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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
73/134

7-1

 言われた住所を探すうちに、いつの間にか小倉駅の近くに来ていた。

 駅前の地図によると、どうやら風俗街近くの雑居ビルらしい。

 俺は装備を忘れなかった。

 背中にはM500をつけ、ジェリコをポケットに忍ばせていた。もちろんドスも忘れなかった。

 風俗街のけばけばしいネオンをくぐる。

 酔っ払いが通り過ぎる。かたぎでなさそうな人間も歩いている。

「オニサン、マッサジ」

 アジア系の女の子が片言の日本語で声をかけてくる。

「アイハブノーマネー」

 そう言うと、しつこく勧誘してこなかった。

 それにしても、風俗店というのはどうしてこんなに原色のライトをつけ、派手な看板と微妙なセンスの看板を掲げているのだろう。

 目立つためなのかもしれない。

 歓楽街のしつこい呼び込みはなかった。

 建物についている住所を見ながら、進む。

 余計なことには巻き込まれたくなかった。

 さっき暴れて、いっそう腹が減っていた。パンでも買ってくればよかったかと後悔している。

 事務所は案外すぐに見つかった。というのも、それらしき姿をしている人間に聞いてみたら、案内してくれた。

 風俗街を抜け、いまだに呼び込みをしているアジア系の女の子の間をすり抜け、引けとのない場所に入っていった。

 周りには雑居ビル群。少なくとも一般市民が住めるようなものはない。

「こっちだ」

 派手なスーツとネクタイの男にあごでしゃくられた。

 彼はある古ぼけたビルの前に立っていた。

「この一番上だ」

「そうですか」

 この期に及んで、俺はなぜか敬語で話している。

 理由はよくわからない、おそらくないのだろう。

 口から勝手に出てきたというだけ。

 彼の横をすばやく通り過ぎ、階段を登ろうとする。が、すぐ近くエレベーターがあるのに気がつき、それのボタンを押した。

「おい、わかってるだろうな」

「何がです?」

「絶対に失礼なこと言うなよ。殺されても知らないぞ」

「わかりました」

 俺は軽く手を振って、会話を一方的にきった。


 一度、博多でやくざの事務所に入っていったことがあるので、そんなに緊張しなかった。

 エレベーターはゆっくりと上昇する。

 俺は何も考えなかった。

 一時治まっていたと思われていた感情は、まだ自分の中にくすぶっていた。何かあったら、俺はまた爆発してしまいそうだった。

 エレベーターが止まった。

 目の前に派手なネクタイと紺色のスーツを着ている、口ひげを蓄えた男が立っていた。

 彼は俺を見た瞬間、目を見開き、全身を見回した。

「そんなに汚くないですよ」

「そうじゃねえ、血だ、血」

 あごでしゃくりながら言う。

 ん? と俺は改めて自分の体を見回した。さっきの殺しのときの返り血が手や上着についていた。

 靴にも。

 ほかにもついている箇所はないだろうか、体をねじってみてみた。

「特に目立たないようですね」

「いや、結構目立つぞ」

 男は冷静に突っ込みを入れた。

「ところで、岡本の紹介で来たのですけど、**組って、ここですか?」

「そうだよ。ところで岡本は?」

「後で来るといってました」

「あいつめ。まあいい。来な」

 男は俺に背を向けた。

 隙だらけだ。

 俺がその気なら、一撃で……やめよう。そんなことで来たんじゃない。

 何歩も歩かぬうちに、俺たちはドアの前に立った。エレベーターのすぐ近くのドアだった。特に『**組』という看板らしきものはない。

 でも、今では取締りが厳しくなっている。

 わざわざ暴力団の看板を掲げて検挙される危険を冒すこともない。それに一般人に成りすましていたほうが仕事しやすいってことだろう。

 それでも岡本は暴力団の看板を持ち出していたけどな。


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