6-12
てめえ! と岡本が怒鳴り声を上げたとき、俺は一歩下がり、両手で俺の襟をつかんでいる岡本の手を押し上げた。
岡本は手を簡単に放した。俺はそのまま両拳を握り、岡本の顔を殴りつけた。めくれた鼻にまともに当たり、岡本は倒れた。
「やろう!」
周りを囲んでいた手下たちが一斉に俺に襲い掛かった。
俺は彼らに向き直り、拳を振るった。
左側にいた一人は殴ったが、後ろと右側にいた二人から殴られ、倒されてしまった。
「やっちまえ!」
岡本が起き上がり、ほかの二人と共に襲ってきた。
彼らは横向きに倒れている俺の真正面から来た。俺は膝をつき、彼らを見据えた。
俺が殴った左側の奴も起き上がって来た。
膝を立てようとしたが、力が入らない。
その上、左側の奴(Aと呼ぶ)は俺に組み付いてきた。真ん中(B)と右(C)そしてその後ろから岡本が来ている。
俺はAに肘を食らわせた。
Bが蹴って来たので受け止め、その足を取った。そして引き倒そうと体を傾ける。
だが、Cのとび蹴りが俺の顔に直撃した。
Bの足を離した。
Aがしつこく組み合ってきた。その腕が俺の首に食い込んでくる。
「くっ」
息苦しい。
懐にはドスがある。俺はそれを抜こうとした。ドスの端に指が届き、鞘から少しずつ抜ける。
意識が朦朧としてきて、力が入らない。
誰かのけりを顔に食らった。激しい痛みと同時に首が反り返った。
「ひっくり返せ!」
地面に接していた俺の体が不意に浮き上がり、天を向いた。
鼻血が出たようだ。鼻から息ができない。
息苦しい。
目を開けると、三人の男が俺を見下ろしている。
「絶対に放すんじゃねえぞっ!やれっ!」
取り囲まれている。俺は三方向からの蹴りを受けた。今になって腹が減ってきた。痛みに似た空腹感だった。
けりの痛みもそれに加わり、急激に意識が遠のいていく。
死ぬ、という言葉が浮かんだ。口を開け、息を吸うが蹴りは顔にも容赦なく降り注ぐ。
いつもこれだ。
俺は一人で、何の助けもなくて、周囲から攻撃されていた。
今のような感じだ。一時は受け入れられ、人並みになれたと思っていたのに。多分、俺に『人並み』という言葉は縁がないようだ。
歯を食いしばり、意識をつなぎとめる。空腹感はまだ残るが、胸に何かが灯り始めた。
こいつら……。
痛みが遠くなっていった。
目を開く。相変わらず、三人は俺に蹴りをくれる。
いまや痛みも感じない。
体が麻痺してきたらしい。
三人は笑っているように見えた。やがて、そいつらがかつて知っていた奴らの顔に変わっていった。そして、今の夜空はどこかに消え、今まで俺が過ごしてきた場所へと姿を変える。
息が荒くなるのを感じる。指先が冷たくなる。一方で胸の中が燃えるように熱くなる。俺の視界を覆っている景色は次々と姿を変え、いくつも重なってくる。透明感のある絵の具を次々に塗り替えていくみたいに。そして、それは次第に黒くなっていく。
俺は体を動かさずにはいられなくなった。
じっと蹴られ続けているのに我慢できなくなっていた。
今まで何人も殺してきたのだから、いまさら何人殺そうが同じだ、と頭の中に声が響く。
視界が元に戻った。




