。

 彼は口を大きく開き、歯をむき出しにしている。一瞬歯が牙に見え、口が耳まで避けているように思えた。

 俺は昔からお化け屋敷が苦手だった。初めて行ったのは幼稚園の頃だが、すごく怖がっていたのを覚えている。

 スキンヘッドが何かのお化けのように思えていた。世間的には俺のほうがよほどの化け物なのだろうが。

「くそう、くそう、こんにゃろぉぉぉぉ!」

 スキンヘッドは拳を振り上げ、殴りかかろうとしていた。

 いわゆるテレフォンパンチだった。殴ろうとした拳を顔の高さまで挙げて突き出すことである。

 プロボクシングの選手はこのパンチを出さない。なぜなら、こうすることで相手に今から殴ることを教えているようなものだからだ。

 俺はそれだけ見ると、足を出した。たまたま左足が前に出ているのでちょっと膝を伸ばして、足を相手の膝の高さまで上げただけだった。

 スキンヘッドの拳は俺に届かなかった。

 俺が出した足が膝頭に当たり、動きを止められたらしい。何かに引っかかるようにして、つんのめりながら拳を出したのだった。

 左拳で顔を殴り、拳を引き戻すときに右足でスキンヘッドの膝を蹴った。

 ちょうど俺のつま先がスキンヘッドの膝関節に当たった。それが結構いい感じだったようだ。相手の膝関節は簡単に曲がり、スキンヘッドの体勢を崩した。

 その時の奴の顔は、何が起こっているのかわからなかったらしい。笑えるほど間抜けな顔だった。

 俺は両手を頭上に掲げ、両拳を握った。そして、それを振り下ろした。

「が……」

 スキンヘッドはアスファルトに突っ伏した。

「名前を教えろよ」

 答えなかった。


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