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殺しの天才  作者: 迫田啓伸
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最終章-23

 確かに、俺だけが特別なんかじゃないよな。

 他にも、俺以上の事をされている奴がいるだろう。

 そして、そいつは今もまじめに生きているに違いない。

「結局、そう言うことなんだよ。いつの間にか、あいつら殺したいと思うようになっていた。そして、ある日とうとう我慢できなくなった。後はどうなってもいい、死んだってかまわないと思って、やくざから銃を買ったよ。その時、ちょっと怖がっていたのが、銃を手にした途端に自分が世界一強くなった気がして」

「それ、銃のおかげなんじゃないですか?」

「そうだね。でも、そのときは気がつかなかった。その上、俺が銃を使って人を殺した。でも、俺はうれしくなった」

 彼女は眉間にしわを寄せた。

 さっきまでと違い、彼女は笑顔を隠し、いぶかしげに話を聞いている。

「うれしくって……、どういうことです?」

「俺はあまり出来がよくないらしくて。親は期待して結構な金をかけたけれど、結局このざま。将来のためといわれ、やりたいこともできず、勉強に追い立てられたよ。それでも、ダメでね。最低ここといわれた学校にも行けなかったよ。どっちにしろ俺が行きたいと思っていたところじゃなかったけど」

「それでも、大学には行ったんでしょ?」

「つまらん大学だよ。二度と行きたくない」

「でも、Sさん。いいですか?」

 彼女は一度俺をじっと見たが、目を伏せた。

 何か言いたげに口を動かしたが、彼女が何か言うを待っていた。

 彼女は目を上げたり下げたりしていた。

 時々俺と目が合う。

 それが五回ほど繰り返されたとき、彼女は言いにくそうにつぶやいた。

「それが、どんな動機であっても、許されないことだと」

「うん」

 俺はうなずいた。

「その通りだね」

「その通りって、Sさん、何人事みたいに言ってるんですか?どんなことしてきたか、わかっているんですか? そんなことで、いえ、そんな事と言ってはいけないのかもしれないですけど」

「いや、そんなことでいいよ。でも、そのときはわからなかったんだ。ただ、いやな奴を殺していこうと……」

「なんとも思わなかったんですか?」

「思わなかった。こいつさえいなければ、と思っていた奴を殺していった。恨みが晴らせて、面白くなって笑い出したこともあったよ。なんというか、怒りとか、僻み、恨み、妬み、そのほか色々な醜いものが蓄積され、混ざり合い、腐っていくみたいだった」

「小さな頃から、そんな風じゃなかったんですよね」

「かも知れない。でも、学校も行きたくなくて、家に帰っても面白くないし、習い事もつまらない。これが普通な日常だったんだ。勉強に追い立てられるのも、つまらん習い事に行かされるのも、学校で先生に怒られ、クラスの奴らに笑いものにされるのも。それに対して俺はどうしていいかわからなかった。どうしてほしいのかもわからなかった。言いたいことはあるのに、俺の話は誰にも通じなかった」

「私とは、話しているじゃないですか」

「最近話せるようになったんだ。それまで何言っているかわからないと答えられるのが普通だった。いつも言いたいことがあるのに、どう言葉をつなげていいかわからず、言葉を思いついたら、すでに時遅しということが多かった。さっきも言っただろ? あんな日常で、どうやって抵抗すればいいんだ。俺にはどうやってこの話を打ち切るかを考えるしかなかった。それには、俺が悪者になっていれば、全てが丸く収まるんだ」

「どうしてそんなことを考えるんですか?」

 俺は応えられなかった。

 腕を組み、考える。

 彼女は身を乗り出してきた。

「引きこもりだったわけじゃないんですよね」

「うん」

「どうして、自分からやろうとしなかったんですか? たとえば、野球だって『やりたい』と粘り強く言い続ければできたかもしれないのに」

「そうだよね。最近チラリと思うようになった」

「それに、そんなの皆やっていることですよ。誰でもそんな目にあうんです。順風満帆に人生を送れる人なんかいません。私みたいなコンビニ店員に言われたくないかもしれないでしょうが、ちょっと見方を変えればいいじゃないですか。この世にはSさん以上につらい目にあっている人もいますよ」

「うん」

「まだ若いんでしょ? どうして、そんな自分の人生を投げ捨てるようなことをしたんですか?」

「わからない」

「まだ、これからじゃないですか。これから運が向いてきて、いいことがあるかもしれないのに」

 俺はうなずいた。

 何も応えなかった。


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