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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
68/134

6-12

 てめえ! と岡本が怒鳴り声を上げたとき、俺は一歩下がり、両手で俺の襟をつかんでいる岡本の手を押し上げた。

 岡本は手を簡単に放した。俺はそのまま両拳を握り、岡本の顔を殴りつけた。めくれた鼻にまともに当たり、岡本は倒れた。

「やろう!」

 周りを囲んでいた手下たちが一斉に俺に襲い掛かった。

 俺は彼らに向き直り、拳を振るった。

 左側にいた一人は殴ったが、後ろと右側にいた二人から殴られ、倒されてしまった。

「やっちまえ!」

 岡本が起き上がり、ほかの二人と共に襲ってきた。

 彼らは横向きに倒れている俺の真正面から来た。俺は膝をつき、彼らを見据えた。

 俺が殴った左側の奴も起き上がって来た。

 膝を立てようとしたが、力が入らない。

 その上、左側の奴(Aと呼ぶ)は俺に組み付いてきた。真ん中(B)と右(C)そしてその後ろから岡本が来ている。

 俺はAに肘を食らわせた。

 Bが蹴って来たので受け止め、その足を取った。そして引き倒そうと体を傾ける。

 だが、Cのとび蹴りが俺の顔に直撃した。

 Bの足を離した。

 Aがしつこく組み合ってきた。その腕が俺の首に食い込んでくる。

「くっ」

 息苦しい。

 懐にはドスがある。俺はそれを抜こうとした。ドスの端に指が届き、鞘から少しずつ抜ける。

 意識が朦朧としてきて、力が入らない。

 誰かのけりを顔に食らった。激しい痛みと同時に首が反り返った。

「ひっくり返せ!」

 地面に接していた俺の体が不意に浮き上がり、天を向いた。

 鼻血が出たようだ。鼻から息ができない。

 息苦しい。

 目を開けると、三人の男が俺を見下ろしている。

「絶対に放すんじゃねえぞっ!やれっ!」

 取り囲まれている。俺は三方向からの蹴りを受けた。今になって腹が減ってきた。痛みに似た空腹感だった。

 けりの痛みもそれに加わり、急激に意識が遠のいていく。

 死ぬ、という言葉が浮かんだ。口を開け、息を吸うが蹴りは顔にも容赦なく降り注ぐ。

 いつもこれだ。

 俺は一人で、何の助けもなくて、周囲から攻撃されていた。

 今のような感じだ。一時は受け入れられ、人並みになれたと思っていたのに。多分、俺に『人並み』という言葉は縁がないようだ。

 歯を食いしばり、意識をつなぎとめる。空腹感はまだ残るが、胸に何かが灯り始めた。

 こいつら……。

 痛みが遠くなっていった。

 目を開く。相変わらず、三人は俺に蹴りをくれる。

 いまや痛みも感じない。

 体が麻痺してきたらしい。

 三人は笑っているように見えた。やがて、そいつらがかつて知っていた奴らの顔に変わっていった。そして、今の夜空はどこかに消え、今まで俺が過ごしてきた場所へと姿を変える。

 息が荒くなるのを感じる。指先が冷たくなる。一方で胸の中が燃えるように熱くなる。俺の視界を覆っている景色は次々と姿を変え、いくつも重なってくる。透明感のある絵の具を次々に塗り替えていくみたいに。そして、それは次第に黒くなっていく。

 俺は体を動かさずにはいられなくなった。

 じっと蹴られ続けているのに我慢できなくなっていた。

 今まで何人も殺してきたのだから、いまさら何人殺そうが同じだ、と頭の中に声が響く。

  視界が元に戻った。

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