6-14
「がああっ!」
踏みつけるのをやめ、俺は両手で岡本の肩をつかみ立たせた。
岡本は泣き声を上げて、俺に何かを言う。
しかし、聞こえない。何と言っているかわからない。
「うるせぇんだよぉ!」
拳を握り締め、大きく振り回す。
岡本の頬に当たり、彼は吹き飛んだ。
土管に背中が当たり、うなだれる。俺は岡本につかみかかる。
「おい」
少し冷静な声で話しかける。
岡本には俺の声が届いているはずだ。
なのに、そいつは俺と目を合わせようとせず、うつむいたまま。
しかも、返事もしない。
「なんで何も言わんか! 何とか言え! 聞こえてんだろ! 言わんか! 貴様も他のやつと同じか! 俺なんかに、まともな返事はできないってか! 俺なんかじゃまともに応対する必要もないか! 人が聞いてるんだろうが! 答えんか!」
それでも岡本は答えない。
相変わらずうつむいていた。
違っていたのは、震えていることだった。自分の手で感じられるほど恐怖におののいていたらしい。
だが、それがどうした。俺への返事にはなっていない。
俺は頭突きを食らわせた。
鼻血が出て、俺にかかった。
それでやっと顔を上げたが、その顔が気に入らない。
笑っていた。
「なぜ笑う。俺の顔がおかしいのか!」
殴った。
岡本は土管に背中を打ちつけ、体をのけぞらせた。
「きさまっ! なぜ何も言わないんだ! なぜ答えないんだ!」
俺の怒りはピークに達しようとしていた。
俺は岡本を再び殴った。
「答えろ! 答えろ! こたえろっ! へんじしろっ! なんで何もいわないっ! 口がないのか! 俺の質問には馬鹿らしくって答えられないか! ぶっ殺されなきゃわからないのかっ! 殺すといったら殺すぞ、俺は。わかってんのか! 見ただろうが、俺は本気だ! 質問に答えろ! 質問に答えろ! 『はい』か『いいえ』か、何とかぬかせ! 聞こえてるのか! いつもこうだ、いつもこうなんだ! 俺の質問には誰一人として答えてくれない。そのくせ、俺には誰もが答えを求め、脅しつける。俺が答えを考えている間、大声で俺を恫喝する。理由はあるのに、どういう風に言葉を並べようか考えているだけなのに! その時間すら俺には許されず、誰も彼もが俺から答えを聞きだそうとする。だが、俺には誰にも理由を話さない! 聞いたら聞いたでうるさい、しつこいの一言で終わりだ! ふざけるな! きさまもそうかっ! 俺がどんなに真剣になって相手しても、俺ごときを本気で相手にするのは馬鹿らしいってか! こっちゃいつも真剣に相手しているのに、真剣に話をしているのに、俺を馬鹿にして。真剣になるのがそんなにおかしいのか! 真剣に相手しているものに、茶化しながら対応するのが貴様らのやり方か!」
言葉をつなげている間に俺は何度も殴りつけていた。
もしかしたら、岡本は話そうにも話すことができないのかもしれない。
しかし、今の俺はそんなことはわからなかった。
「下に見られ、馬鹿にされ、笑われ続けている奴の気持ちがわかるか! どんな思いで毎日を過ごしていると思っているんだ! 俺はもう戻らないぞ! あんなクソみたいな日々に戻るぐらいなら、死んだほうがましだ! 貴様はどうだ! 好き勝手に生きてきて、さぞ気持ちのいいことだろうよ! 俺は戻らないぞ! 愛想笑いを浮かべ、いやな奴に頭を下げて、馬鹿にされているのを知りながら笑ってごまかして、内心怒りながらも傷ついた言葉を冗談として聞き流して! 俺は貴様らのストレス解消の道具じゃないんだよ! もう二度とあんな負け犬人生を送りたくないんだよ! なんだぁ! 俺を馬鹿にしてきた最低やろうどもがっ! 好きなことができて、成績もよくて、仲間も多い、そんな不公平があるかっ! そんな奴に限って俺をあざ笑い、ネタにしてきただろうが! 俺を何だと思ってんだ! 俺がいるから最底辺に行かずにすむってか! じゃあ、俺はどうなる! 俺ならいいのか! だから殺してやるんだよ! 俺を受け入れない限り、俺は何度でもやるぞ! 何百人とぶっ殺してやる! どうだ、どうだっ、どうだぁ!」
俺は何発殴ったかわからなくなっていた。




