最終章-28
再びスピーカーを取る。
「見えましたか?」
「見えた。S、お前もあきらめたようだな。次は人質だ。S。お前のやったことは決して許されることではない。しかし、あとでゆっくりお前の話を聞いてみたい」
「それより、いいですか?」
「なんだ」
「この子にモザイクはかかっていますか?」
「心配するな。全ての局に規制をかけた」
「そうですか。わかりました」
「S、どうだ。彼女を放す気はないか」
「ちょっとまってください」
俺は息をついた。
このときは自分が少しでも落ち着けるように大きく深呼吸をしたはずだった。だが、今度も途切れがちで、微妙に波打っていた。
のどの奥からも異音が漏れた。
今、Hさんの首に伸びている俺の左の指先は震えていた。
彼女は少しだけ俺に顔を向けた。
「Hさん。大丈夫?」
小声で彼女の耳元でささやく。
彼女はうなずいた。
俺も気づかないほど短く、小さく、首を動かした。
Hさん、ごめん。
そう耳元でつぶやき、腕に力を入れる。
右腕は首筋から少し下の鎖骨辺りに下がっていた。そして、左腕は彼女の腹部に当てられていた。
彼女の背中は俺の胸に密着していたし、俺と彼女の頬が触れ合いそうなほど近づいていた。
落ち着いて耳を澄ませば、彼女の呼吸が聞こえてくるかも知りない。
俺はスピーカー越しに話す。
「今、解放します」