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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
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最終章-24

 しかし、彼女の口は次第にヒートアップしてきた。

 殺された人たちのこと、考えていますか?

 殺された人たちの家族とか、友人とか、その人たちはどうすればいいんですか?

 何のいわれもなく殺された人たちは?

 どうして、前向きになれなかったんですか。

 何でも、やってみると楽しいかもしれないですよ。

 そんなに自分が不幸だなんて思わないでください。

 俺はただ、首を縦に振っていた。

 何も言えなかった。

 ただ黙って彼女の言葉を聴くだけだった。

 話が長くなり、あちらこちらへと転び始めていた。

「聞いていますか?」

「うん」

「だったら、ちゃんと罪を償って、これから生きなおせば」

「俺に『これから』があると思う?」

 えっ、と彼女がつぶやき、口をつぐんだ。

 それまで俺はずっと下を向いていた。まるで先生に怒られた子供のように。

「Hさん。俺が何をしてきたか知っているよね。警察が俺一人を逮捕するためにあれだけ集まったんだ。俺の逮捕の瞬間を撮るために、テレビ局まで来ている。よく覚えていないのもあるけど、それだけのことをしてきた。そんな俺が刑務所に何年か入って、それで終わりと思う?」

「いや、それは」

「本当だったら、俺は見つけ次第射殺されなければいけないんだ。生かしておいたら、またどこかで人殺しをしてしまうかもしれない。覚えているだけでも、それだけの人を殺してしまった」

「どうしてこんなことをしたのか、説明する義務はあると思います」

「なんて言えばいいの?むしゃくしゃしてやった、今は反省している。こういえば皆納得してくれるのか?」

「でも、言わないとダメです。Sさんが何を考え、どんなことがきっかけになって、何を思って犯罪を起こしてしまったのかを皆に話してください。納得する、しないではなく、話すことが大切なんです」

「どうせ、どんなことを言ったって、非難轟々だろうな」

 彼女は俺の名を呼び、ますます身を乗り出してきた。

 俺は椅子を少し下げ、距離をとった。

 彼女は少し怒っているようだった。

「Sさん。もしかして『こう言ったら嫌われるんじゃないか』とか『怒られるんじゃないか』とか考えていますか?」

「まぁ……」

「どうしてそんなことを考えるんですか? ちょっと変なこと言ったぐらいで嫌われたりしないですよ。Sさん。そうやって人の顔色見て、遠慮して、言いたいことも我慢して、そうやって続けていくうちに話すのができなくなったんじゃないですか?」

「でも、俺がちょっと軽口叩いただけでいきなり態度を変えて、食って掛かられたこともあるんだよ。それに、俺の答えがいつまでもネタにされ、俺はいつまでも馬鹿にされていたんだ!」

「でも、一人ってさびしくないですか?」

「友達が必要だって言うの?」

「そうです」

「いらないよ、そんなの!」

 俺はカウンターを叩いた。

 Hさんは顔を引きつらせた。

 俺はそれに気がつかず、顔を伏せたまま、口を開く。

 その口から出た言葉が、これだ。

「あいつら、俺が何かやらかしたら笑ってやろうと、待ち構えているような奴らだ! そのくせ、俺に面倒なことを押し付けるときはやたらと『友達』を使ってくる! 俺がイヤだって言ってるのに、無理矢理引っ張っていって、ボールを『パスだ』とか言って顔にぶつけてきて、それが一ヶ月も続いたんだ。漫画にあるような友情なんかない。あんなのが周りにいるぐらいなら、一人でいたほうがずっといい」

「それでは、これからもずっと一人でいるつもりですか?」

「俺に、誰かと関われる時間が、あるとでも思っているのか!」


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