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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
33/134

4-5

 俺は何回もフラッシュバックを繰り返した。が、その光景を思い出したわけではない。

 記憶が次々と全自動でよみがえってくる。

 手に持った銃はぽとりとシートの上に落ちた。

 いつの間にか夜になっていた。

 口の中も渇いている。

 しかし、風景は今までと変わりなく、目の前に漂っていた。

 そうだ。

 殺すとき、激しい頭痛が起こったんだ。動悸も、呼吸も荒くなった。立っているだけで苦しかった。片手に持った銃が、妙に重かった。

 目は開いていた。

 口汚くののしっていた。それでも、目の前は何も見えず、自分の言葉すら聞こえない。今までの記憶が繰り返され、リアルに脳内で再現されていく。

 何も聞こえず、何も見えず、記憶に抵抗した。

 それまでの記憶と違い、実に優しいものだったからだ。そして、自分は結構楽しんでいたことがありありと思い起こされた。凶行をやめさせようと、俺の良心が見せているものに違いなかった。

 俺はなんだかんだ言って、結構親を慕っていたのだな。

 家の中での、結構日常的なありふれた記憶があふれてきた。

 それが、俺のいやな記憶とぶつかり、渾然とした。何がなんだかわからなくなった。


 フザケンナ!

 オマエラハオレノコトヲナニモシッチャイネェンダロガ!

 ヨクソンナザンゲンヲイエタモンダナァ!

 カッテナコトイッテンジャネエヤ!

 ドレダケノメニアッタトオモッテルンダ!


 時間は戻せない。そんなことぐらい俺にもわかっていたはずだ。


 セキニントレヨ!


 無理だろう。


 オマエラノイウトオリニシタラコウナッタンダゾ!

 オマエラノセイジャナイカ!

 ダッタラソンナコトヲドウシテイッタ!

 オレノハナシナンカキカナカッタダロ!


 その後、何を言ったかな。


 ヨカレトオモッタラナニヲシテモイイノカ!

 ソノコトバヒトツデスベテガユルサレルトデモオモッタノカ!

 オレハ、オマエタチノドウグジャナインダッ!

 ハナサナカッタ!

 キキタクナカッタンジャナイノカ!

 オレハイツデモシンケンダッタンダ!

 シンケンニキカズ、フマンガアルンナラコロシテイイダト!

 ヨクソンナ、ヒドイコトヲイエタモノダナッ!

 オレノイウコトガキコエテイルノカッ!


 このとき、俺の頭のなかには、色々なものが混在していた。

 いい思い出も、いやな記憶も、見慣れた風景もどこかで見たことのある機械群も。

 何もかもが俺の視界に重なっていった。

 その断片一つ一つが透明なフィルムのように背後の画像と溶け込もうとする。

 後は、ただその繰り返し。

 頭が真っ白になると言う言葉があるが、それはあまりの緊張に頭のなかから記憶が一時的に飛んでしまうことをあらわしている。

 俺は、逆に記憶が混ざり合いどんどん色がつぶれていった。いうなれば、頭のなかが真っ黒になってしまったわけだ。

 その最中、俺は何度も家族との暮らしを見ていた。

 視界が真っ黒に塗りつぶされていく間でも、今まで過ごしてきたことが鮮明に見えていた。

 特に、家族との楽しかった思い出は視界に焼きついている。見ようと意識しなくても、その映像は俺の注意を引き、なかなか消えてくれない。

 たくさんあった。何かひとつを例に挙げられないほど、数限りなく、それこそたくさん。

 いやだと思っていたことでも、俺は案外楽しんでいたのかもしれない。

 実に普通の家庭の一場面が多かった。何事もなく、俺は暮らしていた。本当に普通で、誰もがイメージする平和な家族で、何の問題もないはずだった。

 どこに問題があるというのだろうか。

 あるのなら、ただひとつ。

 この俺が、誰よりもおかしかったこと。

 苦しいことばかりではなかった。

 それなりに楽しく生活していたはずだった。

 ちょっと意識を変えれば、余分な怒りなんか溜め込まずにすんだはずだ。そして、こんなことも起こさなかったはずだ。

 家族たちが俺に何を言ったか。

 俺は何一つ思い出せなかった。


 銃を置き、手の甲で涙を拭く。

「ひどいな」

 両手の甲が涙でいっぱいになり、もう拭けなくなった。が、一度流れ出した涙を俺は止めることができず、やがて拭くのをやめて、ブルーシートに落としていた。

「もっと早く、思い出していれば」

 俺は、苦しいことにしか意識が向いていなかった。やりようによっては、俺は普通に暮らしていけたのかもしれない。何を間違えたのだ?

「俺は、最低だ」

 銃を撃ちまくり、たくさんの人を殺していいわけがない。

 俺には時間があった。

 それまで、思いとどまるチャンスがあった。でも、やってしまった。中には俺と同じように、苦しんでいた人もいただろうに。

「こんなときに、遅すぎるよ」

 俺は、誰かに何かしてやっただろうか。

 たとえば、親に礼の一つでも言ったことは?

 所詮、俺一人のわがままで起こしたことだ。絶対に許されない。ダメ人間から、殺人鬼へ落ちてしまった。

 俺は頭を押さえた。

 殺したいと常々思っていた連中は、全員じゃないけど死んでしまった。

 関係ない人たちもたくさん死んでしまった。

 俺は、これからどうなるんだろう。これから、どうすればいいんだろう。

 何人もの人を殺してしまった。悪いことだ。

 俺は、彼らに対し、どうやって償えばいいんだ?

 死ぬしかないだろう?

 でも、俺は引き金を引けなかった。俺が昔、いやな目にあっても必死に『生』にしがみついて、自殺という手段を行使できなかった。そのときの習慣がまだ俺のなかで生きていた。

「卑怯な奴だな」

 他人は何人でも平気で殺せるのに、自分が死ぬのは怖いだなんて。

 最低だ。

 最悪だ。

 俺は、もはや、どうしようもないところまで堕ちてしまった。


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