表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺しの天才  作者: 迫田啓伸
11/134

2-3

 彼らは共に夜勤の日に見つかり、一人になるのを見計らうと俺は銃を持って近づいていく。闇夜にまぎれ、目立つことがないのがいい。

「あ、S」

 数多くいる労働者の中で、俺はいろんな意味で目立つようだ。入ってはすぐに辞める人間もいるのにな。

 まず、初めの職場の上司。

「おう、今どうしてる?」

「別に何も」

「仕事はしてるか? ずいぶん、ぼろぼろみたいだが」

「まあちょっと」

「お前が辞めて大変だったんだよ。なんか用か」

「殺しに来ました」

 そういい、俺は銃を突きつけた。

「何を言ってるんだ?」

「お前さえいなければ」

「ちょっと待て。何が不満だったんだ。そんなの向けられても」

「うるさい」

「お前が悪いんだろ。頭おかしいんじゃねぇの?」

「なにぃ!」

 激高した。

 こいつはいつもこれしか言わない。他に言うことは「頭を使え」

 当時の俺はそればかり言われ、その通りに考えた。

 どうすればうまくいくようになるのか。

 そんなことより、頭がおかしい、というのはどういうことだろう。

「そうかもしれない。俺は頭がおかしい。だからこんなこと、できるのかもな」

 上司はあわてたが、俺は迷わず引き金を引いた。

 この人の場合、ちょっと時間があいたこともあり、それほど怒りもしなかった。忘れかけていたのかもしれない。しかし、俺は頭を撃った。

 即死だった。

「邪魔者がいなくなって、せいせいしたんじゃないのか? 追い出すようなまねして、自分たちの首絞めやがって、馬鹿が!」

 死んだ後も、俺は銃を撃った。公道とはいえ、どうせ山の中。気づく奴はいない。

 そういえば俺は自分の行動範囲内でのトラブルは、周りの人間からすべて俺のせいにされてしまった。他の奴がやったミスで、見たことのないやつからいきなり怒鳴れたこともある。

『Sが通れば、何かが起こる』

 そんなうわさまで立っていたようだ。だから、俺の行くところで何かが起これば、とりあえずSを怒れ、ということになってしまったらしい。

 上司の頭は既に原形をとどめていなかった。正常な人が見れば吐き気をもよおしそうな光景だ。

 道路はどこにでもある一車線のものだ。その左右には山林が広がる。宗像市は最近でこそ住宅地として発展してきたが、やはり田舎である。少し外れにいくと民家のない山地に出る。

 工場もそういう場所だから建てられたのだろう。

 上司の死体は山肌に放り投げた。斜面を下り、木々の間を抜けていった。

 道路に血が残っているので、事件は早々と知られるだろう。


 次の奴。辞めるきっかけになった上司だ。

 彼は俺が姿を現すと、にこやかに近づいてきた。

「おぉ、Sか。どうした」

「お礼参りです」

 上司は笑った。

「元気らしいな。何して……」

 上司の言葉は途中で途切れた。俺が殴りつけたからだ。

「何するんだ!」

「俺にそんな口を叩かないほうがいいですよ」

「なにを……ふざけんな、コラァ!」

 ベレッタのグリップで殴った。奴は頭を抑え、昏倒する。

「お礼参りって言いましたよ。冗談だと思ったのですか? そういえば、俺のことを不良と言いましたね?」

「言ったか?」

「とぼけても無駄です。俺があまりに仕事ができなくて『なんで言われたことができないんだ! やりたくないのか? お前不良だったろ?』と。そして、こうも言っていましたね『お前ビビリか?』」

「何が言いたいんだ?」

 俺は再び上司の頭を殴った。そして、ベルトをつかみ、持ち上げた。重たい。歯を食いしばり、足を曲げ、腰を痛めないように気をつけた。

「俺を辞めさせるまで追い詰める、とかぬかしたな」

「あれは冗談、冗談だって……」

「あ? ふざけんなよ」

「なんだと」

 声のトーンが変わった。低くなった。

「笑わせんな! こんなことしていいと……」

 俺は上司の体を思い切りアスファルトに叩きつけた。悲鳴が上がり、のた打ち回る。

『冗談』

 とてもそうは聞こえなかったが……。

 頭を抑え転げる上司を、俺は踏みつけた。

「こんなこともあったか」

 部品組みつけの際にあるボルトをとる作業を俺の工程があった。

 インパクトというボルトやナットを締める機械を使っていた。

 ある工程で俺が使っていたインパクトはちょっと特殊なもので、ボルトを抜きとり、その後ボルトがインパクトに接続しているホース内へと、自動的に吸い込まれるようにできていた。

