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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
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6-11

「何だと……。知らないってのかよ!」

「知らないよ、そんなメジャーマイナー。そんな自分たちにしかわからないような言葉を持ち出されても困るなぁ」

 鉄パイプを担ぎ、首を軽く左右に動かした。

 左右から

「ふざけんな、コラァ!」

「何余裕かましてんだ!」

などという罵声が聞こえる。

 そんな声は俺の耳にいったん入ってきたが、それっきりだった。

 薄汚い野次は俺をよけて通り過ぎているみたいだ。

 俺は一瞬「俺はSだ」といってやりたくなったが、この風体じゃ信じてはくれないだろう。

 それに、岡本が何と言ってくるのか、知りたくなった。

 もし「俺はSの知り合いだ」などといったら、俺はこいつを神と呼んでやろう。

 岡本は俺に近づいてきた。

 その際、手下たちに

「お前ら、公園から逃げないように見張ってろ」

と命令していた。

 手下たちは俺と岡本を取り囲むようにして立った。

 岡本は俺のすぐ前に立った。背は俺とほとんど同じ。だが、遠めに見るよりもっと太めだった。

 俺はろくな食事をしていないためやせていたが、岡本は俺の二倍はありそうだ。

 顔もなんとなくだが見える。まん丸に近い輪郭に大きめの丸い目。鼻は上に向いていて、鼻の穴がよく見える。そしてたらこ唇。髪は真ん中から分けていて、長く伸ばして後ろに流している。

「おいおっさん、あんまりふざけたこといってんじゃねえぞ。ぶっ殺すぞ。言いか、俺たちは**組みからしのぎ任されてるんだ。**組みがバックについてるんだよ。よお、ホームレスのおっさん。お前みたいなごみをぶっ殺すのなんか簡単なんだよ。きたねえ、くせえ格好しやがってよ、うめちまうぞ、こら」

 なんだか、どこかで聞いたような言葉だらけだなぁ。

 声にドスを聞かせ、目をかっと見開いて俺を威圧しようとしてくる。だが、俺は何の感情も湧かなかった。

 以前、会社で怒られてしょげ返りながら「早く終わんないかな」と考えていた。そのときと同じ心境だ。

「おおっ! 何とか言ってみろよ!」

「何が言いたいの?」

 つい口をついて出た言葉だった。

 岡本は俺の襟に激しくつかみかかり、顔を近づけてきた。

 激高し、眉間のしわが深くなったような気がする。丸かった目も三角になってつりあがった。

「ぶっ殺すって言ってんだよ。おう、来い!」

 手下たちを呼んだ。彼らは命令と同時に動いた。

「なめやがって、ホームレスがよ」

 襟をつかんだまま、俺を激しく揺さぶった。

 岡本には悪いが、俺には何かを感じることがなかった。昔は街中で因縁をつけられると、何も言えないほど体ががちがちになってしまったものだ。

 会社や学校でも、誰かに怒鳴られたりするとすぐに萎縮し、言われるがままになって、時間が経つのを待つだけだったのに。

「俺を殺すのか」

「嘘だと思ってんのか? 俺は以前、Sに喧嘩を教えたんだぞ!」

 俺は思った。こいつは神だと。

「黙れ、豚」

「ああっ!」

「おっと失礼。お前なんかよりも豚はもっと愛嬌があるものな。キャラクター化しやすいし、何より豚に失礼だ」


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