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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
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1-2

 俺が何者か、少し説明がいるかもしれない。俺の名前は、本名を言ってもいいのだが、ここでは『S』と名乗らせてもらおう。

 俺は普通の人間だ。決して超能力者とか宇宙人とか言うわけではない。

 少し前までは普通の仕事をしていたのだ。

 俺の転機……、さっきの暴走族も言っていたが『宗像百人殺し』、まあ、やっちゃったわけだ、大量殺戮を……。

 宗像市は福岡県にある。福岡市と北九州市にはさまれている所だ、とイメージしてくれればいい。


 話すと長くなるが、俺が犯行を実行しようとしたとき、今では考えられないほど悪意に満ちていた。絶えず頭の中に霧がかかり、心の中でもどうしようもないほど怒りが渦巻いていた。いつ頃からそうなっていたのか。正確な時期はわからない。多分子供のころからためてしまっていのだろう。子供の時分はそれが当たり前だと思い、ただ時が過ぎるのを待っていたような気がする。そのためには親の言うことも聞いたし、勉強もした。

 俺は昔から吃音で、人とうまく話せなかった。言いたいことはあるのだが、うまく言葉にできなかった。せっかく言葉を考え付いても、そのときには次の話題に移っていた。

 何か話しても、えっ何? とほとんどの確率で聞き返された。俺は普通に話しているつもりなのに。

 勉強できれば回りからすごいとほめられる。誰かが言っていたな。だが、そんな言葉は既に迷信となっていた。俺は、成績はいいほうだったが、周囲から馬鹿にされていることに気がついていた。

 自分の中に悪意がある。そう自覚した後、なぜ自分だけ……という思いに駆られた。

 周りを見渡せば、自分よりもっと不幸な人間がいる。それはわかる。彼らに比べれば自分は幸せなほうだと。でも、だから何だというのだ。

 彼らを見て安心すれば俺の幻聴や幻覚が治まり、いやな記憶は消えるというのか?

 否! 否! 断じて違う!

 そう思い込んで安心したいだけだ。自分のほうが幸せだぞ、と思いたいだけなんだ。優越感を得たいだけなんだ。自尊心を傷つけたくないだけだったんだ!

 そんなの、昔俺に対して罵声と嘲笑を向けた奴らの真似をしているだけだ。

 社会に出たら、俺の中に溜め込んだ悪意はどんどん増殖。俺自身の無能さ加減にあきれ返ってしまった。俺はまじめにやっているのに、誰に対しても誠実に応対しているのに。ちょっとしたことで怒鳴られ、なぜこんなことをしたかと問われては答えられず、言われた通りにしているのに『頭を使え!』と責められる。周囲の評価が怖かった。気さくに接してくれた奴もいたが、内心では『使えない奴』と思っていたことだろう。そうではないかもしれないが、言われるのが怖くて、いつも一人でいた。仲良くなった奴もいるが、そいつらは次々にやめていった。いつのころからか、俺は自分のことをダメ人間だと思うようになっていた。仕事内容を言えば『こんなこともできないの?』と笑われそうだった。

思えば、いつもこうしていたのかもしれない。誰かが不快な思いをしないように気をつけつつ、俺の心の中ではいつも何かと戦っていたのかもしれない。それが誰のためにもならない、俺が自分で勝手に悩み、自分で勝手に傷つき、自分で勝手に勝ち誇り、自分で勝

今となっては俺が何と戦っていたかわからない。昔は自分の身近にあるもののはずだったのに。

そして、雪が圧縮され氷にあるように。汚染物質が水の底にたまってヘドロになるように……。



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