 吸い込まれるとインパクトが止まる仕組みになっている。その作業の際に、インパクトがなかなか止まらなかったことがある

 俺は上司を見下ろす。

「あの時、俺に『インパクトをとめた』といった。俺はずっと止めなかった。だけどお前は『お前が止めた!』といって俺の主張を聞かなかった。俺が止めたということを無理矢理聞き出すために怒鳴り、脅した」

「違うのか?」

「あの後、俺のインパクトのホースの中が変形し、ボルトが引っかかって吸い込まれないことがわかったろ。見つけたのはお前だな。俺はその引っ掛かりのせいでお前に怒られた。お前は俺の話を信じず、一方的に俺を犯人にした」

「あのことか? そうだったのか? 悪かった、スマン」

「スマンですんだら、俺はこんなことしていない!」

「悪かった。謝る」

「ふざけんじゃねぇ!」

 上司の腹を蹴った。悲鳴があがったが、きづかないふりをした。

「俺をうそつき呼ばわりの上『お前はもう信用できん』だとな! よくそんなことがほざけたな!」

「いや、あれは……」

 息が詰まり、言葉が満足につなげられないようだ。

「言い訳してんじゃないよ。□■みたいに殺されたいのか!」

「その人、どうしたんだ?」

「聞いてどうすんだよ! お前には関係ねえだろが! 俺を追い出すだと! 不良だ? 常識のないのは嫌いだといったな! お前はどうなんだ? 濡れ衣着せ、脅しつけて辞めさせるのが常識か! 答えろよ!」

「ふざけんな、てめ……」

 上司は立ち上がろうとした。俺の襟に手を伸ばしてくる。

 俺は再び殴った。状態をのけぞらせている上司に対し、股間を蹴り上げ、指先で突く。

 目はつけなかった。が、近いところには当たった。

「ぐっ」

「俺が不良だってか? ヒビリか! おとなしくしてりゃいい気になりやがって」

 顔を抑えた隙に、俺は頭髪をつかみ、膝を食らわせた。

 こんなのに退職まで追い込まれたのか?

 それから上司の膝を蹴り、力ずくで背中をアスファルトに叩きつけた。

 頭をつかみ、何度も叩きつける。そのうち反対側、つまり顔を道路に投げつける。

 何度も繰り返し何度も痛めつけてやる。そのたびに上司はうめいた。

 俺が手を止めたのに気がつくと早口でまくし立てた。

「すみません、もうしません。許してください」

 なさけない声だが、やめるわけにはいかない。

 お前の常識なんだろ?

 正しいんだろ?

 何とか言ってみろよ?

 ぶっ殺すぞ!

 S、悪かった。謝る、土下座して謝る。

 俺が言い過ぎた。申し訳ありません、許してください。

 すみませんでした。どうか許してください。

 上司は自分が言ったとおり土下座し、額を地面にこすりつけた。

 この光景を見たかったはずだ。

 だが、俺の怒りは収まるどころか、ますます燃え上がった。許さん、許さん、許さん、許さん、許さん……。許さん……。許さん……!

「今までそうやって、俺のほかに何人やめさせた? 三人だったか?」

 答えない。

「何とか言え! コラァ!」

 上司は今までの謝罪の言葉を繰り返すだけだった。

「なあっ!」

 そう叫んでやった。この巻き舌に俺はいつも悩まされていた。仕事を一生懸命しているため、厳しくなるのはわかる。しかし、部下を脅して何が楽しい。脅して仕事がうまくいけばいい。だが実際はその逆だ。

 毎日のようにやられ、俺一人だけ孤立していた。職場にいる意味がわからなかった。誰も味方はいなかった。異動になればいいと思っていた。仕事にいくのがいやでたまらなかった。

 許せなかった。

 俺はそんなに毎日何かやらかしていたのか。悪いことなんか何もしていないのに、どうして毎日おびえなければ……。

 わかったぞ。こいつは、自分に従わない奴が嫌いなんだ。こいつはロボットがほしいんだ。不器用で、言うとおりに手足を動かせない、決まったフォームで仕事できない奴は、こいつにとっては不要、またはただのゴミなんだ。指先まで細かく言った通りにしなければいけない。

 それがこいつにとっての当然。こいつにとって最高の部下は、反抗することのない、こいつのフォームや癖を寸分の狂いもなく真似できる、こいつのクローン!

 上司の頭を押さえつけ、懐からドスを抜いた。そして、首筋に刺し、肉を千切るようにドスを動かした。上司は動かなくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