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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
71/134

6-14

「がああっ!」

 踏みつけるのをやめ、俺は両手で岡本の肩をつかみ立たせた。

 岡本は泣き声を上げて、俺に何かを言う。

 しかし、聞こえない。何と言っているかわからない。

「うるせぇんだよぉ!」

 拳を握り締め、大きく振り回す。

 岡本の頬に当たり、彼は吹き飛んだ。

 土管に背中が当たり、うなだれる。俺は岡本につかみかかる。

「おい」

 少し冷静な声で話しかける。

 岡本には俺の声が届いているはずだ。

 なのに、そいつは俺と目を合わせようとせず、うつむいたまま。

 しかも、返事もしない。

「なんで何も言わんか! 何とか言え! 聞こえてんだろ! 言わんか! 貴様も他のやつと同じか! 俺なんかに、まともな返事はできないってか! 俺なんかじゃまともに応対する必要もないか! 人が聞いてるんだろうが! 答えんか!」

 それでも岡本は答えない。

 相変わらずうつむいていた。

 違っていたのは、震えていることだった。自分の手で感じられるほど恐怖におののいていたらしい。

 だが、それがどうした。俺への返事にはなっていない。

 俺は頭突きを食らわせた。

 鼻血が出て、俺にかかった。

 それでやっと顔を上げたが、その顔が気に入らない。

 笑っていた。

「なぜ笑う。俺の顔がおかしいのか!」

 殴った。

 岡本は土管に背中を打ちつけ、体をのけぞらせた。

「きさまっ! なぜ何も言わないんだ! なぜ答えないんだ!」

 俺の怒りはピークに達しようとしていた。

 俺は岡本を再び殴った。

「答えろ! 答えろ! こたえろっ! へんじしろっ! なんで何もいわないっ! 口がないのか! 俺の質問には馬鹿らしくって答えられないか! ぶっ殺されなきゃわからないのかっ! 殺すといったら殺すぞ、俺は。わかってんのか! 見ただろうが、俺は本気だ! 質問に答えろ! 質問に答えろ! 『はい』か『いいえ』か、何とかぬかせ! 聞こえてるのか! いつもこうだ、いつもこうなんだ! 俺の質問には誰一人として答えてくれない。そのくせ、俺には誰もが答えを求め、脅しつける。俺が答えを考えている間、大声で俺を恫喝する。理由はあるのに、どういう風に言葉を並べようか考えているだけなのに! その時間すら俺には許されず、誰も彼もが俺から答えを聞きだそうとする。だが、俺には誰にも理由を話さない! 聞いたら聞いたでうるさい、しつこいの一言で終わりだ! ふざけるな! きさまもそうかっ! 俺がどんなに真剣になって相手しても、俺ごときを本気で相手にするのは馬鹿らしいってか! こっちゃいつも真剣に相手しているのに、真剣に話をしているのに、俺を馬鹿にして。真剣になるのがそんなにおかしいのか! 真剣に相手しているものに、茶化しながら対応するのが貴様らのやり方か!」

 言葉をつなげている間に俺は何度も殴りつけていた。

 もしかしたら、岡本は話そうにも話すことができないのかもしれない。

 しかし、今の俺はそんなことはわからなかった。

「下に見られ、馬鹿にされ、笑われ続けている奴の気持ちがわかるか! どんな思いで毎日を過ごしていると思っているんだ! 俺はもう戻らないぞ! あんなクソみたいな日々に戻るぐらいなら、死んだほうがましだ! 貴様はどうだ! 好き勝手に生きてきて、さぞ気持ちのいいことだろうよ! 俺は戻らないぞ! 愛想笑いを浮かべ、いやな奴に頭を下げて、馬鹿にされているのを知りながら笑ってごまかして、内心怒りながらも傷ついた言葉を冗談として聞き流して! 俺は貴様らのストレス解消の道具じゃないんだよ! もう二度とあんな負け犬人生を送りたくないんだよ! なんだぁ! 俺を馬鹿にしてきた最低やろうどもがっ! 好きなことができて、成績もよくて、仲間も多い、そんな不公平があるかっ! そんな奴に限って俺をあざ笑い、ネタにしてきただろうが! 俺を何だと思ってんだ! 俺がいるから最底辺に行かずにすむってか! じゃあ、俺はどうなる! 俺ならいいのか! だから殺してやるんだよ! 俺を受け入れない限り、俺は何度でもやるぞ! 何百人とぶっ殺してやる! どうだ、どうだっ、どうだぁ!」

 俺は何発殴ったかわからなくなっていた。


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